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Black Package 殻の中の小鳥



小鳥達の休息・・・




by 高槻涼一



 「うーん、ふぅ。」
 与えられた仕事の合間に軽く伸びをしてみる。
 「アイシャさん、お暇なようですねぇ。」
 たまたま通りがかったのか、クレアがシーツの束を抱えながら部屋の中に入ってくる。
 「そりゃあね。ドレッドの旦那は仕事で出かけているし、ミュハとメーアはそのお供。その上フォスターまで街に出かけて夜まで帰ってこないときてる。一応仕事が割り振られてるとはいえ、見てる人が居ないから気が楽だしね。」
 そう言いながらベットの上に腰を下ろしてみる。
 「そうですね。私の方の仕事もこれが最後ですし、終わったらお茶にでもしませんか?良い葉がありますし・・・」
 「良い考えね。そうと決まったら残った仕事を終わらせようかな。」
 「ふふっ、では私はみんなも誘っておきます。」
 彼女はそう言うと、この部屋のシーツを取り替えて廊下に消えていった。
 
 自分の仕事が終わったのを確認したので、クレアとの約束通り台所へと足を運んでみる。
 「あら、アイシャさん。お仕事は終わりました?」
 「終わったわよ。それよりみんなは?あんたしかいないみたいだけど・・・」
 「チェリーの分担の掃除が終わってないのでレンとリースが手伝ってますわ。」
 「もうそろそろ来るんじゃないのかしら・・・ほらっ。」
 クレアと話をしていると、階段に通じている廊下から話し声が聞こえてくる。
 「ほんと。来たみたいね。」
 
 「じゃあ皆さん座って待ってて下さいね。今からお茶を煎れますから・・・」
 「・・・私も手伝います。」
 「いいのよ、レンはさっきまでチェリーの手伝いをしてたでしょ。それに私が言い出したことだし私がやるわ。」
 前もって準備がしてあったのか、暖められたカップに琥珀色の液体が注がれてゆく。
 クレアらしいと言うことなのだろうか、チェリーには多めの砂糖を、そして私には多少のブランデーが注がれてゆく。
 ・・・こういう細やかな気の使い方が、あいつは気に入っているのだろうか。
 そんなことを考えている内に、私たちの前にカップが置かれてゆく。
 
 「ダージリンですか、この時期の葉と言うことは一番摘みでしたよね?」
 何事についても勉強家のリースが質問している。
 「そうよ。一番摘みのダージリンにするか、二番摘みのアッサムにしようか悩んだのだけれどもね。」
 クレアは惜しげもなく自らの知識をリースに教授している。
 「へー、あんたも笑うんだね。」
 私はその光景を見て思わず呟いていた。
 「私、笑っています?」
 「私にはあんたが笑っているように見えたんだけどね。」
 「良いじゃない。楽しい時は笑えばいいと思うけどなぁ。」
 チェリーのなにげの無い呟きを合図に、新しい話題へとすり変わってゆく。
 自分の廻りに起きた些細な出来事や、街から流れてくる噂話、他の人が聞けば意味の無い事でも私たちにはみんなと過ごす大切な一時・・・
 そんな時間を過ごしていきながら私たちだけの時間が流れていく。
 何時までも続くと信じて・・・

 「フォスター・・・様。」
 レンの一言を合図にみんなが台所の入り口を見つめる。
 「みんな元気が良いな。たが掃除に使った道具は片づけるべきだな。」
 「フォスター!夜まで帰ってこないはずじゃ・・・」
 私は驚きの余り最後まで言葉が続かなかった。
 「用事が思ったより早く済んだのでな。帰る時間を早めただけだ。」
 「す・・・すみません。私が片付け忘れたのです・・・。他の人たちは悪くありません・・・。どうかお叱りは私だけにお願いします・・・。」
 レンがか細い声で、だが意志を込めてフォスターに呟いた。
 まるで自分一人が悪いかのように・・・
 「違うの、レンは私を手伝ってくれただけなの。私が悪いの。」
 「一緒に働いてた私も見落としていました。彼女だけが悪いわけじゃありません。」
 「申し訳ございません。私が皆さんをお茶にお誘いしたのです。彼女の注意力を削いでしまった私の責任です。」
 レンを庇うためにみんなが同時に声を上げていた・・・。
 そして私も・・・
 「誰だって些細な見落としはするものよ。そんな事が気に障るっていうならレンの代わりに私が罰を受けるわ。それで良いでしょ。」
 一瞬の沈黙・・・
 そして遂に彼が口を開いた。
 「その通り、間違いは誰にでもあるものだ。そして大切なのは次に同じ間違いを犯さない事だ。その事を覚えておけば良い。」
 「フォスター・・・。」
 
 「ドレッドが帰って来るまでまだ時間がある。それまでは休んでいても構わないだろう。私は部屋に戻るので気にするな。」
 そう言って彼は私たちの前から姿を消した。
 廊下に響く足音だけを残して・・・
 
 私たちは、彼なりの優しさを感じながらまた今を楽しむことにする。
 みんなと過ごすこの大切な時間を・・・


                                      終



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