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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の食卓


【キノコ編】

by 森田信之



「ふぅ……」

「………?」

ここはおなじみの柏木家の茶の間。さっきから千鶴さんがため息を連発してる。どうしたのかな?

「千鶴さん、どうしたの? 具合でも悪いの?」

「え? いえ、そういうわけじゃ…ないんですけど……」

そこで言葉を切ってもう一度

「…はぁ………」

本当にどうしたんだろう。こうして見ると、もの憂げな千鶴さんってのもかなりきれいだけど…うーん、ちょっと心配だな。

 

「なんだ、それじゃ千鶴さん、料理の事で悩んでたの?」

「なんだ…って……私にとっては真剣な…」

「あ、ごめんごめん」

なるほど、一応は千鶴さんも料理の事で悩んでるんだ。それもそうだろうなぁ。あれで悩まなかったらまずいだろう。いろんな意味で(笑)。

「耕一さん、あの…」

「うん?」

「早速で申し訳ないんですが…」

「うん? なに?」

「これ、食べてみてもらえませんか?」

突然、テーブルの上に怪しげな料理が乗せられた。見た感じ鍋みたいだけど…いや、でも安心はできない。絶対に変な材料とか使ってるはずなんだ。そもそもこの料理、どこから出したんだ?

ほらね、さっそく出所からして怪しい。見れば見るほど怪しい。

何が怪しいって? まず材料が怪しい。そして調理方法がさらに怪しい。とどめとばかりに調理人が怪しすぎる

「千鶴さんが…作ったんだよね?」

「はい、そうですよ」

「…材料の調達は?」

「私がしました」

あぁ、神よ…俺が何をしたって言うんだ…そりゃこないだゼミと授業三つサボったよ。あと、大学の駐車場で拾った500円玉ネコババしたし、こっちに来てからは千鶴さんの部屋に黙って入ったりも…いや、何もしてないよ。ほんとに入っただけだってば。

「耕一さん……食べて…もらえませんか?」

すこし悲しそうな表情。俯いて、きれいな指先で座布団をいじっている。

あぁ、なんて可愛いんだ…。それこそ鍋より千鶴さんの方を食ってやりたいよ。でもなぁ…やっぱり食わなきゃだめなんだろうなぁ

と、思った矢先、

うらぁぁあああああああっ!

ひぃっ!?

スパーンという、実にいい音をさせて茶の間のふすまが開いた。そこには…

「まぁた変なの食わせよってからに……今日という今日は許さへんで! ブッタ斬ったるっ!

は、初音ちゃん!?

まさか…またあの「セイカクハンテンタケ」をっ!?

「千鶴さん、また庭に生えてたキノコ入れたのっ!?」

「え、えぇ、今度は違うキノコみたいだから大丈夫かなぁ…って……」

大丈夫なわけないじゃないっ! どーして千鶴さんはすぐそーゆー…」

と、ここでさらに追い討ちをかけるように

「は、初音ちゃ〜〜ん……あ…危ないからその出刃包丁…」

「あぁ? うるさいっちゅーねんこの牛っ! ひっこんどれっ!」

「あぅう〜〜(T T) す、すみませんですぅ〜〜」

梓も「悪の初音ちゃん」にはかなわないらしい。ってゆーか、こいつも反転してやがる。

…ってことは楓ちゃんも? でもここにはいない…。まぁあの子は明るくなるだけだからいいか。とりあえずこの修羅場を何とかしなきゃな。

「初音ちゃん、落ち着いて! ほら、そんな危ないもの…」

のけぇっ!

ひぃっ!!

情け容赦なく、鋭い踏み込みで刃渡り15cmの出刃包丁を繰り出す。多分沖田総司も真っ青な突きだったに違いない。その突きを間一髪で交わしたんだから、俺もなかなか…ってそんなことはどーでもいい! このイっちゃった初音ちゃんを何とかしなきゃ!

「邪魔するヤツぁ容赦せぇへんでぇ〜……クックックックッ…」

「初音っ! お願い、耕一さんに手を出さないで!」

「黙っとれこの年増!寸胴!貧乳! 去年まで中坊や思うて目の前でイチャつきよって…もぉ我慢でけへん! 二人仲良く逝ったらんかいっ!

「えいっ!」

と、ここで千鶴さんがお約束の当て身。なんか千鶴さんのこめかみに血管が浮き出てるし…音もハンパな打撃音じゃなかったけど、初音ちゃん大丈夫なのか? 梓は当の昔に部屋に逃げ帰ったようだ。

倒れ込んだ初音ちゃんは、どうやら本当に気を失っているだけらしい。見掛けによらず丈夫な子だ。

「ふぅ…千鶴さん、今度のキノコは何?」

「え、えぇと……」

どーしてこの家には都合よく「キノコ辞典」なんか置いてるんだろう。誰かがこういう事態を予測してたとしか思えない。

「…あ、あった」

「なんて書いてある?」

「えーと…セイカクハンテンタケDX…?」

はぁ? DX?

