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Original Novel
NODOAME Presents



歌姫


第24話

保坂亜弥子



 
 
 どのくらい眠りに堕ちていたのか……
 いや、正確には、いつから、と言うべきか。
 もっとも、いつから、どのくらい、私が眠っていたか分かったところで、意味無きことだ。
 瞼を開いても光は見えず、耳をすましても音は鼓膜を震わさない。
 何も感じない世界。
 ……それこそ、いつからのことだったろう。
 そして私はかねてよりの盟約であるかのように、間もなくこの戒めから解放されるであろうと予感していた。
 その時、私は……どうするのだろうか。
 どうすれば、いいの?
 
 
 
「生き残るためには、戌井たちを出し抜き、君が新たなユミルになる以外に方法はない」
 ステンドグラスから差し込む輝きは、少なくとも綺麗に見えた。神楽はその光の中で、そう告げてきた。
 ああああああ……と、礼拝堂の奥の通路から、またあの悲鳴が聞こえてくる……
 優歌はなるたけその声を意識しないようにしながら、乱れた髪を掻き上げて整えた。
「あるいは……彼らを殺すか」
「奴らの切り札はグングニールの槍だ。それさえ破壊してしまえば、連中の打つ手は全てなくなる」
「できるの? そんなことが」
 優歌が問うと、神楽は自嘲気味に唇の端を歪めて、
「槍は今、僕というインターフェイスを通じて楽園とリンクしている。破壊したその結果、どんな影響がこの世界に及ぼされるのかは分からない。でも……」
 こちらを振り向いて、笑う。
「君だけは、いかなる滅びの中からでも救ってみせる」
 ……不覚だったのは、その笑顔に思わず赤面したのを、彼に思い切り見られてしまったことだった。
 優歌は慌ててそっぽを向いて、ぼそぼそとつぶやいた……自分でもわざとらしいと思ったが。
「ど、どうせなら……生きていたいわよね」
「……そうだね」
 苦い笑みを漏らして、うなずく神楽。
 そしてそのまま、互いを見つめ合う。次第に顔が緩んでいくのを自覚しながら、優歌は彼の元へと歩き出し……
「それは無理だ」
 厳かに響いたその声に、優歌は思わずその場に立ち止まった。
 忌々しげに……しかし決然と、礼拝堂の入り口の方を見やる。
 スーツ姿の、紳士的な男。戌井教頭と、見知った顔の教師が数人。そして黒いラバースーツに身を包んだ何十人もの少年たち……驚いたのは今回は少年ばかりでなく少女もいたということだった……がそこにいた。
 彼らは訓練された軍隊のように迅速にこちらを取り囲んでくる……ただその中で戌井だけが悠然と、言葉を発してきた。
「悪いが、君たちにはここで死んでもらおう」
 ……どうやら運命は、簡単には見逃してくれないらしい。
 
 
 
「世界の中心。唯一、真なる者よ」
 戌井の声を聞きながら……優歌は心がどんどん冷えていくのを感じていた。もっと冷静に、怜悧に、鋭く。
「君に問おう。この世界をどう思う」
 突拍子もないと言えば、突拍子もない問いだった。
 だがそれに、どこか命題めいたものを感じるのも事実だった。優歌は答えた。
「好きよ。少なくともあんたたちよりはね」
「世界は……容易く人を裏切る。君はその辛さを知って、そう答えているのか?」
 こちらの皮肉に意を介そうともせず、淡々とそう問うてくる。
「裏切られたことがあるとでも言いたげね?」
「我々は常に裏切られている。だから……新たな神と世界を用意するのだよ」
「で、自分の都合のいいように世界を創り直そうってわけね? 馬鹿みたい……学校に行きたくないって駄々こねてる奴らのが、よっぽどポジティブな生き方してるわよ」
「……その様子だと、既に答えは見つけだしたようだな」
「…………」
 無言で、彼を睨み返す。それでも周囲の敵から意識は逸らさず、
「神様なんかいなかったのよ」
 告げて……そして、彼女は床を蹴った!
「最初から、どこにもね!」
 
