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機動戦艦ナデシコ original story



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第12話 脱出

by FireWind




−− ブリッジ −−

現在、ナデシコでは火星脱出の計画を立てている。
前回の戦闘では無事に敵を撃破できたわけだが、それはあくまでも機動兵器戦によるものであり、ナデシコは殆ど役に立っていない。

成り行きとして搭乗することになったイネスの推論の元、オモイカネによる木星蜥蜴との戦闘シミュレーションがおこなわれた。
そして、ナデシコと同程度のディストーションフィールドを持っていると想定した戦艦群を撃破、もしくは回避して地球に戻ることは困難であるという結果がでた。

前回の戦闘でも、戦艦群を破壊できたのはアキトのBS2のみであり、他の機体はディストーションフィールドに阻まれて近寄ることすら出来なかった。

BS2の性能に頼りっぱなしで火星を脱出して無事に帰ることが出来ると考えるほど、ナデシコの首脳陣は楽観視できない。
どれほど驚異的な性能であっても、機動兵器は機動兵器であるという認識だ。


もっとも、アキトとラピスは切り札を持っているのでそのような心配をしては居ない。
アキトとラピスの持ち札を完全公開すれば、もっと効率よく行けるのだろうが・・・・
アキトはナデシコクルーの成長を見守るがごとく、静観している。
ラピスは、聞かれなければ自ら教えないし、アキトから口止めされているのでやはり教えることはない。


ブリッジには、いつもの要員(ユリカ・ジュン・ミナト・メグミ・ルリ・フクベ・ゴート・プロス)の他に、イネスとアキトとラピスが居る。

アキトは自分から解決策を提示するつもりはないが、どういう結論を出すのか興味があってここに来ている。
ラピスが居るのは、言うまでもなくアキトに着いてきているからだ。


「危険ではあるけど、脱出の手段がないわけではないわ」

イネスが冷徹な口調で切り出す。
いつも以上に冷たい感じがするのは、フクベが居るせいであろう。

「その手段とは?」

プロスが問う。
声には出さなくても、アキトとラピスを除く他の面々も同じようなものである。

「ナデシコのディストーションフィールドを最大出力にして、チューリップに入るのよ。
 普通の戦艦ならば中の人間は死んでしまうけど、高出力のディストーションフィールドを扱えるナデシコなら、中の人間の生命に影響はないわ」

「どうしてディストーションフィールドがあると大丈夫なんですか?」

ユリカが聞く。
イネスが喜び勇んで説明しようとしたが、アキトが止める。

「ドクター、長い説明はまたの機会にしてくれないか。
 今は余裕がないからな」

「この私の出鼻をくじくとは、なかなかやるわね。
 ・・・・要するに、木星蜥蜴のワープ手段、ボソンジャンプと言うのだけど、それを生身の人間がおこなうにはボソンジャンプに耐えられる防護バリアーが必要なのよ。
 ナデシコにはその防護バリアー、ディストーションフィールドがあるから、チューリップの中に入っても大丈夫というわけ。
 補足するけど、戦艦そのものや無機物の類はわざわざ防護手段を用意しなくても大丈夫よ。
 木星蜥蜴を見ていれば分かるでしょう」

イネスにしてはかなりはしょって説明をおこなう。
解明が進んでいる未来から来たアキトとラピス以外の皆が、なるほど、と言う表情で納得していた。

「でも、木星蜥蜴もチューリップから出てくるのに、敵の私たちが入ったら攻撃されないの?」

ミナトが質問をする。
確かにそう考えられる。


「攻撃されるでしょうね」

イネスは認める。

「じゃ、無理って事ですか?」

メグミも口を開く。

「そうね・・・・
 このまま通常航行で木星蜥蜴の包囲網を突破しつつ帰還するよりは、敵が出てこない隙を狙ってチューリップに入ってみる方が生存確率は高いわ。
 何処に出るか分からないけど、敵の包囲網からは突破できるでしょうし」

