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Original Novel MOTOKA Presents



人間と精霊と


最終話

悠久の時―約束―



圭介はそれを見てから、静かに言葉を紡ぎ出した。
「我、『悠久の時を司る剣』の使用者なり。今、我の全身全霊をかけてこの呪法を厭わん」
巨大な魔方陣の中央に浮遊するリリィの身体が仄かな光を放った。
その光は柔らかい帯状の光が幾重にも重なっていた。
圭介は、言葉を続ける。
「剣よ、我の願いを聞き遂げ給え。―過去に起こりし出来事、その出来事を今現在の時間軸から切り離したもう。『悠久の時を司る剣』よ。今、その力を示せッ!!」
―光が、増した。
目も眩むほどの光が辺り全てを覆い尽くした。
どのくらいそうなっていただろうか。一分、十分、それ以上?正確な時間はわからなかったが、大して長い時間ではなかったはずだ。
ともかく、光はだんだん強さを弱めてきた。
光は剣に吸い込まれるように消えていき―そして、消滅。
そこには、先ほどとまったく変わりない状態で浮かぶリリィの姿があった。
不意に剣が抜けた。剣はくるっと向きをかえると、圭介の手に戻ってきた。
剣が戻ってくると、リリィがゆっくりと降りてきた。
リリィが完全に降りきると、巨大な魔方陣はすうっと消えていった。
それを見届けてから圭介は暫く動かなかった。
暫く、何もない、静寂の時が過ぎた。十数分を過ぎた頃だろうか。
不意に、ぴくっ、とリリィが動いた。
そして、リリィはゆっくりと目を開けた。
リリィはゆっくりと起き上がると、きょろきょろと辺りを見回した。
「あれ?私、どうして倒れてるの?確か、捕まっててそれで……」
「リリィッ!!」
圭介は剣を放り投げてリリィに駆け寄る。
「あ、圭介。ねぇ、一体どうなって……」
圭介はリリィの言葉を遮ってリリィに抱きついた。
いきなりの出来事に暫し目を白黒させていたが今の状況に気付くと、急に真っ赤になった。
「け、圭介!?どどどどどど、どしたの!?」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになって言うリリィ。
だが、圭介はリリィをよりきつく抱きしめた。
「よかった……本当に、よかった……」
じわー、と涙を浮かべつつ言う圭介。
なんとなくパターンが逆のような気がする。
普通は女の子、この場合はリリィが涙を浮かべ圭介に抱きつくのが普通だろう。
まあ、それはさておきさっぱりわけの判らないリリィはさらに目を白黒させた。
「ねぇ、圭介、何?何なの??」
「いや、何でもないよ。さっ、帰ろう」
言い、立ちあがる。リリィは未だに目を白黒させたままだったが圭介にならい立ちあがった。
圭介は近くに落ちていた『悠久の時を司る剣』を拾う。
この剣のおかげでリリィは助かった。
圭介はこの剣を使い、過去の出来事を現在の時間軸から消滅させたのだ。
つまり、過去に起こったリリィの死という出来事を完全に消滅させたのだ。
リリィの死はなかったことになっている。
過去、現在、未来、全ての時を司るのが『悠久の時を司る剣』なのだ。
無論、そんなことはそうそう出来るものではない。
剣が使用者の資格ありと認め、なおかつ使う者自身がその願いが最も強いものでなければならない。
滅多なことで扱える代物ではない。
やはり、二つの剣と同じく、死の危険性も秘めているのだ。
だが、圭介は剣を使った。それは何故か。
理由は単純だ。リリィは圭介にとって、最も大切な人だからだ。
その純粋な思いに剣は答えたのである。
「ありがとう……」
圭介は静かに剣に向け、呟いた……。

