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Original Novel MOTOKA Presents



エンジェルズ・サーチャー


第9話

逃走不能



キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン。
チャイムの音が鳴り響く。四時間目が終了したようだ。
一樹は鞄の中から弁当を取り出す。さすがに今日は忘れていない。
と、ユーティアが何故かうるうるした目で一樹を見ている。
「ど、どしたの?ユーティア」
一樹は慌ててユーティアに聞く。すると、ユーティアは、
「お弁当、忘れちゃいましたあぁ〜……」
一樹はため息をついた。そして、ユーティアの目の前に弁当を突き出す。
「え?でも、これは一樹さんのお弁当じゃ……?」
一樹はそれには答えず鞄の中からもう一個弁当を取り出す。
「え?あれ?」
ユーティアはわけがわからない。どうしてお弁当が二つあるの?もはやパニック状態。そのパニック状態を一樹は解除した。
「昨日、僕とユーティアの弁当は僕が作って持っていくっていったじゃんか」
「ああっ!そういえば!」
すっかり忘れていたユーティアは声を上げる。
「てへへ……」
思わず笑って誤魔化そうとするユーティア。一樹は、はは、と笑って、
「いいって。ほら」
そう言ってユーティアに弁当を渡す。
「一樹さん、向こうで食べませんか?瀬名と祐一くんと一緒に」
「ああ、いいよ。じゃ、行こっか」
「はい!」
嬉しそうに頷くユーティアの後についていく一樹。
その背中に痛いほど嫉妬の視線を感じながら……。
何だか鍼を刺されてる気分になった。
「よ、二人とも。こっちだ」
祐一が一樹とユーティアを呼ぶ。
席では既に祐一と瀬名が弁当を食べていた。一樹もよいしょ、と腰掛けると弁当の包みを広げ、弁当を食べ始める。ユーティアも同様にして弁当を食べ始めた。
「ねぇ、ユーティア。上では学校ってあるの?」
と、唐突に瀬名がユーティアに問う。
無論のこと上とは天界だ。さすがに学校で天界なんて口にするわけにはいかないだろう。ただ、上に学校ってあるの?と言う言葉は充分変だが。
「ええ、ありますよ。基本的にはここと似てます。ただ、習うものが違いますね。私たちはここのことを習うんです」
ユーティアもわかってきたのか、人間界のことを、ここ。と言うようになった。人間界でくるか!?と身構えてた一樹は、ホッと胸を撫で下ろす。
「ここのこと?」
そんな一樹には気付かず、瀬名はユーティアに聞き返す。
「ここの歴史とか生活習慣とかですね。でもアバウトなんですよ。あまりここのことを重要視してないんです。上は上、下は下。そんな考え方なんです。あとは……、他のことは大体一緒だと思いますよ」
「なるほどぉ」
と、瀬名は頷いている。一樹も、天界はそういう考え方をしてるんだぁ。と知ることができた。
「それじゃ、僕から質問。ユーティアたちって移動はどうしてるの?」
一樹の質問にユーティアは声を潜めて言う。さすがに聞かれちゃマズイ話だからだ。
「私たちは空を飛べますけど移動にはやっぱり乗り物を使うことが多いですね。車とか、飛行機とか。空を飛べると言っても、そんな長時間は疲れちゃうから無理ですし」
「やっぱり飛ぶって疲れるんだ」
「はい。簡単に言えば空を歩いてるようなものですから」
「な〜る」
一樹はうんうんと頷いた。車とか飛行機とか、文化は人間界に似ているようだ。それに、空を飛ぶのは疲れるということがわかった。こういう事実は実に興味深い。
そんなこんなで昼食&昼休みはユーティアへの天界の質問で楽しくすぎていったのであった……。


