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Final Fantasy XI Original Story



FF11『ノグ冒険記』


プロローグ

by nothing




 
 冒険者になる動機、そんなものはなかった。気がついたら冒険者ということになってしまっていた。本当にそうなんだ。
 一体全体、どうしてそんなことになってしまったのやら、今となってはわからない。
 けれど、僕は後悔なんて一つもしていない。あの泥沼の生活から抜け出して早数年、辛いことや悲しいこと、はたまた死にそうな状況や死ぬほど恐かった危機がたくさんあったけど、そのどれもが僕を内包する物語だ。
 僕が死んだとしてもおそらく残るであろう記憶と軌跡の数々。冒険者になる前は、そんな実感はなかった。
 結果的に良くなったのか悪くなったのかわからないけれど、楽しかったことは事実だ。この思い出を抱いていけば、きっと年をとって体が動かなくなっても平気だ。いつだって僕は夢を見ることができる。
 その状況をシュミュレーションするわけじゃないけれど、まずは僕が冒険者になるきっかけだった一波乱を語ろうかと思う。
 一体どこから語ればいいのやら。たくさんのことがありすぎた。
 ふっと目をそらして窓から星を見れば、たくさんの思い出が頭をよぎる。目をつぶれば、まるで体だけ捨てて飛び立っていけるとすら思える。
 いつまでも忘れない、あの冒険の日々。
 
 家が貧しかった。それは本当だ。
 エルヴァーンの地位が最も高いのはなんと言ってもサンドリアだけれど、バストゥークでは最悪というわけではない。けれど僕の家はそりゃもう貧乏だった。
 後から聞いた話だけれど、父さんは昔グスタベルクで山賊をやっていたらしい。バストゥークの共和国兵団に殲滅されて、刑務所暮らしの後、世話になっていた母さんのところへ転がり込んできたのだ。あんまり良い話じゃないな。
 父さんはガルカに混ざって鉱山で働き、母さんは夜の仕事をしてた。二人とも仕事が不定期的で夜も遅く、僕は本当に小さな頃から寂しさをつのらせていた。それに父さんも母さんも生活するのに必死で僕にかまってくれることなんてなかった。
 自然と僕はケンカに明け暮れるようになり、エルヴァーンの徒党を組んで毎日ヒューマンと戦っていた。今から思うと馬鹿げていて、なんとも不毛なことだ。けれど、少なくとも当時の僕にとってはそれがすべてだった。
 巻き上げたお金を悪いことに使い込み、僕の環境は誰も止めることなく悪い方へ悪い方へと転がっていった。両親がさすがに目をとがらせようとしたけれど、あんた達になんの資格があるんだ!って言うとなにも言い返してこなかった。
 そしてついに僕は決定的な過ちを犯した。仲間で犯罪の計画を立てたのだ。
 飛空艇の発着所から出てきた人間の後をつけて襲うというものだった。飛空艇に乗れるのは金持ちに違いないということで狙いをつけたのだけれど、なんとも安直な発想だ。しかし不運なことに、僕達の犯罪はうまくいってしまった。
 最初の被害者は酒場を出たところを襲われ、僕達から身ぐるみ剥がされてしまった。
 それがいとも簡単にできてしまったので、味をしめた僕達はそれから同じ手口で五人ほど襲い、次から次へ悪銭を手に入れては派手に使った。どうしてあの時は先のことなど何も考えずにあれだけ無謀な行動を繰り返せたのか、今となっては不思議だ。
 しかし、悪い事がずっとうまく続くわけがない。ある夜、僕達は同じように乗船客の後をつけて襲ったのだけれど、その時の相手は共和国兵団の曹長で、そりゃもう強かった。後ろに回った仲間が咄嗟に石で相手の頭を殴りつけた。男は二・三歩よろめいた後に倒れて、頭から流れた血が水たまりにように広がった。
 僕達は恐くなって逃げたのだけれど、すぐに騒ぎを聞きつけてきた警察に取り押さえられた。
 僕達は留置場へ送られて、裁判を待つ身になった。その最中、母さんが僕を訪ねてきてくれた。何しに来たんだと聞くと、父さんが死んだと言う。鉱山の事故でひどい火傷を負い、介抱の甲斐もなく死んでしまった。格子の向こうで泣く母さんが何を言っていたのかわからないけれど、ああ終わりだって僕はなんとなく覚悟した。
 裁判の結果、僕に言い渡されたのは死刑だった。これまでの犯行がことごとく明るみに出て、更正の余地なしと判断されたのだ。僕は法廷に唾を吐いて、そのくだらないお裁きは終わりにした。
 牢屋の中で自分の人生に愚痴る日々が続いた。結局なにもいいことはなかった。最初から最後まで泥沼だったって、本当のことを思い返しては不機嫌な気分に浸っていた。
 けれどその頃、牢の外ではちょっとした騒ぎになっていた。父さんが死んだ原因である事故が引き金になって、ガルカが労働条件の改善を求めるストライキを始めたのだ。共和国政府はあの手この手を尽くしてガルカを追いつめたけれど、ガルカの一団はまったく屈さなかった。
 そうこうしているうちに鉱山の採掘状況は完全に停止し、損益はどんどん増えていった。共和国政府は仕方なく、ガルカ以外に労働者を募って作業を再開しようとしたけれど、ガルカは鉱山に陣取って一歩も彼らを鉱山に入れなかった。
 あわや軍隊が出動するかと思われた時、僕のところへ知らせが来た。もしもガルカの包囲網を突破して鉱山内に捕らわれている責任者のヒューマンと連絡を取ることができたら、僕の死刑を取り消すと言うのだ。ヒューマンが行ったら殺されてしまうし、そんな任務を引き受けるガルカもいない。それでエルヴァーンである僕が選ばれたというわけだ。一緒に捕まった仲間達も似たような命令を受けて一時的に釈放されていた。
「どうする、やるのかよ」
「断っても殺されるんだろう。やるさ」
 僕達は政府からの密使として派遣されることになった。出動する前に僕達は正式なバストゥークの工作員であるという登録を行った。どうしてそんなことをと驚いていたが、僕達を介して行う交渉や連絡事項に法的な威力をもたせるためだったらしい。年齢、血液型、目や髪の色・・・いろんなことを記録していったのだけれど・・・
「名前はナシングです」
「偏屈な名前だな・・・あっと、インクが足りん。じゃあこれでいいな」
「つづりが全然ちがう!これじゃあノグだ!」
「いいんだよ。大事なのは登録することであって本当の名前なんてどうでもいいんだ」
「くそったれ!」
 そんなわけで僕の名前はNothingではなくNogで登録されてしまった。確かめられる人は確かめてみるといい、きっと笑えるだろう。
 僕達は中古品の装備を与えられ、それぞれ散っていった。僕は皮の防具に盾、武器には斧を選んび、都市から少し北に離れたパルブロ鉱山に向かうことになった。そこから採掘用の運河を使い、都市に顔を突っ込む形になっているツェールン鉱山に潜り込むのだ。
 当時はまだクゥダフ(グスタベルク周辺に多く生息する亀のモンスター)の勢力が強く、かなり危険であることは知っていた。しかし他に生き延びられる方法があるわけでもなかったし、断れば母さんがどんな目に遭うか僕にでもわかっていた。
 母さんのことなんてどうでもいい・・・最初はそう思っていたけれど、格子の向こうで泣くあの姿を見てからは、そうも思えなくなった。なんとか母さんを助けてあげられればいいと、そう思うようになった。
 僕は仲間もなく、粗末な装備でクゥダフの巣であるパルブロ鉱山へ挑戦することになったのだ。

 パルブロ鉱山はバストゥーク市街を出て約一日の距離にある。途中で夜営してどうにか到着することはできたが、慣れない旅路に疲労の色は隠せなかった。
 鉱山入り口を前にして、僕は注意事項を思い出していった。クゥダフは目が悪いけど耳がいい。音をたてないように進まないと、たちまち取り囲まれてしまう。命は一つしかないのだ。慎重に進まないといけない。
 僕は深呼吸して、斧を握り直すと入り口をくぐった。途端に真っ暗になり、外の世界とは隔絶される。僕の心臓に割れそうな痛みが走った。
 一歩鉱山に足を踏み入れると、まず感じたのは匂いだった。それは鉱山の匂いではなく、クゥダフの匂いだ。どぶ川に似たその匂いはおそらくクゥダフ独特のもので、僕は早速意気を挫かれてしまった。しかしそんな理由で引き返すわけにもいかず、僕は一歩一歩踏みしめるように前へと進んでいった。
 暗い洞窟の中を少しずつ、設置されているカンテラの光を頼りに進む。もう採掘はかなり廃れているのだが、最低の設備は残っているようだった。これでクゥダフがいなきゃ申し分ない。
 だけど神様ってのは意地悪だ。100メートルくらい歩いたところで、早速クゥダフに出くわした。まだかなり若いクゥダフで、持っているのは剣ではなく短刀だ。ちょうど広間ではなく通路で、気づかれないようにやり過ごすことはできそうもなかった。それにいなくなるのを待つのも面倒だった。
 僕は斧をしっかりと握りしめた。一歩一歩、息を殺して近づく。緊張から額を汗がつたった。
 向こうが振り向こうとした一瞬を捉えて、一息に襲いかかった。敵はこちらに気づいて短刀を振り上げてきたけれど、それは盾で防ぐ。そして斧をそいつの顔面に力一杯叩きつけた。そいつはかつて仲間が殺しかけた軍人のように、よろめいて頭から血を吹いた。僕は手を休めることなく、狂ったように斧で攻撃を加える。
「はあ、はあ・・・」
 何発目かわからなかった。そいつはいつの間にか倒れていた。僕はそいつが死んでしまったことに気づかず、攻撃を続けていたのだ。
「・・・死んだ?」
 もう反応はなかった。そいつは完全に死んでいた。僕は心の中でガッツポーズを取る。体はモンスターと戦った高揚感から震えていた。
「よし、進もう」
 僕は自分の体が返り血で真っ赤になっていることには気づかず、先へと進んだ。
 そこから先にいるのは、どれも大人になっているクゥダフばかりだった。僕は仲間の中でも背の高い方だったけれど、クゥダフはもっと高い。それでもってガルカ並に太い。早い話がどでかいのだ。僕はとても戦う気は起こらず、やつらに気づかれないように壁際をそろそろと歩いてやり過ごしていった。あいつらを見たら、最初に戦った勇気なんてあっと言う間に消え失せてしまう。僕はなんとも憶病なエルヴァーンだった。
 鉱山は三つの層に別れていて、運河を利用できるのは一番上の層だ。クゥダフをやり過ごして二階へ上り、二階には敵が少なく三階へのリフトにすぐ達することができた。
 三階は鉱石の本格的な流通を行うために石道が敷かれていて、僕はもう安心だと思ってしまいすっかり油断していた。
「へへへ、楽勝!!」
 何の確認もせずに大声を上げてしまったのだ。
「グアアアアアア!!!」
 すると、心臓の位置が逆さまになるような声が聞こえた。それはクゥダフの戦士の雄叫び。
 僕が恐る恐る声の方を振り向くと、巨大な剣を構えて突進してくるグレータークゥダフの姿が見えた。
「わぁぁぁぁ!!」
 僕は逃げた!僕は逃げた!もう警察に追われていた時の比じゃない!一目散に命がけで逃げまくった!
「あ!?」
 ところが神様というのは実に意地悪だ!いきなり崖に出くわしてしまったのだ。下はなんと一階で、飛び降りることはできそうもない。
「グアーーーー!!」
 しかしグレーターはすぐそこまで迫っている。生き残るためには多少の無理も必要だった。僕は体を丸めるようにしてかばい、意を決して崖から飛び降りた。
「わああ!!わー!」
 どがんどがん!と体が岩に打ちつけられる。僕はひっくり返る世界の中で必死に祈った。命がありますようにと。なぜか、鉱山で爆死した父さんの姿を想像した。
 どうやら気を失っていたようだ。僕は数分か数秒して目を覚ました。そこは一階で、もうグレーターは追ってきていない。体中に激痛が走ったけれど、なんとか立ち上がる。
「へへ、死んでたまるかよ・・・」
 僕はもう任務を続行するつもりはなかった。死んでは元も子もない。それにこの体で再び三階を目指すのは無理だった。ところが逃げようとして体を起こすと、とんでもないことに気がついた。
「・・・・あ」
 そりゃそうだ。あれだけ大声をあげて、しかも崖から転がり落ちてきたらどんなに耳の悪いやつだって気づくだろう。
「あー・・・」
 そう、僕は大小様々なクゥダフに辺りを取り囲まれていた。そのどれもが、鋭い眼光で僕のことを睨んでいる。
 死ぬ・・・そう思った。サンドリアの騎士なら名に恥じぬ最後の戦いをするんだろう。僕は武器を捨てて相手が亀だろうが鶴だろうが降参してしまいたかった。だが残念なことに相手には言葉が通じない。
 僕は斧を振り上げて必死に威嚇したが、相手は逃げてくれない。それどころか余計に刺激してしまったらしく、勇んで僕の方へ向かってきた。
「ちくしょう!」
 僕はこれまで歩んできた惨めな人生を振り返った。誰からも必要とされない、誰も必要としない、犬ころみたいに生きてきた半生だ。結局、僕は最後まで犬ころじゃないか!そう思うと悔しくて、僕は恐怖を振り捨てると一番大きかったクゥダフに斬りかかった。
 ボロ・・・と、もちろんそんな音はしなかったと思う。もっと金属的な音がしただろう。けれど、僕にはそう聞こえた。斧は砕けて、地面に落ちてしまったのだ。破片が鉱石にぶつかって小気味のよい音をたてる。これが僕に対する死へのはなむけか。
「グオーー!!」
 クゥダフが一斉に襲いかかってきた。僕はもうどうでもよかった。さよなら犬ころ人生、次はジュノの貴族様にでも生まれ変わらせてくれ。
 錆びたクゥダフの剣が僕に振り下ろされようとした時、何かが爆発するような音がした。すると、まさに僕の命を奪おうとしていた先頭のクゥダフが背中の甲羅を吹き飛ばされて壁に叩きつけられていた。
「あ、お?」
 僕は間抜けな声を上げてそれを見ていた。何が起こったのかわからなかった。
 タタタタタ・・・と、小さな音が聞こえた。子供が走るような音だ。クゥダフの軍勢はすっかりうろたえてしまい、僕のことなんか放って音の方を振り返っていた。
 人間だった。正確にはヒューマンで、子供みたいに小柄な女性だった。頭からフードをかぶっていて、どちらかというと内職で作った木綿でも背負っている方が似合いそうだった。
 しかし木綿なんてとんでもない。それは僕が初めて見た冒険者の姿だった。
「グオオオ!!」
 一匹のクゥダフが剣を振りかざしてその人を襲う。僕は体格から考えてその人はすぐにやられてしまうと思った。しかし、予想は簡単に外れる。その人はちょうど自分の身長と同じくらいの杖を持って、剣撃をいとも簡単にさけるとクゥダフを一撃の下にのしてしまった。
 僕が斧を使っても10発は殴らないといけないクゥダフだ。それを小柄なその人は一撃で決めてしまった。それから並み居るクゥダフを相手に大立ち回りを演じて、一発も打たれることなく敵の軍勢を全滅させてしまった。そして、その女性はこちらに近寄ってきた。
「あ・・・」
 僕は何と言えばいいのかわからなかった。その人が何をするかもわからなかったし、その人が何者かもわからないのだ。でも戦うこともできなければ逃げることもできない。何もできず、その人が近づいて来るのに任せた。
「大丈夫ですか?」
 そしてまるで看護婦か何かのように、そう尋ねてきた。
「え?」
「クゥダフが急に集結していったからおかしいと思ったの。あなた、崖から落ちたのね」
「あ・・・はい」
「体中血まみれじゃない。すぐに治すわ」
 すると女性は何かを唱え始めた。初めて聞いたけど、それが呪文の詠唱だった。
 頭を強く打っておびただしい量の血を流していた僕は、放っておいたら死んでしまっていたに違いない。それに頭だけでなく手も足も、打撲から骨折までよりどりみどりで、まさに生ける屍だ。
 女性が唱えたのはケアルだった。詠唱が終わると僕は体の奥が熱くなり、なんとも良い気分になる。傷が体の内側から癒されていくような感覚と共に、僕の血は止まった。僕はすぐに立ち上がると、その女性を改めて見た。
 身長160cmくらいしかなさそうで、なんとも小柄だ。しかし、周囲には彼女が蹴散らしたクゥダフが呻き声を上げながらのびている。僕はしばらくぼうっとしていたけれど、ようやく我に帰るとすぐにお礼を述べた。
「あ、ありがとうございました」
「いえいえ」
「助かった。なんて強いんだ」
「私は白魔道士です。強いの内には入りませんよ」
「ええ!?でもさっき、クゥダフの甲羅を焼き払ったし・・・」
「補助で覚えた黒魔法です」
 女性はなんとも淡々と話した。まるですべてが当たり前のことででもあるかのようだった。
「どうして崖から落ちたんですか?」
「グレーターに襲われて・・・」
「それでよく三階まで行けましたね。目的はなんだったんですか?」
 話してよいものかどうか迷ったが、相手はヒューマンだったから大丈夫だろうと思った。それにここで話さないのは礼儀に反する。
「まあ、鎮圧の工作員だったの」
「一応」
「エルヴァーンを使うなんてえげつないわね。政治家らしい発想だわ」
「はあ」
「あ、ごめんなさい。こんなところでそれを話してもしょうがないわね。私はここにミスリルを取りに来たのだけれど、それも終わったからあなたを手伝うわ」
「え?」
「大丈夫よ。行きましょう」
 控えめなようで、なんとも強引だった。尻尾を巻いて逃げるつもりだった僕のことを無視して、その人はさっさと先へ進み始めてしまったのだ。
「どうしたの?」
「あ、いえ」
「ごめんなさい、言い忘れていたわ。私の名前はアルファ。あなたは?」
「えーっと・・・本名はナシング」
「ナシングさんね」
「でも、諸事情があって今はノグです」
「は?」
 それが僕と、勇者アルファ様の出会いだった。
 勇者という肩書きはもっと力強くて豪壮な人間に付けるような気がするが、僕にとって勇者はその人だけだ。
 勇敢で、優しくて、物知りで、何より危機を脱する機知に長けていた。
 勇者って肩書きはそういう人に付けるものだ。そうだろう?

