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りり☆ Original Novel



This Under The Blue Sky


by りり☆




僕には名前がない。呼ばれるときはほとんど『ぼうず』だし、そんなふうに呼ばれることすら、めったにない。
僕はひろくて大きくて豪華お屋敷に住む、お金持ちの使用人。
一日中広いお部屋を走り回って掃除したり、食事の用意をしたりするんだ。
そんな、ある風邪の強い日の午後、僕は仕事でへまをして、総監督に怒られていた。
「このお皿は、とっても高価なものだったんだ。それなのに割ったりして・・・!」
総監督は顔を真っ赤にして拳を振り上げた。でも、僕は涼しい顔をしてそのままたっていた。どうせ、いつもの『おどし』だろう。
「やめなさいっ。」
はっとするほど高い、そしてなおかつきれいな女の子の声がした。辺りは静まりかえり、肌が白くて、いかにも病弱そうな女の子が歩いてきた。
「小さい子を殴ろうとするなんて・・・どういう神経をしているの?」
「すっ、すみません・・・。」
総監督がたじたじ・・・ということは、『ご主人様』の一人なんだ。
「あなたにこの子を任せられないわ。私が連れて行ってもいいでしょ?名前はなんて言うの?」
「いちいち使用人に名前なんていりませんよ。」
総監督はそういうと、フンと鼻を鳴らしてどこかに行った。女の子は、
「しょうがないんだから」といいながら僕と目線を会わせていた。
「私はサエよ。みんなみたいに、サエ様って呼ばなくていいから。」
サエはにっこりほほえんだ。
「あなたにも名前をあげる。・・・そうね。マモルって言うのはどう?今日からあなたはマモルよ。友達になりましょ。」
僕はこんなに暖かい言葉を聞いたことなかったから、とてもうれしかった。でもこのときの僕は『友達』という言葉の意味を知らなかった・・・。

僕は自分は他の人たちと同じ、人間だと思っていた。だってみんな人間だったしそれまで僕はじぶんの顔を見たことがなかった。
僕が庭で休憩していると僕と同じくらいの歳の男の子達が手招きをしてきた。ぼくは遊びの誘いだと思い、迷わず走っていった。でも、そうじゃなかった。
「おい、おまえ、自分の顔を見たことあるか。」
「えっ・・・、ないけど。」
大きな木の下で僕のことを男の子が3〜4人囲んだ。
「ないのか。・・・おまえ自分が人形だって事知ってるか?」
「でたらめでしょ。」
「ぷっ、あっははははっ!」
僕は腹がたってきた。
「何がそんなにおかしいのさっ。」
男の子の一人が進み出て、手鏡をわたしてきた。
「それで自分の顔を見て見ろ。」
といわれたので僕は鏡を見つめた。
「な・・・に、これ・・・。」
そこには、ツルツルのプラスチックの顔があった。
「おまえの顔さ。」
男の子達はみんな笑い転げた。僕は今あった出来事を信じられずに、目の前が真っ暗になった。
「もっとおもしろいもの見せてやろうか。」
男の子達は嫌がる僕を引きずって暗い部屋に連れて行った。
「よくみろよ。」
電気をつけると、そこにはぼくとおなじ顔の人形達が飾られていた。
「なにやってるのっ。」
サエの声が遠くから聞こえた。僕の目の前はまだ真っ暗でそこに立ち尽くしていた。
「あなたたち・・・どうしてここに?ここは立入禁止のはずでしょう。さあ・・・出てって!」
サエはそういうと長い棒を振り回した。男の子達は驚いてあっという間にいなくなった。
「うっ・・・。」
サエはトリをそのまま飲み込んだような声をだして、その場にうずくまった。
ぼくはハッとして、そばに走っていった。
「・・・大丈夫?」
サエはうなずいた。額にはまだ汗が流れ、頬は青ざめていた。まだ苦しいのだ。僕は、サエの背中をさすった。しばらくそうしていると、サエはその手をつかんでいった。
「気にすることないわ。あんなの嘘よ。」
「・・・ううん。僕はみんなと違うんだ。もう分かってるよ。やっぱり僕は人形なんだね。」
サエは何も言わずに横を向いた。涙を見せまいとしているけど、僕には潤んでいる瞳が見えた。
そんな、僕と一緒に悔しがってくれているサエの気持ちが、春の日だまりのようにあたたかかった。