放課後。生徒たちが次々と帰って……いかなかった。
放課後になったと同時に生徒たちが一気にユーティアに群がり、怒涛の勢いで質問を浴びせ掛ける。この学校の伝統として、転入生への質問タイムは放課後となっていた。
いつ、誰がそんな伝統を作ったのかは知らないが、そうなっていた。
しっかし……、放課後って何でだ?
それは誰もが思う疑問だった。しかし、未だその疑問は解かれていない。と言うか誰も気にしてないのだ。ただ、一人、瀬名だけはこの伝統が何故生まれたかを知っているようだが、やっぱり誰も気にしていなかった。
別に放課後だろうと朝だろうと関係なし!
それがこの学校生徒の考えとなっていた。この学校の生徒も校長に影響されつつあるようだ。ある意味恐ろしいかもしれない。
「出身地は!?」
「誕生日は!?」
「スリーサイズは!?」
様々な質問がユーティアに浴びせられる。ユーティアはおろおろと慌ててあうあうを連発している。ちなみにスリーサイズを聞いた奴は即座にユーティアにはったおされて床に沈んだ。その後、男子数名に追い討ちをかけられていたようだが、あまり関係はなかった。
「好きな物は!?」
「趣味は!?」
「今度デートしませんか!?」
まだまだしつこく質問は続いている。途中、どさくさに紛れてナンパをしてきた輩は、ユーティアが攻撃する前に男子諸君に袋叩きにされた。
アーメン。
一樹は思わず十字を切った。
なかなかおもしろい光景だが、いつまでもユーティアを困らせたまんまにしておくわけにもいくまい。
一樹は鞄を持って席を立つと、ユーティアに向かって呼びかけた。
「帰るよ〜、ユーティア」
「あ、はいっ!」
ユーティアはチャンスとばかりに鞄を持って一樹のもとへ駆け寄る。あからさまに残念そうな顔をする男子諸君。しかし、それは一瞬だった。一瞬にして、その表情は恨みがましい表情へと変化する。
一樹はじりじりと後ずさりする。何だか、蛇に睨まれた蛙の心境だ。
「な、何すか?」
一樹は思わずそう訪ねる。すると、男子の一人が代表なのか、出てきた。名前は、拝島栄一。一樹とは中学からの付き合いだ。現サッカー部で、一年生だが、レギュラーとして頑張っている。
「一樹ぃ……、どおゆう関係なんだよ……?ユーティアちゃんと」
恨みがましい目で一樹を見つめる。その後ろでは他の男子がうんうんと頷いていた。どうやら満場一致の意見らしい。
「どおゆう関係って……」
何て言えばいいのだろう?困っている天使とそれを助けてる人間?それとも単なる知り合い?
そう考えてた一樹だが、唐突に思い出す。
そうだ、従妹って言えばいいじゃんか。
先生がいきなり知り合いなんて言ってしまったせいで、忘れてたが、当初は従妹でいくはずだったではないか。
何ら問題はない。と思った一樹は栄一以下男子諸君に向かって言う。
「ユーティアは僕の従妹なんだ。ちょっと家の都合で僕ん家に来てるんだよ」
うん、完璧だ。と一樹は思った。これなら何も問題はない。しかし、問題はあった。かなりの問題が。
「一樹さん、何言ってるんですか?私と一樹さんは別に従妹じゃないですか」
と、ユーティアがさらりと一樹の言葉を破壊してくれた。
「わわっ!ユーティア!そういうことを言っちゃいけないんだよ!」
「ふぇ?」
慌てる一樹を不思議そうな目で見るユーティア。
だ、ダメだ……。なんっにもわかってない……。
ウソを言えないほど純真なのか。それとも単なる天然ボケなのか。
どちらの可能性もあった。五分五分ぐらいだろう。
それはともかく、なんとか誤魔化さなければならない。どう言おうかな〜、と思って一樹が栄一の方を振り向く。
そして、誤魔化すのは無理だと悟った。
栄一以下男子諸君の顔は鬼の形相だった。ごごごごご、とオーラが出ている。なんと言うか、このオーラがあればミサイルの一つや二つは破壊できそうな気がする。
それほどまでに強い嫉妬のオーラだった。
祐一がまぁまぁ、となだめようとして、栄一の方に手をかけた。
滅!!
祐一は一三秒(推定)で滅ぼされた。栄一自身は何もしていない。どうやら嫉妬オーラの気に振れただけでやられたらしい。それほどまでに強いオーラだとは……。
前言撤回しよう。
ミサイルじゃなくて原子爆弾相手に出来る。
このままじゃ、自分の命が危ういと悟った一樹は対抗策を考える。そして、思いついた。自分の被害がある程度抑えられ、なおかつ嫉妬オーラを止める方法を。
一樹はぼそぼそと栄一と男子諸君に話しかける。すると、その途端嫉妬オーラはウソのように消えていった。
一体どうやったのかさっぱりわからないユーティア、瀬名、祐一以下女子諸君。
「よし、それで手を打とう!」
栄一が代表して言う。一方一樹は重っ苦しい顔で、
「ども」
と言った。
そして、一樹は教室を出て行く。
「あ、一樹さん!」
慌ててユーティアは追いかけて行く。祐一と瀬名もだ。
「一樹さん、何言ったんですか?」
追いついたユーティアはそう、一樹に問う。しかし、一樹はあからさまに顔を引きつらせて、
「ぜ、絶対言えない……」
と、小さく呟いた。ユーティアは訝しげな表情を浮かべるが、それ以上は聞かない。一樹の様子から見て、無理に聞いても教えてくれないだろう。
と、祐一と瀬名も追いついてきた。二人も問うが、一樹は言いたくないの一点張り。結局、それでこの話は終わりになった。
―帰り道、一樹はふと横にある店を見て、呟いた。
「二十四時間営業でよかった……」
その店はカメラ店だった。