イネスが説明する。
未だ木星蜥蜴の勢力下に置かれている火星にいるナデシコは、包囲されていると言っても過言ではないのだ。

この時点で、イネスはナデシコ発進時のBS2のデータを見ていないし、BS2そのものも調べていない。
もしも調べていれば、アキトにジャンプをするよう要請したであろうが・・・・・


警報が鳴り響き、緊急事態であることを告げる。

「木星蜥蜴と思われる戦艦群が接近中です。
 前方より戦艦が8、無人兵器が推定1800。
 後方より戦艦が7、無人兵器が推定1200。
 左右からは、それぞれ戦艦が6、無人兵器が約1400。
 総計、戦艦が27、無人兵器が約5800です。
 言うまでもなくナデシコに向かってきています」

ルリの報告。
アキトとラピス以外、皆が顔色を変える。

もし全ての戦艦がナデシコと同程度の性能を有していれば、この戦力差では勝ち目がない。
そうでなくても、とてもじゃないがこの様なことが続いてゆけば、いずれは疲弊してこの艦は沈むことになる。

いち早く復活したのがユリカだ。

「最近隣のチューリップの位置を調べてください。
 あと各方角からの戦艦群の距離、後何分で接触するか出してください。
 イネスさんの作戦、実行します」

「ユリカ!?」

ジュンが驚く。
まだ覚悟が決まっていないのだ。
それは、他の者も同様だろうが・・・・


「今回の戦闘がかりに切り抜けられても、いずれ疲弊した私たちは敗北してしまいます。
 それならばイネスさんの、敵の包囲網から脱出するための最善の方策を用いるべきです」

ユリカが皆に聞かせるように言う。
こういうとき、戦略シミュレーション実習主席卒業の姿があらわれる。
有事とそうでないときのギャップが激しいが・・・・・


「でました。
 最近隣のチューリップは、前方の木星蜥蜴群の真後ろです。
 付近に地球連合軍所属の戦艦、クロッカスが有ります。
 各戦艦群との相対距離は、前方は約5分、左約12分右約17分、後ろは約20分です。
 ナデシコが微速前進したままですので、前方の敵とは相対距離が縮まっています」

(クロッカスか・・・・・・・今回も吸い込まれたのか)

「ナデシコ、全速前進。
 前方の敵を撃破し、チューリップに侵入します。
 総員第1次戦闘態勢に移行。パイロットに出撃準備を連絡してください」

各自がきびきびと己の仕事をこなしてゆく。
アキトもBS2の元に向かった。




−− 戦闘 −−


始まって2分後、戦局はやはりと言うべきか、予想通りナデシコの苦戦であった。
木星蜥蜴の戦艦は半円を描いてナデシコに集中砲火を浴びせてくる。
そしてそれらの戦艦を守るように多数の無人兵器が配置されている。

推測が当たり、グラビティブラスト1発では敵戦艦を沈めることは出来なかった。
1隻あたり2発は必要であり、他方からも敵が迫っているこの状況ではかなり厳しい。

既にアキトの活躍で2隻、グラビティブラストにより1隻を沈めているが、集中砲火の状態が変わったわけではない。
グラビティブラストほどではないが、なかなかに強力な敵の砲撃を受け続ければ、ディストーションフィールドも耐えきれない。

ガイ達も無人兵器を破壊する。
アキトは、一番腕が良さそうなリョーコにDライフルを渡す。
普通のエステバリスでも扱える対ディストーションフィールド用の武器だ。

BS2は別の武器を使用している。
電磁加速レールガンで、定格初速が2000m/sの大砲だ。
これだけの質量兵器を扱うには、BS2で無ければ反動に負けてしまう。
今までは大したこと無い敵だったので使用しなかったが、今回は少し敵が強いので使うことになった。

有効射程が少し短いのが欠点だが、BS2の機動力ならば気にするほどのものではない。
条件が合えば、2隻まとめて撃破できる化け物兵器をアキトは駆使している。


1隻爆発する。
リョーコがDライフルで沈めたのだろう。


「さて、そろそろ終わりにするか」

アキトはそう呟き、BS2は高機動形態に変形する。
圧倒的なスピードで敵戦艦群に正面から突っ込んで行き、肉薄して続けざまにレールガンを撃つ。
BS2でなければ耐えられない反動が、中のアキトをも襲う。
しかしアキトは眉一つ動かさない。