 アルファ様は本当になんでも知っていた。僕がこっそり進むしかなかったクゥダフの巣を、ある時は狡猾にある時は大胆に、次から次へくぐり抜けていく。
「おっと、ここは大所帯ですね」
「ひー!」
 しかしさすがに戦わずにはいかない場所もあった。まるで宴会でもしているみたいにぞろぞろ敵がいる場所だ。そこでアルファ様はなんて言ったと思う?
「一匹ずつおびき寄せてきてください」
「誰が?」
「あなたです」
「え・・・」
「出てきたところを私が倒します。心配しないで」
 最良の判断が常に良識的な判断であるという保証はない。生きるか死ぬかの問題なら尚更だ。
 僕は適当なクゥダフに石を投げつけて挑発した。そして泣きながらもと来た道を逃げ帰ると、岩影からアルファ様が杖で場外ホームランを放つ。一撃で昏倒したクゥダフを背に、何度も同じ事を繰り返した。クゥダフは強いし固いけれど、どうやら数を数えるということができなかったらしい。仲間が減っていっても気づくことはなかった。
「全部片づきましたね?お疲れさまです」
「家に帰りたい」
「すぐ帰れますよ」
 アルファ様はこの修羅場の中でも平然としていた。冒険者というのは僕の予想を遙かに越えて図太い人間だった。自分の命や他人の命を平然と危険にさらす。重要なのはそれが賢い判断であるかどうかの問題で、見てくれはまったく気にしない。それが冒険者というものなのだ。
 僕達はついに三階までたどり着き、後は運河を使ってツェールン鉱山まで行くだけとなった。しかし、もうすぐそこというところまで来てアルファ様が足を止めた。
「待って!」
「どうしたんですか?」
「ガルカの匂いがしますね」
「え?」
「ちょっと様子を見てきます」
 するとアルファ様は身を低くして、忍者か何かみたいに足音もたてず先へ進んでいった。しばらくして無事に戻ってきたが、なんだか深刻な顔をしている。
「困りましたね。武装したガルカが運河を占領しています」
「えー!」
「ヒューマンの私はとても通してもらえないでしょう。あなたなら何か言い訳をすれば通れるかも知れません」
「言い訳ってどんな?」
「うーん・・・」
「俺にはわからないですよ」
「ちょっと考えましょうか。それに疲れましたし・・・今日は二階にある詰め所まで引き上げて休みましょう」
「あんたがそう言うならそうするけど・・・良い案なんて思いつくかな」
「大丈夫ですよ。なんとかなりますって」
 仕方なく、僕達は二階の詰め所まで戻った。武装したガルカ達はここを利用していないらしく、辺りに人気はない。保存食も少し残っていて、僕も持参した食料があったので困ることはなかった。アルファ様は調味料まで持っていたので、その日の食事はなかなか美味だった。
 食事を終えて、僕はごろんと詰め所の床に横になった。
「アルファさん、何か思いつきました?」
「いいえ」
「うーん、どうしたもんかな」
 二人で思案に暮れていた時、不意に誰かが近づく音がした。不用心に大きい足音はもしかしたら立ち寄ろうとしたガルカか、あるいは偶然ここを見つけたクゥダフかも知れない。僕達は自然と武器を取って、ドアの手前に隠れた。そして、ドアが開かれる。
 殴りかかろうとした僕を、アルファ様が止めた。そこへやって来たのは、血まみれに負傷したエルヴァーンだった。
「ロン!」
 僕は見覚えのあるそのエルヴァーンに向かって叫んだ。
「ナ、ナシングか」
「どうした!」
「クゥダフにやられた・・・逃げてきた・・・」
 親友のロンバートだった。体中から血を流していて、僕ではどう介抱すればいいのかわからなかった。
「アルファさん、治してやってくれ!」
「傷が深すぎる。私の魔力ではとても足りないわ」
「そんな!」
 僕達がそんなことを言っている間に、ロンバートは息を引き取ってしまった。僕がいくら呼びかけても無駄だった。
「ちくしょう!どうして僕と一緒に出動させなかったんだ!?」
「集団にさせたら逃げると思ったんでしょうね」
「くそったれ!!」
 僕は詰め所の壁を何度も叩いた。けれどロンバートが生き返ることはない。
「くそ・・・もうやめたぞ!ヒューマンのために働いてたまるか!」
「まだ諦めるのは早いですよ」
「え?」
 アルファ様が決意したような声で僕に言った。
「死んでしまっても一定の時間が経過していなければ魂を呼び戻すことができます。ツェールン鉱山に捕らわれている救命士なら、おそらく蘇生魔法のレイズを使えるはずです」
「本当ですか!?」
「ええ、あなたは冒険者と偽ってすぐに運河を使わせてもらいなさい。急げば間に合います」
「よし!すぐに行こう」
「私は一緒に行けませんから・・・これを」
 そう言うとアルファ様は不思議な色をした鉱石を僕に手渡した。
「これは?」
「最初に言ったミスリルです。私も苦労して手に入れたんですが・・・これを持って行けば冒険者と信じてもらえるでしょう」
「大事な物では?」
「命より重くはありません」
 僕は少し考えたけれど、その時はアルファ様の恩に頼ることにした。
「ありがとうございます!いつか必ずこれには報います」
「いいのですよ。さ、おいきなさい」
「この御恩は忘れません!」
 僕はエルヴァーン式に敬礼すると、ロンバートを担いでアルファ様のもとを去った。
「いつか、名前を戻してもらえるといいですね」
 そんな呟きが聞こえたような気がしたけど、振り返る余裕はなかった。僕は死にもの狂いで三階を目指し、武装したガルカ達に真正面から対峙した。
「怪我人がいるんだ!すぐに通してくれ!」
「何者だ!お前達は!」
「サンドリアの冒険者だ。バストゥークでストライキをやってるのは知っているが、僕達には関係ない」
「何か証明できる物はあるか?」
 僕はアルファ様からもらったミスリルを差し出した。
「これを取りに来たんだ」
「本物のミスリルだな・・・よしいいだろう。ツェールンには白魔道士がいるだずだ。だが妙な真似をしたら叩き殺すぞ」
「わかってる!すぐに通してくれ!」
 僕はガルカの間をすり抜けるようにボートへと向かった。ガルカは思ったより親切で、ボートの出発は何も言わずに手伝ってくれた。
「衝撃が大きいぞ。しっかりふんばれ」
 僕はロンバートと一緒にボートの底にへばりついた。
「出せ!」
 ザバア・・・と、ボートが運河に降ろされる。鉱石を運ぶためのボートと運河は、エルヴァーン二人分の体重などものともしない。あっと言う間にパルブロ鉱山を抜け出して、僕は夕暮れに染まる空を見た。
「・・・生きている」
 そう実感したのは、それが生まれて初めてだった。死ぬかも知れない修羅場をくぐって、愚かな僕はようやく生きるということを実感したのだ。これはあまり美しい話じゃない。何も考えずに生きてきた無明の僕が、初めて暁を覚えたのだ。
「生きている・・・」
 ツェールン鉱山に着くまで、僕はずっとそう囁いていた。ロンバートの亡骸をしっかりと抱きしめながら。
 
