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Original Novel MOTOKA Presents



エンジェルズ・サーチャー


第14話

再会の約束



―光が、消えた。
一樹の身体はいまや完全に傷が癒え、まさに健康体そのものであった。そして、その瞬間、ユーティアの背中に生えていた羽根は、光の粒子となり、虚空へと消えうせた。
その途端、ユーティアは一樹の上に倒れこむ。普通に倒れこむだけならよかったのだが、運が悪いと言うかなんと言うか、ユーティアの肘が完璧に一樹の腹にきまった。
「ぐはあっ!」
思わず悲鳴を上げる一樹。身体に戻った瞬間にエルボーをくらったので、再び魂が身体からでかけてしまった。
「あ〜、痛っててて……。まぁた三途の川に逆戻りかと思っちゃったぜ」
腹をさすりつつ起きあがる一樹。ユーティアは起きあがると一樹の顔を見た。そして、硬直した。一樹はユーティアがなんで硬直しているのかがわからないので、とりあえず無難なことを言った。
「えと……。ただいま。ユーティア」
ユーティアはその言葉で硬直がとけた。目一杯に涙を浮かべると、有無を言わさず一樹に抱きついた。
「お帰りなさい、一樹さん!」
その瞬間、歓声が沸きおこった。生徒が、先生が、警察が。誰もが喜びの声を上げた。目の前に超常現象が起こってたことについては何も考えない人たちだった。
一樹が生きかえったならそれでよし!
そんな考え方の人たちであった。ちなみにこの場にいた警察の人たちも大半がこの高校の卒業生であることがわかった。やっぱり、校長にみんな感化されたのだろうか?
校長、恐るべし。
それはともかく、一樹はいきなりユーティアが抱きついていたので、しばらく目を白黒させていたが、祐一と瀬名が近づいてきたのを知って、ハッとする。
「一樹……」
「かずちゃん……」
二人も、目に涙をうっすら浮かべながら、立っている。
「よ。二人とも。帰って来たぜ。あの世からな」
『おっ帰り!』
二人は同時に言い、一樹の背中をバンバンと叩く。一樹は、ぐはっ、と言う。意外と力が入ってるようだ。二人は、一樹を叩き終えると、ユーティアを見た。一樹も、二人に習い、ユーティアを見た。
一樹は、ただ胸にうずくまって泣きじゃくるユーティアの頭を黙ってなでた。その時、一樹は気付いた。
ユーティアの背中に、羽根がないのを。
「そっ……か。やっぱり、使っちゃったんだ。『生命の翼』……」
一樹がそう言うと、ユーティアはハッ、と顔を上げた。まだ、涙でぬれていたが、ユーティアはごしごしと涙をふき取り、一樹に聞く。
「一樹さん、どうして知っているんですか?『生命の翼』のこと」
一樹はその問いに、ああ、と言ってから、
「三途の川にそういうのに詳しい知り合いがいてね。その人から教えてもらったんだよ。……って、あれ?ゆりさんの場合、人って言い方は正しいのかな?」
答えの出ない疑問だったが一樹はすぐに考えるのを放棄した。めんどくさくなったからだ。それに、今度会った時でも聞いてみればいい。もっとも、すぐには会いたくないが。
「なぁ、一樹。『生命の翼』って、何だ?」
祐一が問いかけてくる。一樹は、ゆりの受け売りだが、答えた。
「自分の羽根―この場合はユーティアの羽根だね。を犠牲にするかわりに、使う相手の怪我を全て癒すことが出来るんだ。……全て……?」
一樹はそこまで言って気付いたのか、いきなり慌てだす。
「まさか、あの傷跡も!?」
一樹は急いで、左足のズボンをめくる。そこには、あの深く大きい傷跡はどこにもなかった。
「うそ……。消え……てる!?」
信じられない様子で瀬名が呟く。祐一は何も言わなかったが、顔を見れば一目瞭然だった。
マジかあああぁぁぁあああ!!?
祐一の心境はこんな感じだろう。
「凄いじゃない!ユーティア!」
瀬名は無邪気に喜ぶが、一樹はそうは喜べなかった。何故なら、自分のせいでユーティアの羽根を―半身を失ってしまったのだ。責任を感じてしまう。
「ごめんね。ユーティア。僕のためなんかに、『生命の翼』を使わせちゃって……」
一樹がそう言うと、ユーティアは首を横に振った。
「いいんですよ。私は、一樹さんのことが好きだから、大切な人と別れたくないから、『生命の翼』を使ったんです。大切な人を助けたいって思うのは当然のことでしょ?」
「ユーティア……」
一樹は目頭が熱くなるのを感じると同時に、もう一つのことも感じていた。
ゆりさん。あなたの勘、本当に百発百中ですね!
実は信じてなかった一樹くんであった。
―と、遠くから声が聞こえてきた。
「―ィア……」
「ん?」
祐一が訝しげに辺りを見回す。
