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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の団欒


〜リーフファイト(前編)〜

by 五穀豊穣



 光と闇が錯綜する、黄昏の中。
 ……ラルヴァは墜ちていく。
 徐々に輪郭をぼやけさせ、俺たちの知らぬ亜空間へと、元にいた場所へと墜ちていく…。
 もはや、ヤツは指一本動かすことも出来ないはずだ。空腹を満たせず、ただ帰り行くのみ。
 ……ゴゴ……ゴゴゴゴ……ゴゴゴ……
 時空震の揺れが、緊張した肌に伝わってくる。
 ぽっかりと口を開いた、虹色にも見える空間に、ヤツはその巨体を為す術もなく呑み込ませていく…。
 だが。
 ヤツは、笑った。
 確かに嘲笑った。
 身体が、首が吸い込まれていく中で、俺の方を向き、確かに顔を歪ませたのだった…。

「耕一、早く。空間が閉じるわよ!」
 俺は一抹の不安を抱えたままティリアの声に導かれ、二度と来ることのない空間を後にした。



 それから数時間後。
 鶴来屋は、宴の準備で賑わっていた。
 まず千鶴さんはこの会の主催者ということで、あれこれと手配に忙しく、梓は梓でこの戦いを通じて知り合った、あかりちゃんとメイドロボのセリオと共に、これまた忙しい厨房へと向かったままだ。
 楓ちゃんと初音ちゃんも、それぞれに二人の姉の手伝いに忙しそうだった。
 俺も何か手伝おうとしたのだが、「耕一さんは今夜の主役ですから」と、やんわりと千鶴さんに断られてしまった。
 確かにラルヴァにとどめを刺したのは、俺だった。忌まわしく思ったこともある、鬼の拳だった。
 だがこの戦いを勝ち抜けたのは、みんなの力があったればこそだと思っている。
 そう、だから今、この戦いで結ばれた素晴らしき仲間たちは、例外なく己を誇りに思っているはずだ。ただ一人、俺を除いては…。

 俺の頭の中には、あのときラルヴァが見せた嘲笑がこびり付いていた。
    なぜ、ヤツは嘲笑ったんだ!?
 己を負かした者への、単なる負け惜しみか?
 だが、それならなぜ、俺だけを見て嘲笑ったんだ?
 ひとりバルコニーに出て、今日また特別に打ち上げられた花火で彩られた夜空を見上げる。
 無論そこに答えがあるはずもなかった。
 ふと下を見ると、宿泊客だろう若いカップルが幸せそうに寄り添い、花火に魅入っていた。
 ……よそう。答えの出ないことで悩むのは。
 俺たちは無数の人々の幸せを守ることが出来た。また何かあっても、こうして守っていけるはずだ。この先に待つ、かけがえのない仲間たちと一緒なら。
 そして俺は、そろそろ準備の出来た会場へと戻って行った。今度こそ、胸を張って。

 だが。
   ラルヴァが嘲笑ったのには、それなりの理由があったのだった。
 ヤツにはわずかだが、他人の未来を読む力があると、翌朝ティリアから俺は教えられることになる。もうその時はすでにそれを知っても手遅れだったのだが。



                                                        (つづく)



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