 ツェールン鉱山にボートが着くと、僕は狂ったような振りをして救命士を探した。相手もいきなり瀕死のエルヴァーンが来たことに驚いたのか、その時ばかりはストライキのことを忘れてくれたようだ。
 救命士はおそらくウインダスから雇われて来ているのだろうタルタルで、ロンバートを見るとすぐにレイズをかけてくれた。ケアルよりもずっと長い詠唱の後、淡く輝く光に照らされたロンバートは息を吹き返した。僕達は泣きながら、抱き合ってそれを喜び合った。
「あまり急に動いてはダメですよ。一ヶ月は安静にしないと」
 僕はそう言うタルタルの袖口にそっと、託された連絡の文書を差し入れた。向こうも気がついたようで、それとなく応答してくれた。これで僕の役目は終わった。
 ロンバートの肩を担いで外に出ると、武装したガルカとヒューマンの警察が睨み合っているところだった。一触即発とはまさにこのことで、僕は工作員であることが発覚する恐怖に怯えながらツェールン鉱山を出ていった。警察に保護されても、その場で身分は喋らなかった。不審に思われて警察署まで連れて行かれたところでようやく工作員であるということを明かし、ロンバートは病院に、僕は総督府にある共和国諜報部まで出頭した。
「約束の手紙はしっかりと届けました。僕と仲間達を自由にしてください」
 諜報部長官のヒューマン、ナジはそれを聞いて少し考え込んだ。
「まあ、生きて任務を遂行したことは讃えよう。だがいきなりお前達を自由にするわけにはいかん」
「話が違うぞ!」
「大体だな、帰って来たのはお前だけだ。他の連中はみんな逃げたぞ」
「え・・・」
「病院に入っている仲間のことを考えるなら・・・どうだ、もう少し我々の下で働かないか?」
 おそらく、ガルカとの緊張状態が続いている現在の状況にエルヴァーンの人員が欲しかったのだろう。その上、僕は死刑囚だから死んでも構わない。
 自由になってからの目的があるわけではなかったし、ロンバートのことも心配だった僕はその誘いを受けることにした。
「わかった。だが今度からは金を渡してもらうぞ」
「心配せんでも、今回の分も含めてそれ相応の額は払う。どこに振り込んでおくか手続きをしておけよ」
 僕は報酬の全額を母さんのところへ振り込むよう手続きをした後、言われた通り総督府から少し離れた場所にある警察署に向かった。僕はここでバストゥーク市警の特別編隊に入ることになっていた。
 鉱山区にある家には帰る時間がなく、母さんとも何も話さないままだった。時間を見て手紙でも出せばいいと思い、その時はそれほど気にしなかったけれど。
 警察署に行ってナジから受け取っていた身分証明書を見せると、すぐに署内の一室に行くよう命令された。室内に入ると、様々な種族がごちゃ混ぜにされていて、人数はざっと30人くらいだった。もちろんエルヴァーンもいたのだけれど、仲間の姿は見あたらなかった。気にはなったけれど、確かめる術がなかったのでどうしようもない。
「やあ、こんにちわ。これはどういう集団なんだい?」
 僕は近くにいたヒューマンに話しかけた。
「俺も知らねぇよ。あんたはどうしてここに来たんだ?」
「僕は諜報部の下っ端さ。君は?」
「鉱山区で働いていたんだが、今度の騒動で仕事がなくなっちまった。それでここが臨時の警官を集めてるって聞いたからな」
 そういうことだった。向こうのエルヴァーンに聞いてみると挙動不審で捕まった冒険者だったり、そっちのタルタルに聞いてみると密航して捕まった不法入国者だったりした。つまるところ、選択肢を選べない人達が一同に集められたのだ。
 そうこうしている内にヒューマンの警部らしき人がやってきて説明を始めた。
「諸君に集まってもらったのは他でもない。今回のガルカ労働者によるストライキ勃発のため、鉱山地区の治安が著しく低下している。君達には難しいことを要求しない。暴力、窃盗などを始めとした犯罪を防ぐために威力パトロールを行い、現行犯のみ捕縛するように。なお君達は臨時の補助人員であって警官ではない。従って逮捕の権利がない。容疑者を捕縛したら我々の命令を待つのだ。当たり前だが、混乱に乗じて不法を行う者がいた場合は通常よりも割り増しで重罪に処す」
 聞いているだけだと常備人員だけでは足りなくなったということなのだが、悪い読み方をすると、いつ終わるかわからない危険な職務に正規の警官を用いて、死んでしまったり怪我を負ったりした時に払う保証金がなかったのかも知れない。あるいは体裁さえ保てば鉱山地区の治安などどうでもよかったのかも知れない。鉱山区に住んでいるのは主にガルカなので、彼らが不平不満を言ってもこの状況なら聞き入れる必要がないからだ。
「では諸君には早速職務についてもらう。それ相応の保証と給料は支払うので怠ける者は容赦しないぞ」
 僕達は敬礼と整列の方法だけ即席で習うと、立場を示すバッジと警棒を与えられてすぐに鉱山地区へ出動させられた。あまり平和な仕事とは言えないが、一人でクゥダフの巣に行ったことを考えれば100倍くらいは平和的だ。アルファ様が今どうしているのか、少し気になった。
「ではお前達は大通りから居住区へ、お前達は路地街を回ってくれ」
 もしかしたら上官の目を盗んで母さんの様子を見に行けるかも知れないと思ったけれど、僕はまったく違う場所へ回されてしまった。路地街なんて危険な場所は不良だった僕でも滅多に通らなかった場所だ。
「要は不届き者をふんじばればいいんだよな?」
 僕は警察署で最初に話しかけたヒューマンと一緒だった。背は低いけれど体格は比較的よく、腕腕っぷしは申し分なさそうだ。鉱山で働いていたというのは本当なんだろう。
「あ、俺の名前はダイナマイトだ。よろしくな」
 そう言って握手してきた。
「凄い名前だな」
「代々鉱山で働いてきたからな。長すぎるってなら略してダイナでいいぞ。ちなみに親父の名前はツルハシだった」
「僕は・・・ノグだ。よろしく」
「ノグか。変な名前だな」
「僕もそう思う」
 ダイナと二人で路地街を歩く。路地と言っても鉱山地区では重要な道路の一つで、あちこちに露店が経営している。しかし露店と言ってもただの店ではなく、売買が禁止されている作物や食肉、出所が不明確な武器、その手の人間になると麻薬でも手に入るなど早い話が闇市だ。ストライキをしていれば当然、闇の需要は高まるので人も多く、警戒が必要なことも頷ける。
 しかし少し考えてみると肝心の犯罪者はそこら辺で大声を張り上げながら露店を経営している闇商人であるので、捕縛しなければならない立場としては複雑な気分だ。
「ここら辺で起こることと言ったら万引きとかひったくり、後はケンカくらいだと思うけど」
「起こらないにこしたことはないだろ。平和が一番だ」
 この状況を平和と言っていいのか少し迷ったが、もうなんでもよかった。ダイナはすごく適応力のあるやつだった。
「そう言えば、お前はなんでここにいるんだ?」
 ダイナの急な問いに僕は目を丸くしてしまった。
「なんでって?」
「理由だよ理由。なんでこんな危ない仕事してんだ?」
「ああ・・・言ったじゃないか。僕は諜報部の下っ端なんだ」
「嘘つけ。どんなに下っ端でもこんな捨て駒みたいな仕事をやるわけないだろ」
 ダイナの言うことはもっともで、僕は正直に話すことにした。
「実は・・・半分脅迫されてる」
「脅迫!どんなふうに?」
「仕事を断ったら刑務所行き・・・その上、仲間も家族も危ない」
「なんとも切ない話だなオイ。自分を大切にしろよ」
「そうしたいのは山々なんだけど・・・」
 そんなことを話しながらダイナと闇市を歩いた。意外と、事件らしい事件は起こらなかった。ケンカが数度と、酔って店を荒らしていたガルカを二人がかりで押さえつけたぐらいで、人が死んだりすることはなかった。
「これくらいならいつものことだ」
「特に治安が悪いようには見えないな」
 もっと派手なことが起こるのではないかと心配していたけど、大騒動がそう何度も立て続けに起こる方がおかしいのだ。僕は一人納得してダイナと共に勤務を終えた。
 この仕事の間は市警の宿舎に寝泊まりすることができた。とは言っても待遇はおそらく最低で、食事の量は半分、しかも一人の部屋に四人で寝なければならなかった。僕とダイナは相部屋になった二人との激しい戦いの末、ベッドを奪われて床で寝ることになった。
「おいダイナ。起きてるか」
「んー、あんだぁ?」
 夜、僕は横になりながらダイナに話しかけた。
「時々思うんだ。人間ってこう・・・なんであっさり死んだり、なにがなんでも死ななかったりするんだろう」
「んー?」
「いやね、クゥダフの団体さんにガンつけられたのよ・・・」
「そいつは豪気だな」
「あーこれで終わりだなー・・・って思ったら、偶然通りかかった勇者に助けてもらった」
「そいつはツイてるな」
「さらにその後、武装して目が血走ったガルカの皆さんの間を素通りしてきた」
「・・・どういう人生だお前」
「僕は君と違ってさ、働いてなかったんだ。それでもう少しで死刑になるところだったんだけど・・・」
「お前も若い身空で大変だねぇ」
「仲間はみんな逃げてしまったけど、きっと死んでるよ・・・」
「ふーん」
「僕はどこまで生きて、どこであっさり死ぬんだろう?」
「明日かも知れないさ」
 ダイナは僕に背中を向けるように寝返りを打ちながら言った。
「明後日かもしれない・・・」
 ダイナは続けた。
「でも、少なくとも今夜は生きてるだろー・・・っていうのと、これで後十年は大丈夫だろー・・・っていうのも、大差ないさ。神の御心を前にしちゃ、人間のこざかしい計算なんて無駄ってことだな」
 僕は黙って、ダイナの言葉に耳を傾けていた。
「あの鉱山事故でたくさんの仲間が死んだ。でも俺は生きてる。そんでもって死刑になるはずだったお前も生きてる。あれこれ計算するよりは、命ごと神様に預けちまえ。人間の命なんて、せいぜいその程度の価値しかないのよ」
 重いような軽いようなダイナの言葉。だがどこか僕の胸に響いた。
「もう寝ろ」
「うん」
 僕は深い深い眠りについた。こんなに熟睡したのは久しぶりだった。
 まどろむ意識の中で、家族の夢を見た。僕はまだ小さくて、背丈は父さんの膝くらいまでしかなかった。叔父さんがお金を持ってきてくれたので、その日は宴会をしていた。僕はお酒なんて飲めないから、三人の騒々しい談話を聞いているだけだった。
 あれが僕にとっての幸せだったんだろうか・・・?
 たった一つでも幸せな記憶を抱いていれば、人は笑顔で死んでいけるのだろうか。
 でも、まだ死にたくはない気がする。神様に預けた命がもう少し長持ちするように、その時は祈った。

「ほら、起きろ起きろぉ!!」
 翌日、僕達は目が血走った上官のヒューマンにたたき起こされた。
「さっさと勤務につけ!しょっぴくぞ!」
 僕とダイナと、それから相部屋になっていた二人もごそごそと起きて準備を始めた。男の準備なんて五分もかからない。
「なんすかぁ〜、こんな早朝に・・・」
 本当に早朝だった。まだ日の出前だ。
「これから緊急任務についてもらう!」
「緊急?」
「脱税して掘った銀鉱を隠しに行くぞ」
「身も蓋もないぜ!!」
「ガルカにばれたら殺されるだろソレ!!」
 僕達は口々に叫んだが、どうやら無駄だったようだ。
「君らも死にたくなかったらさっさと運ぶように!」
 そう言ってボウガンを突きつけられる。
 僕達が外へ出てみると、宿舎の裏手には本当に銀鉱があった。それも荷台にどっさりで、ざっと一万ギルの値打ちはあったんじゃないだろうか!?
「よーし急げ!行き先は私が指示する」
 上官は荷台に乗り込んで指揮を始めた。僕達は荷台にスタンばって愚痴をこぼしている。
「なんで馬とかチョコボとか使わないのよ・・・」
「なんか言ったか!?」
「いいえ」
 命令を受けた僕達は、商業区を突っ走ることになった。
 早朝、大量の銀鉱を猛スピードで引っ張る男四人、そして荷台にまたがって僕達をひっぱたく警察の偉そうな人。
 果たして商業区の皆さんにはどういう光景に映ったのか・・・あんまり想像したくないよ!
「ちょっと上官!ばれちゃまずいならもっと地味にいきましょーよ!」
「だって面倒くさいから」
「せめて横道にそれましょうよ!どうして大通りを走らないといけないんですか!?」
「だってこの方が速いし、てっとり早いじゃん」
「どういう理屈だ・・・」
 当たり前だが、市街を抜けるには警戒されている門をくぐらなければいけない。そして当たり前だが、この異様な行軍は門番の目に止まった。
「おい、止ま・・・」
 しかし、門番の言葉も上官に遮られる。
「止まるなぁー!!」
 僕達は後ろから鞭で打たれ、止まることもできなかった。門番を蹴散らして門を突破する。
「息をつくな、走れ走れ!」
 さらに鞭で打たれる。
「い、いったいどこまで行くんですか!?」
「とりあえず人目につかないところまで」
 僕達は走って走って走りまくった。なんだかパルブロ鉱山でグレータークゥダフに追いかけられたことを思い出す。果たしてどっちがマシだろうか。
「そこを右!今度は左!はい、橋を渡りますよー!」
 上官はなんだかずいぶん慣れた感じで、行き先を指示していった。
 途中で何度か休み、走り終わった頃には日が傾こうとするところだった。疲れ果てた僕達は死んだように地面に寝転がっていた。
「ご苦労様ー」
 上官は上機嫌に、声高らかに僕達をねぎらった。
「こ、ここどこですか?」
 息も絶え絶え、僕は上官に尋ねた。周囲はグスタベルクの広大な荒れ地から少し変化し、背丈の低い草が生えた谷へ姿を変えている。
「んーっと、コンシュタット高地のちょっと手前かな」
 ひゅー・・・と、谷に風の吹き抜ける音が聞こえた。それが終わった時、僕達四人は絶叫して立ち上がった。
「うわああああ!!思いっきり獣人の支配地域じゃないですか!!」
「その方が安全じゃん」
「安全って、こんなところじゃ隠す場所もないでしょ!?」
「あるわよ?」
 そう言うと上官は近くの岩壁に近寄り、障害になっている岩を片手で持ち上げた。さらに岩壁をさっと切り開く。どうやら模型でカモフラージュしていたようだ。
 僕達が荷台を引っ張って中へ入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
 まずはそこら中に積み上げられた財宝の山、さらに少し奥には悪趣味に飾り立てられた居住空間があり、ベッドなどは王侯貴族のようにシルエットカーテンがかけられている。床には上等そうな絨毯、天井全体には魔法で細工したのか黄金のように光る苔がちりばめられている。
「・・・こ、これは・・・」
 僕達は絶句していた。
「ご苦労様、銀は適当なところに置いといていーわよ」
 なんだかさっきから上官の言葉遣いがおかしい・・・それには四人とも気がついていた。
「あのー・・・ここって本当に共和国政府の・・・うおわ!?」
 ダイナが尋ねようとして驚いた。上官は警察の制服から一転、チェーンで補強された黒装束に姿を変えていた。そしてそこからうかがえる体型は・・・どこからどう見ても女だった。
「ユラです♪よろしくねみんな」
 ユラ!僕達はその名前を聞いてさらに驚いた。というか、騙されていたことに気づいて呆然としてしまった。
「お、おいノグ。ユラって・・・怪盗ユラ・クイーンかな」
「そうだと思う」
「じゃあここって、ユラのアジトか?」
「そういうことになるね・・・」
 僕達は対応に困った。ユラと言えば宝石から庭石までなんでも盗む名だたる怪盗である。時々収穫を貧民街にばらまいたりする義賊行為も有名で、下層市民には人気すらある。しかし警察の下っ端となっている僕達にとっては明らかに捕縛の対象だ。
「え、えーっと・・・逮捕・・・するべきか?」
「無理だと思うな・・・」
 僕達四人は会議を始めた。ユラは呑気に銀の品定めをしている。
「おい!まずは俺達をここに連れてきた責任を取れよ!」
「責任って?」
「バストゥークに帰せ!!」
「どうして私が偶然こき使った警察官を帰してあげなきゃなんないのよ」
「どういう理屈だ!!」
「帰りたきゃ帰っていーわよ。はい地図」
 と、僕達は一枚の地図を渡された。
「よし、帰ろう!すぐに帰ろう!」
「獣人の支配地域なんぞにいられるか!」
 それまで一緒だった二人は息せき切ってアジトを飛び出して行った。僕は一緒に行こうとしたダイナを押しとどめている。
「なにすんだノグ!」
「いや、ここって獣人の支配地域だろ?」
「そうだろ!?逃げようぜ!」
「いや、だから・・・」
 うぎゃあ、とか、ひー、とかの悲鳴が聞こえてきた。間違いなく先に行った二人の声だ。
「ばっかじゃない?獣人の支配地域だったらそこら中にモンスターがいるに決まってるじゃん」
「あの、どうして来る時は大丈夫だったんでしょう?」
 なぜか僕は敬語で尋ねた。
「人数が多かったから、それと銀を担いでたからね。モンスターは光る物が嫌いなのよ。クゥダフが錆びた剣を持ってても真剣を持ってるのは見たことないでしょ?」
「それで・・・どうしたら僕達はここから出してもらえるんでしょうか」
「ようやく自分達の立場がわかってきたみたいね。よしよし」
 ユラ・クイーンはなんだか満足そうに僕達二人の方へ近寄ってきた。
「これから君達は私の人質だから、私の言うことには必ず従うように。逆らったりしたらどっちか片方あっさり殺すわよ」
 恐ろしいことを当たり前のように話すユラ。ダイナは後ろで自分の不運を嘆いて暴れている。
「だぁーいじょーぶよ。取って食やしないから。私だって一人で結構寂しいのよ。言うこと聞いてれば人間並みの扱いはしてあげるからね♪」
 僕はダイナと共に踊った。自分の不運と悲惨な運命を嘆きながら踊りまくった。先に行った二人は見事にモンスターの餌食となり、僕達はこの逃げられない状況の中で踊るしかなかった。ユラは大笑いしながら僕達のタコ踊りを見ていた・・・

