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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……




by 遊真



 
静寂。
途端にその場は元の静けさを取り戻す。
少しづつ雨足が弱まっていく…間近に聞こえる雨音もそれにつれて小さくなっていった。
「ううっ………。」
賢治は割れた窓から這うようにして抜け出した。
身体を打ち据えるのは冷たい雨滴。
節々の痛みをこらえてゆっくりと立ち上がる。
ボロキレのようになったスーツの間からは、転んで怪我をした程度の傷口が覗いてるだけだ、あれほどの衝撃だったというのに……。
皮肉な事に、あの力が自分を守ったらしい。
簡単には死なせてもくれないのだ……。
「大丈夫ですか。」
やけに落ち着いた声が背後からかけられ。
賢治は慌ててそちらを振り返る。
そうして安堵のため息をついた。
「無事、だったのか……よかった……。」
大きな黒い傘をさした、長身の男がそこには立っていた。
顔は見えない。その黒傘が遮っている。
「私は大丈夫だ。それより君はどこも怪我はないのか?」
道路の真ん中にたっていた男を糾弾するよりも賢治は轢いてしまったと思った男が無事だった事に、笑みを浮べた。
自分の怪我はどうって事はない。
どうせすぐ治ってしまうのだ。
その安堵感が賢治に重要な事を失念させた。
何故。
何故この人気のない峠道を、男が歩いていたのだろうか……?
「ええ……どこも怪我はありません。」
雨脚はしだいに弱まる。
ちょっとした通り雨だったのだろう。
既にぽつり、ぽつりと僅かに滴が落ちてくるだけだ。
何故か沈黙が二人を包んでいた。
「こんなところでは、警察に連絡を取る事もままならないし……君は携帯でも持っているかな。」
静寂を破ったのは賢治だ。
雨は完全に上がった。
それでも男は傘をしまおうとはしない。
「生憎……。」
「そうか、それじゃあ一度―――。」
鶴来屋に戻ろう…そう呟こうとして、言葉は遮られた。
葉の裏で隠れていた虫達が鳴き始める。
少しづつ、月の光が射し込んでくる。
暗い雲が風に吹かれてゆっくりと移動しているのだ。
鬼気
それが目の前の男から湧き出している。
まるで、一つ一つの枷を破壊しながら徐々に高まる気が…。
あふれている。
 
 
 
 
「おおっおおっ………。」
瞠目したまま、賢治は身体の震えを押さえる事が出来なかった。
何故ここで同族になどという疑問はすぐに掻き消えた。
脅えではない、狂喜だ。それが賢治の全てを掌握しだす。押さえ切れない勢いで…。
賢治が作り出した檻を破り具現化しようとしている。
「もう……いいだろ?」
ささやくような問いかけ。
「お、お前はいったい………誰だ……?」
満月が現れた。
暗い雲は完全に押し流され。
そして……虫の泣き声は止んだ。
ひっそりと、嵐が静まるのを待つように。
そうして、峠の山道は一種、幻想的な雰囲気を醸し出した。
男が、傘を投げ捨てた。
一度バウンドすると傘はころころと坂を転げ落ちていく。
そこで、賢治は己の意識を内なる鬼に明け渡した。



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