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Final Fantasy XI Original Story



FF11『ノグ冒険記』




by nothing




 お前は覚えているだろうか。かつてこのウインダスにドラゴンと戦った男がいたことを。
 獣人との戦いに呑まれ、その役目を果たすことができなかった勇者がいたことを。
 人々は恐怖と共に封印した。北方の同志達を見殺しにする覚悟で。
 すべては忘れられようとしていた。人々の記憶からも消え去っていた。
 それでもあの男は待ち続けている。ドラゴン・メイ・クライと言われた伝説の主。
 その男の名は・・・

第五章「予兆そして借金」

 人間というのは愚かなものだと思う。なあ、メディコ。
「あー、そうだな」
 人間というのはつくづく愚かなものだと思う。なあ、コロロ。
「うん・・・」
 僕はどうして今、ウインダスの魔法学校で補講を受けているのだろうか?
 思い当たるのは三日前のこと・・・

「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!近う寄れ近う寄れ!」
 兄さんが風俗街でミスラと遊び過ぎ、伝票を払えなくなって用心棒のガルカと戦ったんだった。
「うっしゃあああ!!どんどん持って来い!」
 ダイナが港の水上レストランで大食い記録に挑戦して、急性胃炎で病院に運ばれたんだった。
「え・・・授業料滞納?」
 ウインダス政府の便宜で魔法学校に通っていた僕は、寮の雑用をしないと生活できなくなった。

 何が悪いとは言わないさ。みんな貧乏が悪いんだ。リョー兄さんは悪魔のように賢いけど小学校中退だし、ダイナは最近になってようやく自分の名前を書けるようになったぐらいだし、僕はここでようやくバストゥークの初代頭領を知ったほどの皮肉さだ!何が悪いとは言わないさ!みんな貧乏が悪いんだ!
「ノグ、叫んでないで集中しよう」
 小声で注意してくれたのはクラスメートのコロロ。家柄での入学が80%を越えるここに実力だけで受かった凄いやつだ。とても勉強熱心だけれど、どうも要領が悪くて成績も悪い。
「はー・・・ノグと一緒の教室だと知った時は、それなりに心が躍ったんだけどねえ」
 ため息をついているのは同じくクラスメートのメディコ。コロロと正反対に家柄だけで入ってきた凄いやつだ。とても賢くて抜け目ないのだけど、勉強不熱心なのでいつも居残り。罰当たりなやつだ。
 カリカリカリ・・・と、ノートを走らせる音だけが教室に響いている。最近ようやくタルタルの男女が区別できるようになった僕は、女性教員らしい講師の指導を聞きながら、兄さんみたいにミスラと遊んでみたいなあと妄想にふけってみたりした。横からコロロにどつかれる。
『この俺達の世界が真っ暗になった時、果たして誰の女神が微笑むのか・・・』
 メディコがわけのわからない文章をノートに書いていた。彼には特殊な空想癖があって僕達はいつも用心している。人間は現実だけ見て生きていくものだというのが、僕の持論でもあった。
 授業に一区切りがついたのか、講師は黒板にどっさりと魔法式を書いたチョークを置いた。そしてこちらに向き直って告げる。
「じゃあ三人はこれからガーディアンの改造実習に入ってください」
 うえ〜〜〜と、僕達はそろって濁った声を上げた。
 ガーディアンの改造実習というのは文字通り、遺跡で発掘されたガーディアンに魔力を吹き込んで動かすことができるようにする実習のことだ。このガーディアンの機構部分は専門の技術者がやってくれるから問題ない。大変なのは生命を吹き込むために書かなければならない魔法言語の作成だ。これは実に面倒かつ手間のかかる作業で、苦労して魔法言語を組んでも詠唱に失敗すると一からやり直し、不具合があるとやっぱり一からやり直し、というのを何十回も繰り返さなければならない。しかしこれが将来ガーディアンを統べる存在である魔法学校の卒業生には必修なのだ。
「うう・・・バストゥークに帰って鉱山でバイトしてた方がよかった・・・」
「文句言うな!僕らは指導者になるための教育を受けてるんだぞ!?」
 コロロが激昂したが、後ろからメディコが囁く。
「・・・使われる指導者に意味なんかねぇ・・・」
 講師は実習室まで案内してくれると、後はがんばれと言わんばかりに引き返してしまった。僕達は実習室で脳細胞が粉砕されるような魔法言語の作成に勤しんだ。
「はあ・・・兄さんは今頃どこで何をしてるのかな」
「ノグの兄さんって刑務所じゃないのか?」
「いいや、特赦で刑務所行きは免れたんだ。でもウインダスに住むことができなくなったから、今はマフィアに追われてサルタバルタで逃亡生活を・・・」
「・・・ヘビーな兄さんだぜ」
 メディコは兄さんのことが気に入ったらしい。今度ぜひ会わせてあげよう。
「でよ、コンシュタットの万人敵ダイナはどうしたんだよ?」
「あいつはまだ病院!今度ケーキでも持っていってあげるつもりさ」
「食い過ぎの患者にケーキなの?」
「見せしめにしてやる!」
「ノグ・・・生やさしくない男だ・・・」
 三人で協力しながらの作業は夜まで続いた。ふと思ったけれど、僕は知的な作業を複数でやるのは初めてだ。バストゥークでの不良時代やコンシュタット戦役で頭を使ったことはあるけれど、知的だったとは言い難い。どこにいても、ここに来るまでは学者というのが優雅で楽な職業だと思っていた。今はそれを全力で撤回したい。
「ふあー!ようやく組み上がったよー!」
「じゃ、最初の詠唱に入ろう」
「・・・エラーの時、ガーディアンはどんな音を立てるのだろう・・・?」
 僕達は休まず魔力の注入に入った。