 駆けて、その次の瞬間。
 出会い頭となった敵の少年が、警棒を振り上げてくる。優歌は素早く横に跳び、振り下ろされるその一撃を横目に見送りながら、左足で相
手の膝頭を踏み抜いた。
 攻撃に転じているときの人間の足のバランスは不安定だ……容易に膝を踏み折ることができた。
 声なき悲鳴を上げて、少年が折れた自分の膝を庇うようにその場にうずくまる。優歌はそれはもう無視して、次の敵の攻撃に備えた。
 円陣に取り囲まれているということは、一角だけを崩しても意味がないということだ。
 退路はない。つまり、全ての敵を叩き伏せない限り、活路は開けない!
(……生きるんだ)
 胸中で自分に言い聞かせ、拳を固める。
 この世界に堕ちて、たったひとつだけ学んだことがある。たったひとつだけの切り札。たったひとつだけの武器!
(生き残るための技!)
 前方から、斜めから、恐らくは後ろからも……同時に繰り出される警棒を、優歌は払いのけるように腕を振りながらかわした。たとえ同時に複数の攻撃が来ようと、それらの狙いがただ一点であれば、単発の攻撃となんら変わりない。
 足を滑らせて自分の身体を横に移動させ、そのまま横手にいた敵の懐に入り込み、相手の胸の中心を肘で打つ。
 それだけで充分だった……こちら側へと倒れる敵を、思い切り前に蹴り飛ばして、直感だけを頼りに素早く後ろに跳び退る……
 ひゅっ……!
 耳元を、何か鋭いものが通り過ぎる。
 剣だ、と悟った瞬間には、彼女の身体は既に踊っていた。
 半身を翻し、視線を刃の輝きを辿わせて、その柄を握る者を確認する。
 その捕捉した標的のみを倒すのは簡単だった。だが、既に他の敵が矢継ぎ早に打ちかかってきている……
 視界の端では、先の敵……ちなみに女……が剣を下方から斜めに跳ね上げてきているのが見えた。
 両方をかわすとすれば、もう間に合わない……だが、どちらか一方だけならかわせる!
 避けるなら、迷わずに剣だった。襲い来る刃を紙一重でかわし、何も考えずに両腕を十字に組んで頭より少し上に掲げる。
 刹那。
 重い衝撃が、腕を突き抜けた。振り下ろされた警棒で腕を打たれ、思わず転げ回りたくなるほどの激痛に顔をしかめる。
 痛みをなんとか堪えて、両腕を掲げたついで、身体を横に向けて敵の方に肘を突き出した。
 ごりっ、とこちらの肘が、相手の顔面をえぐる。鼻血を垂らしながら白目を剥いて倒れる敵を踏み越えて、とりあえず剣を持った敵からは離れる。空間の剣を生み出してもよかったが、イメージを構築しているだけの余裕はなかった。
(神楽は……?)
 ふと気になって、肉迫してくる敵たちの隙間から、彼の様子を見やった。
 彼の場合、多対一というのは苦手なのかもしれない……眼前の敵は確実に倒すも、横からや背後からの攻撃には対応しきれていなかった。
奪った警棒で必死に敵を叩き伏せているが、受けている傷もかなり多いようだった。
 頭から血を流し、それでも必死に戦っている彼の姿に、胸が痛んだ……
(もっと……私が強かったら)
 彼を守れたのに。
(今更になって……力が欲しいと思うなんて)
 半ば泣きそうになりながら、彼女は胸中で自分の無力さを呪った。
 ……劇的な大逆転というのが本当にあるとするならば。
 それを起こすのは、運命のみなのか。
(何が運命よ!)
 毒づき、彼女は床を靴の裏で削りながら背後を振り返った。いきなりこちらと対面して、剣を持った敵が狼狽したのが表情から知れる。
 その隙を見逃すはずもなく、優歌は相手の足首を一蹴していた。いきなり体勢を崩されて、「わああ?」と間抜けな悲鳴を上げながら床に膝をついた敵の顎を、彼女は迷わずに蹴り上げていた。
 口蓋と顎が激しく衝突し、何かが砕ける音と共に後ろに吹き飛んだ敵の女の口から数本の歯が飛んだ。
 優歌は倒れた女の手から剣を奪い取ると、それを神楽の方に投げ転がした。
「神楽っ! 使って!」
 剣は床の上を、回転してきゃりきゃりと小気味のいい音を立てながら神楽の足下まで滑って行った。
 彼は即座にそれを拾い上げると、真横に刃を一閃し、周囲の敵の腹を薙ぎ斬った。
 噴き上がる鮮血を尻目に、優歌はすぐ斜め前方にいた敵の脇を狙おうと鋭く足を踏み出し……
「優歌っ!」
 聞き覚えのある……懐かしいと言うにはまだ時が浅いその声に、彼女は驚愕めいた心持ちでそちらを振り返っていた。 長い黒髪の女。菱洋学園の制服に身を包んだ、どこか仕草にお嬢様っぽい気品の良さが感じられるその女の名は。
 
 
 
