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Final Fantasy XI Original Story



FF11『ノグ冒険記』




by nothing




 第一章「マウラ極悪三兄弟」

 あの大波乱が終わり、僕は兄さんとダイナの待つ出発の町セルビナまで走った。
「来ると思ったぜノグ!!」
「ひゃっははは!!船代払ったら文無しだぜ!!」
 その時の兄さんの言葉を、今になってみると深く考えてみるべきだった・・・
「うお!甲板出ようぜ甲板!」
「ノグ、遅れんじゃねぇ!」
 二人は大はしゃぎ、僕もこれからの旅を前に胸が躍った。先のことなんてこれっぽっちも考えてなかった。
 若いっていうのはこれだから恐ろしい!少しでも母さんに言われたことを思い出せばよかったんだ!後先考えずに行動するのはやめなさいって!
 僕達の船は目的地であるマウラまでなんの障害もなく着いたよ!ああ着いたさ!なんか文句あるか!!実は渡航費が少し足りなかったんだけど、それは本当に少しだったので、泣いてすがってどうにか税関は通してもらった。
 でも、それからが問題だった。
 身寄りもないのに文無しでいるということは想像を絶する無謀なことだ。僕達は宿もなく夕飯もなく、ねぐらを探してマウラの街をうろうろしていた。
 どうしようもなくお腹が空いたので、しかたなくレストランの裏で食べ残しをあさることにした。なぜか食べ残しは大量で、僕達は美味しい料理をお腹一杯になるまで食べた。
「ふー、ごちそうさん」
「でも兄さん。食べ残しにしちゃずいぶん綺麗に残ってたね」
「アホ、金持ちの客はまったく食べずに残したりするんだよ」
 リョー兄さんは馬鹿だった。そしてそれを信じた僕はもっと馬鹿だった。
 その料理はマウラでも屈指の高級宿に出前として届けられる団体料理だったのだ。僕達は怒り狂ったシェフの皆さんに包丁を持ってマウラ中を追い回された。ついには港まで追い戻されてしまったが、僕達は船から降ろされたばかりの貨物に身を隠してそれをやりすごした。
「兄さんの馬鹿ァ!!」
「他に当てがあったかよ!」
「そうだぜノグ。腹がふくれたんだからいーじゃねーか」
「兄さんもダイナも呑気だなぁ。僕達はこれでまた犯罪者じゃないか!」
 僕達は食い逃げ犯としてマウラ中の商店に警戒される羽目になった。さすがに初犯なので指名手配とかはされなかったが、これでマウラを自由に歩くこともできず、それどころかマウラを出ることすらできなくなった。僕達の旅は「食い逃げ」という史上屈指の情けない原因によっていきなり頓挫することになったのだった・・・
「人生って、わかんねーもんだなぁ・・・」
 兄さんが煙草をくゆらせながら呟く。なんとなく哀愁が漂っている。
 僕達は問題の夜、そのまま荷物に隠れて寝入ってしまった。しかし僕が寝ていた荷物の底が抜け、バストゥークの職人が造った金細工がダメになってしまったのだ。それを倉庫番のガルカ達に見つかり、僕達は反撃するわけにもいかずタコ殴りにされた。
「どうする。こいつら、沈めるか?」
 あやうくマフィアっぽいやり方で歴史の闇に葬られようとしたところを、リーダーのガルカが止めてくれた。
「貴重品を他の物と一緒くたにしておいたのは俺達のミスだ。殺したら責任を背負う奴がいなくなるだろう」
 いや、余計に悪かったかも知れない。
「人足のこいつらが運ぶときに金細工をダメにしたということにしよう。弁償もこいつらにやってもらう・・・当然、監視のためにもこいつらは今日からここで働いてもらう。給料は天引きだ」
 僕達は縛られていたので選択の余地がなかったのだが、リョー兄さんはずっとガルカを睨みつけていた。ダイナは口汚く彼らを罵り、僕は恐くてずっと泣いていた。
「とりあえず飯と寝場所には困らなくなったが、俺達はここで死ぬまで働くのカ?」
 兄さんが火の点いた煙草を片手に港の空を見やる。なんとなく哀愁が増す。
「ごめんね兄さん。僕がドジらなけりゃ・・・」
「いや、いいんだ。俺は人生を儚んでいただけ・・・」
 そこでダイナの飛び蹴りが兄さんの横っ面に炸裂した。哀愁も兄さんも吹き飛ぶ。
「さぼってんじゃねぇボケ!!てめえのノルマは誰がやるんだ!?」
「痛い・・・痛いってことは生きてるってことだ」
 兄さんが蹴られて反撃しなかったのは後にも先にもそれだけだった。よほど追いつめられていたに違いない。
 僕達はそれから一ヶ月くらいの間、マウラで倉庫の人足として日々を過ごした。
 帰国するに違いないウインダスの魔道士、サンドリアから使者として来たのだろう鎧姿の騎士、バストゥークの商人や職人、もちろん冒険者もいた。僕達は船から下りてくる彼らを眺めながら、つい昨日まで自分達もあの中にいたんだよなぁ・・・と、遠い目をしていた。
「ナシング・・・俺達の旅はどうなったんだろう?」
「なんか僕達ってどうしてもこうなる運命みたいだね」
 下船してくる人々の後ろで貨物を運ぶ僕と兄さん。その姿はすっかり港で働く人足そのものだった。いつもならここでダイナが「無駄口たたくな!!」とか鉱山仕込みの怒声でどなってくるのだが、なぜかこの時は近くにいた猫と戦っていた。僕も兄さんも何も聞かなかった。惨めだった。
「飯だ!ありがたく食えよ!」
 ようやく仕事が終わって寝場所でもあり監禁場所でもある倉庫に戻る。するとほとんど間を置かず、港の労働者にして僕達の雇い主であるガルカが食事を運んでくる。それはどこからどう見ても売り物にならない魚を強引に料理して、その中からさらに残った物を運んできているのがわかった。
「ねえダイナ・・・ひょっとしてさっきの猫は・・・」
「おう、食い物を奪い合っていたんだ」
「正直に言うなよ!」
 僕達の待遇というのは早い話が猫以下だったのだ。
 それからは三人とも無言で、昼間の労働もあって粗末な食事でも残さず平らげた。凄い勢いで食べてピタ!と食べ終えたリョー兄さんが、僕達に目配せする。「近寄れ」という合図で、何度か修羅場巡りをしている僕達は自然とそういった動作を覚えていた。
「ここを出るぞ」
 いつか言うとは思っていたけど・・・兄さんはついにそう言った。
「どうやって?」
「無理だろ」
 僕とダイナは続けざまに言う。
「ダイナ・・・適応力があるのはいいが、家畜並の扱いに慣れるな。そしてナシング、お前は黙って俺についてこい!」
「だから、どうやって脱出すんのさ。町からは出られないし、それ以前に港すら出られないんだよ?」
「あのなぁナシング・・・俺達はなんのために戦場まで走り回ったんだ。向こうが出そうとしないだけで、俺がその気になればこんなところいつでも脱出できるぞ」
 少なくとも借金を踏み倒すために戦場を走ったわけではないんだけど・・・そう言おうとしたけどやめておいた。
「で、リョー。具体的にどうやって脱出するってんだ?」
 ダイナが詰め寄るように兄さんの言葉を促した。
「うむ。俺達は仕事をしていれば監視され、していなければ今のように閉じこめられている」
「仕事中に脱走するのか?」
「白昼堂々それは無理だ。脱走するなら夜、みんな寝静まって警備も甘い頃だ」
「でも、ここの鍵は閉まってるじゃないか」
「そうだな・・・倉庫からは出られん。だが、ここがある」
 兄さんは黙って地面を指さした。この倉庫はかなり造りがいいかげんで、下はそのまま地面になっている。雨風はしのげるが、衛生環境が悪すぎる。
「聞いた話だが、ここの港は埋め立てた土地に設置されている。そしてそれをやったのは地元の土木業者で地質学の専門家ではない。固めてある一番上の層さえ突破すれば、後は柔らかい砂利になっていて掘るのは簡単だ。俺達はトンネルを掘り、好きな場所に出ていけばいい」
 兄さんは頭を正しい方向に使えば将軍にもなれると、その時は本気で思った。
「言われてみれば・・・この倉庫には道具類もまとめて放り込んであるね・・・」
「つまり音さえたてなけりゃ掘り放題ってわけか」
「さらに、俺の作戦には続きがある」
 僕達は額に冷や汗を覚えながら、兄さんの策に耳を傾けた。

