Back/Index/Next
Black Package 殻の中の小鳥



聖母達のララバイ




by まろびー



コトコトコトと鍋が煮えてきている。ああ、あと10分くらいかしら?
そう思いながら、鍋の蓋に手を伸ばした時あの人が入って来た。

「うまそうな匂いだ。料理だけがお前の取り柄だからな」
そう言うと、あの人は出ていってしまった。

料理の腕だけが、『私』の存在価値なのでしょうかと思わず聞いてしまいたくなる。
私は、確かに他の子達の様に『器用』だとは思わないし『綺麗』でもないけど、
たまには、何か違う事を言って下さると嬉しいのだけどなあ。

そして、私とあの人の肌が触れる時間・・・しかも一方的にそして強制で。
そこに有る言葉に『思いやり』とか『愛情』は欠片も存在してないけど
「お前の体にはこの戒めがよく似合う」
心はずたずたに千切れていくけど、それでも。


街へ出かけるから付いてこいといわれた。
黙って付いていくと駅へ来た。
駅であの人は女の子に声をかけている。向こうもあの人を知っている様だ。
なぜですか?私では駄目なのですか?胸が痛い。私が見も知らない子に
嫉妬している!?頭の中がぐるぐる回っている。
普通の服を着て、あの人が笑いかけているあの子。
メイド服を着て、ただ従うしかない私。
そしてあの人がこちらに振り返って言った言葉が私の心の衝撃に追い打ちをかける。
「あれも、もうすぐ、お前達の仲間だ」


その後、町外れの橋へつれて行かれた。ここは昔良く通った橋。
そして・・・夜は女性が春をひさぐところ・・・と道すがら教えてもらった。
橋の上には何人もの女性の姿があった。
あの人は、迷わず、その中の金髪の子の所に歩いていく。
ここで、見ていろ。そう言って。
私は、ただ、じっと、その光景を見つめている。
あの人が話しかけて、笑いかけて、口づけする所まで。
私は、情けなくなった。泣きたくなった。もう、その光景を見ていたくなかった。
だから、下を向いて堪えていた。あの人が目の前に来てもまだ・・・。
「ふう」
え?あの人のため息に思わず上を向いた。その時、駄目とは思ったけど涙がこぼれてしまった。
強い力で手を引っ張られる。
ぐいぐいと引きずられていく。
・・また、しかられる・・・頭の中がぐるぐる回ってきた。
そして、公園のベンチまで私達はやって来た。
ここは、初めて、この人と出会った場所。そして、初めて、私が『女』だと思い知らされた場所。
「す、すいません。フォスター様。私・・」
声がふるえる。これから、何が起こるかを想像すると。
でも。
頭の上にあの人が手を置いた。そして、その手が私の右頬にふれる。
「・・・まだ、刺激が強すぎたな。クレアなら、そうでもないのだろうが・・・」
おもわず、私はあの人を見上げて言った。
「私は・・・私はクレアさんとは違います。違う人間ですっ!!」
強く、強く、想いを込めて。 もう、涙はとまらない。
「・・・・・そうだな」
え?
叱られない?
「お前は、もっと、そうやって自分の想いや考えを表にださないと駄目だ。お前も、もう少し自分に自信を持て。少なくとも、私はお前を認めた人間だぞ?」
あの人の手が私の顎を上げて上を向かせる。私はなすがままにあの人と口づけをした。
甘く、そして長く。
あの地下室では味わえないものを。
顔を離すとすっと私の腕とあの人は手を組んだ。
「行こうか。今日は暖かい日だ」
私の心に暖かいものが満たされてくるのがわかる。口づけの時止まった涙が又、溢れ出てきた。
しかし、それはさっきのとは意味が違う。
「お前は泣き虫だ」
そう言うこの人の腕に私はしがみついた。
明日からも、きっと辛い日が続くと思う。
だけど。
今日のこの時を忘れずに私は、この方にずっとついていこう。そう思った。



Back/Top/Next