「亜弥子!?」
 黒いスーツの少年に殴りかかろうとしていた彼女はいきなりこちらを振り返り、叫んできた。
 亜弥子は、ひとりの女にその身を拘束されていた。
 菱洋学園生徒会長……久遠華苗。
 彼女はこちらの首筋に、短い槍らしきものの穂先をあてがいながら、憎悪の眼差しで優歌たちの方を睨んでいる……
 顔の半分は怪我でもしているのか、包帯でぐるぐる巻きにされており、実質は右目だけで睨んでいたのだが。
 彼女が、神楽祐一に恨みを抱いているという話は、先刻ある女から聞かされた。
 ……殺されるのだろうか。
 とは、不思議と考えなかった。考えていたのは……
(殺すのかな)
 誰が?……というのは、正直言えばよく分からなかった。
 自分で理解している以上に、錯乱しているのかもしれない。もしそうだとすれば、非常に厄介なことだが。
 なんにしろ……華苗はこちらの胸中など知る由もなく、高らかに声を張り上げていた。
「己が罪を認めるか!? 神楽祐一! そして……クリスミスティ=キャロル!」
 叫んで、彼女の口が三日月のように吊り上がる。その一声に射すくめられたように、広間にいる全員が動きを止めて、彼女の方を見やる。
「随分、勝手なこと言ってくれるね。罪だと? それは僕たちの存在そのものじゃないのか」
 そう神楽が言い返つと、華苗は少し呆気に取られたように彼を見つめ、そしてすぐに卑しい笑みに表情を戻すと、
「……僕? ははは! どうやらもう自分を偽るのはやめたようだね、神楽! それとも、そこの聖女の乳にむしゃぶりついているうちに童心にでも還ったのか?」
「黙れ……殺すぞ」
「それを言うならどうして!」
 意外にも、華苗は逆に激昂して、神楽に対して叫んでいた。
「どうして……あのとき、ボクを殺さなかった!」
「……華苗」
「これは刻印だ」
 顔の包帯を鷲掴みにし、一気に引き剥がす……そして見えたのは、痛みそのものだった。
「きゃあああああああああああっ!?」
 間近でそれを目の当たりにし、亜弥子は抑えきれない嫌悪を吐き出すように絶叫していた。
 左耳の付け根から、途中で眼球をえぐって、右眉の上の部分まで深い刀傷が伸びていた。鋭くはない……斜めに肉を削ぎ落としたような傷で、出血よりも化膿の方が上回っているようだった。赤く、ところどころ桃色に、水気を帯びた傷がそこにある……
「これは刻印だ! お前とボクの、運命のな!」
 自分の傷を親指で指し示し、華苗は半ば裏返った声でそう言い放った。
(狂ってる……)
 頭がおかしくなりそうだった。
(殺すのかな)
 再び、それを考える。亜弥子は恐怖に震えながら、それでもしっかりと槍の穂先を、華苗の隙を窺っていた。
(私には何もできない……何もできないけど)
『私と、一緒にいて……』
 昨夜ベッドの上で、優歌が隣でつぶやいた一言を、思い出す……その言葉を何度も繰り返しながら。
(何もできなくなんかない)
 亜弥子は、覚悟を決めた。
 
 
 