 それから、僕達は寝る間も惜しんでトンネル掘りに没頭することになった。昼は港で働き、夜はトンネルを掘る。これでは脱出した後に逃げる体力が残っているかどうか不安だったが、もうそんなことは神のみぞ知るだ。
「人民は圧政を敷く政府を打倒する権利を持ってるんだ!」
「なんかすごいね、兄さん」
「ジュノ建国の偉人ジェファソンが言った」
 ただトンネルを掘って逃げるだけでは済まさなかったのが兄さんだ。僕達をここまで追い込んだマウラの街とその港にたっぷり復讐してやろうと、自分達の悪行は棚に上げて誓っていた。
「ノグ!自由になってウインダスへ行くんだ!」
「そうだね、こうなったら初志貫徹してしまえ!」
 僕達はあちこちから材木を始めとした資材をくすねて、トンネルを構築していった。それでも、このもろい砂の地層ではいつ崩れるかわからない。
「ここで死んだとしても!敵にこう言ってやろうではないか!我々の命は奪えても我々の自由は奪えない!」
「兄さん、かっこいい・・・」
「サンドリア独立の英雄ウィリアム・ウォーレスの激励だ」
 ついにトンネルが完成し、後は地面に出るだけとなった。ダイナの測量が正しければ、これは食い逃げで因縁のある宿の裏に通じているはずだ。
「トンネルは完成したけど・・・兄さん、本当にやるの?」
「俺はやる」
「ここまで来たら汚れるところまで汚れようや、うん」
 兄さんの計画は恐ろしいものだった。味方に付けば頼もしいが、絶対に敵に回したくはない。兄さんはきっとそういう人間だ。
 深夜、僕達はすべての準備を整えると予め倉庫の鍵に細工し、倉庫に火を点けた。
「出してくれー!出してくれー!」
「焼け死んじまうよ!」
「待て!おかしい、鍵が開かねぇんだ!」
 ダイナと兄さんが炎上する倉庫の中で必死の演技をしていた。外にはガルカ達が倉庫を開けようと苦心しているはずだが、頑丈さだけは要塞並なので力任せには絶対に開かなかった。
 僕はまず何も持たずにトンネルを突破、地上に出る。出口は少しずれていて、宿の表に面している道路から見えてしまっていた。しかしそれを嘆いている暇はない。すぐにダイナが作った即席トロッコで肝心の荷物が運ばれてくる。中身は明日の機船で輸出されるはずだったダルメルの毛皮と、港で使うタールだ。タールは兄さんとダイナが調合して燃え上がりやすくなっている。僕はすべてを受け取ったと信号を送り、二人の到着を待った。するとやって来た二人は体中に火傷をしていて、煤だらけだった。港の方を見ると倉庫は完全に炎上していて、まさに危機一髪だ。
「よし、ダルメルの毛皮をまとえ!」
 兄さんの指示で僕とダイナは毛皮をまとう。ダルメルはこの地方で獣人やゴブリンよりも恐れられる巨獣で、襲ってくるとドラゴンでもないと止められない。もちろん僕とダイナではダルメルの背丈にとても足りないが、相手を混乱させるには十分なはずだ。
「さぁ〜て、今週のリョーさんはちょっと機嫌が悪いぞぉぉ〜?」
 今度は兄さんがタールを宿にぶちまけていく。
「貧相な人生に死に花さかす超特急。派手にキメなきゃ意味がねぇぇぇ!!」
 宿に火が放たれた。
 あっと言う間に宿は炎上。さらに飛び火してマウラは戦争でも起こったように赤く染まる。
 僕達はその渦中をダルメルの毛皮を持って疾走し、混乱を助長する。
「モンスターの襲来だ!」
「ダルメルが襲ってきた!」
 リョー兄さんの先導で僕達はマウラの検問へ走った。本当なら兄さんが門番を襲って突破するはずだったのだけれど、火事の影響で出払ったらしく誰もいなかった。僕達は誰もいない検問をゆうゆうと駆け抜けた。
「ざまーみやがれ!俺達に恥をかかすとこうなるんだ!」
 ダイナが大きく吠える。
 しかしここで安心するわけにはいかなかった。僕達はここから一気に海岸から離れて、タロンギ渓谷を目指さなければならないのだ。それをさらに越えてメフィリム山地に至れば、兄さんが山賊をやっていた頃の仲間が出迎えてくれるという。
「まずはほとぼりが冷めるのを待つんだ。なーに、きっとうまくいく」
 僕達は燃え上がるマウラの街を後ろに眺めながら、渓谷までの道を走った。この辺りのモンスターは強く、マウラ自治体もウインダス連邦軍も統治するには至っていない。だからモンスターが完全に野放し状態だ。
 ダルメルの毛皮は後から売ってお金にするつもりだったので、捨てるわけにはいかなかった。でもそれがダルメルの目に止まらないわけはなく、仲間が殺されたと思いこんだダルメルは大挙して僕達に襲いかかってきた。
「後ろを振り返るな!!」
「お母さん!まだ死にたくないよ!!」
 ダルメル十数頭に追われ、僕達は文字通り必死にブブリム半島の街道を駆け抜けた。渓谷に至るところにウインダスの前哨基地があったのだけれど、僕達が連れてきたダルメルに踏みしだかれてしまった。
「渓谷に入るぞ!俺から離れるな!」
 兄さんに続いて渓谷に飛び込むと、次第にダルメルの足音は遠ざかっていった。けれど恐怖に駆られた僕達は止まることなく、体力の続く限り渓谷を突っ走った。
 そしてついに力つきると、僕達は死んだように倒れ込んでしまった。
「生きてる、生きてる・・・ぜえぜえ」
 もうマウラの火は見えなかった。ダルメルもどこかへ行ってしまった。すると、急に辺りを静寂が支配する。この辺りにはモンスターも動物も少ないのだ。
「やけに静かだね」
「食い物も水もないからな、静かにもなるぜ」
「兄さんの仲間達ってのはどこかな?」
「わかんねぇなぁ・・・ここに来るのもずいぶん久しぶりだし・・・」
「どうしよう。僕達は食べ物とかまったく持ってないんだ」
「そこまで考えてなかったな」
 なんとかその夜は明かしたが、翌日からは地獄の日々が待っていた。
 タロンギ渓谷は乾いた風が吹き抜ける荒廃した地域で、生物の影も形もない。水すら持っていなかった僕達はすぐに枯渇し、歩く気力も体力も奪われていった。
「ちくしょう、死ぬ・・・」
「ダイナ、しっかり。歩かないと死んじゃうよ」
「歩いたって、生き残れる保証はない・・・」
「こうなったらサルタバルタまで行こう。あそこなら水も草もたくさんある!」
 僕達は山賊と合流するのを諦め、サルタバルタを目指して歩いた。しかし、どう考えても無理なことは無理だった。マウラ脱出から四日目、ついにダイナに続いて兄さんまで倒れてしまった。
「うわぁぁん・・・二人とも・・・」
 僕は自分が死ぬ恐怖と、二人が動かなくなってしまった心細さからついに泣き出してしまった。なんとも女々しいことだが、この極限状況では誰も僕を責められないだろう。
「神様、助けてください・・・」
 僕はどうすることもできず、神に祈った。
 僕の命をベットにかけている神様なのだが、相変わらず彼は何を考えているのやらわからない。僕が祈ってから数分後、神の使いが目の前に現れたのだ。
「え?」
 影が動いた。岩や山麓の影が動き、僕達を取り囲んだのだ。僕はそれが死に神というものなんじゃないかと本気で思った。
「オマエタチ ナンダ」
 影が喋った。
「あ、あの・・・」
「エルヴァーン フタリ ヒューム ヒトリ ダルメルの毛皮、持ってるナゼ?」
「助けてください。死にそうなんです」
「毛皮サシダス タスケテやる」
 それは死に神でもなければ天使でもなかった。動く影の集団はウインダスと戦いを続けているヤグードという獣人で、全身が真っ黒に染まっているから影のように見えたのだ。
 しかし、その時の僕にとって助けてくれるなら死に神だろうが獣人だろうがなんでもよかった。すぐに毛皮を差し出すと、僕達はヤグードに保護されて彼らの拠点・ギデアスへ向かったのだ。