続けて2隻が沈む。
残り2隻。

後少しで終わりと言うところで、左からの敵が追いついてきた。
新たな戦艦からの砲撃がナデシコを襲う。


「ちっ!!」

アキトの舌打ち。
予想以上に敵は強いようだ。

(ボソンジャンプはまだ使えない。
 そして今ユーチャリスを使うわけにも行かない。
 ・・・・・フクベ提督にまた死んでもらうか・・・・・・・・)

考えながらもアキトは1隻にレールガンを撃ち、破壊する。
ほぼ同時にリョーコのDライフルにより1隻が沈み、前方の敵は無事に撃破完了である。


<アキト・・・・どうするの?>
<フクベ提督に死んでもらう>
<そう・・・・・ラピスがすることは?>
<今はないな>
<分かった>

アキトはラピスと簡単に話をしたあと、コミュニケを開く。
映し出されたブリッジは、絶望の色が濃かった。
・・・・フクベの姿が見えない。

「提督の姿が見えないが、どうかしたのか」
『わかりません。現在艦内を検索中です』

ルリが答える。
(自分から動いてくれたか・・・)

「テンカワ機からナデシコおよび各エステバリスへ。
 ナデシコは、チューリップに向かえ。
 外にいるパイロットは全員ナデシコに戻り、待機」

副提督としての権限で、命令を下すアキト。

『ですが、敵が来てますよ。
 このままでは、チューリップで追いつかれてしまいます』

プロスが反論する。
他の皆も同様だ。


「その問題は大丈夫だ。
 囮が出る」

『囮って・・・・』


会話をしながら、ナデシコに戻ったアキト。
他のパイロットも同様だ。


<ブリッジ>

超特急でブリッジに戻ってきたアキトは、スクリーンに映ったフクベ提督と敵に向かうクロッカスであった。

「アキト」

抱きついてくるラピスの頭を撫でながら、状況を確認する。

「副提督。フクベ提督がクロッカスで囮になると・・・・・・」

ユリカが泣きそうな顔で言う。
アキトに止めるよう言ってもらいたいのだろう。

「フクベ提督。責任を果たされるつもりですか」

『テンカワ君か。
 先ほど君の言っていた囮とは私のことなのだろう?
 それだけ先が読める者が艦にいれば、私は責任を、贖罪を果たすことが出来る』

「火星戦役のチューリップ落下の件ですか」

『そうだ。
 私は軍人として軍の名誉を守るために、不必要なチューリップ破壊をおこない、結果ユートピアコロニーを滅ぼしてしまった。
 私に出来るのは、ここでナデシコの盾となり、無事に地球に帰すことだけだ。
 もう生きるのにも疲れたのだよ』

アキトに対して、淡々と語られるフクベの心情。
ブリッジの面々は声も出ない。

「お元気で。提督」

そう言って敬礼をする。
フクベは意外そうな顔をした後、笑いながら敬礼を返す。

『君たちもな。
 これからも無事であることを祈っておるよ』

そして通信が切れる。


「チューリップに向けて全速前進。
 ディストーションフィールド出力全開。
 館内に放送。衝撃に備えろ」

アキトが指示を出す。
形式とは言え、現時点での最高位はアキトである。
今のユリカに任せておくと、犠牲が無駄になる。


「ディストーションフィールド全開」

ルリの復唱。
それに合わせて各員も我を取り戻し、己の職務をおこなう。

「了解。全速前進」

ミナトが復唱し、操舵する。

「これより本艦はチューリップに侵入します。
 各員、衝撃に備えてください」

メグミも艦内に放送をする。



チューリップに突入するナデシコ。
外の光景は、虹のようであり、また何もないようでもあり、一定していない。

そして、全員の意識が真っ白になった頃、アキトは呟く。









「ジャンプ」







〜〜 続く 〜〜




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