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Original Novel
NODOAME Presents



歌姫


第2話

始まる運命



 校長の話というのが、何故にくそ長く、つまらないかを分析してみる。暇だから。
 まず、喋る速度が遅すぎる。これは校長という役職に就任している人物の平均年齢が高いためと思われる。
 次に、言葉遣いが丁寧すぎる。自分の言うことに威厳を持たせるためなのだろうが、はっきり言って偉そうにしか聞こえない。
 そして極めつけに、言葉の内容が『当たり前』すぎる。加えて、以前にも聞かされたような気がする内容ばかり。
 つまるところ、これらが絶妙に融合したとき、話というものは極限まで面白くなくなるというわけだ。
 ……というふうに分析してみた。
「暇だったから」
 私は意味もなく……だが、自分にとっては意味のあることを、つぶやいてみた。いずれにしても意味がないと思われたが。
 体育館に規則正しく整列している制服たちの群れの中に、私はいた。
 眠気覚ましに、壇上でわざわざマイクまで使って訳の分からないことをのたまっている校長を分析してみたが、意外と面白いものである。
「……何が?」
 と、小声で訊き返してきたのは、私の後ろに並んでいた亜弥子だった。いちいち人の独り言に突っ込むあたり、この子らしいわね。
「暇だったから」
 私は繰り返した。先と同じ口調、声量で。さすがに気になったのか、前や横にいる他の生徒たちも、こちらを窺い始める。
「あんたさぁ、アホな子じゃないんだから。ひとさまの質問には答えで返すという常識的な行動くらい……」
「暇だったから」
 亜弥子の言葉を遮って、私は虚ろに繰り返した。さながら壊れたレコードプレーヤーのように。
 どうやら諦めたらしく、亜弥子はそれ以上は何も言ってこなかった。彼女が、深く、嘆息する音だけが聞こえる……
「暇だったから」
「だあああああっ! しつこいっ!」
 当人にしてみれば、日常茶飯事、それこそ常識的な行動だったのだろう……
 叫んでしまったのが運の尽き。亜弥子は近くを巡回していた先生に、腕を掴まれて連れ去られて行ってしまった。
 ……さようなら、亜弥子ちゃん。

「ゆうぅぅぅぅぅぅぅ、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 苦痛でしかなかった始業式という呪縛から解放されたみんなは教室へ戻り、後は担任の到着を待つばかりであった。
 激しく教室の戸が開け放たれる音が響いたが、放課後が近づくとそんな現象もたまに起こったりするのだろう。
「ねぇ、結賀さん。今日の帰りってフリー? もしそうだったら、私と一緒に帰らない?」
「露骨に無視するなぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 床を踏み抜かんばかりの足音と雄叫びが、私と結賀さんとの有意義な会話の始まりを阻止する。忌々しいな、まったく。
「ひとを陥れといて、何事もなかったかのよーに振舞ってんじゃないわよっ! 
さっきのあれって計算だったでしょ!? ねぇ!?」
 続いて、ばんっ、と私の机に手が振り下ろされる。しかし、何かあるたびに私の机をしばくのはやめてもらいたいもんである。今度、画鋲でも置いといてやろう。
「要するに亜弥子は、私が綿密な計画のもとにあなたを嵌めたと、そう言いたいわけ? 私がそんなことをする奴だと思っているわけね?」
「えっ……? いや……そうは言わないけど、いつものパターンっていうか…
…」
 私が語気を強めて言及すると、亜弥子は態度を一転して、少したじろいだようだった。そしてすまなそうに、言ってくる。
「ごめん、さすがにちょっと言い過ぎたわね……あの状況で叫んだらああなるってことは分かっていたはずだものね。むしろ悪いのは……」
「暇だったから、遊んでみただけよ」
「悪いのはお前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 裏声で絶叫して、亜弥子は私の机を卓袱台返しよろしくひっくり返した。その際にぶつかっていたらしく、窓ガラスが派手に砕け散る。
当人にしてみれば、日常茶飯事、それこそ常識的な行動だったのだろう……
 その一連の出来事を、今しがた教室に入ってきた担任に目撃された亜弥子は、腕を掴まれて連れ去られて行ってしまった。
 ……さようなら、亜弥子ちゃん。そしてありがとう。

 その日の放課後は、結賀さんと一緒に商店街をうろつきがてら帰路に着いた。

 途中、ブティックや百円ショップの前などで立ち止まりながら、軽い会話を交わす。うん、女子高生してるね、私たち。
「今日の保坂さん……ちょっと可哀想だったんじゃない?」
 商店街を出てすぐの大通りの信号を待っている最中、結賀さんが奴の話題を口にした。
 私は肩口にかかった髪を後ろに跳ねのけつつ、胸を張って言い返した。
「ああいうのは自業自得っていうの。だいいち私は、『暇だったから』としか言ってないのよ?」
「……それだけでひとをあそこまで追い詰めることができる羽鳥さんって……」

 畏怖めいた表情でそううめく結賀さん。彼女は数秒の沈黙の後、私の顔をちらちらと見始めた。
「……何? なんかついてる? 今日はお弁当なかったから、何もついてないとは思うけど」
「ううん、違うの。その……羽鳥さん、今日、生徒会室に呼び出されてから、ちょっと様子が変だったから……」
 …………鋭い。自分で言うのもなんだけど、よく私みたいな無愛想な女の感情を読み取れたものである。
 むう、あなどれないな結賀さん。さすが眼鏡っ子。びば・メガネ。
「まあ、腹が立ってるのと、それとは別の意味で昂揚してるのと、五分ってところかな」
「……? どういうこと?」
 私の言葉に、結賀さんは訝しげに首を傾げた。まあ、あれだけで分かるはずもないだろうが。
 どうせ明日になれば分かることなんだけど……今、教えない理由もないし。うーん……別にいいか。
「私が、本日付けで『生徒指導実行委員副部長補佐』ていうのに就任した、って言ったら、信じる?」
 その限りなく中途半端かつ、聞き慣れない役職の名を耳にし……
 結賀さんは、さらに深く首を傾げたのだった。

                           ≪つづく≫



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