 第二章「ヤグード・ダンシング」


 死ぬ間際に考えることと言ったら・・・我が最愛の弟ナシングのことだろうか?
 それとも、出会っては別れ出会っては別れてきた女達のことだろうか?
 ああ、そう言えばナシングに女の妙理を教えるのを忘れていた。俺としたことが、画竜点睛を欠くとはこのことだ。ナシングは男になっていない。それなのに俺が死ぬわけには・・・

「うおお!?」
 目が覚めると、俺はヤグードの担架に乗せられて運ばれていた。当然だが、俺はヤグードに捕らえられて食われるものと思ったので、必死にもがいて抵抗を試みた。しかし体はまったく思うように動かず、担架から落ちることさえなかった。
「なんだくそお!!ヤグードふぜいがこのリョー様を食おうってか!?」
 俺が動かない体でもがいていると、なぜかヤグードと一緒に歩いているナシングが寄ってきた。
「兄さん、動いちゃだめだ!」
「ナシング、どうなってんだ!」
「僕達を助けてくれるんだ。戦ったらだめだよ」
「あー!?なんでヤグードが俺達を助けるのよ!?」
「ダルメルの毛皮をあげたら、助けてくれるって・・・」
「・・・ギデアスの近くにまで踏み込んだからか。それとも遭難してたからか。ナシング、お前といるとつくづく悪運に恵まれるぜ」
「悪運とはひどいな。助けてくれるんだからいいじゃないか」
「そりゃあな、死ぬくらいなら藁でも獣人にでもすがれってか?」
 俺がふてくされるように担架へ四肢を伸ばすと、後ろで俺と同じようにのびているダイナの姿が目に入った。
「なんだよ、あいつも助かったのか?」
「当然だよ。一緒に連れてきた」
「で、俺達はこれからどうなるんだ?」
「とりあえず、毛皮を渡した分の水と食料は約束されると思う」
「毛皮の分が切れたら俺達が食料だな」
「あんまり考えたくないね・・・」
 ヤグードは他の獣人と違って信仰がある。祭っているのは先祖なのか山神なのか知らないが、生け贄を捧げる習慣はよく聞く。ウインダスとの協定で人間を襲うことは少なくなっているらしいが、遭難した俺達の安全なんて誰も保証しちゃくれないだろう。
「まあいいか・・・どうせマウラに火を点けちまったんだから、人間社会にはしばらく戻れねぇ。長い人生、獣人と一緒にいることがあってもいいか・・・」
 我ながら凄まじい適応力だ。よく人からいいかげんだとか、行き当たりばったりはよせとか言われるが、俺の生き方にケチをつけないでもらおう。
「あ、兄さん。もうここはヤグードの勢力圏内なんだって」
 どうしてナシングはヤグードの言葉がわかるんだ?妙なところで妙に賢い時があるが、こいつは下手すりゃ暗黒の呪いでも受けてるんじゃないだろうか?
「ここからは安全なんだってさ」
 どこからがどう安全なのか激しく疑問だったが、あえて口にはしなかった。
 ちょうどダイナが起きあがり、俺と同じように激しく暴れている。起きたらいきなり無数の黒ん坊が取り囲んでいるんだから、驚きもするだろう。
 ダイナの怒号とそれをなだめるナシングの声を後ろに聞きながら、辺りに目をやる。
 まるで自然と一体化しているようなヤグードの住居。そしてあちこちに建てられている祭壇。その周囲は動物の頭蓋骨や、材料がわからない数珠など忌々しい産物で彩られている。人間と獣人が相容れない存在であることをしみじみと実感する瞬間だ。
「うがーうがー!!なんなんだこいつら!なんなんだここは!?」
「だからヤグードだって、聞けよ!」
 暴れるダイナ。なだめるナシング。俺達はこれから一体どうなってしまうのか?
 ま、いいか。考えたってわかるめぇ。

 ナシングがヤグードの言葉を理解できる謎は保留することにした。ともかくナシングを通訳に立てて、俺達はヤグードから水と食い物を奪取することにした。
「足りねぇぞー!もっと持ってこい!」
「兄さん、この肉とか野菜とか・・・何の産物なんだろうって疑問に思わない?」
「忘れろ!」
 ナシングは考えすぎるのがよくない。俺もダイナもさっきからそれまでの空腹を忘れようとするかのように食っては飲んで食っては飲んで、食肉用ダルメルの如く食い散らしている。この勢いだと、どさくさにまぎれてヤグードの死体が出されても知らずに食ってしまうに違いない。
「あー・・・ようやく落ち着いてきたな」
「俺はまだ食いたりねーぞー!」
「ダイナ、ほどほどにしとけよ」
「ノグ、お前も食えよ」
「いや、食べてるんだけど。お腹に違和感がない?」
「まったくないぞ」
 俺は歯にこびりついた肉片を同じ動物のあばら骨でほじり取っていた。なんだか自分まで動物になった気分だが、獣人の食事ってのも悪くないな。
 今はもう夜。外は晴れているのだが、なぜか宴席が設けられているのは洞窟の中だ。俺達三人の他にはヤグードの首領らしき人物(?)が数名、席を連ねている。給仕が忙しく働く中を横切って、ナシングが俺の方に寄ってきた。
「兄さん、首領の一人でヤグード・エンペラーって人が話があるって」
 ヤグードの分際で偉そうな名前だ。白ペンキでも塗って追い返してやれ。
「いや!話に応じないと明日の朝食にするって言ってるよ!?」
 卑しからざる高貴な方に違いない。さあ、拙者と会談に臨みましょう。
「じゃあ連れてくるよ」
 ナシングが頼りない足取りでエンペラーとやらを連れてくる。首領の一人だと言ったが、はっきり言って他の黒ん坊どもとまったく見分けがつかん。
「オマエタチ タノミゴト ヒキウケントコロス」
「何を言ってるのかわからん!!」
「兄さん、僕達に頼みたいことがあるんだって」
「頼み事ねぇ・・・聞くことは聞くけどよ」
 ナシングとエンペラーが何やら話し込んでいた。ナシングが驚いているので、おそらくとんでもないことを頼まれているに違いない。俺は食い納めにと酒を一杯、喉に流し込んだ。
「兄さん」
「あんだよ」
「ウインダスにあるエクスカリバーっていう剣を取ってきてくれって言うんだ」
「バ、バカヤロウ!!」
 俺は思わずナシングを殴った!
「いて!なにすんの!?」
「エクスカリバーっつったらウインダスの国宝だ!盗み出したら国家的な重罪になるぞ!?」
「そうなの?」
「できるかそんなこと!!」
「でも、やらないと僕達は明日の朝食に・・・」
「おい、俺達ってもしかしてはめられてんのか!?」
 宴席は中も外も踊り狂うヤグードで埋め尽くされている。そして入るときに見たが、洞窟の外はヤグードの戦士が警備に当たっている。ここで断ればこいつらが一斉に襲いかかってくるのだろう。そうなったらいくら俺でもナシングとダイナをかばいながら突破できない。
「わ、わかった。一応承諾しとけ」
「うん」
 ナシングとエンペラーが何やら話しているが、途中でエンペラーが大きく頷いた。事を了解したのだろう。
 それから、宴はいっそう賑やかになった。ダイナは底なしの胃袋で食いまくり、ナシングはなぜか周りのヤグードと仲良くなっている。そんな中、俺だけは一口も食わずにこの窮地をどう脱しようか思案に暮れていた。

