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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……




by 遊真



 
歪んだガードレールの向こう。
眼下で燃える車を眺めながら耕一は何もせず、ただ突っ立っていた。
茫漠とする意識。
虫の音は再び耕一の耳に聞こえてきた。
風のありようも自然なものとなっている。
パチパチと火の爆ぜる音。
(いつか……。)
いつか笑って話せる時が来ると、ガキのように甘えた考えが耕一にはあった。
自分が鬼に打ち勝ったのなら、親父も間違いはないはずだ。
そう信じて疑わなかった。
現実は辛い。
「さよならだ、親父。」
そうぽつりと呟くと、耕一は踵を返す。
そうして歩を進めようとして……耕一の行く手を遮る人物がいる事に耕一は気づいた。
耕一は渋面になる。
一部始終を目撃をされたからではない。
懐かしく、愛しい気配をその者から感じたからだ。
「………………。」
相手は無言のまま…。
ゆっくりとその影に耕一は近づいていく。
少しづつ顔の造形が見えてきた。
肩までに切り揃えられた、闇に沈み込む黒髪。
日本人形を思わせる、整った顔立ち、きりりとつり目がちなおおきな瞳。
「エ………楓ちゃん?」
「……はい。」
楓は、闇に溶け込んでしまうような小さな声で返事を返してきた。
十年ぶりの再開。
それなのに、どちらもその存在を見誤る事はない。
それは当然の事で、ここに何故彼女がいるのか、それすらも納得が耕一にはできる。
「ごめんね、親父の奴は……。」
「言わないで良いです……解ってますから。」
耕一の言葉は楓の言葉に封じられた。
小さな身体が小刻みに震えている。
両手を胸の前で組んで、内から込み上げるものに絶えている。
「こういう時は、泣いていいんだけどな。」
(何を、…俺は言ってるんだろうか……。)
楓が耕一の前で泣かないのは、耕一の事を思っているからに違いないのに……。
「そうしてくれた方が俺も気が休まるんだ。」
歯止めが効かない。
あふれる感情を押さえる事ができない。
楓をはけ口として、とめどもなく出てくるのは、戯れ言。
「俺を訴えてもいいぜ。」
「………そんな事できません……。」
そう、こんな答えを自分は求めてしまう。
「そっか………。」
もうこれ以上は辛すぎる。
耕一は無言で楓の横を通りぬけた。
楓は夜着の格好のまま。慌ててここまで駆けてきたに違いない。
親子の死闘を夢に見て……。
「耕一さん!」
楓が耕一を呼び止める。
「何?」
振り返りもせず、歩みも止めず耕一は返事をする。
「………家に来てくれますよね、私達に会いに来てくれますよね……。」
「それはできない……。もう会う事はないと思う。」
耕一の足が止まらない。
このままでは………。
「叔父さんのお葬式、必ず来てください!少しでも私達に悪いと思っているなら!」
必死の声。
ぴくりと耕一の背中が震え、足が止まった。
「逃げないでください。………私達を……叔父さんが育ててくれた私達を見届けてください。それがあなたにとって辛い事なのはわかります……でも……。」
「………解った……行くよ。」
肩越しに振り返り耕一はそれだけを告げそして消えた。



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