「陳腐な脅迫ね……もうちょっとひねりとか、そういうのは入れられなかったの?」
 優歌は肩をすくめると、そう軽口を叩いた……が、内心は穏やかではない。それを悟られぬよう、自制するので精一杯だった。
 だが、それは無駄な努力だったらしい。
「脅迫っていうのは、効果があるならどんなのでも一緒だ」
 にやり……と華苗は笑った。その眼差しは、しっかりとこちらの内心を見透かしている……
 舌打ちして、優歌はゆっくりと構えを解いた。神楽も警棒と剣を床に投げ捨てて、両腕を脇に垂らす。
 その途端、周囲の敵たちが一斉に動き出す。
 優歌は反射的にそれを迎え撃とうと反応していたが、亜弥子のことが足枷となって、何もできずに敵から一撃を後頭部に受けていた。
 続いて腹に膝を入れられ、激しい嘔吐感が込み上げてくる。こちらが膝を折った瞬間、別の敵が横からこめかみを警棒で殴りつけてきた。
これは相手の狙いが甘かったおかげで、脳震盪に至ることはなかったが。
 打たれてはまた打たれる、連鎖的な激痛の中で、優歌は苦悶に喘いでいた。
(殺される)
 悲痛に、そう思う。今まで幾度となく死を覚悟したことはあったが、危機感の無い死の予感はこれが初めてだった。
 もう、心のどこかで全てを諦めてしまっているのか。
 神楽は……どうなのだ?
 彼もまた、優歌と同じように少年少女たちに打たれ続けていた。こちらにしてもそうだが、剣などの刃物で突き刺してこないのは、とどめは華苗に譲る、という暗黙の了承なのかもしれない。
 と……
 ごっ! と一際重い一撃を頬に食らって、優歌は床に倒れ伏した。なんとか意識を保ち、うつ伏せになるが、連中は間断なく蹴りを叩き込
んでくる。脇腹に食い込んだ誰かのつま先が、肺を痙攣させ、吐血混じりの咳を彼女の口から吐かせた。
 一瞬、痛みを忘れて、激しく咳き込んでいると……
「邪魔だ、貴様ら!」
 銃声の破裂音と共に華苗が叫んだのが、鼓膜にやけに痛かった。
 優歌と神楽を取り囲んでいた連中は、揃って身じろぎすると、蜘蛛の子を散らすように彼女たちから離れていった。
 が……少年がひとりだけ、床でのたうちまわっていた。華苗が八つ当たりで撃った銃弾を受けてしまったらしい。
 彼女は、左手で小型の槍を持ち、その穂先を亜弥子の首筋からは離さずに、右手で拳銃を握っていた。
「戌井先生……もう、殺してしまって構いませんね?」
 こちらへの揶揄すら含みつつ華苗が、少し離れた位置に立っている戌井にそう問いかける。
 返事は、あっさりとしていた。
「好きにしたまえ。それよりも……早く、その女の『柱の儀』を済ましてしまいたい」
 何気ない仕草で戌井は、華苗の腕の中の亜弥子に視線を送った。
 華苗はうなずき、すっ……と小型の槍を下ろすと、右手の拳銃を押し当てた。
 亜弥子のこめかみに!
「亜弥子!?」
「久遠!」
 優歌と戌井の叫びが、同時に礼拝堂に響き渡った。戌井にとっても華苗の行動は、イレギュラーなことだったようだが……  なんにしろ華苗はその声を無視して、危険な眼差しで、独りごちるように告げてきた。
「要らないものを壊して何が悪い……認められないなら、いっそこの手で全て滅ぼしてやる」
「やめろ、華苗!」
 制止の声を上げたのは、戌井だった。ジャケットの内側から拳銃を引き抜き、彼女にその銃口を向けた。
「保坂君は槍との新たな接触者だ。それを殺すことの意味を、君が分からないはずはあるまい」
「そうなるという証明がどこにあると言うのですか! 神楽の時だって、偶然奴が接触できただけに過ぎないのに!」
 癇癪を起こしたように、華苗が戌井に向かって叫ぶと、彼の表情がわずかに強ばったようだった。しかし、それでも彼は冷然と、
「彼女は……クリスミスティの魂と長く干渉し合ってきた。可能性が無いわけではない」
「もうどうでもいいんだよ、そんなことはぁぁぁっ!」
 ばんっ!
 衝撃音が、破裂音が、かすかな着弾音……ほぼ同時に、広間に轟く。
 戌井の左肩に、小さな穴が空いていた。そこから血が、水でいっぱいになったビニールに圧力をかけながら針で刺したように噴き出す。
 くっ……と喉の奥で絞るようにうめき、戌井は右手から拳銃を落とし、傷口を押さえた。
「……先生。あなたも後で殺します」
 告げる声はどこか重い。単に、低い声でそう発しただけかもしれないが。
 華苗は銃口の先を再び亜弥子のこめかみに戻した。今度は笑みすら浮かべずに……
「やめろぉ!」
 悲鳴を上げている身体をなんとか起こそうとしながら……起きなかったが……優歌が懇願すら込めて叫んだ。
 空間を破砕して、華苗を吹き飛ばすイメージを瞬時に構築する。そしてそれを手前の空間と交換し……
 瞬間。
 瞼の奥に闇が拡がって、何かが弾けた。
 