第六章「慎重にしたはずの罠」

 
 25年間、この時を待っていた。私が考案したガーディアンが持つたった一つの欠点、大樹の魔導高炉からエネルギーを汲み出すために使用している日付が、今日の深夜で切り替わるのだ。そして新しい日付と共に魔導供給が開始されるまでの一瞬によって、高炉は加重な充電状態を迎える。もしもその時、一個師団級の魔導師が内部から魔力を解放させれば、大樹どころかウインダス全体がオーバーヒートするはずだ。まさか私のような人間を投獄することになろうなどとは、古代の樹王達も思わなかったのだろう!
 サンドリアの古戦場にヤツが蘇るという託宣を受けてから五年間、私は死にもの狂いでサンドリアとウインダスの両政府にヤツの危険性を訴え続けた。しかしサンドリアはウインダスの謀略であるという見方を変えず、ウインダスも放っておけばライバル国の弱体化を狙えると考えた。もしもヤツが一族と合流すれば、世界の危機だと言うのに!
 そして私は単身サンドリアへ向かおうとした時、密航罪で逮捕された。戦時下で密航が成功すると考えた私がバカだった。ご丁寧なことに、ウインダス元老院は禁忌の呪法で私を封じた。決して起きてはならない、しかし利用価値はあるというのが奴らの結論だった。それから20年間、私は身を焦がすような憎悪と共に魔力を練り続けた。
「3・・・2・・・1!!」
 視界が真っ白に染まる。私の目には破滅するドラゴンの姿が浮かぶようだった。長い長い沈黙の時を経て、ついに戦いの狼煙が上がったのだ。