 コンシュタット高地は獣人支配であるけれども、人がまったく住んでいないかと言えばそうでもない。高地のあちこちには集落があり、モンスターの襲撃を避けるために柵や堀が備えられている。そして村の外には羊が放牧されていて、バストゥークにとっては羊毛を仕入れることができる数少ない地域として意外に重宝されているのだ。
 だから羊は貴重品だ。盗んだりしたら牧者がシャベルを振り回して追ってくるに違いない。それはもう額に血管を浮き上がらせて狂ったように怒りながら追ってくるに違いない。
「待たんカぁぁぁ!!」
 僕とダイナは盗んだ羊を背負いながら、怒り狂った牧者に追われていた。
「ダイナ、待ったらどうなると思う?」
「食われる!!」
 僕とダイナの二人はコンシュタット高地において羊の密猟者という汚名を被り、今をときめく有名人になってしまった。まさかこんな所でこんな形で名を上げようとは神様も予想外だったに違いない。
 ユラはここにアジトを構えるにあたって一帯の地理を知り尽くしており、地元の人間でも知らない裏道横道を網羅していた。僕達はそれを一夜漬けされ、羊を盗んでは高地から谷へと逃げて牧者を攪乱していた。
「ドコ行きやがったぁぁ!!」
 僕とダイナは息を殺して牧者が去るのを待つ。
「くそ!おいらの大事なメリーナまで・・・いつか捕まえて生皮を剥いでやるからなァ!!」
 牧者は一声吠えて去っていった。僕とダイナは羊を置いて出てくると、しばし罪悪感と戦わなければならなかった。
「生きるためには時として・・・人間たるべき尊厳を捨てなきゃいけない・・・」
「そうだな。その通りだともノグ・・・」
 僕とダイナは泣きながら羊をアジトまで運んだ。そこにはユラが待っていて、いつも決まってこう言う。
「お帰りー♪今日はラム肉のステーキね!」
「今日は、じゃなくて今日も、だろ!」
「いつでもこんなこと続けるんですか?」
 僕の質問には答えず、ユラは慣れた手つきで羊の毛皮を剥いでいく。
「んー・・・君達にはできれば永遠に私の下僕として働いてほしいんだけど」
「断る!!」
「遠慮します!」
 僕達の返答は聞いていないかのように、ユラは細い腕であっさり羊を絞めると解体を始めた。
「そおねぇー、後一週間ぐらいしたらバストゥークへお仕事にいくから、その時に解放してあげるわよ」
 今度は同じように慣れた手つきでラム肉を調理し始めるユラ。どうして料理は自分でするのか僕もダイナも不思議だったが、彼女いわく数少ない趣味の一つらしい。
「後一週間、本当かよ?」
「本当本当、私が嘘ついたことある?」
「最初に変装して僕達を欺いたのはどこの誰?」
 鼻歌でごまかすユラ。アジトの中には香辛料の匂いが充満し始める。
「私がどういう形で指名手配されてるか知らないけど、残酷なことした覚えはないわ。私はお金持ちから取って貧しい人達に分け与えるの。物理学からコショウの量まで、世の中にはバランスが一番大事なのよ?」
 僕達は訝しみながらユラの理論を聞いていた。
「じゃあユラ、ガルカが血と汗で掘り出した銀鉱は盗んでいいのかい?」
 僕がそう尋ねると、ユラは鼻歌を止めて釈明を始めた。
「確かにガルカが掘ったには違いないんだけど、あれは横領品よ。私が盗まなきゃ総督府の丸儲けになるところだったのよ」
「あん!?本当かよ!」
 ダイナが立ち上がって叫ぶ。
「やってることは私も総督府も変わらないわ。みんな自分の利益だけが大事・・・他人のことなんて考えないの。でもそれは貧しい人達も同じだから、私ができるのはお金を平等に分けることだけよ。この世でただ一つ、お金だけが嘘をつかないわ」
 ユラは料理したラム肉をテーブルに並べ始めた。いつもと変わらない材料しかないのに、ユラはまったく違うような料理をいくらでも作って見せた。料理は魔法だという母さんの言葉を少しだけ思い出す。
「ほらほら、冷めない内に食べましょ」
 ユラに急かされて、僕達もテーブルについた。ユラは黒装束から着替えたエプロン姿なのだが、それが妙に似合っていることは僕もダイナも口にしていない。
「しかし・・・帰って大丈夫かな、俺達」
 ラム肉のシチューを口に運びながら、ダイナが呟くように言った。
「大丈夫って?」
「だって、ここでこれだけ悪行を働いておいて、しかも俺達はユラを乗せた荷台を引っ張って検問まで突破してるんだぜ?」
「まあ言われてみれば・・・」
「俺が警察だったら、絶対に逮捕するけどな」
「うーん・・・」
 舌鼓を打っているユラも、これを聞いている。
「じゃあ、どっか外国に行く?」
「俺はそれでもいいけどなぁ、ノグにはお袋さんがいるんだよ」
「そうなんだ。放っておくわけにはいかないよ」
「あらまあ母親思いね。じゃあ大サービスしてお母さんも一緒に移住させてあげるわよ。あんた達には世話になったし、それぐらいなら払っていいわ」
 この申し出には、僕もダイナも顔を見合わせた。
「だってよ、どうするノグ?」
「それもいいかも知れない。あそこは騒がしすぎるし・・・」
 もちろんユラの言うことを完全に信じたわけではないが、ここで嘘をつくほどユラが不義理な人間だとは思えなかった。札束から絵画まで盗む怪盗ユラだが、貧しい者を放っておかない義賊ユラなのだ。
 食事を終えると、僕とダイナは近くにある泉に体を洗いに行く。もちろんユラとは別々だ。
「ここに来てどれぐらいになるかな?」
 水を浴びながら、僕はダイナに問いかけた。
「そうだなぁ。一ヶ月ってところか」
「パルブロ鉱山への出動からずっと母さんに会ってないよ。元気にしているかな」
「鉱山区に住んでるんだよな?金は大丈夫なのか?」
「鉱山での仕事でもらったお金を丸々預けてあるから、まだ大丈夫だと思う。けれどそれも時間の問題だよ」
「俺は一人だから何も心配はないけどなぁ〜・・・ま、きっと大丈夫だよ。信じる者は救われるってな」
「うーん」
 ダイナの無骨な励ましに、僕も少しは元気が出た。今更ながら思うけど、ダイナはいいやつだ。
 体も洗い終え、そろそろアジトへ戻ろうかと思った時、急に地響きが起こって僕とダイナの足下をすくった。
「あ、なんだ?」
「地震かな?」
 二人で何事かと思ったけれど、その後で聞き慣れない音が聞こえてきた。
「これ、蹄の音だよ!」
「そうなのか?」
 僕達は裸のまま、谷の中で少し見晴らしのいい所まで登って行った。すると、驚くべき光景が目に飛び込んでくる。
「騎馬兵だ!軍隊じゃないか!」
「おお、騎馬兵なんて初めて見るぜ」
 僕達が見たのは完全武装した騎馬兵だった。辺りにいるゴブリンを始めとしたモンスターを追い散らし、何か目印のような物を立てている。どの兵も平均的に背が高い。そして顔を覆っている兜には、耳の部分にヒューマンには使用されない加工が施されていた。
「乗ってるのはエルヴァーンだ。サンドリアの騎馬兵に違いない」
「天下無敵のサンドリア騎兵じゃねーか。なんでこんなところに?」
「あいつら、ここを占領するつもりだ」
「獣人支配から解放するのか?」
 僕は思いきり首を横に振った。
「それにしちゃ装備が物々しすぎる。それにここはバストゥークとジュノの交通要地だ。サンドリアが出てくる理由がない」
「じゃあなんだ?」
「きっと羊毛の産地と、軍事拠点の確保だ」
 僕の言葉に、ダイナは少し驚いたようだった。
「羊毛の確保はわかるが、どうして軍事拠点なんだ?」
「繰り返すけど、ここはバストゥークとジュノを結ぶ交通の要地だ。ここを奪えばジュノとバストゥークの喉元を押さえたようなものだ」
「へー、なるほど」
「なるほどじゃない!すぐに総督府に知らせないと!ジュノもバストゥークも危ないんだ!」
「な、なに?」
「すぐバストゥークに戻らないと!ヒューマンとガルカで争ってる場合じゃない。力を合わせて戦わないと僕達は滅んでしまう!」
「そうなのか?」
「でもどうしよう。どうやって戻ればいいんだ?」
 僕は悩み始め、ダイナは困ったような顔で辺りをうろうろし始めた。そこに、とても落ち着いた声が背中からかけられる。
「大変ねぇ、これは」
 ユラだった。忘れていたが、僕もダイナも裸のままだ。
「わああ!」
「うお!?」
「いいからいいから、これは呑気にラム肉パーティーやってる場合じゃないわね」
 そう言って、ユラは自作のコンシュタット周辺地図を僕に手渡した。
「ここからグスタベルクを通って行ったら、犯罪者のあんた達は絶対にサンドリアのスパイだと思われるわ。セルビナへ向けて突破しなさい。そこから船に乗ればいいわ」
 地図を渡されて、僕は戸惑った。
「船って、セルビナの船はマウラに向かうじゃないか。バストゥークには寄港しないよ」
「寄港はしないけど、バストゥークの近くで飛び込めば潮の流れに乗って市街のすぐ近くにまで出られるわ。後は運を天に任せるのね」
 僕は言われて、地図をしっかりと握りしめた。
「ありがとうユラ。僕達は行くよ」
「おい、俺は行くって言ってねーぞ!」
 ダイナがそこで異論をはさんだ。
「ダイナはどうするんだ?」
「そんな命がけ道中に付き合えるか!それに俺はバストゥークが滅びたって知ったこっちゃねーよ。そもそも俺の居場所なんてどこにもなかったんだからな」
 ダイナの冷めた言葉に、僕はがっかりしてしまった。
「そんな、ダイナ・・・」
「お前と違ってこちとら天涯孤独だ!利のない愛国心なんて持ち合わせてねぇ!!」
 吠え立てるダイナに、ユラが一歩踏みしめるように近づいた。さっきから僕とダイナは裸なのだが、もう恥ずかしがっている場合ではない。
「でも、バストゥークがなくなったらあんたはどこに住むのよ?コンシュタットではもう犯罪者だし、難民になってジュノへ行っても、捕虜になってサンドリアに行っても、いいことなんてあるはずないわよ。そんな根性なし、私のところに置いておくつもりもないしね」
 ダイナはそこで口ごもってしまった。
「男だったら命がけで何か一つやってみせなさいよ!ここに座ったまま野良犬みたいに過ごすより、立ち上がって負け犬になっても最後の遠吠えぐらい聞かせろってんだ!!」
 ダイナは黙っていた。黙って考えていた。そして立ち上がって吠えた。
「あーあーわかったよ!!こうなりゃヤケだ!サンドリアの槍でもバストゥークの銃でも持ってきやがれ!!我こそはバストゥークの鉱山労働者ダイナ!!これから歴史に名を刻むぜい!!」
 僕とユラは目で示し合わせ、やった!と心の中でハイタッチした。
「よーし、服を着てすぐに行くのよ。いくらサンドリアが大軍でも、このだだっ広い高地を完全に監視できるわけじゃないわ。私の秘密マップを持っていけば、必ずセルビナまで突破できるわ」
「いや、ちょっと待ちやがれ!仮に高地を突破できてもその先は砂丘じゃねーか!その辺りは凶暴なモンスターが出没することでも有名だろ!?」
「砂丘はともかく突っ走りなさい。名うての冒険者でもあそこを突破できるかどうかは運次第なのよ。これからあんた達がやることが成功するかどうか、そこで運を試されることになるわ」
 僕達は服を着ると、ユラが持ってきてくれた装備を身につけた。僕はリザードの皮鎧、ダイナは
拳法着だった。
「ありがとうユラ。また会ったら必ずお礼をするよ」
「あーもう百倍にして返してもらうわよ」
「世話んなったな!また会ったら落とし前つけてやるよ!」
「よしよしなんでもつけろ」
 僕達は慌ただしくユラの元を駆け去っていった。
「ユラ、元気でね!」
「今度は盗品の分け前をよこしやがれよ!」
 ユラは黙って、手を振るだけだった。
「まったく、騒がしい二人だったよ」
 そんな呟きが聞こえた。それを合図に、僕とダイナの冒険が始まった。