「わー!な、なにするんですか!?」
 翌日、思った通りナシングが人質に取られた。数人のヤグードに両腕を掴まれ、ずるずると引きずられていく。
「出して!兄さん、ダイナ助けてー!」
 何が起こったのかわからなかったんだろう。縛られて岩牢に閉じこめられたナシングは俺とダイナに助けを求めてわめいていた。
「兄さん、どうなってんの!?」
「ナシング、お前は人質なんだ」
「えー!?」
「俺とダイナがエクスカリバーを盗んでこないと殺される」
「た、助けて助けて!!」
「心配するな。絶対に助けてやるからな」
「約束だよ!?」
 ダイナにも事情を説明すると、ナシングと別れをさせた。
「必ず帰って来るからな!」
「逃げたら化けて出てやるからな!」
 すると武装した黒ん坊どもが牢を取り囲んでしまった。俺とダイナは別の武装した奴らに追い立てられて、サルタバルタの入り口まで連れて行かれた。
「モッテイク ニゲタラ コロス エクスカリバー」
 何を言っているのかはわからなかった。奴らは粗末な武器と食料を少し残すと、帰っていった。
「どうすんだよ、リョー」
「どうもこうもないぜ・・・やれやれ、ナシングの親父に合わす顔がねえ」
「この武器、持っていくか?」
「捨てとけ・・・ヤグードの武器なんて何の役に立つ。大体、そんなもん持ってたらウインダスのタルタルが近づく側から逃げるぞ」
「本当にそのエクスカリバーってやつを盗み出すのか?」
「やれと言われたらやるんだが、今回は命令する奴がいない」
「まあそうだけどよ」
「選択肢は三つだ」
「おう」

1:本当にエクスカリバーを盗み出す

2:ナシングを裏切って逃げる

3:マウラの火事をヤグードのせいにしてウインダスと戦わせる

「1は可能なのかよ?」
「可能性は半々だ。成功すれば俺とお前は歴史に残る。だが生きてる内は人間社会に戻れねぇ」
「じゃあどこに戻るんだよ?」
「犯罪者として生計を立てるか、おとなしく捕まって殺されるか、ギデアスに永住するかだな」
「却下だ却下!!」
「じゃあ2か?」
「ナシングは生死を共にしてきた友達だぜ!できねぇできねぇ!!」
「そうだよな・・・じゃあ3か?」
「そんなウルトラCができるのかよ?」
「不可能じゃねぇ・・・だが、でかい犯罪ほど発覚しにくいからな。ここはもうできる限り事を大きくしちまうのも手かもしれねぇ」
「でもよ、それって失敗したら・・・」
「200%ぐらいの確率で殺される。なにせ獣人も含めた全世界の敵になるからな」
「うあー」
 ダイナはサルタバルタの青い青い空をあおいだ。
「これはノグと機船から飛び降りた以上の偉業になっちまいそうだ・・・」
「当たり前だ。これはもう事がでかすぎて犯罪にもならない。俺達はたった二人でウインダス連邦を詐欺にかけるんだ」
「でもよ、成功したら・・・」
「三人とも無罪放免で釈放される。だがさっきも言ったが・・・ともかく事を大きくしなければならない。それには一つの裏技がある」
「なんだ?」
「俺達は今、マウラやウインダスから見れば犯罪者だな?」
「ああ」
「その俺達が・・・英雄になればいいんだ」
「は?」
 俺達はその場で、渡された食料を残らず後夜祭の代わりに食ってしまった。前祝いというやつだ。半ば、ヤケクソでもあったが。

 それから俺達はすぐにサルタバルタをうろうろしていたヤグードを何匹か襲って服と皮を剥ぎ、ヤグードに変装した。そして民家を襲って十分な食料を奪取すると、ギデアス渓谷に戻ってブブリム半島を目指した。
「リョー!そんなの本当にうまくいくのかよ!?」
「やるしかねえだろうが!!気合い入れろよ、一世一代の大芝居だぜ!!」
 ギデアス渓谷を不眠不休で踏破すると、ブブリム半島との境にあるウインダスの前哨基地を今度は変装せずに襲った。
「悪いけど死んでもらうぜ!」
 数日前の逃走劇でダルメルに踏みつぶされてしまった前哨基地には、すでに多くの兵士がウインダスから派遣されて復旧に当たっていた。しかしコンシュタット争乱でその名を轟かせたこのリョー様とその下僕ダイナが負けるわけがない。俺は短剣と斧の二刀流で並み居るタルタルを次々と餌食にしていった。ダイナは資材として置いてあった丸太を振り回して暴れている。
「残らず余さず成仏しやがれぃ!!」
 俺達はここで、基地にいたタルタルを一人残らず皆殺しにした。降伏しようとした新兵を手にかけた時はさすがに胸が痛んだが、弱肉強食の摂理を味わってもらうしかない。
「よし・・・復旧されている部分も含めて破壊し直すんだ」
「おう!」
 俺はダイナと二人がかりで、復旧しかけていた基地を再度、壊しにかかった。多少の労力を消費するものの、壊すことそのものは難しいことではない。難しいのは、建築の弱点をついた効率のよい破壊の仕方をしてはならないということだった。ヤグードの仕業に見せかけねばならないのだ。ダイナはひたすら力任せにやっているので、その心配はない。
「よし・・・ダイナ、ここからは別行動だ」
「俺がマウラに行って、ひたすらヤグードが襲ってくるってわめいてればいいんだな?」
「いや・・・」
 俺は分けて持っていた食料をダイナに押しつけた。
「それはやめた。俺がマウラに行く」
「な、なんでだ!?俺はタロンギやメフィリムの地形を知らねぇんだ!それに俺が行っても山賊は相手にしてくれないだろうが!」
「俺の手紙を渡す。後はお前の機転でどうにかするんだ。お前がマウラに行って、シラを切り通せるとはやっぱり思えない。計画した俺じゃないと無理だ」
「ま、マジかよ」
「マジだとも。いいか、もうサルタバルタにはヤグードが民家を襲ったの報が届けられてるはずだ。ウインダスには緊張が走ってる。これで俺がマウラに行き、前哨基地の破壊と兵の全滅が確認されれば、ウインダスは少なくとも防衛体制に入る!そしてお前が山賊を連れてギデアスを襲えば、すべてうまくいく!」
「そんな説得が俺にできるのか?」
「やれ!やるんだ!自分の力を信じろ!機船から海に飛び込む命知らずのダイナだろうが!ナシングの命がかかってるんだ!!」
「・・・うぐ」
「やるんだ!」
「くそ、わかったよ!!」
「よし!」
 俺はダイナと別れた。そして急いでマウラへ戻ると、当たり前だが俺は捕縛された。
 マウラの広場に引き出され、大勢の人間の前で俺は尋問されることになった。どうやら、俺達がモンスターを引き入れて火事を起こしたということになっているらしい。
「どうやってモンスターと連絡を取った!?」
「何を言ってるんだ!全然わからんぞ!?」
「とぼけるな!」
「俺達は火事に乗じて逃げて、ずっと半島をさまよってたんだ」
「それがどうして戻ってきた!」
「腹が減って、仲間割れを起こして、もう限界だと思った」
「それで?」
「ここへ来たら殺されると思った!だからウインダスの前哨基地に行ったんだ!そしたら・・・そしたら・・・」
「なんだ!!」
「殺される!みんな殺されちまう!」
 俺は泣き叫びながら、縛られた身でのたうち回った。俺の狂いぶりに、マウラの人間も顔を青くする。
「それからどうしたんだ!」
 俺はもう何も答えなかった。ヒステリーを起こした振りをして、ひたすら泣き叫んでいた。間もなく、チョコボが前哨基地へと走った。俺は人知れず笑いながら、ダイナがうまくやってくれるよう一心に祈っていた。


