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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の団欒


〜リーフファイト(後編)〜

by 五穀豊穣



「なっ? 一生のお願い!」
 そう言って、俺は大げさな手振りで手を合わせる。
「……か、考えすぎだよ、お兄ちゃんったら…」
   そんな俺に困った顔をする初音ちゃん。

 ━━━ここは初音ちゃんの部屋だった。
 あの後俺はさり気なく初音ちゃんを捕まえ、部屋に行くことを告げた。
 ただ、『ある事』を探るために。

 [夕食の時はテレビを付けない]という柏木家の不文律には何かウラがあるはずなのだ。やけに梓に甘かった千鶴さんの態度が俺にそれを確信させた。
 そして初音ちゃんを捕まえ、ひたすら『お願い攻撃』に出たというわけだった。

「……ホントに誰にも言っちゃ、ダメだからね」
 俺の執拗な懇願についに初音ちゃんは折れ、困った顔のままで語り始めた……。

  

 …ある宗教団体が日本中を騒がせた事があった。今もまだ、その教祖を巡る裁判は続いているはずだ。
 その頃千鶴さんは、死んだ親父に代わって継いだ会長職にてんてこ舞いで、新聞やニュースをじっくり見る間もなく、柏木家でただ一人その事件を知らないでいたのだった。

 そんなある日、千鶴さんが言った。
「ねえねえ、『オ○ム』って何なの?」
 どうも鶴来屋で誰かが話していたらしく、その事を知らなかった千鶴さんの言葉に、妹たちが一斉に怪訝な顔をする。
「…へ? 知らなかったの、千鶴姉?」
「…みんなして同じ事を言うのね」
 と、拗ねた顔をして千鶴さんが言う。
「…これからニュースでやるみたい」
 楓ちゃんがそう言ったとき、画面がCMから切り替わった。
 そう、この頃はまだ夕飯時でもテレビを付けていたらしいのだ。

「……現在もなお、捜索が進められていますが、施設の規模、目的等、以前不鮮明なまま……」
 これまでのあらましをキャスターが語る間、かいつまんで楓ちゃんは千鶴さんに説明していた。
 その間に画面は現場へと変わり、ちょうど警察の捜索員が施設内へと入って行くところだった。
 ほんの一瞬だけ、捜索員が下げた鳥かごの『カナリア』がアップになったその時、千鶴さんは言った。

「ねえねえ、『オ○ム』ってあの鳥のこと?」

 瞬間、茶の間は静まり返り、続いて大爆笑したらしい。
 楓ちゃんは黙って肩をふるわせ、初音ちゃんも我慢しきれず目に涙をためて咳き込む。
 そして梓は笑い転げていた。そう、文字通り笑い転げ、仰向けになりジタバタさせた足で卓袱台(ちゃぶだい)を蹴っ飛ばしてしまったらしく、その上にあった物は向かいに座っていた千鶴さんへと……。

 その後何が起こったのかは、初音ちゃんは語ってくれなかった。
 ただ、約一ヶ月ほどの間、柏木家の食事を用意したのは初音ちゃんだったらしい…。



 ━━━広間は静まり返っていた。
 俺が語っている間、誰もしわぶき一つたてず、あの浩之でさえ真剣な顔をして聞いていた。
 無理もない、名だたる旧家の表と裏の違いを聞かされたとあっては……。
 と、俺が少し後悔したとき、
「………………うっ………………ううっ…」
 近くでベソをかく声と、続いて鼻をかむ音がした。
 チ〜ン、と鼻をかんでいるのは、マルチだった。…そっか、この子は確かすごく繊細だったよな…
「ゴメンな、こんな話して…怖かっただろ?」
 言って俺は優しく微笑み、マルチの頭を撫でようとした。
 そこへ━━━
「なにが怖いんなっ?!」
 歯切れ良い言葉と共に、熱い衝撃を叩き込まれ、たまらず俺は『ダウン』した。

 ……うっ…いったい何が? 俺は苦痛に耐え、うっすらと目を開けた。

「まったく! さっきから黙って聞いとったらなんやのん、そのいい加減な話は!!」
   腰に手を当て智子ちゃんが憤慨しており、彼女の怒りはそれだけでは済まなかった。
「…ううっ。こ、こういちさぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
 と、あまりの事に吃驚して泣き続けるマルチに、
「あんたもあんたや! いつまで泣いてんのっ!!」
 またしても怒声と共に、『炎のツッコミ』が叩き込まれる。
 たちまち機能停止を起こし、マルチは俺の側に崩れ落ちた。