「うおらーーー!!」
 ダイナの回し蹴りがゴブリンに炸裂する。今まで聞いていなかったが、ダイナは鉱山区のガルカから格闘技を習っていたらしい。そう言えば、鉱山区で警察の仕事をした時にずいぶん手慣れていたのを思い出す。
「それ、死ね!」
 僕もユラからもらった斧でダイナを援護する。僕達は地図を頼りに裏道横道を使い、サンドリアの拠点や巡回のルートを避けて一路砂丘へ向かっていた。途中に障害は多かったが、僕達は息もつかずに道なき道を駆け進んだ。
「ダイナ!がんばろう!」
「おう!生きるか死ぬかの賭けなんだ、もう命なんぞ捨ててやるぜ!」
 ダイナの人生論を思い出す。あれこれ計算するよりは、命ごと神様に預けちまえ。僕達は今、命を担保に神様と賭けをしているのだ。
「そこから先は崖だ!一気に飛び降りよう!」
「ヨーレリホー!!」
 崖を登り、崖を飛び降り、沼を進みモンスターと戦い、僕達は山岳兵も顔負けの強行軍を展開していた。
「砂丘はまだか!?」
「もう少しだ!道が切れるぞ!」
 少しずつ草が生えなくなり、岩も砂に変わっていったはずだった。僕とダイナはそれにも気づかないほど必死に走り、ふと足を止めたら目の前は広大な砂丘に変わっていた。
「少し休もう、ダイナ」
「おう・・・」
 僕達は砂丘の陰に隠れ、小休止した。ユラから渡された水筒を交代で飲む。
「砂丘は一気に突っ走れ・・・だったな?」
「うん。この辺りのモンスターは僕達でどうにかる相手じゃない。走って走って走りまくるんだ」
 僕達は小休止を終えると、立ち上がって深呼吸した。
「途中にトンネル状の隠し通路がある。そこで一息つこう」
「そこに到達するまでは死んでも止まるな、だな?」
「その通り」
「オーケー!!」
 ダイナがカウントダウンを始める。
「3・・・2・・・」
 鼓動が早くなる。目の前に広がるのはひたすら砂丘。その先には凶暴なモンスターが手ぐすね引いて待っている。
「1・・・ゼロ!」
 ダ!と、砂を蹴る音と共に僕達は発進した。そして走って走って走りまくった。
 途中でゴブリンやリザードやコウモリなんかが襲ってきたけど、体から流れる血も無視して走った。
 なぜか幼い頃の記憶が蘇る。父さんも母さんもいなくて、いつも寂しかった夜。けれど、必ず誕生日を祝ってくれた。決して帰れない日々だ。
「ノグ、もう少しだ!」
「父さん!僕を守ってください!」
 トンネルへ行くには砂丘の突出した部分を飛び降りなければならない。すごい高さだが、下は厚い砂なので悪い落ち方をしなければ助かる可能性は十分にある。それに命の賭け事ならもう恐くなかった。
 モンスターの大群に追いかけられ、僕達の目の前に砂の崖が迫る。
「いくぜノグ!」
「うわー!」
 僕達は飛び上がり、砂丘から飛び降りた。落下の時間がずいぶん長く感じられたのを覚えている。
 まるで脳を直接ゆさぶられるような感覚。墜落した僕はそのまま意識を失ってしまった。
 
「俺のことを忘れてないか?」
 そんな声が・・・聞こえたような気がした。
 夢を見たのだ。そこは決して帰れない食卓で、父さんや母さんが笑顔で僕と一緒にいる。
「だから、俺のことを思い出せ」
 三人だけではなかった。親切な人がいた。いつも、どこからかわからないがお金を持ってきてくれる人がいたはずだ。
「それ、俺だろ」
 ずいぶん若かった気がする。僕のことを弟のようにかわいがってくれた。
「目を覚ませ・・・」

 目を開くと、僕はダイナと一緒にトンネルの中で眠らされていた。ダイナも僕と同じようにのびたようで、横に寝かされてうなされている。
「目が覚めたか?」
 声がして、僕は振り向いた。
 色黒の、大柄なエルヴァーン。筋骨たくましく、その肉体は幾多の戦闘を経てきたものであることを実証している。しかし、同時になぜか懐かしさを感じた。
「うなされていたぜ」
 この人はサンドリアの騎士ではない。僕は直感的にそれを理解していた。
「父さん、母さんってな・・・誰か忘れてないか?」
 懐かしく感じたのは、おそらく声のせいだ。
「・・・叔父さん!?」
「お兄さんだろうがぁ!!」
 僕は叔父さんに蹴り飛ばされた。それは忘れもしない、リョー叔父さんだった!
「叔父さん、どうしてこんなところに!?」
「てめーらがトンネルに飛び込んできたから何事かと思ったぜ」
「こんなところで会えるなんて!」
「よかったな。だから俺のことはお兄さんと呼べ」
 叔父さんは焚き火に短剣をかざしていた。
「おじ・・・兄さん、冒険者にでもなったの?」
「いや、このトンネルを通る人間から交通量を取ってる」
「え?誰かの所有なの?」
「いや、勝手にふんだくってるだけだ」
「たかりじゃん・・・」
 うなされているダイナはとりあえず置いておき、僕は叔父さん・・・ではなく兄さんの横に座った。
「今度はこっちから聞くぞ。そこのヒューマンと一緒に何をしに来た?」
「うん、実は・・・」
 僕は兄さんのことを完全に信用していたので、洗いざらい何もかも話した。
「ひゃははははは!!」
 それを聞き終えると、兄さんは高らかに大笑いを始めた。モンスターが寄ってくるのではないかと恐れたが、トンネルへの侵入者はない。
「はは・・・ナシング、お前も男になったんだなぁ」
「バストゥークが大変なんだ」
「んー、そうかそうか」
 兄さんは立ち上がって、短剣を素振りする。 
「お前ら家族にはずいぶん目をかけてきたけど・・・俺がドジ踏んでとんずらしたらバストゥークはそんなことになってんのか・・・」
 兄さんがどういう方法でお金を得てきたのか、ここでは聞かなかった。
「僕達はセルビナへ行くよ。兄さんは・・・力を貸してくれないのかい?」
 僕は懇願するような目で兄さんを見た。ここからセルビナへ向かう道中、強い味方はどうしても必要だった。
「そうだな・・・」
 兄さんは素振りをやめて、僕のことをじっと見た。そして決心したように口を開く。
「まずはここの交通費を払え」
「・・・え?」
 僕は絶句した。
「ほ、本気で言ってんのかい兄さん!?」
「大マジだ」
「お金なんてあるわけないだろう!」
「じゃあ盗賊ユラを紹介しろよ」
「無茶言うな!」
 僕がそう言うと、兄さんはやれやれ・・・と言った仕草を見せた。
「そうか、払えないか」
「払えないとも!」
「じゃあ・・・」
 兄さんが僕の喉元に短剣を突きつける。あまりの早業に僕は反応できなかった。
「じゃあ・・・」
「じ、じゃあ・・・なに?」
「代償として・・・俺も話に乗せろ」
 兄さんが短剣を仕舞う。
「一緒に来てくれるの!?」
「ははは、かわいい甥っ子が命がけの人生ショーをやるってんだ。ここで助けなきゃ男の名が廃るってもんよ」
「ありがとう兄さん!」
「レッツ密航。そんでもって大海にダイブ。こうなりゃ俺も死ぬかも知れねぇ」
「大丈夫!なんとかなるよ!」
「はは・・・なんとかなる、か。そんな言葉、久しく聞いてなかったねぇ・・・」
 その夜は、兄さんと昔話に花を咲かせた。ダイナには悪かったけどずっと寝ていてもらった。久しぶりにあった肉親に、僕は喜びを隠せなかった。
 そしてここでリョーという人物に出会えたことは、本当に神様からのプレゼントだったんだろうと思う。少しずつ、僕という人間がやろうとすることを神様も認めてきてくれたのかも知れなかった。
 夜が明けて、僕達は早朝から出発することにした。先頭はリョー兄さん。その後を僕、そしてダイナが続く。
「おいリョーさん、本当に大丈夫なのかい?」
 出会ったばかりで警戒が解けないダイナが、訝るようにそう言った。
「敵は俺が蹴散らす。お前達は自分の身だけ守れ」
「ダイナ、兄さんなら大丈夫だ。信頼して」
「ノグの兄貴ねぇ・・・ちっとも似てないけどな」
 トンネルを出ると、まずは砂浜に生えるヤシ科植物の密林に出くわす。兄さんは何も言わず、目だけで合図すると僕達に先んじて密林の中に飛び込んだ。
「そこだ!」
 兄さんがいきなり叫び、茂みの中を短剣で突き刺した。するとそこから血が噴水のように飛び出す。見ると、周囲には巨大な蟹が寄り集まって来ていた。
「走れ!走れ!」
 僕とダイナは言葉もなく、泣きそうになりながらリョー兄さんの後に続いて走った。兄さんは視界の悪い茂みの中でも確実に、襲いかかってくる敵をしとめていく。
「密林が切れたら砂浜だ!魚に気をつけろ!」
 走って走って、ようやく密林が切れる。砂浜が目の前に広がるが、安心したのも束の間、いきなり岸から巨大な魚が飛び出してきて兄さんに襲いかかった。
「兄さん!」
 兄さんは短剣で魚の喉元を何度も切り裂いたけれど、あまりに大きいので一撃では決まらない。僕とダイナも加勢して、なんとか魚を戦闘不能にする。
「休むな、行くぞ」
 兄さんは傷だらけにも関わらず、休むことがなかった。僕達も遅れるわけにはいかず、兄さんに続いて走る。
 途中で何度も、見たこともないようなモンスターに襲われた。兄さんは血まみれになりながら僕達を守ってくれた。
「うぐ!」
 しかし、途中でついに止まる。グールに襲われ、深手を負った兄さんは足を止めて応戦しなければならなかった。
「兄さん!」
「リョーさん!」
 僕達は参戦しようとしたけれど、兄さん自身に止められてしまった。
「行け!お前らがいても邪魔なだけだ!」
「でも!」
「うるせえ行け!!」
 僕は兄さんに追われるように、そこを離れなければならなかった。後ろからはグールとの激しい剣撃が鳴り響く。どうか兄さんの断末魔だけは聞こえませんようにと必死に祈りながら、僕とダイナはセルビナへと駆け込んだ。
 セルビナへたどり着くと、身分を確認する前にまず保護される。門は屈強なガルカの戦士と魔道師が守っていて、そう簡単には突破されない。
「兄さんを助けてくれ!」
 僕はなりふり構わずそう叫んだ。
「砂浜で置き去りになってるんだ!」
 しかし、とても砂浜には繰り出せないと言われた。
「そんな・・・」
 しかし数分後、門番が驚きの声を上げる。
 兄さんが血まみれになって、セルビナの門へやってきたのだ。
「兄さん!」
 僕はそう叫ぶとすぐに駆け寄り、兄さんを肩に担いだ。兄さんはセルビナの冒険者救護所に運ばれると、すぐに白魔道士によって治療された。
「兄さん、大丈夫だよね!?」
「大丈夫だ・・・ここの白魔道士、腕だけは確かだ・・・愛想は悪いけどな」
 僕は頭に嫌な頭痛を覚え、目眩を感じるほど混乱していた。
 兄さんの傷は最高峰の白魔法によって治療され、どうにか傷口はふさがった。しかし、とても戦闘には耐えないという。
「残念だな・・・密航とダイブには付き合えねぇ・・・」
「ごめんよ兄さん。無理を言ったから」
「お前のせいじゃねぇ、ノグ。お前が男になるってのに立ち上がらなかったら、俺は兄として大失格だ。自分のためにやったんだよ・・・結局な」
「兄さん、そんなこと言って」
「いいからよ。ほら、午後の船に乗るんだろ?密航するんだから、今から準備しておけよ」
 すると、ダイナが申し訳なさそうに寄ってきた。
「そのことなんだが」
「どうしたの、ダイナ」
「これ」
 ダイナが金貨をじゃらじゃらと袖口から取り出した。渡航費を払っても余るほどの額だった。
「な、なんだこれ!?」
 もちろん僕は驚いた。兄さんも驚いている。
「ユラのやつ、こっそり俺の袖に隠してやがった。本当はネコババしちまおーかなーと思ったけど、美しい兄弟愛を前にするとそうもいかねーな」
「これだけあれば船に乗れる」
 僕は金貨を持って兄さんの方を振り返った。
「けけけ、俺も一緒に船旅としけこみたかったぜ」
「兄さんの治療代も払っていくよ。お礼にも・・・」
「礼なんぞいらねー!俺は男の誇りで血を流したんだ!誇りを金で汚すな!」
「う、それもそうか・・・」
 兄さんは一声吠えると、そっぽを向いてしまった。
「ほれほれ、もう俺のことはいいからさっさと行っちまえ。話してると傷に染みるぜ」
 僕は兄さんの手を取って、感謝の言葉を述べる。
「ありがとう兄さん!いつか必ずお礼と、それから宴会をやろう!」
「・・・そいつぁいいな」
「約束だよ!」
「おう、約束だ」
 それだけ言うと、僕はダイナと一緒に救護所を出た。
「男になりゃあがった」
 兄さんの呟きが聞こえた。僕自身は、男になるならないというのはよくわからなかったのだけれど。

 僕とダイナがセルビナでまず買ったのは羊の革袋だった。これは水筒にも使えるけれど浮き袋にもなる。海へ飛び込むには必須のアイテムだろう。
「ユラさんがお金をくれてよかった」
「実にその通りだ」
 そして船のチケットを買うとほとんどお金は残らなかったけれど、構うことはない。海へ飛び込むのに余計な装備はいらないからここで売ってしまったし、残ったお金だって本当なら捨ててしまいたかったほどだ。
「生きて土を踏めるかな」
「お前のツキを信じるよ、ノグ」
 最後に兄さんの顔を見ておこうかと思ったけど、やめておいた。兄さんの言う男の誇りに傷がつくような気がしたからだ。
 午後の船を待つ時間、僕とダイナは少し言葉を交わした。
「なあノグ、えらいことになっちまったよな」
「後悔してるのか?」
「ちょっとな。でも、ここで手柄を立てれば俺だって惨めな生活から抜け出せるかも知れねぇんだ。がんばるさ」
「がんばって海へ飛び込む?」
「ははは・・・ダイブだ!」
 ダイナは素手で、短剣を振る兄さんの真似をして見せた。僕はおかしくて、笑った。もしかしたらこれが最後の会話になるかも知れないと、お互いにわかっていた。
 僕達はこれまでのことを回想しながら、船が来るまで笑い合っていた。ユラに誘拐されたこと、コンシュタット高地で密猟に手を染めたこと、砂丘を突っ走ったこと。どれもこれも笑えることばかりだ。
「あ・・・船が来たぜ」
 ダイナの言葉。僕は海の方へ目をやった。
 人を乗せる巨大な魚、機船がうなりを上げて入港してきたところだった。
「なあノグ、これに乗ってウインダスまで逃げないか?」
 ダイナがそんなことを言う。
「それもいいね」
 僕達は冗談を言い合いながら、船へと乗り込んだ。
 本当にウインダスまで逃げたかった。何もかも捨てて逃げたかった。どうして飛び込んで陸地を目指すなんて偉業に挑まねばならないのだろう?今になって考えてみると不思議だった。しかし、僕はやらねばならない。
 出航するまでの間、客は船室で待つ。甲板では水夫が最後の作業を行っているはずだ。
「なあ、ノグ。逃げないか?」
 ダイナがまた、そう問いかけてきた。
「いいや」
 僕はきっぱりと言った。
「逃げないさ」
 船は出航した。