 それは、ただの違和感だったかもしれない。が……
 猛烈な骨の軋みと吐き気を同時に覚え、彼女はその場でのたうちまわった。悲鳴が喉の中で破裂する。
「ああああああああああああっ!」
 内臓が全て焼け溶けてしまいそうな、苛烈な激痛が全身を蝕む。脳の中を無数の羽虫が飛び交っているような頭痛に意識を掻き乱され、自分が何をしようとしていたのかすら忘れそうになる。
「優歌! 核の力を使おうとしたのか!?」
 神楽の愕然とした叫びが聞こえる。だが、それまでだ。涙の流れ出した視界では彼の姿を見ることは適わず、尋常ならざる激痛は視力すら
もまともに機能することを許してはくれないようだった。
「優歌っ!? どうしたの、優歌ぁっ!」
 亜弥子の声も聞こえてくる……が、すぐにそれは耳鳴りに掻き消された。
(痛いっ……痛い!)
 声を発したつもりだったが、言葉は心の中で浮かんでそのまま消え去った。肺が激しく痙攣して、もはや悲鳴すら出ない。 周囲の物音すら、聞こえなくなってくる……耳鳴りだけが頭の中を震わせている。
 その無音より過酷な唸りの中、彼女はひとつの足音を聞き分けていた。
(誰か……近寄ってくる?)
 全身を使って呼吸を整え、顔を上げる……そのわずかな挙動すらも、今は死に等しい苦痛だったが。
「無様ね、羽鳥さん……」
 その声、顔を、優歌は一瞬、思い出せなかった。いや、思い出してはいたのだ。ただ、脳がそれについて行かない……
 眼前に立つその女の右肩に、腕はついていない。身体中が血で真っ赤に染まった女は、青白い顔で静謐にこちらを見下ろしている……
「言ったでしょう? 私は柱の巫女だって」
 それを聞いてようやく、その女が結賀織依だと認識できた。
「織依! 生きていたのか……」
 神楽が、驚愕めいた表情でうめいたのが聞こえた。
「ええ、生きているわ……これはあなたの愛よ。ねぇ、そうでしょう?」
 わけのわからないことを、完全に陶酔した面持ちで織依がつぶやいている……
「でもね、もうすぐ死ぬの。自分で分かるもの……あそこは、とっても寂しいでしょうね。だから……ねぇ、祐一……一緒に、死んで」
「……そうか、お前……有菜の……」
「そのためには……この女が邪魔なのよ……ねぇ? 羽鳥さん」
 何か言いかけた神楽の言葉を無視して、織依は鋭い視線でこちらを射抜いてきた。
 その眼差しを受けてか、不意に思い出す。
『十字架。核を壊すもの』
『柱が完成したの。もうあと少しで、戌井先生の悲願が成就する……だから、羽鳥さんには学校には居て欲しくなかったの』
『これは羽鳥さんの力なのよ? 分からないかなぁ……』
 彼女は理解した。
 礼拝堂の奥にある柱の間。そこに整然と陳列された、少女を束縛する十字架の群れ。
 その完成。つまり……
(私の破壊!)
 柱とは、世界の核の力を吸収するための存在だったのだ。
 その吸収された力は、『弓』……シエルの魂を持つ、神楽たち『造られしモノ』が使う……
『これは羽鳥さんの力なのよ? 分からないかなぁ……』
「これは羽鳥さんの力なのよ……やっと、分かったのね?」
 再び、思い浮かべた言葉と、実際につぶやき出された織依の言葉が、頭の中で重なって響く。
 つまり、そういうことだったのだ。
(どうして……今になって気づくのよ!)
 拳で床を殴りつける。素手で石の床を叩いて拳が痛んだが、それ以上の痛みがすぐにそれを掻き消した。
「織依。クリスミスティは任せた……」
 背筋に悪寒すら走らせるほど、無感情な華苗の声が聞こえる。
 亜弥子に押しつけている拳銃の引き金にかかる彼女指に、力が込められていくのが霞む視界の中でもはっきりと分かった。 優歌はもう一度イメージを解き放とうとして……
 ぱんっ。
「あああああああああああああ!」
 再度、体内で爆発が起こったような凄絶な激痛に襲われた。脳を壊されていくような破滅的な感覚に、気が狂いそうになる。
(なんでこんな時に限って何もできないのよ!)
 
 本当はできるのに。できるのに。
 動け、動け、動け、動け!
 