 な、何て短気なんだ…恐るべし、関西人! と俺は偏見に満ちたことを考えた。
 それにしても、俺にマルチ…『リーフファイト'97』でも、1,2を争う強さの俺たちを一撃で沈めるなんて…何でラルヴァ戦に出てくれなかったんだ? そんな埒もないことを俺が思っていると。

「…こ、耕一さん!」
 叫びを発し、千鶴さんが駆けつけてきた。
「耕一さん、大丈夫ですか?! …『私の』、『私の』、『私の耕一さん』が!!」
 屈み込んで、俺を看ていた千鶴さんが叫ぶ。
 誰かを牽制するように、ひたすら『私の』を連呼する千鶴さんを、嬉しく思うよりも怖かったので、しばらく俺は『ダウン』しておくことに決めた。
 その千鶴さんが立ち上がり、言った。

「……智子さん。あなたを殺します」
「な、何やてぇ?! 何で殺されなあかんの? 私がいったい何したって言うんな?!」

 (……………………)と、俺。
 プスプスプス……と煙を噴き上げるマルチ。

 けれど、そんな俺たちとは関係なしに千鶴さんが言う。
「…初めて会った時から、あなたは気に入らなかったのよ」
 冷たい瞳に、消えない篝火にも似た炎が宿っていた。なぜなら━━━
「だから私があんたに何したって言うんな?!」
 言って負けじと睨み返す智子ちゃんの胸が『プルン』と揺れる…。
「……あなたに、…あなたに私の何が━━━」
 激昂と絶望のつぶやきを千鶴さんはもらした。
 
 そう、分かるはずもなかった。『アマデウス』に『サリエリ』の、…『持てる者』に『持たざる者』の心情(きもち)が理解できなかったように。
 智子ちゃんと千鶴さんは理解し合えないだろう、おそらくは永久に。

 炎と氷。
 相反する二人の闘気が、渦を巻いて辺りを薙ぎ倒していく。
 だ、ダメだ。…このままだと。床に伏したままの俺の脳裏に『鶴来屋全壊』の文字がゴシックで浮かぶ。
 いつまでも『ダウン』したふりをしてるわけにもいかない。こうなったら二人の隙をついて…と俺が非情な決意をしたとき。

  「千鶴姉! 保科さん! そこまでだよ!」
 と、厨房から駆けつけた梓が二人に何かを投げつけた。
 あ、あれは…『セイカクハンテンダケ!』  そ、そうかあれなら、もしかすると…!
 二人に向かって弧を描き飛ぶそれを俺は掴み、それぞれの口に押し込んだ。
「んあんんっ」と呑み込む二人。
 その途端。
「わ、私いったい何してたんやろ……」
 と、さっきまで闘気ビンビンだった智子ちゃんが、急に弱気な声を出してつぶやいた。
 狙ったとおりの効果に、俺と梓は甲子園で優勝したバッテリーのようにガシッと腕を組み合わせる。
 だが、それは早計だった。

「こ・う・い・ち・さ・ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 怒りも露わなその声に振り向くと、先程とは比べ物にならぬ鬼気をまとわせた千鶴さんが俺を睨み付けていた。
    『サザエさん』のような醜態をさらしたのがよほど屈辱だったのか、怒りに震える手はすでに鬼のそれだった。
「あ!」
 今さらながらに俺は思いだした。
 唯一、千鶴さんにだけは『セイカクハンテンダケ』は効果がないと言う大事なことを……。

  「…ど、どうする、あずさ……」
 だが、梓はいつの間にか消えていた。見れば智子ちゃんの手を引っ張りながら、非常口で俺に「ゴメン」とジェスチャーしている。

 ……智子ちゃんを見捨てないのは偉いが、俺はどうすればいいんだぁ〜〜〜〜〜!!

   …そして俺はあらゆる物の犠牲となった。怒りを買った智子ちゃんと、油を注いだ梓と、伝統ある『鶴来屋』の保全の為に……。

  
   翌朝。全治3ヶ月を言い渡された俺は、ティリアからラルヴァの戦いには役立たぬ予知能力の事を聞かされ、そして思った。

 そう言うことはもっと早く言え!


                                                         (おわり)
 


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