 甲板に出ると、潮風が体を撫でる。ここまでの強行軍で傷だらけになった体に少し染みたが、それほど気にはならなかった。
「綺麗な景色だな・・・」
 僕はダイナと二人で甲板の手すりに肘を乗せる。船からの眺めはひたすら海、水平線の彼方には何も見えない。
「なんか、鳥にでもなった気分だぜ」
「それはいいなぁ」
 二人でまた他愛のない会話をする。前人未踏の大冒険を前にしているのだが、直前になってしまうとなぜか二人とも落ち着いていた。
「お前と会ったことが幸運なのか不運なのか・・・答えが出るな」
「そうかも知れないね」
 僕達は余計な荷物も装備もみんな捨てていた。ここまで持ってきて最後まで悩んだお金も、やっぱり捨ててしまった。
「船ならあっと言う間だぜ・・・」
「灯台が見えたら、人生ごと飛ぼう」
「人生ジャンプだ!」
「人生ジャンプ!」
 僕とダイナはハイタッチした。戦友同士、最後のやりとりだ。
 それから数分、二人とも無言だった。ダイナも僕も、やっていたことはきっと同じだったろうと思う。これまでの人生を振り返っていたのだ。
 寂しかった幼児時代、ケンカに明け暮れた少年時代、突如として襲った波乱、そして冒険・・・
 今となっては何もかもが懐かしく思えた。
「ノグ、グスタベルクの灯台が見えたぞ」
 ダイナの言葉に、心臓の音が最高潮に達する。
「どっちが先に行く?」
 ダイナに言われ、僕は無言で手すりを乗り越ると素早く海面に飛び込んだ。
「っしゃあ!人生ジャンプ!!」
 ダイナも続いて飛び込む。人前未踏の冒険の始まりだ。
 まずは決死の覚悟で泳がねばならない。機船のスクリューに巻き込まれてしまうからだ。スクリューが間近に迫ると、命の危険を察知して心臓が速く鼓動する。速く泳げと心臓が命令しているのだ。
「やった!」
 どうにかスクリューは免れた。
 そこからは潮の流れをつかむのだ。バストゥークへ向かう潮を逃したら、もう命はない。僕はダイナがいるかどうか確認することもできず、必死に潮の流れを求めて手足を動かした。
 兄さんの声が聞こえたような気がした。男になりやがれ!と。
 男になるということがどういうことなのか、その時はわかった気がした。これを乗り越えれば、僕はきっと男というものになっている。
 後のことはよく覚えていない。少しずつ灯台が近くなってきたことだけが鮮明で、後は無我夢中だった。
(お前と会ったことが幸運なのか不運なのか・・・答えが出るな)
 ダイナの言葉を思い出す。答えが出るのだ。僕達が神様との賭けに勝てるかどうか。
 パルブロ鉱山ではアルファ様、砂丘ではリョー兄さん、神様はことごとく助けてくれた。
 それがただの余興なのか、それとも僕達を本当に生かすためなのか、答えが出る。
 潮の流れは、恐ろしく速かった・・・

☆☆☆

 父さんも母さんも、帰りが遅かった。僕はいつも一人ぼっちだった。
 鉱山地区の主な住民はガルカで、肩身も狭かった。僕はいつかこんな家を抜け出してやると、幼心に誓っていた。
「ようナシング!元気でやってるか?」
 時々お金を持ってきてくれるリョー叔父さん。
「はあ、まったく疲れたよ」
 いつも難しい顔をしていた父さん。
「いじめられたの?大丈夫だった?」
 帰りが遅かったけど、いつも僕を心配してくれた母さん。
「大丈夫!?」
 母さん・・・
「ナシング、大丈夫!?」

「あ」
 目が覚めると、母さんが目の前にいた。僕はこれまでのことがすべて夢で、ずっと家で寝ていたのではないかと錯覚した。しかし肺から最後の海水を吐き出し、その可能性も却下される。
「ああ、ナシング!よかった!」
 母さんが僕の手を取って泣いている。
 僕がいたのは家ではなくバストゥークの病院で、僕は裸にされてベッドに寝かされていた。
「ダイナは・・・?」
 頭痛のする頭を振ってダイナを探すと、すぐ横のベッドで寝ていた。僕達は目だけで合図すると、どちらからともなくにやりと笑い合った。
 僕達は港の防波堤に打ち上げられたらしい。水を飲みすぎ、潮流に踊らされたせいで気を失っていたのだ。すぐに発見されて病院に運ばれたが、助かるかどうか微妙だったらしい。
「神様の賭け・・・」
 ダイナが呟く。
「俺達の勝ちだな」
 僕は笑って、それに応えた。
 体はまだふらついていたけれど、僕は立ち上がらなければならなかった。
「母さん、僕は行かないといけないんだ」
「どうして、どこへ行くの?」
「ここでは話せない。総督府まで行かないと」
 母さんは目を丸くしていたけれど、僕は強引に進んだ。母さんと話もしたかったけれど、今は国家の危機だ。目の前にある大手柄、それに神様との賭けに勝ったことで、僕の心はいやがおうにも沸き立っていた。僕が立ち上がるとダイナも続き、二人で総督府を目指す。
「許可のない人間は通せない」
 門番に止められたが、ダイナが叫んで応戦した。
「ああ!?国家の危機を目の前にして止めようってのかよ!ここにいるのは諜報部のノグだ!ナジ閣下に問い合わせやがれい!!」
 すぐに問い合わせられると、僕達は諜報部まで通された。
「一体どうしたことだ!?臨時警官に任命すればいなくなる!コンシュタットでは密猟騒ぎ!最後に防波堤に打ち上げられる!洗いざらい話さんと殺すぞ!!」
 殺気立っているナジに、僕は何もかも話した。
「貴様、罪を逃れようとでたらめを言ってるのではないか!?」
「罪から逃れたくて機船から飛び込むか!?」
「盗賊ユラに誘拐されたはいいが、高地にサンドリア兵が来たというのは疑わしいぞ」
「今すぐグスタベルグに部隊を展開するんだ。コンシュタットに続く橋を取られたらこちらの負けだ」
「そんな話をすぐに信用するわけにはいかん」
「いいぞ別に。後から責任問題で首を斬られるのはあんたなんだからな」
「なに?」
「僕は今すぐ市街でこのことを触れ回ってもいいんだ。本当のことなんだからな。それで、対処が遅れたことに対する責任は誰が取るんだ?」
「脅迫する気か!?」
「こっちは首だってなんだって賭けてもいいんだ。コンシュタット高地にサンドリア兵が展開していたのは本当だ」
「・・・むう」
「さあどうする。とびきりの情報を信じて出世するか、それとも疑って首を斬られるか」
「む・・・」
「どっちだ?」
 ナジは苦渋の決断を迫られ、おそらく彼の人生の中でそうはないであろう一大決心をした。部隊の展開が決まったのだ。
 僕とダイナは水先案内人ということで同行することになり、装備が用意された。今度はかつてのような中古品ではなく新品だ。チェーンメイルと斧を持つと、格闘武装したダイナと合流してバストゥークの門を出た。
 戦士が五名、白魔道士が三名、黒魔道士が二名、シーフが二名で合計12名の一個中隊だ。隊長を務めるのは共和国兵団の騎士アヤメ。そして白魔道士の部隊と会ってみたら、なんとアルファ様が加わっていた!
「勇者様!」
「お久しぶりですね」
「勇者様がいれば百人力です!」
「ありがとう。このメンバーには冒険者が何人か加わっているんですよ。隊長はバストゥークの士官ですけどね」
「なんにせよ・・・あ、すみません。ミスリルを返せないんです」
「何かあったんですか?」
「海に飛び込む時にどうしても持っていけなくて・・・しかたなくセルビナの町長に預かってもらっています」
「いいんですよ。お気持ちだけで十分です」
 アルファ様は笑顔で応えてくれた。やっぱりこの人は勇者だろう。
「おい、あの美人は誰だ?」
 後からダイナと合流した後、そう聞かれた。
「僕の勇者様さ!憧れなんだ!」
「ふーん、羨ましいね」
 雑談もほどほどに、隊長のアヤメという人がやってきた。黒髪の長髪に、同じく黒い切れ気味の瞳。少し恐い印象を受けるが、それを差し引いても凛々しく立つその人は大変な美人だった。説明を求められた僕は舞い上がってしまって、少しだけ尻尾を振っていた。
「兵を見たのはコンシュタットでだけです。後は見ていませんが・・・」
「橋を渡られたら一巻の終わりだ。急ごう」
 即席でチョコボの乗り方を習い、中隊は出動を迎えた。
「中隊、出撃する!遅れるな!」
 アヤメは手足のようにチョコボを駆って進む。他の兵士達も慣れたものだ。僕とダイナはへろへろになりながらなんとかついていった。
「ん?」
 橋まで徒歩だと約一日かかるが、チョコボなら数時間だ。出撃してから約三時間後、僕達はサンドリアの斥候に出くわした。
「シーフと魔道士はチョコボから降りろ!戦士達は私に続け!」
 こちらもすでに発見されていたので、アヤメは迷うことなく攻撃を決断した。
「シーフは騎馬の足を切れ!黒魔道士は落馬した者を焼き払うのだ!」
 僕とダイナも遅れながら、チョコボを降りて戦線に参加した。相手は六名、こちらの半分だ。
 アヤメと戦士達は騎馬と激しい戦いを繰り広げている。僕とダイナはシーフに混ざって敵の馬を攻撃した。落馬した騎兵はすぐさま黒魔法によって焼き払われ、すぐに敗走した。
「止まるな!橋まで一気に走るのだ!」
 すぐチョコボに乗り直し、橋を目指す。すると敵はすでに橋を渡って陣地を設営している最中だった。もしも僕達の報告がなかったら、橋はすでに奪われていだたろう。
「火だ!黒魔道士!敵の陣地に火を放て!」
 まだ設営中の陣地に火が放たれ、準備されていた資材に燃え移ると大変な火事になった。
 急襲されたサンドリア兵はこちらより多勢だったが、大混乱に陥いり、まともな抵抗はできなかった。この襲撃によって陣地は焼き払われ、サンドリアの先鋒隊はコンシュタットまで逃げていった。
「魔道士は魔力を練って崖を落とせ!他の者は陣地の設営にかかるのだ!」
 黒魔道士によってコンシュタットへ続く崖が落とされ、道が塞がれた。僕とダイナは陣地の設営を手伝った。騎馬が通れないように堀を作り、さらに進入を妨害するための柵が設けられる。もちろん、白魔士は負傷者の手当だ。
 敵の存在が明らかになったことで、すぐに援軍を要請するためにシーフが使者としてバストゥーク本営へ走ったが、援軍が駆けつけるのは翌日になるということだった。
「敵は夜襲をかけてくるぞ!寝ずに待て!」
 初戦こそ圧勝したが、これからの死闘は免れなかった。敵の大軍を予想して、こちらの緊張も高まる。陣地を少しでも頑強に構築しようとしたが、アヤメはほどほどにして休んでおくようにと言った。
「夜は長くなるぞ」
 その言葉は重く、僕とダイナの胸に沈んだ。
 陽が暮れ、次第に夜の帳が降りる。僕は敵の攻撃はないのかな・・・?と甘く予想して陣地の中で休んでいた。
 しかし、夜の沈黙は突如として破られる。
 凄まじい爆発音がしたと思う。敵の黒魔道士が、こちらが崩した崖を切り開いているのだ。
「応戦しますか!?」
 黒魔道士の隊長がアヤメに指示を請うた。
「するな!魔力を温存しろ!」
 突破口が開かれると、一斉に騎馬隊が襲ってくる。
「黒魔法!放て!」
 アヤメの一言で黒魔法が放たれ、敵の騎馬隊をなぎ倒す。しかし勇猛果敢なサンドリア騎馬兵は、後から後から怯むことなく立ち向かってくる。
「弓!」
 今度はアヤメも自ら弓を取って狙撃を開始する。僕も渡されていたボウガンを取って、騎馬兵に狙いをつける。
「当たれ!」
 僕の一矢は見事に騎馬兵に命中し、コントロールを失ったその騎馬は道を逸れて橋の下へと落ちていった。
「やった!」
「油断するな!次の矢をつがえろ!」
 僕が矢をつがえるのに手間取っていると、今度は敵の弓兵が攻撃してきた。僕は足に矢を受け、痛みに悲鳴を上げて倒れてしまった。
「大丈夫か!?」
 近くにいたダイナが駆け寄り、刺さった矢を折ってくれた。
「大丈夫だ!応戦するんだ!」
「お、おう!」
 僕は次の矢をつがえ、発射した。しかし今度は当たらない。
 そうこうしているうちに敵の騎馬兵は陣地に肉薄し、柵に鉤縄をかけて取り除こうとした。しかし堀に引っかかってそう簡単にはいかなかった。
「黒魔法!放て!」
 黒魔法の第二撃が放たれる。再度、敵の騎馬兵をなぎ倒す。しかし今度は敵の魔道士も応戦した。敵は炎でこちらの柵を焼き払ってしまった。
「くそ!」
 燃えた柵を突破して、一騎のナイトが果敢にも陣内に突入してきた。深く切り込んできたそのナイトによって、後方にいた白魔道士が一人やられてしまう。すぐに陣内の戦士によって始末されるが、白魔道士がやられたことで全体の士気に影響してしまった。
「各自!応援が来るまで独力で奮戦しろ!」
 アヤメは焼き払われた柵の部分にチョコボで乗り入れると槍を振るい、進入しようとする騎馬兵を相手に壁となって戦った。また敵の魔道士が柵を焼き払おうとしたが、今度は味方の魔道士がブリザドで相殺する。
 しかしそんな必死の応戦も空しく、相手の物量にはかなわなかった。ついに柵がもう一つ、複数の騎馬によって取り除かれてしまったのだ。これに戦士達は意を決し、全員が陣地を出ての応戦となった。
「お前達は魔道士を守れ!!」
 アヤメは僕とダイナにそう言うと、自分もチョコボを駆って陣地を出た。大乱戦を後にして、僕とダイナは魔道士達の守りについた。
「勇者様、僕は死んでもあなたを守ります」
「弱気なことを言わないで。生きてください」
 すぐに敵の一騎が魔道士に狙いをつけて襲ってきた。僕は必死に応戦したが、サンドリアの騎馬にかなうわけがない。蹴散らされ、さらに黒魔道士が一人やられてしまった。
「くそ!」
 僕はがむしゃらに向かっていったが、敵の槍に肩をえぐられる。
「う」
 倒れた僕に、止めの一撃が振り下ろされる。
「くそう」
 僕は弱気にそう吐くと、死を覚悟した。
 騎馬の動きと燃えていく柵が、やけにスローモーションに見えた。
「うおらぁ!!」
 しかし、間一髪のところで救われる。ダイナの跳び蹴りが無防備だった騎馬に炸裂し、気を失った騎兵は落馬する。
「大丈夫か!?」
「血が止まらない・・・これまでかも知れないよ」
「大丈夫だ!味方が来たぞ!」
「え?」
 すでに時刻は深夜を回っていた。味方の援軍は要請を受けた後、夜行軍で駆けつけてくれたのだ。
「援軍の数は!?」
「わからん!だが無敵の兵隊だ!向こうがサンドリアのナイトなら、こっちにはバストゥークのナイトがいる!」
「バストゥークのナイト?」
 ストライキを一時中止して駆けつけたのは、サンドリアのナイトも恐れるガルカのモンク部隊だった。その数はおよそ二十、すぐにチョコボから降りて戦線に加わると、彼らは凄まじい力を発揮した。
「ガルカの怒り、思い知れ!!」
 ガルカの拳は馬を昏倒させ、騎士の鎧も砕く。その圧倒的な強さに崩れかけたサンドリアの戦線に対して、アヤメは戦士達に一時後退させると隊列を組み直させ、突撃作戦を敢行した。
 これによってサンドリアの騎馬兵は壊滅し、数少ない魔道士は勝手に逃げてしまった。
「勝った・・・勝った!」
 アヤメの勝ち鬨に、全軍が応える。特にガルカの咆吼は天にも届くようだった。

