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MOON Short Story



変わらない、いつもの日常




by PEACE



リリリリリリ・・・・
枕元の目覚し時計が噛み付くように鳴る。
「うう・・・ん・・」
私は寝返りを打つように、それに手を伸ばし、スイッチを押す。
そしてまた、眠りについてしまう。
「後5分だけ・・・」

「・・くみ、郁未」
声が聞こえる。
「郁未、晴香ちゃん来てるわよ。起きなさい」
私はゆっくり目を開ける。
そこには母がいた。
「もう8時よ」

がばあっ!!

その言葉に、私の意識は突き飛ばされたように覚醒し、時計を確認する。
7時50分。いつもの時間より大幅に遅い。
「きゃああっ!寝坊っ!!」
布団から飛び出し、まどろみを切り捨てて制服に着替え始める。
その様子を、母はあきれたように眺める。
「ほんとにもう・・・いつものでいいわね」
「うんっ!!」
制服のスカートをはきながら、私は答える。

どたどたっ!!

着替え終えた私は、落ちるように階段を降りる。
玄関には晴香があきれた表情で立っていた。
「あんた、また寝坊?しっかりしなさいよ。子供じゃないんだし」
「ごめん・・・」
そうしていると、母が一枚のトーストを持ってやってきた。
「はい、朝食」
遅刻しそうになったときの私の朝食は、登校しながら食べる一枚のトーストだった。
いつもの事なので、母も晴香ももう気にしなくなったが。
「行ってきます!」
「気をつけてね」
母に見送られて、私たちは家を出た。

この後、私たちは由依の家に向かう。
いつもと変わらない、日常の事だ。

なれた手つきで、私はインターホンを押す。
『はい』
インターホンに応答したのは由里さんだ。
「天沢ですけど、由依、起きてます?」
『ええ、今行きます、由依ー、天沢さんたちが来たわよー』
ドアの向こうから、由依の返事が聞こえた。

「おはようこざいます」
玄関から由依と由里さんが出でくる。
「おはよう」
返事を返す。
「姉さん、行ってくるね」
「気をつけなさい」
由里さんは玄関で、私たちが見えなくなるまで見送る。

いつもの、ありふれた日常の事だった。

「郁未さん、今度の陸上の大会に出場するそうですね」
由依が聞く。
「よく知ってるわね。そうよ」
「で、調子はどうなの?」
「もちろん絶好調よ。優勝間違いなし」
私は腕組みをする。
「さすが郁未さんですね」
由依が笑いながら言う。
「がんばってね。応援してるわ」
「ありがとう」

話ながら私たちは、バス停の前を通る。
通り道にあるそのバス停は、いつも何人ものサラリーマンたちが、
むずかしい顔をして待っていた。
その中に、端麗な容姿をした、髪の長い女性が、ベンチに座って本を読んでいる。
「葉子さん」
私たちは声をかける。
葉子さんはゆっくり顔を上げて、私たちをみる。
「・・・おはようございます」
口元にほんの少しだけ笑みを浮かべて、葉子さんはそういった。
これが彼女の挨拶の仕方なので、私たちは不快ではない。
それどころか、なぜかすがすがしい。
「おはようございます」
私たち三人は挨拶を交わした。
「今度また、ゲーム対戦しましょう」
由依が言う。
「あのね・・・葉子さんはあんたみたいに暇じゃないのよ」
晴香が口を挟む。
「私って、そんなにヒマ人に見えますか?」
「見えるわよ、十分」
「ううっ・・・」
葉子さんが口を開く。
「・・・来週の日曜日でよければ」
「えっ・・・わかりました!じゃ、待ってますから」
「・・・はい」
言い終わると、葉子さんはひざの本に目をやり、私たちはまた歩き出した。

「よかった、日曜日が楽しみです。」
由依が嬉しそうに言う。
「もちろん、私たちも行くわよ。ね、郁未」
「うん」

私たちは笑いながら、学校に向かった。
いつもと変わらない日常。
その時が、私にとっては最高に幸せなときだった。
こういう、いつもと変わらない時に、私は幸せを感じていたのでした。

−終わりー


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