 第三章「ダイナ千里行」


 俺は走った!走って走って走りまくった!
 食料はリョーからもらったものと、それから前哨基地を襲った時に奪ったものがあった。だが、渓谷を突破するのにそれだけでは足りなかった。
「どけ!どけ!どけ!食料は置いて行けよ!!」
 俺は途中に設けられているウインダスの関所を襲い、食料を奪って強行軍を続けていた。
 走る邪魔になるので余計な荷物は持たず、そのため戦う時はほとんど素手だ。それでもノグとの珍道中ですっかり戦い慣れた俺は、実践経験の少ないウインダスの兵隊なんぞものともしなかった。
 詳しい道はわからなかったが、方向だけは間違えることがなかった。ひたすら北へ北へ。行き止まりにあって引き返すことが何度もあったが、谷から山に移動していることは空気の流れでわかっていた。
「うおおお、男ダイナ!友を見殺しにして生きられるかぁ!!」
 もちろん途中でモンスターの群れにも出くわすが、ダイナ様の敵じゃねえ!体が傷で血だらけになろうが、あるいはドラゴンの牙が体に突き刺さっていても止まらねえ!
 ナシングは檻の中、リョーはマウラでおそらく袋叩きにされてる。それで俺が山賊を連れてくればどうしてウインダス軍が動くのかは少しわからなかったが、ともかくやれることはやっとかないと後味悪いだろ!友達の命がかかってりゃなおさらだ!
 ダイナの親父さんは鉱山の事故で死んじまった。俺は偶然にも生き残ったんだが、俺はそこからノグとの運命的な出会いを考えずにはいられねえ。親父さんが俺をノグの元に導いたのか、神様がノグを守るために親父さんではなく俺を選んだのか、どちらにしてもノグだけは死なせられねえ!リョーだってコンシュタットで一緒に生死を共にしてきた友だ!見殺しにしたら男が廃るぜ!
「待ってろ!俺にかかれば山賊だろうがヤグードだろうが木っ端微塵よ!!」
 メフィリム山地に入ると雄大な自然に目を奪われるが、見とれている場合ではない!この辺りになると関所もなく、モンスターも姿を見せなくなる。代わりにモンスターだか動物だかわからない謎の巨大白骨を見かけるのだが、弱肉強食の法則に俺を放り込んだら最強だから覚悟しやがれ!
 天を脅してもしょうがない。俺は山賊のアジトを探そうとしたが、この雄大な山々を前にどこをどう探したもんやら!山賊がこっちを見つけるのを待つという手もあったんだが、俺の性格を考えると黙って待つことはできそうもなかった。
「お!」
 何時間かそうやってうろうろした後、幸運にもキャラバンを発見した。おそらくジュノからやって来たに違いない。
「やあ!待て、待て!」
「うおお!?なんだその姿は!?」
 キャラバンのリーダーは驚いたことにガルカだった。向こうは血まみれの俺を見て驚いているようだったが。
「いや・・・モンスターに襲われて死にそうなんだ。うおお〜」
「・・・なんだか疑わしいが、まあいいか。私達はこの先のプロキシモに行くんだ。よかったらそこで手当を受けるといい」
「なんだそりゃ、ウインダスへ行くんじゃないのか?」
 そこでリーダーのガルカは大声で笑った。
「素人は真っ直ぐウインダスへ向かう!私達のような旅の玄人は、プロキシモで商売とちょっとしたバカンスを楽しむのさ」
「バカンスだと?」
 上には見渡す限り山、山、山、下を見れば砂と動物の死骸だ。こんなところでバカンスを楽しめるのは砂ミミズかウジ虫くらいのもんだぞ。
「来ればわかる!ほら、チョコボに乗るといい」
「あ、ありがとう・・・」
「私の名はトク、東大陸でキャラバンを営んでいるものだ。君は?」
「俺はダイナ。冒険者だよ」
「ダイナ・・・コンシュタット争乱の万人敵ダイナマイトか!?」
「なんだそりゃ」
「あの戦いでは有名な話だ。サンドリアの陣に単身で切り込んで生還したそうじゃないか」
「そう言えば・・・戦に目覚めてそんなことをやらかしたこともあったかな?」
「なるほどな、お前のような猛者ならそんな姿でいるのも頷ける」
 どうやら俺はあの戦争で少し有名になっているらしいが、俺自身は活躍らしい活躍をしたつもりはなかった。
「もう少しで見えるぞ。プロキシモは古代の豪傑マキシマスの腹心にちなんで名付けられたんだ」
「こんなところで何を楽しむってんだよ?」
「すぐにわかるさ・・・ほら」
 俺の目に飛び込んできたのはたくさんのキャラバンが張っているキャンプでもなく、そこで開かれている市場でもなく、様々な人種で賑わう人出でもなかった。飛び込んできたのは・・・
「なんだありゃ・・・」
 周囲を石壁で囲まれた中で、人が戦っている。そして壁の上は観戦席になっていて、蟻のように集まった人々が熱狂している。
「闘技場さ。プロキシモが考えたのを、この辺りの山賊上がりどもが再構築したらしいが・・・今じゃ俺達キャラバンの憩いの地だよ」
 山賊、という言葉を聞いた俺は心の中でガッツボーズだ。てっきり、あそこに山賊どもがいると思ってしまったのだ。
 だが、甘かった。山賊と市場が同居してるわきゃねえ。
 俺はトクの案内で医者の所に連れて行かれ、傷の手当てを受けた。
「なんだこりゃ。傷は浅いものばかり、後はほとんど返り血じゃないか!」
 そう言った医者の口を押さえ、俺は激しく睨みつけてやった。どうやら事情を察してくれたらしく、医者はすぐに口をつぐんでくれた。
「どうかしたかダイナ?」
「なんでもねーぞ」
 それからトクは俺を市場に連れて行き、あれこれと珍しいものを見せてくれた。サンドリアの紋章からガルカの神像まで、その市場にないものはなかった。こんなところが地図にも載らず存在することに驚くほどだ。
「なあトク、あの闘技場って建物に行ってみたいんだが」
「それはメインディッシュだぞ?」
「いいじゃねぇか。見てみたいんだよ」
「そうだな。お前だったら血が騒ぐだろう」
 俺はトクに先導されて闘技場へ入っていった。チケットを買えば誰でも入場できるらしく、それにチケットの値段もそんなに高いものじゃなかったらしい。トクは二人分のチケットを買い、俺を連れて観戦席へ向かった。
「うおお」
 中では二人のエルヴァーンが戦っていた。二人とも拳に鉄の小手をつけていて、血まみれだ。あんなもので殴り合ったらもちろん死んでしまうに違いない。
「おい、死んじまうぞ!?」
「そりゃ死ぬさ」
「止めないのか!?」
「止めてどうする?」
 俺の常識が通用する世界ではなかった。禁じられているからこそ楽しい、人間同士が戦うからこそ楽しいと言うのだ。
 エルヴァーンの一人はまだ少年で、もう片方は大人だった。少年の方は金髪でなんだかナシングに似ていた。まるで捕らわれているナシングを見るようで、俺は必死に少年の方を応援した。
「右に回れ!そこだ、急所を蹴れ!」
 俺のアドバイスが功を奏したのか、そうでないかはわからないが、少年のエルヴァーンは体重差をはねのけて勝利してくれた。大人の方が血を吹いて倒れ、客席から歓声が上がる。
「おい、あの小僧はこの後どうなるんだ?」
「手当を受けるさ」
「その後は?」
「傭兵だったら報酬を受け取る。奴隷だったら牢に戻るんだな」
「傭兵と奴隷が戦ってるのか?」
「マッチメイクをしてるのは主催者さ。後はエントリーしてるだけだ」
「奴隷はどのくらいの数だ?」
「そうだな、五十人くらいじゃないか?」
 それを聞いて、俺の計画が固まった。計画と言っても、リョーみたいに頭を使ったものじゃない。どちらかというと筋肉を使って考えたと言った方が正解だ。
 山賊どもがここを創設したなら、そいつらがここの周辺を統治していることになる。そうなったら、俺が接触したいと思っていた山賊はすでにいない。この闘技場と市場の関係者が山賊ということになるが、そいつらはもう山賊ではなく立派な商人だ。だとすれば、計画に乗せる連中はそいつらではなく、ここにつながれている奴隷か傭兵ということになる。
 俺はトクを説き伏せて主催者の元まで案内させると、奴隷を貸してもらえないかと持ちかけた。もちろん、「アホ言え!」と一蹴される。
「じゃあ・・・」
 だったら力でわからせるまでよ。
「俺が戦ってやろうじゃねえか。選り抜きの傭兵どもを好きなだけ連れてこい。このダイナ様が一人で相手してやるぜ」
 それを聞いて、主催者は大笑いした。「正気か?」と。
「大マジだ。だが俺が生き残ったら・・・奴隷を好きにさせてもらうからな」
 この挑戦を、主催者は受けた。そうなれば後は俺の戦いだった。
 リョーやノグのような戦いは俺にはできない。俺は、ただ、ひたすら蹴散らす。それが俺の戦いだった。空は俺の心境なんぞ完全に無視して晴れ渡っている。俺は天に拳を振り上げ、神を殴ってでも勝利すると固く誓った。

