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Original Novel



The promised world


第二話 エル

by 鳴海優





 私の記憶は半年分しかない。
 最初の記憶は、雨の中、彼が私を見下ろして、手を差し伸ばしていた。私は路地裏に倒れていたらしい。その理由は記憶にない。
 その後、どういうわけか私はその男の人に拾われることになった。どうやら、彼が自分の仕事≠見られたと思い、口外を恐れたためらしい。家を持たない人が少なくないこの御時世では、非常に運のいいことだった。
 彼はディーと名乗った。よくは知らないが、本名ではないようだ。彼は真面目な人で、私は生活に不自由することはなかった。
 一緒に生活する上で困ったことがいくつかあった。全部私の記憶がないことからくるものだった。その際たるものが、私が自分の名前を覚えていないということだった。共に暮らす上で呼ぶ名がないというのはいささか勝手が悪い。
 結局、彼が一晩考えて、エルという名に決まった。ディーは何も言わなかったが、彼の名がD≠セからL≠ニいう安易な理由で付けられた名前であることはすぐに分かった。
 でも、私はその名前が好きだ。
 なぜなら、初めて誰かが私のためにくれたものだから。
 記憶がないのは時々不安になるけれど、私は今の生活が割と気に入っている。

第二話 終




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