(動け!)
 だが、運命は信じていた以上に無慈悲だった。
「終われ」
 死の宣告と同時に……華苗は、引き金を引いた。
 引いた……
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 優歌の絶叫。
 次の瞬間、見えたのは。
 鮮血。
 空間に飛び散る真っ赤な液体。その中に混じって……手首。
(……え?)
 胸中で、思わず誰かに訊き返してしまう。まったく意味の無い行為だと自覚はしていたが。
 見ると、華苗の拳銃を持っていた右手が、鋭利な切断面を残して床に転げ落ちていた。
 華苗も何が起こったのか分からないらしく、自分の手首を見下ろしている。噴水のように吐き出される鮮血が、亜弥子の顔を汚し……
 亜弥子が右手に握っている黒い短剣も、その血に濡れる。
「空間の……剣だと!?」
 驚愕と、ようやく肉体が知覚した苦痛とに顔を歪めながら、絶句する華苗。
 亜弥子は華苗の身体を突き飛ばし、拘束から逃れると、一声を放った。
「紗夜さん!」
 ざっ……
 それは誰かが駆け出した音だった。礼拝堂に隠れていたのだろうか、亜弥子の呼びかけとほぼ同時に姿を現した、メイド衣装の黒髪の女性は、腰に低く黒光りする刃を構えて、華苗の背中に体当たりした。
「あぐっ……!?」
 押し潰したような悲鳴が、華苗の口から洩れる。彼女はつんのめって姿勢を崩し、なんとか踏みとどまろうと前方にいた亜弥子の肩に掴みかかった……が、右手首から先が無い彼女は亜弥子に触れることすらできず、そのまま頭部から床に叩きつけられた。
 その上に覆い被さる形で、紗夜と呼ばれた女も一緒に倒れる。
 華苗が伏している床に、赤い血だまりが拡がっていく……刃は彼女を貫通しているらしかった。
「お許しください……お許しください……」
 何かに取り憑つかれているかのように、紗夜は何度も許しを請うていた。
「お前も……裏切るのか」
 絶望の眼差しで肩越しに、自分の背中で泣いているメイドを睨む華苗。
「華苗様が苦しんでいる姿を見るのは、耐えられなかったのです……だから……どうか、このまま死んでください」
「うるさい!」
 華苗は倒れたまま身をひねって肘を後方へと突き出し、紗夜の眉間を打った。眉間が割れてそこから血を垂らし、紗夜は華苗の上から転げ落ちるように離れる……
「……これが、ボクの運命だっていうのか……」
 ふらりと……幽鬼のごとく立ち上がり、背中に突き立った黒い刃を引き抜きながら、華苗は歯噛みしながらつぶやいた。
「こんなものが……裏切られ続けて生きろというのか、お前らはぁぁぁぁぁっ!」
 そして弾けたように叫ぶと、床に倒れたままの紗夜の身体を蹴りつけた。何度も何度も、骨の軋みが聞こえてくるほどに。
「やめろ、華苗!」
 と、制止の声を上げたのは……神楽だった。
 彼は右手を突き出して彼女に向けながら、
「紗夜は決して裏切ったわけじゃない。分かるだろ? ずっと彼女と一緒にいた、お前なら」
「……その手を下ろせ、神楽。意味がない」
 右手首の切断面を、核の力で焼き溶かしながら、華苗が呆れたようにそう囁く。
 ……その肉が溶けて、傷が塞がっていくにつれ、優歌も全身を蝕んでいる苦痛が激化していくのを感じていた。
 優歌は胸を押さえて、のたうちまわりたいのを必死で耐えながら、続けて放たれた神楽の声を聞いた。
「お前がこれ以上わがままを言い続けるなら、空間ごとお前を消し去ってもいいんだ」
「できるものならやってみろ」
 華苗のそのせりふに、神楽は黙り込んでしまった。掲げた右腕を下ろしながら、こちらを横目で見やってくる……
(私がいるから……)
 優歌は愕然と、神楽の視線の意味に気づいた。
(私が壊れてしまうから、核の力を使えないんだ)
 目の奥が燃えそうだった……それに抗うだけの気力もなく、彼女は涙を流していた。
 このままではみんな殺されてしまう。
(やっぱり何もできないんだ……私には、何も……)
 世界を書き換える核の力。
 戦争の中から学んだ、この身ひとつで敵を討つ力。
 全ての武器を取り上げられて、自分にできることは……
(泣くこと、だけ……)
 
