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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の団欒


〜リーフファイト(中編)〜

by 五穀豊穣



 宴は、みんなの歓談で包まれていた。
 『あのときはもうダメだと思った』とか『自分と同じ顔したヤツと戦うのは変な気分だった』など、これまでの苦労話が花を咲かせたが、みんな必ず最後は『それでも楽しかった』と締めくくる。

 一方で、話はそっちのけで饗された料理に貪りつく集団もいる。あの後ろ姿なんか、どこか『タマ』に似てる気もするが、まあ気のせいだろう。

 かと思えば、初音ちゃんをはじめとした女の子たちは、お互いのアドレスを交換したりしていて、何だか微笑ましかったりもする。


 そんな風に宴は過ぎてゆき、俺は俺でやはり主役ということもあってか、ホスト役としてあちこちを回り、ようやく料理にありつけた頃、浩之とその友人たちがやってきた。

「耕一さん、ちょっといいっスか?」
 と、遠慮がちに浩之が訊いてくる。
「ん? 何だ、改まって?」
「いや、俺たち、さっきまで部屋でPCゲームやってたんっスけどね、ちょっと分かんない事があって…」
  「分かんない事?」
「えっと、…これです耕一さん」
 そう言って、雅史くんが一枚のCD−ROMをどこからか取り出した。
「どうして耕一さん達って、朝はテレビ付けるのに、夕飯のときは付けないんですか?」
「そ、それはだな……」
 雅史くんの、顔に似合わぬツッコミに、俺は返事に詰まった。
 やはり、『あのこと』を話さねばならないのか…。
 チラリと周りを見渡すと、幸い千鶴さんはこっちに気付いた様子もない。
「……後悔するなよ」
 そう前置きして、俺は語り始めた。柏木家の隠された秘密を…。


「なあ、何で夕飯の時だけテレビを付けちゃダメなんだよ?」
 そう、俺も浩之たちと同じ疑問を梓に訊いてみた事があったのだ。あれは2年ほど前に、やはり連休を利用して帰って来た時だったか…。

「…何だい耕一、今頃になって?」
「わ、わたし、耕一お兄ちゃんのお話が聞きたいな」
   俺の問いに、梓は素っ気なく応え、なぜか初音ちゃんが慌てて話題を変えようとした。
「……耕一さん。何か見たい番組でもあるんですか? 今はニュースしかやってませんけど…」
 と、楓ちゃんまで遠回しに『見るな』と言っている…。
「い、いや、そう言う訳じゃないんだ。ただ、何でかなって思ってさ」
 言ってから、俺は笑ってごまかした。
 ホント、何でなんだろうな? と俺が内心首を傾げていると。
  「耕一さん…やっぱりお呼びだてして迷惑でしたか?」
 憂い顔をした千鶴さんが突拍子もないことを言いだした。
「な、何言ってんだよ、千鶴さん。迷惑だなんて、そんなことあるわけないじゃないか。前にも言ったけど、呼んでもらって俺はホントに嬉しく思ってるよ」
「…本当ですか? 私たちに気を使ってるんじゃ…」
「ホントだって。気を使い過ぎなのは俺じゃなしに千鶴さんの方だよ」
 と苦笑して言うと、
「だって…耕一さん、さっきから浮かない顔でしたから…」
 言って、ちょっと困ったように千鶴さんが上目で俺を見つめる。
 うっ…! な、何て表情(かお)をするんだよ、この人は。
 たまらず、俺は降参した。
「ゴメン、ゴメン。俺が悪かったよ。もうさっきの話は言わない」
 俺が謝ると、タイミングを見計らったように初音ちゃんが言う。
「ねえねえ、お兄ちゃん。お味噌汁美味しい?」
「ああ、美味いよ。いつもとちょっと違うけど。…ひょっとして、初音ちゃんが?」
 それを受けて初音ちゃんは照れくさそうにはにかんだ。
「味噌汁だけじゃないよ。今日は忙しかったから、半分くらいは初音に手伝ってもらってね。だから味わって食いなよ」
「ああ、分かってるって」
「代わりと言っちゃ何だけど、明日はあたしが腕を振るうから楽しみにしてて」
 そう言って梓は腕をまくり、ポーズを決める。と、その影から、
「どうぞ、耕一さん…」
 楓ちゃんがお銚子ではなく、コップを差し出してきた。
「おっ、今日は冷や酒か。何だ何だ楓ちゃん、またまた何か企んでるなぁ〜〜?」
 と、すっかりご機嫌な俺。
 そして頬を染めた楓ちゃんを肴(さかな)に、ゆっくりと味わいながら冷やを飲む。…待て、これは確か……。
「もしかして、『男山』かい、楓ちゃん?」
 こくりと楓ちゃんがうなずく。
「え〜〜〜っ?! お兄ちゃんって飲んだだけでお酒の名前が分かるの?」
「フッフッフ。そこらの酒飲みと一緒にしないで欲しいな」
 何をかくそう、『男山』はパチンコに大勝ちした時にだけ飲める、秘蔵の酒なのだ。

  「…それにしても、楓。あなたどこでこんなお酒を?」
「商店街で福引きがあったから…」
 と、事も無げに楓ちゃんが千鶴さんに言った。
「楓はくじ運つよいもんなぁ〜〜〜〜」
「…そうなのか?」
「ああ。電子レンジも、掃除機も、こないだ使った鍋の一式だって、みんな楓が獲ってきたんだ」
 梓がスラスラと並べる『実績』に、俺は「もっと早くに知ってたらなぁ」と、向こうで逃がしたコンポを思い出す。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
 ……ハァ…あれさえあれば『ORANGE』も、もっといい音で聴けるのになぁ……
「…お兄ちゃん? 耕一お兄ちゃんってば」
 ふと気が付くと、初音ちゃんが俺の袖を引っ張っていた。
「…あ? ああ、ゴメン、ゴメン。で、何だい?」
「『利き酒』って言うんだよね、さっきの。…じゃあ、これも分かる?」
 言いながらいつの間に持ってきたのか、ラベルを剥がした一升瓶を数本差し出し、初音ちゃんは目を輝かせ俺を見つめた。
 いや、目を輝かせているのは、初音ちゃんだけではない、梓のヤツもだ。きっとどさくさに紛れて相伴する気でいるに違いない。いかん、いかん、早めに釘を刺しておかねば。
「言っとくけど、お前は━━━」
「まあまあ、いいじゃないですか、耕一さん。たまになんですから」
 と、俺の言いかけた「お前はまだ未成年なんだから」という言葉は、千鶴さんに遮られてしまった。
「け、けどさ千鶴さん…」
 以前、バックドロップを決められた身としては、たまったものではなく言い募ろうとしたが、
「ね? 今度は私が見張ってますから」
 とのまこと珍しい甘いお言葉に引っ込むしかく、この後利き酒の妙技を発揮することになった。


 …さりげなく飲む量をセーブしながら、俺はずっと考えていた。

(なあ、何で夕飯の時だけテレビを付けちゃダメなんだよ?)

 きっと何かあったに違いない、と確信を抱きながら……。



                                                        (つづく)



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