「誰か、なんか言ったか?」
祐一が問うが、全員首を横に振る。
「いや、別に何も言ってないよ」
「私も」
「僕も」
三人が言うのを聞いて、祐一は首をかしげた。
「気のせいかな?」
「そじゃない?」
瀬名がそう言った途端、先ほどより大きな声が聞こえてきた。
「―ティア」
「ティア?」
祐一がなんのこっちゃ、という顔をする。だが、一樹と瀬名はわかったようだ。
「ユーティアのことだろ。たぶん」
「そっか」
納得したのか、ポン、と手を打つ祐一。だが、それはそれで別の疑問が残る。
「誰が呼んでんだ?あいつらじゃないだろ」
祐一は、向こうの方で騒いでる先生&生徒諸君を見て言った。ちなみに、警察はつい先ほど塒を連行して去って行った。
「そういやそうだね」
瀬名がなるほど、という表情を浮かべて言う。一樹もユーティアも見れば、同じような表情だ。
「それじゃ、誰?」
ユーティアが呟く。すると、頭上からはっきしと声が聞こえてきた。それも、二人分。
「私だよ!ユーティア!」
「俺だ!ユーティア!」
「ふぇ!?」
ユーティアは驚愕の表情を浮かべ、頭上を見る。そこには、二人の少年と少女がいた。浮かんでるところを見ると、二人とも天使なのだろう。
「メリア!それと、ミカラくん!」
ユーティアが驚きと喜びが混じったような声で言う。どうやら、知り合いのようだ。と、ユーティアは二人に言った。かなり、ヒドイ言葉を。
「どうしてここにいるの?」
ズゴオッ!!
二人は揃って地面に落下した。距離があまりなかったからよかったものの、距離があったら血がでるだけではすまなかったかもしれない。
一樹は、そんなユーティアを見て再び思った。
天然、恐るべしッ!
本当に怖い。いろんな意味で。
「ユ、ユーティアあぁぁ……。私たちはユーティアを捜しに来たんでしょうがッ!」
メリアにそう言われ、ようやく思い出したのか、ああ!と声を上げる。
「そう言えば、私って、天界じゃ行方不明だったんだっけ」
「そんな気楽でいいのかよ!?ユーティア!?」
ミカラが叫ぶ。一樹もそれに関しては同意見だった。
「二人とも、大変ですね〜。天界ではいつもこうなんですか?」
一樹が同情するように二人に声をかける。メリアはそうなのよ、と頷いて、
「天界でも、ユーティアは天然ぽけぽけでね〜。いっつも……、あれ?」
メリアが何かに気付いたような声を上げる。一樹をじっと、見つめている。何やらメリアの後ろでユーティアが拳を握ってるようだが、一樹は見て見ぬフリをした。
「きみ、名前は?」
突然メリアに問われ、びっくりする一樹。
「え?え、山口一樹、十六歳ですけど。それがなにか?」
一樹が問うと、メリアは用心深く一樹を見る。
「山口くん、きみは今、天界って言ったわよね」
「ええ。ユーティアは天使ですし。住んでいる場所は天界って言ってましたから。ユーティアの友達なら、天界に住んでると思って。ちょっと天界でのユーティアはどんな感じなのか聞いてみようかと……」
一樹がそう言うと、メリアはあからさまに怒った表情でユーティアを怒鳴る。
「ユーティア!人間に天界のこと喋っちゃダメでしょうが!しかもあんた、天使ってバレてるわね!」
「ひえええ、メリア、落ち着いて落ち着いて。一樹さんは私たちの羽根が視えるんだよ!」
「なんですってえ!?」
メリアが素っ頓狂な声を上げる。ミカラも同じような顔をしているが、叫んではいない。メリアはビシッ!と一樹を指差すと言った。
「本当でしょうね!?」
「ほんとですよ。じゃ、証拠を見せましょうか。……今、メリアさんの羽根は静止状態にあり、ミカラさんの羽根は右の方が上がっていますね」
『せ、正解……』
メリアとミカラ、二人同時に感嘆の声を上げる。
「なるほど。ほんとみたいね」
どうやら信じてくれたようだ。一樹はホッ、と安堵の息をつく。
と、メリアが急に何か思い出したのか声を上げる。
「あー!そうだ!ユーティア、あなた『生命の翼』を使った!?」
「うん」
あまりにあっさりとした答えに一瞬硬直するメリア。だが、すぐに復活すると、大きな息をついた。
「そっか……。やっぱりね。……使った相手は山口くん?」
「うん、そうだよ」
またもや、さらりと言うユーティア。メリアは一瞬、
ユーティア、何か変わったなぁ……。
と思ったりしたのだが、すぐにその思いを吹き飛ばす。ここまで聞いた以上、もう一つ聞きたい。『生命の翼』を使った、イコール、一樹のことを大切に想っている。すなわち好きか否か。『生命の翼』を使えるということは、一樹のことが好きだということなのだが、メリアは是非ともユーティアの口からそれを聞いてみたかったのだ。
「ユーティア、あなた……、山口くんのこと好きでしょう!?」
