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Original Novel MOTOKA Presents



エンジェルズ・サーチャー


第4話

羽根の居場所は・・・・・・



「何なのよーッ!!ここはーッ!!」
ユーティアたちが買い物をしているのと同時刻。メリアは一人叫び声を上げた。ちなみにミカラはコンビニに買い物に行っている。天界にもコンビニはある。日本のお金はどうやって入手した?と思うかも知れないが天界では一般的に通貨に金が用いられており、そこら辺の質屋に入れてかなりの大金を手にしたのだ。
それはさておき現在メリアとミカラの二人は東京都新宿区にいた。天界では見たことのない人の多さにパニクり叫んでしまったという始末なのだ。
「お前、うるさいぞ」
突然横から声がかかる。びっくりして振り向くとそこには買い物袋をさげたミカラの姿があった。
「ほれ」
そう言ってミカラはジュースのカンをメリアに向かって放り投げる。
メリアはぷしゅっ、とカンを開けると一気に飲み始める。
「仕方ないじゃない!この人の多さは異常よッ!……げほっ!ごほっ!」
炭酸を一気飲みしたせいでむせるメリア。
「まぁ、確かに人は多いわな」
ミカラも同意して辺りを見回す。そろそろ日も傾いてきたがまだまだ人は多い。こんな中からユーティアを捜すのかと思うとミカラはげんなりした。そして人が通るのを見ながらメリアとミカラは同時に叫んだ。
『こんなんでユーティアが見つかるのかぁッ!?』
二人とも心からの叫びだった。
「大変だよな〜、この東京で人を見つけるのは……」
「私たちも似たようなこと経験したもんね……」
と、横にいた十六歳程度の男女がやけに悟ったような口調で呟いた。
「あの時は亜希のおかげで助かったっけ」
「そうだね〜」
と、何だか思い出話に花が咲いているようだ。まぁメリアとミカラにとっては関係ないことだが。と、男女二人のうち男の子の方が腕時計を見て時刻を確認する。
「げっ!やばいぞ!電車乗り遅れる!」
「ほんと!?急がなきゃ!」
「おう!それじゃ二人とも、諦めず頑張ってそのユーティアって人を捜してください!」
「諦めなければ必ず見つかりますよ!それでは!」
そう言うと二人はあっという間に駆けていった。メリアとミカラはただただぽかんと駆けていく二人を見つめるだけ。
「もしかして……励ましてくれたのかな?」
メリアがぽつりと言うとミカラはどーだろーなー?という顔をしながらも控えめに同意した。
「たぶん、そうなんじゃないか?何かやけに悟ったような感じだったが……」
「確かにそうね……」
二人はしばらく先ほどの二人が駆けていった方向をぽかんと眺めていた……。