 士気を取り戻した僕達はガルカが運んできた資材によって、より頑強な陣地を設営し、度重なる敵の夜襲に何度も耐えた。そして第二、第三と援軍が送られてくる中、共和国本営はついに反攻作戦を企画した。
 実に100名におよぶ戦力を投入し、コンシュタット高地の谷を占領するというのだ。
 高地の手前に位置する谷は複雑に入り組んでいて、攻めるに難く守るに易い。しかしこれは敵にも言えることなので、作戦は慎重に慎重を期さねばならないということだった。
 先だって斥候に命じられた僕とダイナは、迷わずユラのアジトへ行って協力を仰いだ。
「来ると思ってたわ。これが敵の布陣図よ」
 僕とダイナは大喜びでそれを受け取ろうとしたが、ユラはひょいっと引き戻した。
「で、物は相談なんだけど私の前科を取り消して欲しいのよね」
「ユラさん、それはちょっと・・・」
「ヤならいいのよ。国家存亡の危機に一人の前科をケチるのね」
 これには困り、僕達はアヤメ隊長を引っ張ってきてユラと交渉させることにした。しかし失敗だった。女性同士の議論というのは議論にならない。すぐケンカになってしまい、僕とダイナは必死で二人を引きはがした。
 怒ってしまったユラだが、バストゥーク全域における通行証で手を打つことになった。それでもどこか不満そうではあったけど。
 これによって敵の詳しい布陣を知ることができたバストゥークは、隊をいくつにも分け、敵を誘い出しては弓や魔法で各個撃破するというゲリラ戦を展開した。この作戦に面食らったサンドリアだが、彼らの戦意と抵抗も凄まじく、包囲されても決して退かずに最後の一兵になっても戦った。
「我こそはサンドリアの先陣コボリ!敵将よ、こざかしい策など弄さず私と一対一で戦え!」
 包囲されたサンドリアの隊長が、僕達に向かってそう吠えたてた。
「よし、俺が相手だ!」
 すでに援軍として一緒に戦っていたナジがそれに応じた。チョコボを駆ってコボリと名乗った隊長に向かっていく。
「共和国兵団部隊長、ナジだ!勝負に応ずるぞ!」
「潔い!」
 あんまり認めたくなかったけれど、ナジは強かった。とても僕では手の届かない戦いが、一騎のナイトとチョコボによって繰り広げられた。ナジはバストゥークでも屈指の剣士だったけど、やはり個人の武力ではサンドリアのナイトが強い。一騎打ちともなれば、それはなおさらだ。
「そら!」
 一分ほど戦ったところで、ナジは剣を弾かれた。その勢いで落馬してしまう。
「死ね!」
 ナジに止めの一撃が振り下ろされようとした瞬間、こちらの狩人がコボリを射た。死にはしなかったが鎧に穴が空き、傷口から血が流れる。
「ち、一騎打ちに加勢するとは無粋な。この決着は必ずつけるぞ!」
 ナジが負け、動揺したこちらの包囲をコボリは悠々と脱出していった。
 最終的には勝ったものの、このような場面があちこちで展開され、サンドリア強しと僕達は再認識させられた。一方的な戦いになると思っていたこちらは手ひどい損害を被り、この戦いによって両軍ともに疲弊した。
 予備兵力である民兵まで投入されようかとしたその時、永世中立国であるはずのジュノ大公国がバストゥーク側へ秘密裏に援軍を送った。
 ジュノ大公国が絶対的な中立を保っていられたのは、そこが両大陸をつなぐ商業的な要地であったことも原因としてあるが、何よりも多くの種族が流入することによって発展した兵器と戦術の数々、そして絶え間なく研究され続ける戦争学と兵法がその中核だった。
 その時に援軍として送られてきたのはその中でも精鋭中の精鋭、ホーリー将軍率いる暗黒騎士の大隊だった。
 僕も今回の戦争の立て役者として一目だけホーリー将軍にお会いしたけれども、これはもう神話に出てくる竜兵のようだった。白銀の鎧に大鎌を携えたその姿は神秘的で、人間に仕えるより神に仕えた方がいいとさえ思えるほどだ。
 ホーリー将軍も加わり、士気を盛り返したバストゥーク軍は谷を奪還しようとするサンドリアの攻勢を幾度も挫いた。度重なる敗走にサンドリアは疲弊し、ここは高地に登って一気に勝負を決しようという意見も出始め、本営も勢いに乗っていた。
 しかし、たった一人の刺客によってその希望は挫かれることになる。
 その頃になると僕も戦いにすっかり慣れ、ダイナやアルファ様と一緒にアヤメ隊長の側近として役目を果たしていた。その日は戦いもなく、みんな勝ち戦に浮かれて警戒も迂闊になっていた。
 一人の死神がその隙に乗じて入り込み、たった一人で夜襲をかけたのである。
「なんだ!なにが起こった!?」
「敵の夜襲です!」
 味方は狭い谷の中で同士討ちを起こし、事態の収集はなかなかつかなかった。そうこうしているうちに、なんと背後の橋を守る砦が炎上した。
「どういうことだ!敵はどこだ!?」
 僕はアヤメ隊長に率いられ、背後の砦まで向かった。
 すると、まるで炎上する砦に照らされるように一つの影が浮かび上がる。
「・・・地獄の紋章官・・・?」
 アルファ様がそう呟いた。影は二本の曲刀を持って切り込み、実に20名近い人数を斬り殺していた。その姿は返り血で赤黒く染まっている。
 後から聞いた話だけれど、それはジャズという殺し屋だったらしい。戦場から戦場へと渡り歩き、幾度の勝負に応じて決して負けたことがないという。その姿は異様で恐ろしく強く、空を飛べるという噂まであった。黒い兜を頭からすっぽりとかぶって素顔がわからないことから、『地獄の紋章官』という異名を付けられていたらしい。
「我こそは共和国ミスリル銃士アヤメ!尋常に勝負!」
 アヤメ隊長は一騎打ちを挑んだ。しかしどうしたことか、まるで勝負にならなかった。あの百戦錬磨のアヤメ隊長がたちまちの内に切り伏せられてしまったのだ。
 そして影は一歩一歩、こちらに近づいてきた。僕とダイナは恐怖に震えて動けなかった。
「おいそこの黒ん坊」
 そこに聞き慣れた声がした。僕は思わず、声の方を振り返った。
「俺の弟に手ぇ出すんなら、まず俺と落とし前つけてもらおうか!」
 こちらも影のように照らし出されてきたのは、なんとリョー兄さんだった!セルビナでの療養を終えて駆けつけてくれたのだ。ジャズも、兄さんに気を取られてこちらから目を外してくれた。
「我が名はジャズ。これまで強者達と六十余度の勝負に臨み、一度もその利を失ったことはない」
 ジャズは兄さんを強敵と見て勝負を申し込んだ。
「俺はリョー、とりあえず負けは知らん」
 ゆらりとジャズが刀を構えた。兄さんは右手に短剣、左手に斧を持っている。
 どちらが先に動いたかはわからなかった。ジャズはまるで空でも飛んでいるかのように、飛び上がっては車輪のように斬撃を繰り返した。兄さんは隙を見て反撃するも、どちらかと言うと防戦で次第に押されていった。
「終わりだ!」
 ジャズのひときわ大きな剣撃が、兄さんの胸に深々と突き刺さった。
「あああ!!」
 僕は思わず叫んでいた。
 しかしどういうことか、兄さんは倒れず、それどころか反撃してジャズの片目をえぐった。
「う・・・」
 一声だけうめき、ジャズは逃げていった。ジャズは片目を失ったのだ。僕達には聞こえなかったけど、必ず復讐に来ると兄さんに誓ったらしい。
 僕達は再会を喜び合う前に、砦の消火をしなければならなかった。幸いすぐに黒魔道士が来てくれて全焼はしなかったけれど、この失態にこれまでの戦勝は覆され、また戦局は五分五分となってしまった。
「兄さん!」
「おう愚弟、来てやったぞ」
「傷はもう大丈夫なの?」
「どっちの傷だ?」
「えっと・・・まずはセルビナでの傷」
「あれくらいならな・・・慣れてる。お前は機船から飛び込んで男になったと思ったが、いきなりあんな奴と戦うな!男になる前に仏になっちまうだろ!」
「兄さんが追っ払ってくれたからいいよ。それより兄さんは斬られたんじゃ?」
「ああ、これな」
 そう言うと、兄さんは懐から見覚えのあるミスリル鉱を手渡した。
「ちょっとへこんじまったが、まあいいだろ?」
「これ、どうして兄さんが?」
「お前が大事にしてたから、町長から預かってきた」
「よく預からせてもらえたね」
「分捕ってきたんだけどな」
「・・・兄さん」
 事の次第はもうどうでもよかった。それより僕はようやくこれでアルファ様にミスリル鉱を返すことができた。
「これは懐かしいですね。あなたと出会ったのはいつ頃だったでしょう?」
「三、四ヶ月くらい前になると思います」
「その間にいろんなことがあったんでしょうね。あなたは立派な冒険者になれたかしら?」
「あはは・・・まだ冒険には出てないんですけど、いろんな経験はしました」
 少しだけ勇者様と昔話をしたけど、僕はまだ立派にならなきゃなあと勇者様のことを思い出すたびに思う。なんにせよ、ミスリルを返すという目的を達成できてよかった。
 兄さんがジャズを追い払ったことはみんな見ていたけれど、信用されずに傭兵という形での入隊になった。トンネルで勝手に交通量をふんだくっていた罰と言えば罰かも。
 アヤメ隊長は傷が思ったより悪く、本国送還になってしまった。僕達はナジの部隊に吸収される形になったが、やはりみんなアヤメ隊長が懐かしかった。
「俺が隊長でそんなに不満か!!」
 ナジは怒っていたけど。
 本営はこの事態に焦り、急な勢いで攻勢を開始することになった。
 サンドリア軍はコンシュタット高地の街道沿いにいくつか前線基地として砦を築いていて、それは合計すると六つになるということだった。これに攻勢をかけて三つを奪い、高地においてまず均衡した関係を築こうというのだ。
 僕はナジに率いられ、ホーリー将軍も加わったこの部隊は正面の砦を奪取、その後において死守する任務を受けた。しかしジャズの仕業によって士気はいまいちで、ホーリー将軍の大隊だけが唯一の希望だった。
 しかし敵はこの攻勢を先に読んでいて、なんと左右の砦に偽兵を置いて放置。僕達が攻撃する中央の砦に戦力を集中させた。
 僕達は白昼堂々と戦いを挑んだのだけど、砦の向こうからぞろぞろと敵が出てくるじゃないか。何かおかしいと思ったのだけど、敵は夜の内に兵を伏せておいたのだ。しかも戦力戦意ともに充実した敵が取ったのは無敗を誇るサンドリアのレギオン戦法。戦列を五つにわけて一線を圧迫するこの陣形は単純だが強力で、第一線、第二線と僕達の戦列は次々と撃破されていった。
 しかしホーリー将軍率いる暗黒騎士達の活躍によってレギオンの一点が崩され、戦列を立て直した僕達は逆襲を開始した。
「ノグ!一隊を率いて砦に火を放て!」
 ナジ指揮官がいきなり僕に命じてきた。
「は、僕ですか!?」
「そうだお前だ!砦を燃やせ!」
「しかし、それでは死守するという任務が果たせません」
「馬鹿野郎!!敵の数が異様に多いことがわからんのか!敵はこの戦線に戦力を集中させている!ここで敵を撃破すれば砦なんぞいらん!」
「わ、わかりました。行きます!」
 僕はダイナやアルファ様、それにリョー兄さんと一緒に一個小隊を率いて砦へ迫った。
「魔道士は炎の準備!他は全員で戦列を組むんだ!」
 砦からは敵が弓を射かけてくる。しかし弓兵はわずかで、残りはそうはさせまいと砦から討って出てきた。僕は正攻法で、と言うか正攻法しか知らなかったので、真正面からサンドリア騎馬兵にぶつかった。
 しかし運がよかった。砦に残っていた部隊は新兵で、こちらの方が一枚も二枚も上手だった。それに一騎当千のリョー兄さんまでいれば恐いものはない。バックアップだってアルファ様が指揮しているから完璧だ。
「黒魔法、いつでも撃てます!」
「範囲を大きく保て!ともかく燃やすんだ!」
 黒魔道士のファイアが炸裂し、砦はあっと言う間に派手な勢いで燃え始めた。火の回りは速く、砦が使い物にならなくなったのはどう見ても明らかだった。
「砦はもういい!敵を追撃するんだ!」
 僕は砦から脱出する敵を追った。主線でも砦が炎上したことによる士気の喪失は絶大で、サンドリアの騎馬兵は算を乱して退却を開始した。これを僕の小隊が受け止め、さらにナジ指揮官は執拗な追撃を行ってこれを叩き、サンドリアの兵力を限界まで削り取った。
 敵を打ち倒してすぐに後退する予定だったサンドリアの作戦は失敗した。その最大の原因はホーリー将軍とその部隊による最初の一撃だろう。無敗のレギオン戦隊がいきなり切り裂かれ、向こうは驚いたに違いない。
 再び戦局を元に戻したバストゥークは中央の砦を復興させ、より強固なものにしてここに精兵を置いた。さらに伏兵として周囲に狩人を潜ませ、サンドリアの中央突破戦術を真正面から迎え撃つ形になった。 
 サンドリアが得意とする中央突破の戦術だが、ホーリー将軍がいる限りそれを食い止めることはたやすいと結論されたのだ。そして突破さえ止めれば騎兵には勝てると考えられた。
 ホーリー将軍とその大隊は当然のように中央の砦に配置され、決戦の日を待っていた。僕達ナジ軍は西側の砦にいたのだけれど、暇を見て一度だけホーリー将軍に会いに行った。この時はリョー兄さんが一緒だった。
「そうか。君がサンドリアの侵攻をいち早くバストゥークに届けたという工作員か」
「は、はい」
 しゃきっとしろよ!と、兄さんは僕の足を踏んだ。
「君の報告が遅れていれば我が国は孤立し、どうなっていたかわからん。国王に代わって礼を言おう」
 そう言って、将軍は深々と頭を下げるのだった。僕は混乱してしまって、何をどうしたらいいのかわからなかった。
「顔を上げてください」
「いや、礼儀というものがござる」
 そこに兄さんが助け船を出してくれた。
「将軍、俺達のような礼儀知らずに礼を取る必要もございませんでしょう」
 将軍もどこか納得してくれたのか、顔を上げてくれた。
「聞くところによると機船から飛び込んだそうだが?」
「はい。潮の流れに乗ってバストゥークへたどり着きました」
「なんと無謀な。私も若い頃はそうだったかのう」
 将軍はようやく笑顔を見せてくれた。兄さんも一緒に笑っていた。
「無謀も無謀。そりゃほとんど漂流だ!」
 兄さんの助け船・・・と言うか追い打ち。僕も一緒になって笑っていた。
「将軍、この戦争はいつ終わると思いますか?」
「うん・・・」
 笑うだけ笑った後、僕は本題に入った。将軍は考えるように目を泳がせた。
「おそらく、近い内にサンドリアから使者が来るであろう」
「使者が?」
「そして会戦を申し出るに違いない。サンドリアの兵は勇敢だが、国力に乏しい。そろそろ兵糧が追いつかなくなっているだろう」
「そうなのですか?」
「誇り高いエルヴァーンは決闘で幕を下ろしたがる。必ず使者が来る」
 ホーリー将軍との謁見から数日後、本当にサンドリアから使者がやって来た。その内容は、サンドリアは潔く決戦に挑む所存、この勝敗にて戦争の勝敗を決したい・・・ということだった。
「将軍の言った通りだ」
「ノグ、将軍はどんな人だ?」
 僕達が駐屯する砦の中、ダイナがそう尋ねてきた。
「武人って、ああいう人を言うんだと思う」
「武人か。勇者といい武人といい、お前はいろんな人と会うなぁ」
「密猟者とも会ったよ」
「誰だそれ」
「君」
「お前も一緒にやったろうが!!」
 ダイナと一緒に羊を盗んでいた日々を思い出す。ついこの前まで、同じこの高地でやっていたことなのだ。それが今は戦場なのだから、世の中って恐ろしい。
 ストライキの騒動で同じように経済がひっぱくしていたバストゥークは、この決戦に応じることになった。それに戦争が長引くと、ホーリー将軍の部隊に帰還命令が出てしまうのではないかという恐れもあった。
 僕達は全軍で砦を出て、サンドリアの全軍と対峙した。敵は潔く、サンドリアの伝統的な戦術である騎馬突撃で雌雄を決しようとしていた。サンドリア人にとっては勝敗よりも、戦士としていかに勇敢な死に方をするかが大事だった。
 僕達は中央にホーリー将軍の暗黒騎士大隊とガルカモンク、左右にチョコボ槍兵を配置して敵を包囲する作戦を立てた。いかに敵の突破を止めるかが勝利の鍵だ。僕達は中央の補強としてホーリー将軍のすぐ後ろに配置された。
 会戦の前には両軍の使者が最後の交渉を行う。サンドリアの使者はかつてナジを倒したあのコボリというナイトだった。
「交渉など無用だ。戦って決めればよい」
 こちらは最後まで高地から引き払うように交渉したが、向こうは聞かなかった。
 両軍の使者が戻ると、どちらからともなく開戦のドラが鳴らされる。ここにバストゥークの全軍とサンドリアの全軍が激突した。後に言われるコンシュタット会戦だ。
 ホーリー将軍の部隊は頑強に戦い、決して退くことがなかった。しかしさすがにサンドリアの騎馬突撃。その勢いを完全に殺すことはとてもできず、後方は浸透してきた騎馬兵と乱戦を繰り広げた。そして僕もその中にいた。
「ノグ!俺達には神様がついてるよな!?」
「ついてる!必ず勝てる!」
 ダイナはサンドリアのナイトに劣らないと思えるほど、勇敢に戦った。
「ひゃっははははは!!」
 リョー兄さんはなんだかわからないけど大笑いしていた。後から思い出したのだけれど、兄さんはこういう修羅場が大好きなのだ。
 数分ほど大乱戦が繰り広げられたが、ついにサンドリア軍の突撃は足を止めた。ガルカモンクの奮戦によって浸透してきた騎兵も始末され、両翼からはまだ疲れていないチョコボ槍兵が襲いかかる。サンドリア軍は包囲されようとしていたが、後退の命令は出されなかった。それどころかひたすら前進するよう命令が下されていたのだ。サンドリアのナイト達は誇りに誓い、負けて帰るなどということは絶対にできなかったからだ。
「オオオオオ!!」
 ホーリー将軍の竜のような雄叫びが響き渡る。この世で最も恐ろしいのは雷でもなければ嵐でもなく、ガルカの怒りそのものだ。ホーリー将軍に続いてガルカモンクは突進を行い、敵線をドリルのように突き破っていった。僕達はそれを援護するように後ろから進み、孤立した敵を打ち倒していく。
「敵将!敵将はどこだー!」
 サンドリアの先陣隊長コボリはこの危機の中でも決して臆さず、最後の勝利を信じて立ち上がる。彼は激戦が続く戦場を駆けめぐり、こちらの指揮官を探していた。それを討ち取ろうと共和国の戦士が何人も立ちふさがったが、コボリは決死の勇気でそれらを蹴散らしていた。
「サンドリアの騎士よ、わしと勝負いたせ!」
 しかしホーリー将軍が現れると、コボリは馬の足を止めた。
「我が名はサンドリア騎士コボリ!名を名乗れ!」
「ジュノ公国将軍ホーリー!」
「冥土の土産に首を頂くぞ!!」
「かかってこい!」
 二人の間で凄まじい戦いが繰り広げられた。ナイトコボリは決死の覚悟で、その剣撃一発一発に命が宿っているようだった。ホーリー将軍はそれに応えるように全力で相手をしたが、実力は将軍の方が上だった。コボリは将軍の大鎌によって容赦なく貫かれ、吹き飛ばされるように落馬した。
「サンドリアに栄光あれ・・・!!」
 コボリは死んだ。これによって、ついにサンドリアの戦士達は戦意を喪失、潔くこちらの軍門に降った。
 バストゥークは勝利した。沈みかけた陽光の中で、僕は呆然としていた。
「終わった」
 兄さんが寄ってきて、僕にそう告げた。
「お前の冒険も終わりだ、ノグ」
「うん」
 白魔道士達が出てきて負傷兵の応急処置に当たっていた。ケアルがまるで宝石のように、血まみれの戦場に輝く。僕はそれを眺めながら、これまでの冒険と戦争を終わらせた。すべてが夢のようだった。
 ふと、谷の方から星が降ってきた。銀鉱を砕いて砂状にしたものを、どこかの誰かがばらまいていたのだ。それは雪のように戦場を覆っていった。銀色の砂は、冒険の終わりを示していた。これが舞台の幕なのだ。
「終わった・・・」
 すべてが夢のようだった・・・