第七章「ウインダスの混乱」


「うわ!」
 三人とも驚いてその場を飛び退いた。動かそうと思ったガーディアンがいきなり火を吹いて爆発したのだ。
「え、失敗?」
 コロロが目を白黒させて言った。
「・・・大失敗だな」
 メディコはなぜか冷静だった。
 僕はそろそろと近寄って、爆発したガーディアンをおそるおそる触ってみた。
「それにしてもすごい失敗の仕方だなぁ。まるで漫画みたい」
「でも、どうしよう・・・ガーディアンの本体を壊しちゃうなんて」
 コロロの心配はもっともだった。ガーディアン一体はとても僕らに弁償できる金額ではない。
「つったってなぁ、どうせ言い逃れなんて無理だろ」
 メディコは身も蓋もない事実を突きつけてくる。
「もうこうなっちゃ仕方ないな・・・僕は有り金をみんな置いて明日の朝までにはここを出るよ。兄さんやダイナと一緒にとりあえずメフィリム山地まで・・・」
「いきなり夜逃げかいノグ!事情を話せばわかってくれるさ!」
「そうもいかないんだよコロロ、お金の話に事情はないのさ」
「仕方ないやな。どうせ注入しようとした魔法式は残ってるし、俺達はガーディアンの不整備を訴えるさ。ノグは好きにするといい」
「ありがとうメディコ、世話になったね」
「なぁに・・・」
「コロロも元気でね!」
「ああ、寂しくなるな。ノグ・・・」
「また会えるさ」
 僕は最低限のお金だけを持って、後は置いて夜のうちに寮を抜け出した。その足で都市の端にある療養地にまで向かったのだけれど、なぜか今日は街の方が騒がしかった。ウインダスの人はお祭りでもない限り夜に騒いだりしないので、これは不思議だった。
「ダイナ!ノグだよ!」
 僕は病院の排水溝をつたってダイナの病室へ忍び込んだ。この段階では別にコソコソする必要はないのだけれども、逃亡生活の癖だ。
「あ、ノグ!なんで窓から来るんだ?」
「お前まで聞くな!実は魔法学校でまた失敗しちゃったんだ。賠償請求される前に逃げよう」
「それはいいんだけどな。病院がさっきから変なんだよ。灯りは点かないし、手術場の方もなんか騒いでる」
「灯りが点かないの?おかしいね?」
「まあいいさ。それよりすぐに支度するから待ってろよ。で、とりあえずメフィリムまで行くんだよな?」
「そのつもりだけど」
「そうなったらいよいよジュノだぜ!ワクワクするな?」
「そうだね・・・」
 病室の窓から遠くの街を眺めると、なぜか花火をやっているのが見えた。しかしずいぶん不細工な花火だ。まるで鉱山の暴発か何かみたいだった。ダイナの病室の魔導供給が途絶えているのも変だった。ここでは最新式の魔導リンクを使っていて、魔力を大樹から直接汲み出しているのだ。大樹に異常がない限り、ここにも異常が起こるはずないのだ。
「準備完了!本調子じゃないが、なあにメフィリムまではもつぜ」
「じゃあサルタバルタにある兄さんの隠れ家まで行こう」
「おう」
 僕とダイナは二人でウインダスの裏路地を走った。真夜中ということもあったけど、なぜかガーディアン達が機能しておらず僕達は拍子抜けと共に楽々突っ切っていった。普段は街頭が灯っているはずの場所も真っ暗で僕達には好都合だった。
「あ、見ろよ。ノグ!」
「え?」
 僕達が競売所の屋上を通ったところで、遠くに大樹を一望することができた。すると根本の方から何やら煙が上がっているのが見える。
「きっと火事だぜ。こりゃあしばらく騒ぎが続きそうだな」
「最先端の魔導国家も肩無しだね」
 僕は皮肉気に言うと、ダイナと一緒にウインダスを出た。
 サルタバルタはウインダスの動向とあまり関係なく、とてものんびりとしている。でも真夜中ということでなんだかそれは神秘的な雰囲気をかもしていた。
「いい風だねぇ、ダイナ」
「ほんとだな」
「じゃあ、兄さんの隠れ家まで走ろう」
 僕とダイナは猛獣やヤグードの気配を避けながらサルタバルタを走った。初めて行くところだが、地図のチェックと方位磁針を頼りにどうにか道には迷わなかった。