翌日の放課後。
はああぁ……。
一樹は教室で大きなため息をついた。これから起きることを考えるとどうしてもため息が出てしまうのだ。
「一樹」
と、顔を上げると栄一がいた。
「例のブツは持ってきただろうな?」
慎重に問う栄一。栄一が代表で取りに来ることになっていた。
「はいはい。ほれ」
そう言って一樹は栄一に写真の束を渡す。
「確かに。いやあ、あんがと。一樹」
「はいはい」
一樹は適当に相槌をうっておく。栄一は写真を眺めながら、男子諸君の待つ場所へと向かって行った。
「一樹さん」
ハッとして振り向くと、そこにはユーティアがいた。一樹は錆びたブリキのロボットのようにギギギギと動く。ユーティアはもっとも聞いてほしくないことを、さらりと聞いてくれた。
「あの写真、何ですか?」
一樹は足のリミッターを解除した。そんでもって足に潤滑油を注入した。
「走れ!メロオオォォス!!」
何故かその言葉を叫びつつダッシュで逃げる一樹。しかし、推定三歩でこけた。瀬名の足払いに引っかかったのだ。
「ほらかずちゃん。逃げないの」
ばたばたと慌てる一樹だが、首根っこを捕まれてしまってはどうしようもない。瀬名も伊達に祐一を殴ってるわけではないので腕の力は強かった。スポーツマンではない一樹に瀬名の力を振り切ることは不可能だった。
と、一樹のポケットから写真が落ちる。
「ああっ!!」
一樹が叫ぶがもう遅い。写真はよりによってユーティアに拾われてしまう。
写真を拾ったユーティアはそれを見る。そして、見事に固まった。
「ユーティア?」
「ユーティアちゃん?」
祐一と瀬名は訝しげに言い、ユーティアが持っている写真を見る。
「なッ……」
「おお……」
瀬名は固まった。
祐一は少し顔がにやけた。その瞬間、瀬名に蹴られたようだが。
写真にはユーティアが写っていた。まぁ、それならなんの問題もないだろう。だが、問題は写ってる内容だった。
ユーティアの寝顔だった。
よりによってかなり無防備な姿がさらけ出されている。あまりに可愛らしい寝顔だ。これなら男子諸君が手を打ったわけもわかる。結構寝顔というのは撮ろうと思っても撮れないものだ。
ユーティアは恥ずかしさと怒りのあまり顔が真っ赤になっている。
一樹はそろぉりそろぉり、と教室を抜け出そうとした。しかし……、
「一樹さん!」
「かずちゃん!」
一発で見つかった。ギギギギギギと首をめぐらすと……、
そこには、笑っているユーティアと瀬名がいた。ただ、額にくっきりと怒りのマークが浮いていたが。
「あ、あははははは」
とりあえず笑って誤魔化そうとする一樹。が、もはや無理だった。
「かずちゃん……。今回ばっかりは私もフォロー出来ないねぇ……」
「一樹さんだけが持ってるなら、まだ許せたんですけどね……。他の人にまで渡したとなると……」
だらだらと脂汗を垂らす一樹。そして、二人は大きく息を吸い込むと同時に言った。
『滅殺!!』
その瞬間、校内に断末魔の悲鳴が響き渡った。
合掌。
祐一は親友に向け、手を合わせたのであった……。


メリアとミカラが病院に入院してから一週間がたった。しかし、まだ元気にはなっていなかった。まぁ、セキと鼻水などはおさまってきたが。どうやら相当タチ悪いウイルスに感染したらしく、あと、一週間ぐらいはおとなしくしてないとなおらないらしい。
「ねぇ、ミカラ」
メリアはミカラに話しかける。この病室で出来ることと言えば、テレビを見るか、本を見るか、それに考え事するかミカラと話すしかなかった。はっきし言えばヒマなのだ。
だが、メリアはこのヒマな時間を使ってある、一つのことを考えていのだ。
「なんだ?」
ミカラが問い返してくる。
「私たち一週間前さ、多摩ってところでユーティアの手がかりをみつけたじゃない」
「ああ、それがどうかしたか?」
聞き返すミカラ。メリアはええ、と頷いて、
「あそこにユーティアが来ってのはわかったでしょ。でも、どこにいるかはわかってなかったじゃない」
「あ、そっか……」
ミカラはメリアに言われてやっと気付く。しかし、そんな初歩的なことにいまさら気付くのもどうかと思うのだが。
「だからさ、なおって、人間界へ行ったら、駅員に聞いてみようと思うの」
「駅員?」
ミカラが聞くと、メリアは頷いて、
「ユーティアってかなりの美少女じゃない。だから、駅員の記憶にも残ってるかな〜、って思ったの。それに、防犯カメラに写ってるかもしれないでしょ?」
何でそれにもっと早く気付かないんだ。
と、ミカラは思ったが、よくよく考えれば自分も気付いていなかったではないか。こりゃ、メリアを責めるのはお門違いだな。
それにしても、本当、いまさらこんなことに気付く二人は頭が冴えているのかバカなのか……。
ユーティアがいれば、
たぶん……、バカじゃないかな?
とでも言ったであろう。控えめなところがユーティアらしい。
「よし。なら早くなおして行かなきゃな」
「そうね」
二人はそう、決意したのであった。
ただ……、早くなおそうとするのは当たり前のような気がする……。

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