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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……


初音

by 遊真



 
(あっ……。)
大きな靴が在る。
玄関の戸を開け『ただいま』と言おうとした初音は瞳に飛び込んだその大きな靴に釘付けになった。
ぱちぱちと目をしばたいて、またじっと見詰める。
(もしかして……耕一お兄ちゃんの?)
だが、彼女の腕の時計は、まだ三時をこしたばかりだ。
(たぶん梓お姉ちゃんが迎えに行ってるんだと思うけど……あれ?)
梓の靴も、となりに置いてあった。
「じゃ、じゃあ……。」
そろりと、靴を脱いで上がると、初音は、人の気配がする居間へと向かった。
初音には珍しく、帰宅の挨拶を忘れている。
「…………お……言う……だろ………。」
「じゃ………でしょ………。」
話し声が聞こえてきた。
一人は良く知っている、梓の声だ。
もう一つの、低い落ち着いた声は?
 
 
 
「しっかし、広いよなぁこの屋敷はさ。」
出された玉露を飲みながら、耕一は、いや感服しましたとばかりそう切り出す。
「そうかね。」
「そうかね、じゃないだろ。なんとも思わないのかよ。維持費だけでえらくかかるんじゃないか?」
「そうでもないよ、部屋の掃除やらなんやらは、千鶴姉抜かしてみんなで分担してするし。」
梓の何気ない台詞に耕一は目をむく。
飲んだお茶を吹き溢しそうになった。
「まじか?だってお前、この屋敷何坪あると思ってんだよ。少なく見積もっても、二百坪ぐらいあるじゃないか。」
「それが家訓だからね。一切、家政婦とかは雇ってないよ。」
「けちなのか?」
「だーれがっ。」
「梓が。」
またも怒り出す梓を制するように、耕一は湯飲みを掲げた。
「もう一杯くれ。」
「がぶ飲みしてないで、ゆっくり味わって飲めよ。」
ぶつぶつ文句を言いながら。
梓は隣に置いたポットから湯を急須へとつぐ。
みしり……。
湯を注ぐ音にまぎれる様、密やかに床を踏み鳴らす音が耕一の耳に届いた。
(……?)
梓の横顔を何気なくみつめていた耕一は、その音に振り返る。
ひょこり。
開いている障子戸から、飛び出た顔がある。
目が合った。
まだ幼さを残した、美人といよりは可愛い少女が、戸惑った顔をしている。
「初音ちゃんか。」
十年前の面影と、すぐに合致した。
くりくりとした奇麗な瞳と、小さな丸顔……びっくりするほど変わっていない。
だから耕一は、開口一番、自然な微笑みを浮べた。
この子には、人を無条件で和ませるものがある。
「えっと……耕一……お兄ちゃん?」
「そうだよ、初音ちゃん。お久しぶり、おっきくなったね。」
「あれ、初音。いつのまに帰ってきた…。」
耕一の声に振り返った梓の言葉は、初音の突然の行動に止められた。
「えっ……!?」
驚いたのは耕一も同じだ。
ふわふわの巻毛を揺らして、初音が、耕一へと抱き着いてくる。
「耕一お兄ちゃん!」
「初音ちゃん?……あの…。」
耕一は初音に抱き着かれたまま。
一体この状況をどうしようか…、しばし考え込んでしまった。



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