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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



タマシイの炎




by 森田信之



「クックックック…さぁ、俺にオマエの魂の炎を見せてくれ…」

暗い部屋に一人の男がいた。

男の名は柳川拓也。警察官だ。

だが、警察官というのは世を忍ぶ仮の姿、彼の真の姿は…

「そうだ…その魂の炎こそ、狩猟者である俺を照らすにふさわしい」

そう、彼は狩猟者だった。

また一つ、「魂の炎」が燃え上がる。

きれいなオレンジ色の炎を上げて、「それ」は地面に叩き付けられた。

「ほぉ…まだ出てくるのか。面白い…」

柳川の右手に力が入る。

どれくらい繰り返したのだろうか…ちらりと時計を見る。十一時五十分だ。

「フフフフ…さぁ…オマエも、おまえも、お前も…魂の炎を燃え上がらせるがいい」

指先に力を込める。

手応えがあった。

ガクガクと震える手応えが、指先から手のひらへ、手の平から肩口を通って脳髄まで達する。

この手応えと美しい「魂の炎」。

これこそが狩猟者である柳川が求めるものだった。

「フハハハハハ! いいぞ! 美しい! これ以上美しいものがこの世にあるか!

さらに右手に力を入れた。

今また彼の眼の前でオレンジ色の炎が燃え上がる。

柳川の眼にもそのオレンジ色の炎が写っていた。

これを歓喜と言わずして何を歓喜と呼ぶのだ。

今まさに、柳川の脳内ではドーパミンが過剰なほどに分泌されている。レセプターとシナプスの間を、すさまじいスピードで往復していた。

彼の興奮はピークに達しつつある。だが、まだ柳川は手の動きを止めようとはしなかった。

再び右手の人差し指に力を込める。

ただそれだけで、ガクガクと振動する手応え。そしてまた魂の炎が燃え上がる。

「いいぞ! どんどん出てこい! 俺にもっと魂の炎を見せてくれ!」

と、柳川の興奮が最高潮に達したときだ。

 

きーんこーんかーんこーん……

どこか哀愁漂うチャイムが鳴り響く。

ドアがノックされた。

「おーい柳川、もう昼休み終わったぞー

「ん…? あぁ、そうか」

柳川は席を立つ。

ドアの向こうには長瀬刑事が立っていた。

「オマエなぁ…新しいゲーム買って嬉しいのは解るけど…何も署にジョイスティックまで持ってくる事はないだろう?

「いや、あの『フィードバック・サイドワインダー』がいいんですよ。撃つ時の手応えもありますからね。」

「まぁ…昼休みは個人の自由だからな。で、どうなんだ? あの『コンバット・フライトシミュレーター』ってゲームは? 面白いのか?」

最高ですよっ! 敵機を撃墜したときの爆炎と手応えといったら…」

と言って悦に浸る柳川。

そう。彼は今まで、わざわざブラインドを落とし、部屋の照明を消して雰囲気を十分すぎるほどに出した状態で、一人でMicrosoft(株)の「Combat Flight Simulator」に没頭していたのだ。

「で? 今日は何機撃墜したんだ?」

最高記録ですよ。26機です!」

「まぁ…それで嬉しいのは解るんだがなぁ…もーちょっと静かに遊べんのか? モロに部屋の外に聞こえてるぞ。魂の炎がどうのこうのって」

「あぁ、あれは仕方ありませんよ。それより長瀬さんもどうです? あれネット対戦もできるんですよ」

「いや、俺はいいよ。あの手のゲームは苦手でね」

「そんなこと言わずに、一回試してみてくださいよ! ほかにも…」

隆山署の廊下を二人でゲーム談義をしながら歩く二人の刑事。

どうやら隆山市は今日も平和なようだ。




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