Back/Index/Next
Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……




by 遊真



 
頭上から圧し掛かる太陽光が、絶え間無く鳴き続ける蝉の声が、そうしてじっとりと自身を包む湿度が……何もかもが苛立たしかった。
「ったく………。」
駅を出た耕一は、知らず舌打ちをして辺りを見回した。
ちょうど、観光らしき一団が、マイクロバスに乗りこんでいる。
視界の片隅で鶴来屋御一行のプレートが見えた。
社長が変死を遂げたにも関わらず、繁盛しているようだ。
安易にそう考えると、少し気分が落ち着き、それ以上の自己嫌悪が自分を襲う。
ふっとため息を吐くと、耕一は肩にかけたバックを掛け直す。
少し駅の周りを散策してみようか、そう思って階段を降りた。
腕時計の針は長針が五を、短針が二を指している。
「二時五分……ちょっと早すぎるよな。」
迎えの姿は見当たらない。
当たり前だ、自分は四時頃に着くと、昨日の電話の中で告げている。
二時間という時を潰すのも馬鹿らしく思えた。
柏木家への道順は、熟知している。……賢治を殺す機会を探る為に何度も行き来した事があるからだ。
ただし、あの門をくぐった事は、十年間、一度たりともない。
 
 
威風堂々とした佇まいはあいかわらずであった。
大きな、柏木家の屋敷は、なんら時間の流れを感じさせずに、耕一の目の前に建っている。
もっとも、人の時間は、否応無しに流れる。
この屋敷に住むものも、今ではあの四姉妹以外にいない。
叔母も叔父も……親父も……。
ジワワワワ………。
都会ではめったに聞く事ができない蝉の大合唱が、耕一の記憶を鮮明にするかのようだ。
夏という空間は、死んで行った者を思い出させる。
風が運んでくる草の匂いは……懐かしい匂い。
まとわりつく思いを振り払うように、十年ぶり、耕一は柏木家の門をくぐった。
奇麗に手入れをされた木々が、日差しを柔らかく遮っている。
砂石が詰められた小さな道を、飛び石伝いに進んでいく。
途中、右手に池があるのが耕一の目に映った。
たいした庭だ。
東京近郊ではちょっとお目にかかれない佇まいである。
幾等か観賞気分で道を進んでいく、やっと玄関へとたどり着いた。
引き戸に手をかける。
その手が途中で止まった。
ほんとうに……ほんとうに自分はここへ来て良かったのだろうか?
(俺に……何ができる…。)
何も出来るはずが無い。
彼女等の平穏を奪ったのは間違いなく自分なのだから…。
本当に、後一分でも遅かったら、耕一は踵を返していたかもしれない。
だが。
「誰?」
そう、背後から誰何され、そのままとんぼ返りなどという事にはいたらなかった。
ゆっくりと振り返る。
やけに発育良好な美少女が立っていた。
肩にバックをかつぎ、制服を着ている。
快活そうな様相に合ったショートカットの女子高生。
「誰?」
もう一度、少女は尋ねてくる。
少し訝しむように、腰に手を当て、上目遣いで…。
この生意気な仕種、どこかで見た事がある。
(誰だったけっか……。)
記憶を辿っていくと、すぐに思い出せた。
柏木四姉妹の次女で。
「梓か?。」
いきなり耕一から名指しされ、梓はへっと面食らった顔をする。
どうやら、梓の方は自分が誰であるかに気づいていないらしい。
少し残念な気もするが、十年も顔を合わせてはいないのだ、仕方が無いとは言える。
「いきなりなんだよ、誰さ、あんた。」
「あのな、お前、千鶴さんから聞いてなかったか?今日、客人が来るってさ。」
「………あれ?」
またも呆けた顔をする梓。
だが次の瞬間、目を見張る。
「耕一!?」
やっと名前が出てきた。
「耕一なの!?」
「おうさ、柏木耕一、おまえの従兄のな。ったく忘れんなよなぁ。」
耕一の口調がくだけたものになっている。
「あっ、ご、ごめん。でも四時に着くって行ってたから…。」
何故か赤くなり俯く梓に、耕一はポンポンと掌を梓の頭にのせる。
「なに、恐縮してんの。俺だってお前の顔なんてすっかり忘れてたって、おあいこ、おあいこ。」
「でも、耕一は気づいたじゃないか。」
「ああ、そりゃあ、梓が昔と変わらず男前だったからな。」
「なっ!?」
ほとんど反射的に出た蹴り足をすいとかわして耕一は微笑む。
「こんな所が変わってないっていうんだよ。」
本当に変わっていない。
びっくりするほど美人になったとは思うが、根本的な中身が昔のままだ。
炎天下の中、山野を駆け回って虫取りに励んだ相棒…。
じろりとこちらを睨む梓に耕一は背負った荷物をかかげる。
「どうでもいいけど、早く家に入れてくれないか。長旅で疲れてるし、荷物も重いんだけど。」



Back/Top/Next