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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



咎を背負いし者……


千鶴

by 遊真



 
「……他殺の疑い?」
目の前に立つ男はいったい何を言っているのだろうか。
わけが分からないと言いたげに、千鶴は首をかしげた。
「ええ、まだはっきりと確証はないんですがね。」
のんびりと受け答える男の目には、その態度とはまったく異なる鋭さがある。
千鶴は、応対用の席に、男を座る様に促すと、みずからもその向かいへと座った。
「事故じゃないんですか?」
「そう聞いたんですか?」
千鶴の問いかけに、男は問いを重ねる。
(ふざけた人ね…。)
「いえ、ただ……叔父は自殺をするような人ではないですし、人から怨まれるなんて…。」
嘘だ。
自殺をする理由なら十分すぎる理由がある。
だが、千鶴は、そう平常を装って話す。
男が笑った。
「従業員の人から聞いた話では、時折、別人のように沈み込む事があると、聞いているんですが。」
「それは……。」
「鶴来屋の社長であった方が、ほんとうに恨みをかわないとでも?」
「…………。」
千鶴は黙りこんだ。
視線を足元へと落す。
「……………私が疑われているんですか?」
「話が飛躍しすぎですね、何も私は言っていませんよ。」
「訪ねてこられたのはその為ではないのですか。」
「穿った考えはしないほうが、健康に良いですね。私はただ、他殺の疑いがあるので、捜査上、あなたに協力を求める事があるかもしれないと…そう、お願いをしにきたわけです。」
ピリリリィ……
静寂に包まれた会長室に、呼び出し音が鳴り響く。
無言のまま、千鶴は、席をはなれると、デスクに添えられた電話の受話器を取る。
「……ええ。………はい………わかりました。……今すぐ行きます。」
簡潔に会話を終わらせ、受話器を置くと、千鶴は男へ視線を移した。
「すみませんが…。」
「お仕事ですか?それでは私は退散するとしますかね。」
男は千鶴が誤るよりも早く席を立つ。
「……お若いのに大変だ。」
ぽつり独り言のように漏れた台詞は千鶴の耳にも届いた。
千鶴は無言のまま部屋を出ていく男を見送った。
 
 
 
 
あなたが殺したんじゃないですか。
そう、長瀬と名乗った刑事は言っているようだった。
だが。
叔父を殺した者が誰なのか…知りたいのはこちらのほうである。
妹達の、そして自分の心の支えだった柏木賢治……。
もとより切れ長の瞳を細め、千鶴は、会長の座るべき席へと、腰を落ち着かせる。
先程の刑事が座った、あの場所。
あそこには、一ヶ月程まえまでは、別の人が座っていた。
暇がある時は、いつもここを訪れ、慣れない仕事で戸惑う自分を指導してくれた。
優しく笑って、包み込んですべてから守ってくれる人がいた。
今はもういない。
何故なら。
―――――誰かが彼を殺したから。
刑事に言われるまでもなく、千鶴はそれを悟っている。
柏木賢治に、単独で自殺を遂行する事などできるはずがない。
来るべき時が来れば、私を殺してくれ…。
―――――――――
そう賢治から話しをされているのだから…。
(でも……。)
でも、誰が叔父を殺したというのか。
鬼の力を持つ賢治を誰が殺せたというのだろうか。
そこまで思考して、負の方へ、負の方へと沈み込む自分に千鶴は気づく。
冷気を纏った嘲笑。
それは自分自身への……自嘲。
常を装えば、装うほど……千鶴の心は凍てつく。
そうとわかっていても…。
(……許さない。)
許しはしない。
叔父を死へ追いやった者に、同じ死を……。
必ず。



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