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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……




by 遊真



 
雨が降る……。
暗天の下、さながら地表に堆積する全ての業を洗い流せと言わんばかりの豪雨だ。
フロントガラスに叩き付ける雨滴。
そのまた向こうの暗闇を見据えながら、賢治は車を走らせていた。
車のライトが照らし出す部分はほんの僅か。
その向こうは限りない闇なのだ。
誰も見通す事は出来ない。
そう、それがたとえ、人ならざる者でも……。
そうして、もしかしたらこの闇の向こうは崖なのかもしれない。
底の見えない奈落が口を開けて、待っているのかもしれない。
まるで自分のように。
柏木賢治は憔悴しきった瞳をさらに曇らせ、深いため息をつく。
(なんて顔だ……。)
バックミラー越しにちらりと見えた賢治の姿は見るも無残だった。
先程までは最悪な顔をしていた。
それを、酒気を帯びる事で紛らわせたのだ。
それでもこんな姿を、家で待っているだろう姪達に見せるわけには行かない。
(………いっそ、このまま……堕ちてしまおうか………。)
奈落の底に……。
それは魅力的な誘いだ。
この恐怖を伴う苦痛から逃れられ、あまつさえ欲望のままに享楽を得られる…。
瞬間。
賢治は愕然とした。
何を…何を自分は言っているのだっ!
あいつに負けるぐらいなら自分を殺す。
そう自分は決めたはずだ。妻と息子との別離を決心した時に。
がつんと勢い良く浮上した疑惑は、賢治の闇をさらに濃くした。
自然とアクセルを踏む足に力がこもる。
(俺は……本当に俺なのか?)
もう既に、あいつに自分の全てを奪われているのではないのか?
今、これから家に帰り、姪達をその衝動のまま殺してしまうのではないのか?
(俺はもう負けたのか…。)
尚もアクセルを強く踏む。
窓の外の景色が飛ぶように目まぐるしく移動する。
灯のない峠道を疾走する。
(俺は……おれは………オレは………。)
賢治はそこで我に返った。
唐突に闇から浮かび上がったのは人のシルエット。
フロントガラスを通して…。
目の前に人が立っているっ。
猛スピードで飛ばす車のすぐ間近に。
「!!」
声にならない叫び声をあげ賢治はブレーキを踏んだ。
ハンドルを思い切り左へと切る。
キュルキュルと雨に濡れた路面が悲鳴を上げた。
タイヤは空しく横滑りする。
止まらない。
そう悟ると今度はハンドルを右に切った。
回転……そうしてあっけなく賢治を乗せた車は横転した。
尚も車は止まらず、火花を散らしながら滑る。
ガードレールに激突した所でその勢いは止まった。



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