洋館から出た二人はまず手始めにリリィの父親のもとへと向かった。
彼は囮になったせいで怪我を負い、今は病院にいるということだった。
それを最初聞いたときはリリィが慌てはしたものの、大した怪我ではない事を知ると、ほっとした表情になった。
二人が病室に入るとそこには先客がいた。先客とは20代後半から30代前半ぐらいの女性だった。
「母さん」
リリィが呼ぶ。リリィの母親は柔和な笑みを浮かべた。
「あら、リリィ。来たわね。―父さんは大丈夫よ。元気過ぎてまいっちゃうぐらいにね」
そういって苦笑する。母とは思えない。どちらかというとお姉さんといった感じがする。
「あら、リリィ。いつのまにそんなカッコイイ男の子と知り合いになったの?まだまだ子供だと思っていたら。母さん嬉しいわ」
「ちょ、母さん!」
リリィが慌てて口を挟む中圭介は一つの思いにとらわれていた。その思いとは、
僕ってそんなにカッコイイか??
だった。少なくとも自分ではカッコイイなどとは思ってない。圭介は容姿を気にする性質ではないのだ。
なんてことを考えているうちにリリィと母親は話を続けていた。
「だから、圭介って言って、私を助けてくれた人なの!」
リリィが圭介の名を出すと、急にリリィの母親の動きが止まった。
そしていきなり声を上げた。
「あっ!圭介君じゃないの!すっかり大きくなって。わかんなかったわ〜」
「え?え?え??」
圭介はわけのわからないといった表情でおろおろする。
「と、いっても覚えてないか。圭介君はここ、精霊界で生まれたの。自分のことについてはもうお父さんから聞いた?」
圭介が頷くと彼女は話を続けた。
「圭介君は昔、私たち一家と会っているの。リリィとも会ったんだけど……どうやら覚えてないみたいね。まあ、二人とも幼かったから仕方ないわね。―そうそう、そういえば圭介君ったら凄かったんだから。わずか三歳にして私たちの夜食を作り、なおかつ泣くリリィをあやして、さらには大火事になるとこだったのを防ぎと……三歳児とは思えなかったわね〜」
そんな話を懐かしそうに言う彼女。
「ちょ、母さん、それ、ホントの話?」
「ええ、ホントよ」
それを聞いた二人の脳にある一部分が鮮明に思い起こされる……。

「ほんとうに……かえっちゃうの?」
「うん……おとうさんが、どうしてもいくんだって……」
「……ねえ、またあおうね。ぜったい、ぜったい」
「うん。ぜえったい、あおうね。やくそくだよ」
そうして、二人は小さな手で、指切りをした……。

二人はいまやあの時交わした約束を、はっきりと思い出していた。
「あの時……リリィだったのか」
「あの時……圭介だったのね」
二人は呟き、そして見詰め合う。
二人とも、約束の時とどことなく感じが似ている。
「あらあら、ふたりともおマセさんね。幼いときにそんな約束するなんて」
言われ、二人とも顔を真っ赤にする。確かにあの約束は再会を願ってのもの。
あの時二人はすくなからず相手に好意をいだいていたのであった。でなければ再会の約束などしない。
あれから十数年。ようやく約束が果たされた。
いろいろあったが二人はやっと思いを確かめ合えたのだ。
それから四人は長い長い時間を楽しく過ごした……。

翌日、圭介はリリィ一人に見送られていた。
両親はまだ寝ている。
「やっぱり、帰っちゃうの?」
「うん。僕の家は人間界だし、それに、この剣を封印、管理しなくちゃならないし」
「そう……だよね……」
リリィが悲しそうな表情をする。
せっかく会えたのにまた別れなければならないからだろう。
だが、圭介はいたって明るく、
「だけど、僕は剣を封印したらまた精霊界に戻って来るよ。僕の故郷はここだし。……なんていってもここにはリリィがいるしね!!」
とびっきりの笑顔で言う。その顔があまりにもカッコよすぎて思わずリリィは赤面する。
「管理は父さんに押し付けてくるさ。たまには本来の仕事やってもらわなきゃね」
言い、笑う。つられてリリィも笑う。
「さてっ、そろそろ帰らないと。またなッ!リリィ!」
「圭介!……早く、帰ってきてねッ!」
「当たり前ッ!好きな人とは一緒にいたいもんなッ!!」
「えっ……」
「じゃなッ!リリィッ!」
足早に圭介は去っていく。
リリィははやくなる心臓の鼓動と顔が真っ赤になる自分を抑えられない。
だが、不快ではない。逆に心地よいぐらいだ。
リリィは一面雲のない抜けるような青空を見上げる。
リリィは空を見上げ、唐突に、よし!と言い歩いていく。
―青き空はどこまでも続いている。果てのない、世界。
それが、人々の希望や未来を表しているのではないか。
圭介は急に難しいことを考え出してしまった。
だがすぐに追い払う。
「さっ、とっとと剣を封印してくっか!」
元気に言い、歩き去っていく。
人間界も、精霊界も、とても、平和だった……。


また、彼は後にまたいろいろと巻き込まれるのだが……、
それはまた、別の話である。













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