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Original Novel



The promised world


第六話 日が暮れるまで歩こう

by 鳴海優





「うわぁ、相変わらずすごい人ですねぇ」
 昼食後ディーと一緒にやってきた市場は相変わらずの盛況だった。
「さて、行くぞ。はぐれない様にちゃんと付いて来いよ」
 私の方を一度確認して、ディーは歩き始めた。ディーはかなり身長が高かったため、見失うことはなかったが、人ごみの中を進んでいくのは大変だった。
 食料品を中心に必要なものを買い込んでいく。買い物袋が二ついっぱいになったところで、市場の外れに出た。
「俺の買い物はこれで終わりだが…どうする?お前の服でも見ていくか?」
 こういうところがディーの優しさなんだと思う。
「えっと…でも」
「遠慮はしなくてもいいんだぞ」
 どうしようか。
「いえ、私はいいです。そのかわり…」
「うん?」
「散歩に行きませんか?」
 私の言葉にディーは手に持つ買い物袋と太陽を見比べ、
「まぁ、いいだろう。どこに行きたい?」
 と。
「んー。…公園…とか、どうです?」
「公園?どこの公園でもいいのか?」
 私はコクコクと頷く。
「そうか。なら、いい場所がある。今から行けば、丁度いいころだろう」
 丁度いい?彼の言葉が気になったが、私は何も聞かず、既に歩き始めている彼の後を追った。

 他愛もない話をポツリポツリしながら歩いていくと、四十分程歩いた辺りで公園のようなものが見えてきた。公園と言っても、小さな噴水と申し訳程度に置かれた小さなベンチが二、三脚あるだけだ。小高い丘の上の公園。ここ…だろうか。
「ここ…ですか?」
 ここへ来る途中、ずっと緩やかな坂道が続いていたため、少し息が切れる。
「あぁ」
 何の変哲もない小さな公園。ここのどこがいい場所なのだろうか。日は大きく傾いていた。
「エル、こっちへ」
 ディーと共に私は公園の端、手すりの方へと行く。
「…わぁぁ」
 公園の端、そこからはこの街全体を見渡すことができた。
 街の中央を流れる大きな川。街を網の目状に流れる、細い川や運河。水面が太陽の赤を反射し、幻想的な雰囲気をかもしだしていた。
「どうだ?気に入ったか?」
「はい。もちろんですよ!」
 丘の上の公園からは街の時計台や教会も見えた。いつもと違う高さから見る、それらの建物は私に少し違った印象を与える。
「きれいですねぇ」
 朱色がかった建物はいつもよりいっそう美しく感じた。
「あぁ」
 見ると、ディーはどこか懐かしげな視線でこの景色を眺めていた。思い出の場所とかなんだろうか。
「ディー…」
「うん?」
 この場所、ディーの思い出の場所とかそういうのなんですか?
「………いいえ、何でもないです」
 なぜかそれは訊いてはいけない気がした。
「…そうか」
 でも、これでよかったんだと思う。
「エル、今夜の月は満月だな」
 そう言って、ディーは東の空を指差す。
 朱色の西の空とは対照的に東の空は墨を落とした様な黒色だった。深い闇の中、一つ大きな月が浮かんでいる。
 夜は近い。
 星もポツリポツリと光を放ち始めている。
「ほら、おひつじ座がよく見えるぞ」
 そう言って、ディーはまた東の空を指差す。
 どれが、おひつじ座なのかは分からなかったけど、一際明るい星が印象的だった。ディーが言うには、それがおひつじ座のハマルという星らしい。
 そうやって、飽きるまで星を見た後、私達は帰路についた。
 いつもは無口なディーが今日は多弁だった気がする。ほんの些細なことかもしれない。けど、私はその些細なことが少しうれしかった。

第六話 終




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