おいおい、ふざけんのもいい加減にしろよ。何が悲しくてキノコが「DX」なんだよ。

「前のとどう違うの?」

「えっと…『隆山地方の限定された地域にのみ生えるキノコで、性格が反転するほか…』」

「…ほか?」

「『次ゲームのキャラの性格がランダムで反映される』…って書いてます」

「何だよその次ゲームってぇ!」

「あ、あの…耕一さん」

「なに? まだ何かあんの?」

「こんなところに『リーフとその歴史』っていう本が…」

だからどーしてこうお約束通りに、茶の間にこーいう本が落ちてるかなぁ(T T)

「えーと…この本によると、初音はどうやら性格が反転した上に「いいんちょ」という人の人格が乗り移ったみたいです。梓は…多分この「マルチ」って言う人の人格が…」

なるほど、どうりで初音ちゃんが関西弁を喋ったわけだ。で、梓はこのメイドロボットの人格が乗り移ったから、あんなに弱気になったんだな。

「ま、初音ちゃんもしばらくは寝てるだろうし、梓は害はないから心配ないな。これで…」

ふと、大事な事を思い出した。

楓ちゃんは!? 楓ちゃんはどこだ!?

「千鶴さん! 楓ちゃんを探さなきゃ!」

「えぇ!」

こりゃ困った事になった。楓ちゃんも「ただ明るくなるだけ」じゃ済んでないはずだ。町に出てなきゃいいんだけど…

「そっちは?」

「いえ、いません…」

「弱ったなぁ…家から出ちゃったのか?」

「そうみたいですね…」

仕方ない、こうなったら外も探さなきゃ。

とゆーことで、俺と千鶴さんが二人で門の前に立った。その次の瞬間!(By 世界丸見えテレビ特捜部(笑))

ひゅっ

何かが俺の頬をかすめた。門に突き刺さったモノは…矢!?

「動いちゃだめヨ! 二人とも!」

いつのまにか楓ちゃんは俺達の背後に立っていた。しかも、どこから取り出したのは解らないが、弓道で使う弓と矢を持っている。

「ウフフフフ♪ …一瞬で楽にしてア・ゲ・ル★」

すでにハンターと化した楓ちゃんが次の矢を構える。おいおい、今度は誰だぁ!?

「えーと…宮内レミィっていう人みたいです。日米ハーフで、弓道部…って書いてます」

「何でよりによってそんな危険なキャラがぁ!?」

「しかもこのキャラ、ハンティングをしばらくしてないと、禁断症状で無差別に矢を射掛けるそうです」

「なっ……何じゃそりゃあ!」

なんていってる場合じゃない。もうすでに楓ちゃんは狙いをつけたようだ。

……って…次の標的も…俺?

「アナタのハートを……げっちゅーって感じぃ!?」

ひゅっ

「ひいいぃっ! ほっ…本当に心臓(英訳:ハート)狙ってどーするっ!」

「急所を狙うのはハンティングの基本ネ! 将を射んとすればまず馬を射よっ!」

「ストレートに将の心臓狙う奴が言う台詞かぁっ!!」

「動かないでっ! こーなったら……」

ゆっくりと腰に差した矢の入れ物から、十数本の矢を取り出した。まさか……

「奥義・乱れ射ちぃいいいい!」

「やめてくれええええ!!」

なんでいきなり奥義が…ってゆーかどこでそんな奥義を!?

こうなったら仕方ない。鬼の力を使って…

「楓ちゃん!」

「OH! が動いちゃダメっ!」

「ごめん!」

ズンっ!

間一髪、楓ちゃんが第一矢を放つ前に当て身を食らわせる。華奢な体が俺にもたれかかるように崩れ落ちた。

「……ふぅ、これで一件落着……って…千鶴さん?」

ち、千鶴さん…なにその帽子とマント? なんでそんな魔女みたいな帽子を?

「………………」

「え? 魔法陣を踏まないで下さいって? ……あ、ごめん」

いつのまに書かれたのか、庭には大きな魔法陣が……ってオイ!! そうじゃないだろう!

「ち、千鶴さん! ちょっと待っ……」

突如、空がどんよりと曇り、稲妻が空を走り出した。何だかすごくイヤな予感がする。

「…………」

「え? 失敗? なにが?」

「……」

「…ど…どーして悪魔なんか呼び出そうとするんだよっ!! もーやめやめっ!」

玄関から恐る恐る覗いていた梓が「なぜか持っていた」というホーキをひったくって、庭一面に書かれた魔法陣を消す。

「わ、わたしもお掃除しますぅ〜」

「おう、じゃああっち頼む!」

なんかこういう梓は調子が狂っていかん。しかもなんだよその耳の変な飾り。

あぁ…早くみんな元に戻ってくれよぉ……

 

 

「はっ!」

慌てて体を起こす。周りを見ると、俺がいつも使っている部屋だ。そして俺は布団の上にいる。

…なんだ、夢オチかぁ。よかったよかった。

「耕一さーん、ご飯ですよぉー」

「うーん、すぐ行くよー」

茶の間から千鶴さんの声が聞こえてきた。よかった、やっぱり平和が一番だ。

すぐに着替えて茶の間へ向かう。するとそこには……

「今日は千鶴姉が作ったんだ…」

「でもおいしそうな鍋料理だよね。これからの季節にもピッタリだし」

「でしょ?材料も私が揃えたから、みんなたくさん食べてね♪」

といって千鶴さんが鍋の中から取り出した具には、どこかで見たようなキノコが入っていた……合掌。




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