 隠れ家は崖と森の境目という恐ろしく危なっかしいところにあったが、一時しのぎということでなんとなく納得する。合い言葉を言って中へ入ると、思ったより整頓された室内には誰もいなかった。
「いないみたいだ・・・」
「こんな夜中にどこ行きやがった!」
「きっとトイレか何かだよ。もうちょっと待ってよう」
 隠れ家を見つけてから数十分、僕達は病院から盗み出してきた食事で一服しつつ、兄さんの帰りを待った。兄さんが慌ただしく室内に入ってくると、僕とダイナはそろって肝を潰した。
「な、な、な!!」
 なんと兄さんは血まみれのタルタルを抱いて帰ってきた。血まみれも血まみれ、息も絶え絶えで今にも死にそうだった。
「兄さん!ついにやっちゃったんだね!?」
「リョー、お前は無益な殺生をしないと信じていたのに・・・」
「違うわドアホ!!こいつが川から流れてきたから助けてやったんだ」
「川から?」
「自殺か?」
「見るとまともに服も着てないからな、なんかワケアリだろ」
「もしかして脱獄囚とか?」
「そこまで話を飛躍させるなよ。もしかしたらただの乞食かも知れないさ」
 兄さんの言うことはもっともだった。ホームレスの人がさっきの火事で被害に遭って、川に落ちて流されてきたと考えるのが適当なのだ。
「放っておくわけにもいかん。とりあえずここに置いてやろう」
「いや兄さん、言い忘れてたけど僕達はウインダスから逃げないといけないんだ」
「ナシング、お前タルタルの女教師にでも手を出したのか?」
「違う!教材のガーディアンをダメにしちゃったんだ」
「そいつはまずいな。俺が作ったウインダスの私書箱で払えないこともないんだが」
「いいからもう潮時なんだよ!二人とも悪いことばかりして!」
「何を言うか。俺達は本能の赴くままに行動しているだけだ。なあダイナ?」
「その通り!」
「胸を張って言うなよ!」
 僕達がぎゃあぎゃあ騒いでいると、ベッドで横になっていたタルタルが目を覚まし始めた。すごい生命力だと思う。
「・・・どこだここは」
 タルタルが恐ろしく低い声でそう言った。
「ここはリョー様の隠れ家だ。ウェルカム」
「・・・そうか、ここはサルタバルタか・・・」
「聞いてねえな」
 僕はある事に気づいて不用心にそのタルタルに近づくと、彼の身体をなめ回すように見つめた。
「あれ?血が止まってる・・・?」
「おかしいな。まともな道具がないから応急処置もできなかったのに」
 ダイナも異常に気づいたようだ。タルタルはふうっとため息してから告げる。
「しばらく眠って魔力が回復したんだ。そうすれば浅い傷ぐらい塞がる」
 淡々と告げるタルタル。僕はダイナと目を見合わせた。
「どうしますか?ウインダスへ帰るなら送っていきますよ?」
「ああ?」
 タルタルは魔力を漲らせながら僕に詰め寄った。まともに服も着ていないのに、そんな事実を吹き飛ばしてしまうほどその姿には威圧感が満ちていた。
「そうか!お前達はここから出ていくところなんだな?」
「そ、そうですけど・・・」
「ふ、いいぞいいぞ!女神は微笑んでいる!俺も一緒に連れて行ってもらおう!」
 急に息を吹き返した彼は怒るような勢いでまくしたてた。
「おい、てめえさっきから名前も名乗らず何を偉そうに・・・」
 リョー兄さんは彼の言動に腹が立ったのか、脅し気味にそう言う。しかしタルタルはまったく臆さずにこう言った。
「我が名はセイヨウ。故あってサンドリアまで行かねばならん。ご一緒させてくれるなら、私のことを話す機会もあろう」
 正体不明のタルタルが僕達の旅に加わることになった。僕は彼の自己紹介を聞きながら、不思議な不安と緊張感が体に広がるのを感じていた。彼と共に何かが起こるだろうということを、この時すでに知っていたのかもしれない。

<to be continued>



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