翌日僕はサエと一緒にサーカスを見に行った。団員達は軽々と演技してみせるので、サーカスの人たちはみんな身軽なんだなぁと思った。隣を見ると楽しそうに笑うサエの顔が見えた。その顔を見て僕もなんだか楽しくなった。
ショーが終わって僕とサエはショーに出た馬に乗せてもらった。僕たちは、はしゃいでいたので手綱を振り回した。すると馬は「ヒヒーン」と鳴いて走りだしてしまった。馬はテントを出て平原を暴走した。僕もサエも馬にしがみつくのがやっとだった。冬だったので平原はシーツを引いたようで、風邪は凍り付いていた。
頬に当たる風の勢いが段々弱まり、いつの間にか止まっていた。僕は恐る恐る目を開け、完全に止まったことを確認してから馬から下りサエの手を引いた。
馬が止まったのは、黒々とした森の前だった。僕は嫌がるサエの手を引いて森の中へ入っていった。サエは心配そうに辺りを見回しながら言った。
「ねえ、帰りましょ?」
「こわいの?」
「こわくないわ。でも・・・、みんなが心配するし・・・。」
サエは僕の手に抱きつきながら言った。
「大丈夫だよ。ぼくがついてる。それよりなんで森の仲に星があるの?」
サエはクスクス笑いながら「ホタルよ」と言った。
「きれいねえ・・・もう見れないのかと思ってた。」
サエはそばを飛んでいたホタルをそっと手で包み込んだ。
「真冬なのに・・・。でも夜空の星みたいね。そうだわこの土地にはね、古い伝説があるの。・・・昔、神様の大親友が死んだ。悲しくてね、神様はたくさんの涙を流した。その涙は流れ星になり、ある森にふり注いだ。それからはその森でいつでも美しい星が見えるようになったの・・・。」
「その伝説の森ってさ、ここの森のことでしょ。」
「そうよ。きっとそうよ。」
サエの黒い瞳には光り輝くホタル達が移った。
「あなたの目にはこの世界がどんな風に写っているの?私は、この世界が光り輝いて見えるわ。あなたの目は真っ青でしょ。全てが青く染まって見えるの?」
「ううん。僕にも・・・光り輝いて見えるよ。」
その後僕たちがどうやって帰ったかは覚えていない。ただ・・・、あの森のホタル達のことはしっかり記憶に残った。」

夜があけて僕が目を覚ますと、サエの姿はなく、どこを探しても居なかった。メイドさんに聞くと「サエ様は病気を治すために遠い町に移られた」という。僕はすっかり気が抜けてしまい、気がつくと泣いていた。
「・・・マモルとやら。サエ様が居なくなっては、おまえはただの用無しだ。捨てられろ。」
冷たい総監督が戸惑うこともなくそう言った。でも僕は悲しくなかった。だってサエが居なくなれは、僕は何をしたらいいのか分からないんだもの。
僕はメイドさんに連れられて車に乗り、昨日馬が暴走した平原を横切った。
僕をおいていくときメイドさんは、
「いい人に拾われてね」
と言った。それからすぐに車に乗り灰色の煙をふかしながら行ってしまった。
僕は冷たい風を頬に感じ、雲が流れる空をながめながらもう一度サエに会いたいと何度も祈った。
・・・そして奇跡は起こった。
「マモルーッ。」
聞いたことのある声が響いた。僕は一瞬信じられなくなるほどうれしくて、声のする方へ駆けた。
「マモル!」
サエも走ってきて僕を抱き上げた。
「どうしてここにいるって分かったの?」
と、目を丸くしながら言う僕にサエは、
「だって、友達でしょ。」
と答えた。
それから、僕とサエはずっとずぅっと仲のいい友達でいた。
この青い空の下で、僕らは本当の友情で結ばれていたんだ。

           〜 This Under The Blue Sky  完 〜





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