 絶望。
 
「あんたたちって、なんでみんな揃いも揃って馬鹿なのよっ!」
 凛と、礼拝堂に響いたその声に、優歌ははっとして顔を上げていた。
 亜弥子だった。黒い短剣……恐らく、紗夜から渡されたものなのだろうが……を慣れない手つきで構えて、叫んでいる。そんな彼女の方を、礼拝堂にいる全員が背中にいきなり氷を投げ込まれたようにぎょっとしながら振り返る。
「何か自分に都合の悪いことが起こったら、すぐに運命のせいにしてっ! 運命なんていうわけわかんないもんに責任転嫁して、自分に言い訳してるだけでしょうが! ンなたびたび運命が悪いとか言ってたら、運命だってかわいそーなもんだわっ!」
 よくわからない理屈をまくし立てて、亜弥子は剣の切っ先をびっ! と華苗に向けた。
「あんたよ、あんた! あんたが一番ねちねちしてんのよ! 要するにあんた、神楽君にひがんでるだけなんでしょうが! 槍がどーとか、接触がどーとか分かんないけど、あんたに無理で神楽君にはできた、それだけの問題でしょ!?」
「貴様に何が分かる! 奴は欠陥品だ……そんな出来損ないに負ける屈辱が、貴様に……」
「分かるかそんなもん!」
 華苗の反論を、亜弥子は軽く地団駄など踏みながらあっさりとはね除けた。
「神楽君があんたをあからさまに見下してたんならいざ知らず、そーじゃないでしょうが!? あんたが勝手に彼を憎んで空回りしてるだけじゃないの! おまけに言うに事欠いては、裏切られるのが運命!? そりゃあんたみたいな根暗女、友達に見放されても無理ないわよ!」
 と、彼女は華苗の言い分を待たずにきびすを返すと、今度は織依を睨み据えて、
「何が、一緒に死んで、よ! 死ぬならひとりで死ね! 誰かを巻き込んで死のうなんて、はた迷惑もいいところね!」
「……な、何を言うのよ! 私と祐一の愛は……絆は、この世に生を受けた瞬間から……」
「あーあー、いるのよねー、女でもそーゆー、ストーカーみたいな奴って」
 露骨に嫌そうにため息をつき、亜弥子は肩をすくめて見せた。さらに続ける。
「第一! 結賀さん、あんた生まれた瞬間のこと覚えてるわけ? 万が一そうだとしても、お母さんのお腹ん中から出て来て早々、愛を語る新生児がどこにいるってのよ! それに、恋だか愛だか知らないけど、そういうのって今現在の気持ちが大切なんじゃないの!?」
「この……!」
「次っ! そこの偽優等生!」
 またしても相手の反論を無視して、亜弥子は次はその矛先を神楽に向けた。
「あなたもねぇ、こんなやたら自己中心的に偏った愛やら憎悪やらを受ける前に、身の振り方どーにかしたらどーなのよ。それにあんた男でしょうが! 女に自分の言うことひとつ聞かせられないなんて、情けないとは思わないの!?」
「…………」
 神楽は呆気に取られたような表情で……というより、どうして怒られているのか分からないといったふうに、亜弥子を見つめていた。
 先の二人のように反論がないことを確認するようにしばし間を置いてから、彼女はその視線を優歌へと投じた……
(……亜弥子)
 思わず、胸中で彼女の名を呼んでしまう。
 ゆえに求めていたのだろう、彼女の声を。
 が。
「いつまで泣いてるのよ、羽鳥優歌!」
 放たれた言葉は、限りなく激しい怒気を含んでいた。その言葉に、声に、表情に、優歌はびくっ、と身を震わせた。
「やりたいようにやれって言ったでしょうが! そのまま這い蹲って死んでいくつもり!? 何もしないまま殺されてもいいの!?」
(できるなら……やっているわよ)
 胸中で、彼女に言い返す。
 はっきり言って、もう動ける気分ではなかった……全身を脅かしている激痛は時を経るにつれ激化していて、指を一本動かすにもかなりの覚悟が必要だった。
「あんたが昔、クリスミスティ=キャロルって呼ばれてようが、楽園の聖女だろうが、そんなことはどうでもいいのよ!」
 右手の黒い短剣を、何かに八つ当たりするように横に振り、亜弥子はこちらに詰め寄ってきた。
 そして優歌の顔の前にしゃがみ込み、彼女の頬にその手を触れさせながら、囁いてくる……
「転んだらまた立ち上がればいいのよ……ね? だから、諦めないで。優歌……」
(亜弥子?)
 優歌は、亜弥子の眼差しに中か覚悟めいた光が見え隠れしているのに気がついた。
「……亜弥……」
 ほかにどうしようもなく、優歌は懸命に彼女の名を喉から絞り出そうとした……
 と。
 びくんっ、と唐突に亜弥子の身体が大きく震えた。同時に、目も見開かれる。
 ……一瞬だったのかもしれない。刹那ではない……そう、一瞬だ。
 ただ、その一瞬の間ででえきたことがあったとすれば……
(……子?)
 彼女の名前の最後の一文字を胸中でつぶやいたことぐらいだろうか。
 なんにしろ。
 一本の槍が、亜弥子の背中に突き刺さっているのが見えた。
 穂先が亜弥子の肉に食い込んだ瞬間、槍の柄の部分が爆発したかのように霧散する……その飛び散った無数の破片は、まるで生き物のように意志を持った動きで、一直線に亜弥子の身体に収束する!
 
 ”Initialize”
 
 砕けるように……破裂するように。
 彼女の背中が弾ける。鮮血までもが弾ける。
 
 ”initialize”
 
 槍の穂先と。星の数ほどの柄の破片にその身を穿たれて。
 
 ”Initialize”
 
 彼女は、壊れた。
 
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 ”Initialize”
 
 ”No future...”
 