そんなやりとりがあったとは露知らずユーティアと一樹の二人は家路についていた。
瀬名と祐一の二人とは数分前に別れた。別れ際瀬名はユーティアに頑張って!と言っていたようだが一樹には何を頑張るのかさっぱり見当がつかなかった。ちなみにいつのまにかユーティアは一樹の家に泊まることになっていた。祐一や瀬名はユーティアが天使だとは気付いてないから家があると思ってるのだろう。そんなわけでユーティアは一樹の家に泊まるしかないのだ。いくらなんでも放り出しておくことが出来るわけがない。
一樹はふと気付いた。いつもある嫌な気分がないのだ。いつもはこの道を買い物袋ぶら下げながら一人でとぼとぼ歩いているのだ。一人で帰るのはいつも嫌だった。家に誰もいないから。誰もお帰りなさいとは言ってくれないから。
しかし、今は隣にユーティアがいた。まだ出会ってから一日もたっていないが一樹にとっては側に誰かいてくれる。それだけで充分だった。
知らず知らずのうちに目に涙が溜まっていた。一樹はそっと涙を拭う。
「一樹さん?どうしたんですか?」
ユーティアがそんな一樹に気付いたのだろう。心配そうに声をかけてくる。
「あ、大丈夫だよ。嬉しくって。つい……」
「嬉しい?」
ユーティアが不思議そうに問うのを見て一樹は言うか言わないかを迷った。しかし家に帰ればどうせ誰もいないことがバレるだろうと思い今言うことにした。
「僕は……父さんも母さんもいないんだ。六年前の事故で死んじゃってね……。家に帰っても誰もお帰りなさいとは言ってくれない。誰も一緒にこの道を歩いてはくれない。……淋しかったんだ。でも、今はユーティアが隣を歩いてくれてる。だから淋しくなくて……だから嬉しくて、つい……」
話を終えユーティアを見て一樹は驚いた。何とユーティアが涙を流しているのだ。
「あうう〜、一樹さんかわいそすぎます〜。私でよければいくらでも一緒にいますよ」
その言葉は聞きようによってはプロポーズに聞こえるのだが、ユーティアはそんなつもりで言ったわけではないし一樹も気付いてはいなかった。
「ありがとう、ユーティア」
一樹は本当に心の底から嬉しくて満面の笑顔でユーティアにお礼を言う。その途端ユーティアの顔が真っ赤になったように見えたのは夕日のせいだけではないだろう。
―と、気付いたら家の前まで来ていた。鍵を開け家の中に入ろうとする一樹をユーティアは呼びとめた。
「あ、待ってください。私が先に入ります」
一樹は了承するがユーティアが何故先に入りたいのかがわからない。と、ユーティアは家の中に入ると突然ドアをバタン!と閉める。
「へっ!?」
間の抜けた声を上げる一樹。と、ユーティアの声が聞こえた。
「入っていいですよ〜」
一体何なんだ?と思いつつも言われた通り入る。ユーティアは玄関でにっこり笑っている。そこで一樹はユーティアの心遣いを悟った。
そうか、そういうことか……。……ありがとう。
胸中で呟きその言葉を言う。返ってくる返事を期待して。
「ただいま!」
「お帰りなさい!」
一樹の言葉にユーティアは元気よく返事を返してくれた。
嬉しくなった一樹ははりきった声で言う。
「よおしっ!今日は腕によりをかけて美味しい料理をユーティアにごちそうするよッ!」
「人間界の料理ってどんなのかな?すっごく楽しみです!」
「期待しててよ!」
「はい!」
二人は笑い、リビングへと向かう。
一樹は料理の材料を用意するとエプロンを着けてまな板に向かう。そんな姿を見てユーティアは微笑した。
「一樹さんそうやってると本当に女の娘みたいですよ」
「ううっ、気にしてるんだけどなぁ……」
「いいじゃないですか。可愛いですよ」
「うう〜」
一樹はちょっと涙した。涙しつつも手は律儀に料理を作っていた。これは一種の才能か。
そんなこんなで楽しく時間は過ぎて行った。
―一時間後。
まるでレストランのような見事な料理が完成した。
香ばしい香りに見た目も最高ランク。これで顔が女の娘っぽいとなれば本当に女の娘と間違えられても仕方ない。本人は気にしてるのにね。
『いっただきま〜す!』
二人は行儀よく御飯を食べ始める。まずは一口。
「お……おいしい〜っ!」
ユーティアはこれまで食べたことのないおいしさに驚いた。人間界にはこんなおいしい食べ物があるんだ!と素直に感心している。一方一樹はと言うと、
「おっ、今日は出来がいいな。ちょっと薄味かなって思ったんだけど」
などと自分の料理の評価をしている。六年間も料理をやっているのでこういうのが癖になったらしい。
それから御飯を食べ終えるまでの三〇分間二人は楽しく、特にユーティアは至福の時間を味わった。相当おいしかったらしい。
『ごちそうさまでした〜』
始まりと同じく行儀よく御飯を食べ終わる二人。食器を片付け洗い終え、一樹が入れたお茶を二人で飲み始める。少ししてから一樹が話を始める。
「さて、それじゃこれからどうするかを考えないと……」
「どうするか?」
ユーティアがぽけっと聞き返すのを聞いて一樹はテーブルに突っ込んだ。
「ユ、ユーティア……忘れてない?きみの羽根のことだよ!」
「ああっ!」
思い出したのか声を上げるユーティア。
もしかして天然ボケ入ってる?
一樹はそんなことを考えた。もしこの場にメリアがいたならうんうんと頷いていたことだろう。
「そ、そうでした……。どうやって探しましょう……?」
「僕に聞かないでよ。きみの羽根なんだから」
「一樹さん……何か冷たいです」
そう言うと一樹は明らかに狼狽した。必死で首をぶんぶんと振っている。
「いや、そういうことじゃなくて……その……」
必死で言い訳する一樹がおもしろくてついユーティアは笑みをもらす。
「ふふ。いいですよ」
そう言うとホッとした感じで一樹は胸を撫で下ろす。
「はぁ、よかったぁ……。それで羽根を探すと言うことだけど……。ユーティアの羽根はこっちにくる時のショックで飛ばされちゃった可能性が高いんだよね?」
「はい。恐らくは」
ユーティアが頷くのを見て一樹はう〜んと唸る。
「となるとムズイなぁ……。日本にあるのかアメリカにあるのか……、何処にあるのかわからないってのが痛いなぁ……」
地名はわからなかったようだが後半部分はわかったようだ。ユーティアは一樹に言う。
「あの……多分そんなには離れたところにはないと思うんです」
「へ?どうして?」
一樹の素朴な疑問にユーティアは答える。
「別の精神生命体とは言っても一応は私の身体の一部ですから。なんとなくわかるんです。それに、この羽根がそう言ってます」
「は、羽根がッ!?」
驚愕の声を上げる一樹。
そっか、羽根って喋るんだ……。
何てことを考えてたら顔に出てたのだろうか、ユーティアが説明する。
「あ、別に羽根は喋りませんよ。でも羽根は二つで一つの生命体ですから。いわば半身。半身は半身の居場所がわかるんです。そういう感じが伝わってきます」
そっかそういうものなんだ……。
一樹は納得すると共に少し羨ましさを覚えた。例え一人ぼっちであっても羽根と言う友達がいる。決して一人にはならない。長年一人ぼっちだった一樹にはそれがとても羨ましく感じられた。
しかしそんな表情をしたらまたユーティアに心配されてしまう。一樹はその表情を出さぬよう注意して普通に話す。
「って、そういう感じが伝わってくるなら羽根の場所もわかるんじゃないの?」
唐突に気付いた一樹がユーティアに聞く。しかしユーティアは首を横に振った。
「いえ、ダメなんです。別の世界だからか正確な場所はわからないんです。でも……断片的な情報ならわかります」
「教えて!」
一樹は勢い込んで言う。とにかく今は情報がほしかった。ユーティアは指を口にあてしばらく目を閉じた後言った。
「えっと……、周りには大きな建物はないですね。あと、木々が生い茂ってます。……あ!何か文字が見えます。えっと……、おお……?」
「おお?」
一樹は聞き返す。おおってなんじゃらほい?感動詞かい?って感じだ。するとユーティアが言葉を付け加えた。
「二文字なんですけど最後の文字がよく読めないんです。最後の文字……漢字難しいし、ぼやけてて……」
そこで一樹は気付いた。
へぇ、天界でも言語は一緒なんだ。
いまさら何を言う。といった感じだが今気付いたのだからしょうがない。
「難しいって……他の一文字はわかる?」
一樹が問うとユーティアは頷いた。
「はい。量が多いの多です」
ああ、その、おお、か。
と、一樹は思う。
そして、その言葉で一樹には全てがわかった。と言うかここまでわかればもうわかる。
「なるほど。多摩か。ユーティアの羽根があるのは」
「ふぇ!?」
ユーティアは呆気に取られた声で言う。そして驚きの眼差しで一樹を見る。
「わ……わかったんですか!?羽根の場所が!?」
「いや、そんなに驚かなくてもそこまでヒントが出ればわかると思うけど……。でも多摩って場所だけで細部までわかったわけじゃないよ。まぁ、何とか大体の場所を絞れたからそんなに探すの大変じゃないと思うけどね」
そんなに離れてない、そして多の字。さらに最後の漢字が難しいとなれば多摩を導き出すのは簡単だった。恐らく祐一や瀬名もわかるだろう。
「明日、明後日と休みだから一緒に探しに行ってあげるよ。大丈夫。すぐに見つかるさ!」
一樹がそう言うとユーティアは目一杯に涙をためて一樹に抱きつく。
「本当に、ありがとうございます!」
一樹は最初に抱きつかれたのと同じように顔を真っ赤にしたのであった……。