こればっかりは絶対否定するとメリアは思ったのだが、ユーティアはものの見事にメリアの予想を裏切った。
「うん。私、一樹さんのこと好きだよ」
あっさりと言ってのけた。ちょっぴり頬が赤くなってるあたりがユーティアらしいと言うか何と言うか。ふと見ると、ミカラが呆然としたまま突っ立っている。その原因はメリアにしかわからなかったが。ユーティアも知ってるはずなのだが……、忘れてるのだろう。
―と、メリアは気を取りなおし、真面目な表情へと変化する。
すっかり忘れていたが、思い出したのだ。自分とミカラの使命はユーティアを天界に連れ帰ることだと言うことに。
「ユーティア」
突然のメリアの真面目な声に、周りはシンッ、となる。ただ、向こうの方で騒いでる先生と生徒はいたが無視することにした。相手にしてたらキリがない。
「私たち二人は、あなたの両親から、あなたを連れ戻すように言われたの」
その瞬間、ユーティアはビクッ、と小さく震える。
「帰ったら、こっちに戻って来れる?」
ユーティアは震える声で言う。だが、メリアは非常にもはっきりきっぱり言った。ここでウソを言っても意味がないのだ。いずれバレることだからだ。
「十中八九無理でしょうね。羽根のないあなたが勝手に人間界に行けるわけがないわ」
「やっぱり、そうだよね……」
ユーティアは明らかに、気落ちしたように言う。せっかく一樹を助けても、これじゃ、結局別れることになってしまう。
ユーティアは、ふと傍らの一樹を見た。一樹はユーティアを見ると、微笑んだ。今までで、最高の表情で。
「そんな顔すんなよ、ユーティア。ユーティアの両親は、きみが心配だから、こうやって人に頼んで捜してたんじゃないか。きみには心配してくれる両親がいる。僕にはいないけど、きみにはいるんだ。だったら、その両親を心配させちゃいけないよ。だから、天界に戻って安心させてやりなよ」
一樹がそう言うと、ユーティアは信じられない、といった顔をする。てっきり、引き止めてくれるもんだとばっかり思っていたのだ。だが、一樹の言葉には続きがあった。
「それで、両親を安心させたらまた、こっちに来てほしいな。羽根がなくったって、ユーティアはユーティアなんだからさ!」
ユーティアは目に涙を浮かべると、一樹に抱きつき、言った。
「必ず、戻って来ます!」
「うん、待ってるよ!」
二人はそう言う。その光景を見ながらメリアは呟いた。
「私の話聞いてた?十中八九無理なんだってば」
滅茶苦茶水をさす言葉だが、二人はあっけらかんと言ってのけた。
『でも、あと一、二はあるんでしょ?』
「うっ……」
メリアは言葉につまる。確かに人間界へ来れる確率は限りなく低いものの、ゼロではないのだ。この二人はそれにかけるというのか。
「負けたわ。そんなに想いあってるんじゃ、引き離した私の方が悪者みたい。いいわ、私もユーティアがこっちにこれるよう、頑張ってみるわ」
「ありがとう!メリア」
「ありがとうございます!メリアさん」
二人は満面の笑みを浮かべて言う。それを見たこっちまで嬉しくなってしまうような笑顔だった。
「ふふ、悪い気はしないわね。ほら、ミカラくん!そんなとこでいじけてないで、帰るわよ!天界に!」
「うううう……」
いじけてるミカラを蹴っ飛ばすメリア。
「さ、ユーティア。行くわよ」
「はい」
ユーティアはメリアの方へ歩いていき、メリアの手をとる。羽根がないので自力では飛べないから、メリアに運んでもらうのだ。運ぶメリアは大変だろうが。
「あ、一樹さん」
と、ユーティアが呼びかけてきた。一樹は、ん?言って、ユーティアを見る。
「どうかした?ユーティア」
「あの、劇の発表日って、いつでしょうか?」
「え〜っとね、確か今日からぴったし一ヶ月後だよ」
一樹がそう言うと、ユーティアは頷いた。
「その日までには絶対帰ってきてみせます。せっかく練習した劇だもん、是非やってみたいです。だから、一樹さん。待っててください!」
「うん!みんなには上手く言っておくよ。それじゃ、ユーティア!また逢おうね!」
「はいっ!」
二人はそう言って笑いあった。メリアはそれを見届けると、ユーティアを連れ、上空へと飛び立っていった。
その場に残された、一樹、祐一、瀬名の三人は、ずっと空を眺めていた。
「行っちゃったね……」
瀬名が、感慨深げに呟く。
「そうだな、でも、一ヶ月後にはまた逢えるんだ。な、一樹」
「ああ!ユーティアは絶対戻ってくるさ!」
一樹は一点の曇りもない瞳でそう言う。その言葉に祐一も瀬名も頷く。
そして、三人は再び蒼穹の空を見上げた。
いつまでも、いつまでも……。

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