「いやああああああああああああああああああっ!」
 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……
 どうか時間を戻して。どうか過去を繰り返させて。どうか……
「ああああああああああああああああああああ!」
 目を半分開いたまま……どこまでも虚ろな双眸をこちらに向けたまま、微動だにしない亜弥子を抱きかかえながら、優歌は絶叫していた。
 亜弥子の背中に回した腕に、破片が刺さる痛みは痛覚を通り越して、ある種の快楽しか与えてこない。残酷な、快楽を。
 そして彼女にとって何よりも残酷な言葉が、華苗の口から吐きかけられる。
「喋るな、生ゴミの分際で……貴様の口から語れる言葉など、何も無いんだよ、生ゴミ! はははははは!」
「うわあああああああああっ!」
 粘膜が破れて激痛が走っている喉を無視して、優歌は絶叫にありったけの怒りを込めて放っていた。
 無意識に掲げていた左手が、純白の光に包まれる。肉が焼けるほどの熱が発現している左手を、彼女は全力で打ち出した。
 光は押し出されたように、ふっ、と彼女の手から消えると、一瞬で華苗の元へと。
 じゃっ!
 熱した鉄板に油を注いだような音と共に、華苗の頭が光に吹き飛ばされる。首から一滴の血も流さず、彼女は槍を投げた姿勢のままで事切れた……跳んだ首も、光の中に消える。
 力を放って……内臓がひっくり返るような凄絶な激痛が再び彼女を襲った。
 だが優歌は痛みに苦悶することも忘れて、亜弥子の身体を抱き締めてひたすらに泣き叫んでいる……
「……優歌。もう、いい」
 泣き止まない彼女の肩に手を置きながら、神楽がなだめるようにそう言ってくる。
 だが、優歌は一層激しく泣きながら、彼の手を払いのけた。
「うるさいっ……うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」
 噛み締めた唇からは、いつの間にか血が流れ出ていた。
「何もできなかった……また何もできなかった……守るって約束したのに……約束したのに!」
「優歌……」
 神楽が再びこちらの肩に触れようと手を伸ばしてきたのが気配で知れたが、彼はすぐにその手を引っ込めた。
「もうヤだ……もう嫌……もういやぁ……もういやぁぁぁ……」
 次第に亜弥子の身体から温もりが失われていくのを悲痛に感じながら、優歌は虚ろに繰り返していた……
 ゆっくりと、決然とした足取りで神楽がこちらの横を通り過ぎていったのが視界の端に見えた。
 その足を無意識に追って、彼女は顔を上げた……真っ赤に腫れ上がった空虚な眼差しで、彼の行動を眺めてみる。
 彼は天井から吊り下げられている『彼女』の死体の眼前に立つと、求めるように腕を広げ、軽やかな口調で囁いた。
「イヴァルデールが主、アリス=リアルライズの血と肉よ……グングニールの槍よ」
「何をするつもりだ!? やめろ、祐一!」
 戌井が必死の形相で制止の声を上げたようだったが、彼も神楽がおとなしく言うことを聞く人間だとは思っていなかっただろう……
「我が手の中に、来たれ」
 神楽の囁きは、そこで終わった。
 言葉の終わりを引き継ぐかのように……『彼女』の死体が鳴動する。
『彼女』の足を縛っていた鎖が千切れ、死体が床に叩きつけられる……かと思えば、死体はそこに浮いたままだった。そのまま二、三度、激しく痙攣すると、その肉体が螺旋を描いて、細長い物体へと凝縮されていく。
 やがてそれは、一本の槍へと姿を変えた。生き物のようないびつな形状の、巨大な槍。穂先には、三個の青い宝石が埋め込まれていた。
 現実が壊れ、非現実が世界を満たす。
 そんな感覚が蔓延する中でただ一人、神楽だけが冷静に、その槍を手の中に収めていた。
「祐一ぃぃぃっ!」
 とうとう、戌井は懐から抜いた拳銃で神楽を撃つが、弾は彼の肩を貫通しただけで、致命傷には至らせられなかった。
 神楽は槍を両手に持って、優歌と亜弥子の前に立ち……槍に向かって短く聖言を述べると、それを頭上に振り上げた。
「後のことは心配しないで……僕が、なんとかする」
 恐ろしいほど、神楽の声は優しかった。その瞳に映るものも、紛れもない優しさ……
 優歌は理解していた。そしてその理解が、また彼女に苦悩をもたらす。
 ……もう、逢えないんだ。
「滅びを待つか、運命に抗うか……君がどちらを選択しようと、僕は後悔しない」
 分からない……分からないよ。今でも分からない。でもね。
 ひとつだけ、分かるよ……
「そして、最後に約束だ」
 浮かんでは弾け、生まれては殺され、白くなっては黒くなり、笑っては泣き、信じては裏切られ‥‥‥‥
「また逢おう……優歌」
 …………それでも私はここにいる!
 
 ずっ……
 
 グングニールの槍が、優歌を……その腕の中の亜弥子を、貫く。
 痛みはなかった……むしろ、身体が全ての感覚を喪失してしまったかのように。
 刹那、肉体と精神が、溢れ出した光によって互いの接点を切り離され……
 彼女は、消えた。
 
 
 
 目覚める……
 私は、目覚めたのか。
 ……悠久とも思える時の中で、私は考えたのだ。いや、考えること自体に意味はなかったかもしれない。だが、考えたのだ。
 私にはやらなければならないことがある。
 あの子を迎えに行かなければならない。
 ……これは、いつから始まった夢なのだろう。終わることのない夢。終わらない夢など無いというのに。
 どうして終わらないのか。それを終わらせる事が私の命題なのだろうか。あまりにも大きすぎて、私を狂わせてしまう命題。 だが、どうでもいいのだ。命題、宿命、運命……呼び方なんて、どうでもいい。
 私はこれから長い夢を見る。次の目覚めた時、世界の形が変わっていて、それでもまた繰り返される永遠の夢を……
 
                                              ≪つづく≫


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