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Leaf Visual Novel Series Vol.2 「痕」



氷の雫


中編

by まろびー



サクサクサクサク。
雪の中を俺達は山道を上がって行く。

「昔、良くこの道を登って上の水門まで遊びに行ったものです」
「ふーん、梓達とみんなで?」
「ええ、あの子達ともですけど…」
「あの子達…とも?」
俺の手を引いて前を進む千鶴さんが振り向いた。
そして、少し悲しそうな顔をしながら微笑んでこう言った。
「…昔、私が子供の頃家で小さな犬を飼っていたんですよ。
そして、この道を私が散歩につれていったんです」

雪はまだまだ降り続いている。
俺は千鶴さんが何を言おうとしているのかわからなかった。

「私が、小学生の時でした。 その飼っていた黒の雑種の犬が居なくなったんです。 あれは丁度、こんな雪の降る夜でした。
繋いでいた紐が取れて何処かへ行ってしまっていたんです」

千鶴さんが俺の手を引き、腕を絡ませる。
そして控えめに俺を促して、再び山道を歩き出す。
サクサクッと雪を踏みしめて俺達は歩いていく。

「また、少し寒くなってきたね? 千鶴さん?」
俺は声をかけると、こちらを見つめる眼と眼が合った。
「…千鶴」
「え? 何て言ったの? 千鶴さん?」
「千鶴」
はっきりとした声でそう言った。
(…あ)
思い出した。
「…少し、寒くなってきたね? 千鶴…」
「…はい」
笑っている。何となく、先の話が深刻な雰囲気に思えた俺はほっとした。

「それで、えっと…その犬はどうなったの千鶴?」
やや言葉がうわずっているのは、きっと慣れないせいだろう。
自分でもだらしないとは思うが、十年来呼んできた呼び方は簡単には変わらないし…。
話をそらすつもりで俺は元の話に話を戻したのだが、その結果として余計に『重い』話になるのは当然の事だった。

「犬の名前は”クロ”と呼んでいました。 単純ですよね? 私って…
色が黒いから、クロと呼んでいたんですよ」

そう言うと、千鶴さんはクスッと笑った。
何だろう? 何を彼女は言わんとしているのだろうか?
俺は、ふと空を見上げて落ちてくる雪を見つめると、千鶴さんの方を向いて話の続きを促した。
大分家から歩いてきたのでもうすぐ、貯水場だ。
”俺”が、子供の頃、力に目覚めた場所だ。
千鶴さんは、行く先の闇を見つめている。
一言も言わないので、俺も黙って歩いていた。
雪を踏むお互いの足音だけが聞こえていたのが、やがて水の音も重なってきた。
そして、目の前が開けて来た。
千鶴さんが足を止めて、当然腕を組んでいた俺も足を止めた。

「…あの日、クロを探して、私は雪の中をここまでやって来ました。
暗い中をクロを探すというそれだけの思いで一杯で、その上に
一緒にクロを探しに出た、お父様とはぐれた事に気づかないままで」

ふと、俺は千鶴さんの顔を見つめた。
思い詰めた様な顔。
張りつめた空気。
…そして、凍てつく様な輝きを見せる瞳…

「私は、ここで”鬼の力”に目覚めました…」

その時、俺は、ここの水門の上で、千鶴さんと戦った時の事を思い出した…


                 (つづきます…)



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