「さて、本日は予定を返上しまして世紀のハンディキャップマッチを執り行います!」
 俺は大振りの槍を持って、戦場への入場口である鉄格子の前に立つ。鎧なども渡されたのだが、慣れない物を着て動きが鈍くなることの方が恐かった。どちらにしろ、生きるか死ぬかの戦いでは恐怖を感じている暇はない。心臓を投げ打って挑むのみだ。
「かのコンシュタット争乱で勇名を馳せた猛者が来場!なんとプロキシモから選りすぐりのグラディエーター達を相手にたった一人で戦うと言います!」
 会場が大いに沸き返る。
「我らがグラディエーター達は・・・」
 傭兵達の名前が呼び上げられる。
「さあ、すべての準備は整いました。これからコンシュタット争乱の激戦が再現されます!無謀なる挑戦者はコンシュタットの万人敵ダイナマイト!」
 鉄格子がうなりを上げて開かれる。俺は雌雄を決する戦いを前に祈りの言葉を呟いた。
「目に見える物は影と塵」
 俺は闘技場へと足を踏み出す。
「影と塵だ!」
 雲一つない空が迎える。熱狂する観客は戦え!戦え!と吠え立てる。敗者の血で赤く染まった闘技場の土の上にいるのは、奇妙な鎧や兜で武装した傭兵達。得物は剣、槍、斧、鉄球・・・様々だった。数を確認してみると十人ちょうど、これを相手に一人で戦うのだ。
「栄光ある死を!」
 どこで実況を買って出たのか、トクが主催者席から開戦の言葉を叫ぶ。
「ぬうおおおおりゃあ!!」
 俺はまず槍を片手で振り回して距離を稼いだ。逃げ遅れた敵の一人が兜を横殴りにされ、慌てて後退する。しかし奴らはウインダスの平和ボケした兵とは違い、どれも十分すぎるほど訓練されて実戦を重ねてきた強者どもだ。それを証明するかのように、すぐに一人が槍を受け止めて反撃に転じてきた。
「うおら!」
 俺は受け止められてしまった槍を捨てて、逆に敵の槍を掴む。
「お!?」
 驚いている敵を、兜の上から拳で打ち倒す。一撃で昏倒したそいつは、倒れたまま動かなかった。だがこれで敵が怯むことはなかった。今度は斧と剣を持った敵が二人同時に襲いかかってくる。上体をそらして斬撃をかわすと、剣を持っていた方の敵に体を密着させ、手首を折った。
「ぎあー!」
 自由が利かなくなったその剣を、敵に握らせたまま斧を持った方へ突き刺す。俺は剣と斧を奪って二人に止めを刺すと、残った奴らを威嚇して両手の武器を振り上げた。
「があああー!!」
 この快進撃に、観客はいっそう沸き立つ。
「なんと凄まじいダイナマイトの猛攻!プロキシモで名を馳せる傭兵が早くも三人倒れました!」
 残りは七人、俺は一番派手な鉄球を持った敵に襲いかかると、鉄球の第一撃を伏せるようにかわし、そのまま回し蹴りを腹に見舞った。甲冑の上からだったので致命傷にはならないが、衝撃で二・三歩よろめく。俺はそれを見逃さずに、剣で腹を、斧で頭を打ちつけて殺した。
 背後がおろそかになっていた。背中に焼けるような痛みが走ると、俺は振り向きざまに背後の敵を斧で力任せになぎ倒した。
 あと五人・・・
「なんと!なんと!ダイナマイトは戦っています!背中からおびただしい血が流れていますが、半数を倒して生き残っています!なんという男でしょう!」
 トクの芝居がかった口上が進む。俺は鬼のような形相で、まだ立っている敵を睨みつけた。
 しかし傭兵達は果敢に立ち向かってくる。臆病など何の役にも立たないことを、奴らも良く知っているのだ。俺は奴らの勇気に応え、闘技場の中心で五人を相手に大立ち回りを演じた。何度も深い傷を負い、切っ先が首筋をかすめた。それでも俺は怯むことなく、一人、また一人と撃破していく。そしてついに残り二人になったところで、主催者席から敵に向かって何かが投げ落とされた。
「あ、網です!」
 トクの口上で気がつくと、俺は咄嗟に入場口まで逃げようとした。しかし遅かった。敵は網を受け取ると間髪入れずにそれを使い、俺を中央に引きずり戻した。もう片方の敵が網の上から槍で突いてくる。わずかに身をよじって急所はまぬがれたが、深々と槍が突き刺さった俺の腹からはおびただしい血が流れた。
「う、お、お!」
 俺は奪って使っていた盾を捨てると、網を掴んで思い切り引っ張った。引きずられてきた敵を剣で突き刺したが、また槍兵が襲ってきた。剣を抜かないまま、その死体を盾にして防ぐ。
 そこでなんとか網を脱出すると、今度は俺が網を取った。網を投げると、足を取られた敵は転倒した。俺は一瞬の隙を突き、敵の手首を切り落とす。これでさすがに敵も戦意を喪失した。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
 会場からは大々的なシュプレヒコールだ。俺は斧を拾うと、すでに戦おうとはしないそいつに近寄っていった。
「負けた!助けてくれ!」
 百戦錬磨の傭兵でも、こうなると惨めだった。切り落とされた手首の傷をかばいながら、必死に命乞いをしてくる。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
 俺は斧を振り上げた。
「助けて・・・」
 トクも、観客も、誰もが俺の斧に注目する。振り上げた斧が歓声すら吸い取る。
 そして斧を振り下ろした。
「アアー!」
 敵は悲鳴を上げた。
 だが、血は流れなかった。
 俺は斧を地面に投げ落としただけだった。斧は土を切って転がる。
 瞬間、時間が止まったように静寂が支配する。それを壊したのはトクの一声だった。
「ダイナマイトの慈悲を讃えよう!」
 客席からは俺の名を讃える声が響く。それほど悪い気はしなかった。しかし、血を流しすぎたせいで俺はそのまま倒れてしまった。誰もが死んだと思ったろうが、息があると確認されると、俺はすぐに救護所へ運ばれた。
 俺は戦いに勝った。これできっと何もかもうまくいく。
 薄れていく意識の中で、俺はそれだけを確信していた。


 第四章「歴史的大嘘」


『兄さんとリョーが出て行ってから早一週間が過ぎようとしている・・・
 私はここで死ぬのだろうか?温かいスープが欲しい!
 猛烈な睡魔が襲ってくる。眠っては・・・眠ってはいけない・・・』