「見つからないぃぃぃッ!!」
メリアは絶叫した。そんな一日やそこらで人が見つかるわけがない。ましてやここは東京。そこで人を探す難しさといったら推して知るべし。ミカラはへとへとで喋る元気もない。
二人は新宿区を探し終え今は渋谷区にいた。新宿区を完全に探し終えたのかははなはだ疑問だがだからと言って完全に調べていたのでは何日かかるかわからない。
「人間界、恐るべし!」
人の多さに怖れられても何だかなぁ。といった感じなのだが、そんなことを言ったら目を血走らせたメリアに蹴られることだろう。
と、声が聞こえた。
「確かに人間界は怖いわなぁ」
「いろんな意味でね」
二人が声をした方を見ると、先ほど(と言っても数時間前なのだが)新宿区でやけに悟ったような口調で二人を励ましたと思われる男女だった。
どうやら聞こえていたようだが人間界という言葉を何の疑問も持たずに受け入れるとは。
こやつら、つわものッ!?
頭がハイになりかけてるメリアはそんなことを考える。
そんなメリアには気付かず男女二人は話しながら歩いて行く。
「ところで……」
「あ、それは……」
そんな二人をしばらく眺めていたメリアはぽつりと呟いた。
「こんなに人がいるのにまた会うなんてすごい偶然ねぇ……」
ユーティアにもこれぐらい簡単に会えるといいんだけど。
メリアはお空のお星様に願った。
しかしメリアの頭上には雲さんがいた。
お星様に願えなかったメリアの願いは聞き届けられそうになかった。

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