☆☆☆

 戦争はバストゥークの勝利に終わり、情勢が沈静化するまでコンシュタットには共和国の一兵団が駐屯することになった。しかし、それはもう僕には関係のないことだった。
 今回の戦いでバストゥークはサンドリアから賠償金をせしめ、これによって兵士達に給料が振り込まれた。僕とダイナには特別の恩賞が支払われ、母さんと一緒に鉱山地区を出るには十分なお金が揃った。
 すべてが終わった後、僕は諜報部の役人になることが決定し、任官の日を待つばかりだった。
「ナシング、何か考え事をしているの?」
 久しぶりに家へ帰ってきたのだが、僕は毎日を上の空で過ごしていた。
「うん」
 このまま役人におさまってしまっていいのか、あの冒険の日々がどうしても忘れられないのだ。
「母さん、やっぱり僕は母さんと一緒にいた方がいいよね?」
「わからないわ」
 生活に余裕が出たおかげで、母さんはどこか若返ったように見えた。
「母さんと父さんはあなたに何もしてあげられなかった。一人で戦って、一人で立派になって、母さんにはあなたの人生をどうこう言う資格がないわ」
「・・・母さん」
 このまま役人になり、商業区のあたりに家を買って、それなりの人と結婚でもすれば、僕の未来は保証されたようなものだ。あの冒険の日々を胸に、いつまでも誇らしく生きていける。
「でもねナシング、人は今しかできないことをやって生きていくものよ。ここで静かに暮らすなんて、いつでもできるわ」
 母さんが続けた。
「あなたが出ていっても、恨んだりしないわ。もっと立派になって帰ってくれば、母さんはもっと嬉しいもの」
「うん・・・」
 どうすればいいのか、わからなかった。正しい答えなんてどこにもない。どれが間違っているわけでもない。だからこそ迷うのだ。
「あ、そうそう。手紙が来てたわよ」
「ん?」
 僕は母さんから一通の手紙を受け取った。なんと、兄さんからだった!
「母さん!兄さん・・・じゃなくて叔父さんからだ!」
「まあ、リョーくん?なんて書いてあるの?」
 
『新天地ウインダスへ行くぞ。
 ついて来たかったら有り金を残らず持って指定の日時にセルビナまで来い。
 
 尊敬すべき兄リョー

 俺もいるぜ。でも船代はお前持ちな。

 信頼されるべき友ダイナマイト』

 ぶっきらぼうな文字でそう書かれていた。母さんも後ろからそれを読んでいる。
 戦争の後、アルファ様はすぐに旅立ってしまい、ダイナと兄さんの二人は僕と一緒に鉱山地区へ戻ってきていたのだけれど、二人ともある日いきなり姿を消してしまったのだ。
「二人がセルビナにいる!」
「指定の日時って、今から出発しないと間に合わないわね」
「・・・母さん!」
 僕は立ち上がった。
「行ってらっしゃいナシング!そして帰ってくるのよ!」
「はい!行ってきます!」
 僕はすぐに荷物をまとめると、飛び立つようにバストゥークを出た。母さんの笑顔がいつまでもいつまでも、脳裏に焼き付いて離れなかった。

「うおー!来たかナシング!」
 グスタベルグを駆け抜け、高地を登り、砂丘を突っ走った。
「ノグ、来ると思ったぜぇ!」
 風のような速さで駆けつけた。指定の日時まで、本当にギリギリだった。
「ずいぶん軽装じゃねーか。金はどうした?」
 もちろん、有り金は残らず母さんに預けてきた。
「ひゃーははは!!三人分のチケットを買ったら文無しだ!」
 何もかもが、これから始まる。
「そうだナシング、これ」
 兄さんがどこか見慣れた物を取り出す。なんと、アルファ様に返したはずのミスリルだ!
「どうしてこれを!?」
「あの白魔道士がな、お前がもっと立派になった時に受け取るって言ってたぞ」
 たくさんの人に支えられて、たくさんの仲間と共に。
「リョーさん、ノグ!船が来たぜ!」
「よし乗り込めー!」
 それは果てのない旅のように思えた。命はすでに神様に預けている。
「間もなく出航いたします。この便は大陸を通過しマウラに向かいます」
 明日のことなんてわからない。何もかもが新しい。
「甲板に出ようぜ!」
 僕は僕の時間を生きる。それだけが僕にできることだ。
「旅立ちだ・・・」
 すべてがこれから始まる。

<Good Luck!>



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