 と、あまりにも暇なので雪山遭難した気分で日記を書いていた。もちろん眠るのを邪魔する人は誰もいないし、眠って死ぬってこともないと思う。
 今、僕はヤグードが見張りをしている岩牢の中にいます。最初は拷問されたりするんじゃないかと不安だったのだけれど、さすがに彼らも無意味に人質を傷つけたりはしないようだ。しかしずっと閉じこめられっぱなしで、こっちは心身ともに疲れ切っている。外では若いヤグードが忙しく働いているのだが、脱走を警戒されて作業を手伝うことも許してもらえなかった。
「死ぬのかな、僕」
 なんとなくそう思ったりする。
 いくらリョー兄さんが悪事を考える天才だとしても国宝を盗み出すのは無理な気がする。こんな時にユラでもいてくれれば、国宝だろうが国王だろうが取ってきてくれるに違いない。でもあいにく彼女と連絡をとる手段はない。
 ダイナはちょっと考えるのが遅い人間だから、きっと兄さんの足を引っ張って大騒ぎになっているに違いない。あいつが丸太でも振り回してミスラの守護戦士やタルタルをなぎ倒している姿を想像すると、立場的におかしいがウインダス側を同情してしまう。
 約束の期限とかは決めていないので、いきなり処刑されるようなことはないと思うのだけれど、さすがに一月か二月でも過ぎてしまえば僕は見せしめに殺される。二人がなんとかしてくれるのを祈ることしか、僕にはできない。
 こんなはずじゃなかったんだけどなぁ・・・ウインダスへ行って、三人で一緒に可愛いミスラを引っかけようって僕も期待してたのに、ヤグードを引っかけてどうするのさ。待てよ・・・もしかしてヤグードの女性と強制的に結婚させられたりしないだろうな・・・ふと、僕の頭をそんな不安がよぎった。
「ハイレ!ヌスット!」
「きゃあ、何すんのよ!」
 僕が自分の将来を心配していると、別の人間がヤグードに引っ張ってこられた。もしかしたら兄さんかダイナが戻ってきたんじゃないかと思ったのだけれど、連れてこられたのは今しがた僕の頭にあった女性、しかも女の子だった。
「痛いなこらー!その黒羽残らずむしり取ってやるぞコンチクショウ!!」
 いや・・・女の子ってこういう言葉の使い方したっけ?
 女の子はなんと僕と同じ牢に入れられてしまった。おそらく牢は一つしかないんだろう。女の子は放り込まれてもしばらくの間、さっきと同じ調子でヤグードを罵倒していた。そしてようやくそれに疲れると、牢の中にあぐらをかいて座り込んだ。
「ったくもぉ!こんなカビ臭い所にいられますっかての!決めたわ。私がいずれビッグになったら、ヤグードを肉屋の店先に並べて100g10ギルで売りさばいてあげるから・・・」
 大きいんだか小さいんだかわかんない野望である。
 それよりもいいかげん僕の存在に気づいてほしかったので、とりあえず話しかけることにした。
「あ、あの」
「なによ!殺すわよ!?」
「ひぃ」
「・・・って。あら、先客?」
 本当に僕が眼中になかったらしく、彼女は慌ててたたずまいを直した。
「やーねぇ、いるならいるって言ってよ」
「いや、その・・・」
 僕ってそんなに存在感がないんだろうかと、少し人生に疑問を感じる。
 彼女は僕の姿を認めると、どうしてこんなところにいるんだと聞いてきた。こんなところで隠し事をしてもつまらないと思ったので、僕は彼女に今の状況についてだけ話した。
「えー!それじゃあキミの友達がエクスカリバー取ってこないといけないの!?」
「そういうことになってしまった」
「無理よ?」
「直球だね」
「残念だけど死ぬわ。短い付き合いだったけど、私だけは生き残るから安心してね?名無しエルヴァーンくん」
「僕の名前はナシング・・・」
「あ、自己紹介してなかったわね。私の名前はエリ、よろしくね」
 エリと名乗ったそのヒュームはバストゥーク出身の冒険者で、卑しからざる家に生まれたらしいが、なぜかある時「冒険者にならなければ」という使命感に突き動かされて家出をしたらしい。それ以来、諸国を放浪しながらあちこちで冒険者稼業に精を出しているとか。見た目は幼いが、なんとも頼りがいのある半生だ。
「キミはどこから来たの?」
「えっと・・・」
 僕の半生をどう説明したもんだろう。貧しい家に生まれて悪さをして、逮捕されて死刑宣告されて、釈放の代わりに命がけのミッションをやって、ダイナと一緒に羊の密猟をやって・・・
「ぼ、僕も新米の冒険者なんだ。さっき話したリョーとダイナの二人は同郷からの仲間さ」
「そうなんだ」
 なるべく嘘にならないようにごまかした。それでも向こうは納得してくれたらしい。
「エリさんはどうして捕まったんですか?」
「ウインダスの釣り師から頼まれて、ヤグードの作物を盗みに来たのよ」
「あの、外がどういうことになってるかわかりますか?」
「マウラが火事になったことは知ってるけど・・・後は別に・・・」
「マウラの火事は誰がやったんですか?」
 もちろん僕達三人がやったのだが、誰が犯人ということになっているか確認したかった。
「犯人は自首してきたんだってさ。きっと今頃マウラ中の十人から袋叩きにあってるわね」
「ええー!?」
「ど、どうしたの?」
 兄さんかダイナのどちらかが捕まったんだ!どうしてマウラに行ったのか理由はわからないけど、捕まってしまったことに違いはない。
「あああ・・・」
 おしまいだ。僕は殺される。二人も生きてはいられないだろうし、良くても一生自由の身にはなれないだろう。
「どうかしたのナシングくん?」
 エリさんが心配してくれたけど、その時は自分が死ぬ恐怖と仲間を失った悲しさで、もう言葉がなかった。
「兄さん・・・ダイナ・・・」
 若い男女を一緒の牢に入れるのは非常識なんじゃないだろうかということにすら気づかず、その日の夜は更けていった。エリさんも僕の落ち込みようを察してくれたのか、深く追求したりしなかった。これが僕達の冒険の結末なんだろうか?
 神様はベットしている僕の命を掛け捨てしたのだろうか・・・

 それから二日ほどしたがなんの音沙汰もなく、孤独からは解放されたがその代わりに深すぎる絶望の淵に落とされた僕はいつまでも立ち直れなかった。
「ねえー、きっと助かるよ。元気だしなよ」
「死ぬって断言したじゃないか」
「あれはその場のノリってやつよ!キミの仲間だったらきっとうまくやるって!」
「うう・・・」
 そこで、にわかにヤグード達が騒ぎ始めた。
「テキ ニンゲン!セメテキタ!」
「タクサン!タタカウ!」
 僕とエリはすぐに鉄格子に張り付いて何が起こっているのか知ろうとしたが、なんと番兵まで出払ってしまって何もわからなかった。
「なになに?どーなってんの?」
「誰かが攻めてきたとか言ってた」
「ウインダスの兵隊かな!?」
「いきなり戦争に?」
 しかしギデアスの深くにまで切り込んできたのはウインダスの兵隊ではなかった。もちろんタルタルもいたが、ガルカからエルヴァーンまで、それも年寄りから子供まで完全にごちゃ混ぜの異様が軍団だった。
 彼らはそれぞれ粗末な・・・いや、かなり使い込まれた武器と防具を振るって、圧倒的な戦力のヤグード軍を前にまったく引けを取らなかった。
 僕達が騒ぎに乗じてなんとか逃げようと苦心していたところに、少年のエルヴァーンが駆けつけてきた。金髪で、なんだか少し僕に似ている。
「あんたがナシングか!?」
「そうだ!君達は誰だ?」
「俺達はプロキシモの剣奴だ。ダイナって人の命令であんたを助けに来た!なんでも勝てばウインダスから大枚をもらえるそうじゃないか!」
「剣奴?プロキシモ?よくわかんないけどダイナは一緒かい!?」
「ダイナの旦那は重傷で床に伏せってるぜ。さあ、あんた達は逃げてくれ!」
「僕も戦うよ。ここの地形には詳しいんだ」
「あたしも行く!恨み晴らさでおくべきかよ!」
「戦うのはあんたらの勝手だけどな、足を引っ張るんじゃねーぞ!」
 カノカと名乗ったその少年はなんと素手で牢をこじ開けてしまった。僕達はカノカと一緒に牢を出ると、武器を取り戻して戦った。
「ナシングさん、無理するなよ!あんたを死なせちゃダイナさんに合わせる顔がないんだ!」
「君だって子供のくせにどうしてそんなに戦い慣れてるんだ!?」
「言ったろ、俺達は剣奴だ!毎日が戦争みたいなもんだ!」
 カノカはもちろん、他の戦士達も恐ろしく強かった。これはコンシュタットの戦いで見たホーリー将軍の暗黒騎士大隊のような強さとはまた違って、なんというか無秩序な強さだった。
「なに、ウインダスが進軍して来ただと!?」
 なぜかウインダスの軍隊までギデアスに進攻し、しっかり隊列を組んだ彼らは混乱しているヤグード達を圧倒的に押しつぶしていった。
「なにがどうなってるんだ?」
「ねえ、もしかしてキミの仲間が何か仕組んだんじゃないの?」
「なにをどういうふうに仕組めばこうなるんだろう・・・?」
 ウインダスの最終兵器である魔道僧院の秘術部隊はさすがに来ていなかったが、ミスラの守護戦士達が先陣に立ってヤグード達を蹴散らしていた。
「ウインダスに遅れを取るな!大将の首を上げろ!」
 カノカが仲間を督戦してさらに奥へと切り込んでいったが、ヤグード達は洞窟の奥に最終防衛戦を築いてこれを死守した。ヤグードの死にもの狂いの抵抗に、圧倒的だった剣奴とウインダスの連合軍の進撃も止まってしまった。
 カノカ達は何が何でも大将首を上げると血気盛んだったが、ウインダス軍はもう十分だと判断したらしく、部隊を引き上げてしまった。カノカ達だけでは逆襲された時にもちこたえることができなかったため、同じように引き上げるしかなかった。
「カノカ、君達はどこへ帰るんだい?」
「とりあえずプロキシモに戻ってダイナさんに報告しなくちゃいけねえ。あんた達はどうする?」
「僕も一緒にダイナの所へ行くよ」
「あたしも行っていいかな?」
「こっちへ来る分には拒まないよ。プロキシモは自由の街だ」
 僕達は事情をよく知らないまま、プロキシモという街へ向かった。途中でトクというキャラバンのリーダーが迎えに来てくれて、ダイナが何をしたのか詳しく話してくれた。
「ダイナは無事ですか!?」
「五体満足さ。血を流しすぎて絶対安静だが、あの豪傑が怪我なんぞで死ぬもんか」
「そうか、よかった。あの、リョーという人間について何かわかりませんか?」
「いや、聞いていないが・・・」
 僕達はプロキシモに着くと、すぐにダイナのいる病院へ向かった。ダイナはなんと体中が包帯でぐるぐる巻きになっていて、まさに生けるミイラだった!
「うわー!ダイナー!」
「おおげさなんだよ!傷そのものはたいしたことねえ!」
「ダイナ、闘技場で傭兵十人といっぺんに戦うなんて、いつからそんな子になったんだよ・・・」
「お前はおふくろか!ともかくお前が無事でよかったぜ」
「ダイナはちっとも無事じゃないね」
「無事と言えば無事だ。生きてるからな」
「そうだ!兄さんは!?」
「・・・生きてりゃいいんだがなぁ」
 ダイナはまだ動ける状態ではなく、まだ一週間ほど寝ていないといけなかった。僕はエリと、それからギデアスを攻撃した50人の剣奴と一緒にマウラまで兄さんを迎えに行った。
 僕は石を投げつけられるんじゃないかと思っていたんだけど、マウラではなぜか歓迎されてしまった。僕達を、ヤグードの襲撃から守ってくれた英雄だと言うのだ。兄さんはすでに自由の身で、町長と一緒に僕を迎えてくれた。
「兄さん、生きててよかった!でもどうなってんの?」
「いつか言ったはずだナシング・・・でかい犯罪ほど発覚しにくいってな」
 詳しくは聞かなかったけど、これがすべて兄さんの陰謀なんだってことはなんとなくわかった。
「兄さん、ばれない・・・よね?」
「ばれても問題ないだろう。この状況なら」
 兄さんは頭を正しく使えば将軍になれると言ったけれど訂正する。兄さんは頭を正しく使えば帝王になれる。
「ダイナの怪我だってもう治ってるだろ。俺も一緒に行くから、タロンギで合流しよう」
 伝書鳩がプロキシモまで飛び、僕は兄さんと一緒にタロンギ渓谷でダイナと合流した。
「いーやっほう!!」
「やった!」
「やったぜ!」
 何はともあれ三人は生きて再会した。僕達は人目もはばからず抱き合って喜んだ。
「美しいねぇ」
「暑苦しいぜ」
 エリとカノカがそれぞれの感想を言っていたけど、よく聞こえなかった。
「三人とも、こんな荒れたところで喜ぶのは早い。ウインダスへ行けばもっとすごい歓迎が我々を待っているぞ」
 トクがそう言ったが、僕はこの段階になってもどうしてマウラ放火の罪が許され、カノカ達がギデアスまで助けに来てくれたのか正しく理解していなかった。二人と再会できたので、それ以外はどうでもよかったのだ。
「でさ、今回の功労者は誰なの?」
 エリの素朴な疑問。僕達三人はちょっと唸った。
「俺じゃねぇか?計画したのは俺だ」
「ちょっと待て、修羅場の数では俺が一位だ」
「閉じこめられっぱなしだった僕は入らないかな?」
 それぞれがそれぞれ役目を果たし、命をかけたのだ。功労者は三人ということにしておきたかった。もちろんダイナが大怪我をしたのには驚いたけど、生きてるなら大丈夫。
「見えたぜー、ウインダスだ!」
 カノカが叫んだ。
 新天地ウインダス。本当ならセルビナを出航して真っ直ぐここに来るはずだったのに、ずいぶん遠回りしてしまった。それでも最後はたどり着けたんだから、まあいいか。
 門のところでトクが身分証明を済ませると、すぐに魔法で動いている人形兵器のガード達が僕達を守るように隊列を敷いた。そしてウインダスへ入国すると、国民であるタルタル達がこぞって花を投げつけてきた。僕は最初攻撃されているんじゃないかと思ったほどだ!それぐらい、タルタル達は歓迎してくれた。ウインダスの人達は戦うことを何よりも嫌うので、代わりに戦った僕達に感謝を惜しまなかったのだ。悪い気はしなかったけど、ちょっと後ろめたい部分もあった。
「ナシング、余計なこと言うんじゃねえぞ!!」
 兄さんからそうやって釘を刺されていた。
 僕達はそのままウインダスの中心にある星の大樹にまで通され、さらに首脳会談でしか使用されないぐらいの広間に通され、食事を振る舞われた。しかしさすがにウインダスの神子様には会えず、出迎えたのは首相やミスラの守護戦士など軍人達だった。
 ここからが兄さんの出番だった。ボロが出ないように、どこでどうして何がどうなったのか、ウソで鉄壁の守りを築いてごまかした。僕とダイナは重要な話が出ると絶対に黙っているように言われていた。
 兄さんの陰謀はこうだった。ブブリム半島にあった前哨基地の襲撃をヤグードのせいにして、火事も彼らの仕業ということにしてしまった。兄さんいわく、危機に陥るほど人間は判断を誤るので、ひたすら危機的状況を助長したんだそうだ。それからサルタバルタの民家を襲って国民感情をあおり、ダイナは仲間を救うためにプロキシモへ走った・・・ということになった。僕にもどこからどこまでが本当でどこからどこまでが嘘なのかわからないほどだから、騙されている彼らには絶対にばれないだろう。
 エリはほとんどリスクを負わずにいい目だけ見たことになるが、世の中ってのはそういうものだ。カノカ達もまさか僕達三人がマウラに放火して、事実をうやむやにするために戦争を起こしたなどと知る由もなく、恩賞と自由の身になれることを喜んでうかれていた。
 この後世になっても絶対に発覚しなかった大嘘、東大陸を巻き込んだ大嘘、僕はこれが僕達にとって最大の罪にして最大の偉業だと思った。世の中って複雑だ。
 楽しい日々はあっと言う間に過ぎ、自由を得た剣奴達はちらほら故郷へ帰り始めていた。僕も帰りたかったけれど、そうはいかない。彼らの中にはダイナと一緒に行きたいという者が少なくなく、彼らのことも含めてすぐにウインダスを出るわけにはいかなかった。
 僕はエリに仕事を頼んだエビスというガルカの釣り師と仲良くなって、釣りのことをあれこれ教えてもらった。それ以外は魔法学校を見学に行ったりと、のんびりした日々を過ごしていた。
 ダイナは後始末があるらしく、トクやカノカと一緒にしばらくしたらプロキシモへ行かなければならないということだった。すぐに帰ってくると言っているから、それほど寂しくはないけれど。
 兄さんは・・・恩に着せて毎日ミスラと一緒に遊んでる。それはそれで兄さんらしいと言えば兄さんらしいが・・・英雄がそんなことでいいのかなあ。
 
 ・・・そして、エリは一つの所にとどまり過ぎたと言って、旅を再開することにした。ウインダスから無償で援助を受けたので、それを使って遠くまで行くらしい。きっと、もう会えなくなるだろう。
「ありがとうねナシング、リョー、ダイナ。楽しかったよ!」
「元気でね、エリ」
「ま、死なねぇようにな」
「しっかりやれよぅ!」
 エリは僕達と固く握手して、サルタバルタの草原に溶け込むように走っていった。最後に振り返り、大きく手を振ると、もう見えなくなってしまった。
「あれ?」
 僕の頬を涙が伝った。
「兄さん、僕は泣いてるみたいだ」
「・・・泣くな」
 なぜか泣いていた。そして胸が苦しかった。
「兄さん、胸が痛いよ。病気かな?」
「・・・耐えろ」
 それが失恋というものであるということに気がつくのは、もっと後になる。
「なんだノグ、寂しいのか?」
 ダイナにそれがわかるわけなかった。青い青いサルタバルタの空と草原を、僕達三人はずっと飽きずに眺めていた。

<See You Again!>



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