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FINAL FANTASY XI



レインリリー


by nothing





始まりは、なんだったのか?
 運命の歯車は、いつからまわり始めたのか?
 時の流れの遥かな底から、その答えをひろいあげるのは
 今となっては不可能にちかい・・・

 だが、たしかにあの頃わたしたちは
 多くのものを愛し、多くのものを憎み、
 何かを傷つけ、何かに傷つけられ、
 それでも、風のように駆けていた。
 青空に、笑い声をひびかせながら・・・


『レインリリー』


 海が嫌いだった。
 寄せては返す波を見ていると、同じことを繰り返してばかりの自分が重なって見えた。
 美しいものと醜いものの区別もつかなくなっていた。かつて自分を育んでくれたあの山麓はもうない。あの世界で永遠とも思える時間を、詩と共にまどろむ瞬間はもう来ない。僕はいつからかひたすら時間制限ばかりの世界に生き、そこに死にゆく事ばかりを知るようになった。ひたすら広い海を眺めていても、それを否定してくれるとは思えなかった。
 物心つく前からの遊び道具だった「言葉」や「音程」というものは、すでに暇つぶし以外には使えなくなっていた。あるいは、その中に万象を垣間見ることのできた僕はすでに死んでしまっているのかも知れない。目の前に広がるのはひたすら広い、海のような未来だけだった。
 多くの詩聖や文豪が無限の苦痛と絶望の世界を生きたということは聞いていたけど、こと僕の世界は希望も絶望も忘れてしまえるような気がした。
楽に生きることだけが確かな価値観としてあり、もうそれ以外には何も必要なかった。
言うなれば、そこは棺桶の中だったのかも知れない。
後もう少し季節が巡れば、僕すらも否応なく子供の世界から追放され、持てる力のすべてをお金に変えるような生き方をしなければならないだろう。自分の心も体も、すべてが神様からもたらされたものだという信仰は、脆くも現実というものに押しつぶされようとしていた。
 しかし、抵抗する気力があったわけではない。まるで何百年も生き続けた老人のように空虚だった。何かと戦おうにも目が見えず、足は歩く事を忘れたようだった。
 そしてもう少しその空虚感が徹底していれば、僕はあの不条理な会合に巻き込まれずに済んだのだろう。
 その日も僕は、未だ見慣れぬ海を片目に家路をたどっていた。
 もしもこの時、海辺に輝くあの古ぼけた宝を見つけることがなかったら、きっと僕は引き返すことができたに違いない。
 それでも僕が見つけ出してしまったのは、その実に使い込まれた帽子だった。
 中世期の詩人や貴族が被っていそうな、格好だけは立派な帽子だった。しかし材質はずいぶん悪くて、これが海を渡って流れ着くことができたのは不思議だった。
 なんでこんなものが光って見えたのか。疑問を抱きながら、僕はずぶ濡れになっているその帽子からひょいひょいと水を切った。そして、すべての運命を揺り動かすことになるそれが、時間を忘れて砂の上へ落ちた。
 花?
 気付いた時にはもう遅かった。その瞬間から、眠りつづけていた僕の意識はこの星と共に夢を見始めた。
 事実しか存在しない歴史なんて、ただの資料でしかない。そのまどろみの中で生き続ける命だけが、あらゆる真実を内包している。僕はそれを喚起させることになる。重複する世界の線が、交わったあの世界で・・・

☆ ☆ ☆

ミラー「生きろ!生きろぉ!くわぁー!」
ロー「無理だろ。この姿勢から生き返ったら奇跡だ」
 子供じみた金髪の少年と、冷めた雰囲気のある銀髪の少年。前者は目の前で踊り、後者は落胆の表情をしていた。
ロー「無理だろ、全体的に。万物の法則に逆らう気か!」
ミラー「心配ない!奇跡は常に勇気ある者と共にある!」
ロー「どう見ても気を失ってるだろうが!」
 途端に息苦しさを感じ、手足をじたばたと動かす。
ミラー「生きてる!」
ロー「嘘だろ」
ソオ「ぶはー!」
ミラー「さすがだ!僕が見込んだだけのことはあるよ!」
ソオ「な、な・・・なに!?なんだっけ!?」
ロー「おお、混乱している」
ミラー「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」
ソオ「ああ、うん。大丈夫だよ」
ロー「あんまり大丈夫そうには見えないんだが」
ミラー「大丈夫って言うなら大丈夫だろ。世の中とはそういうもんだ」
ロー「そうかな」
 あたりを見回すと、異常な光景に再び驚愕することになる。異常と言ってもそこが刑務所だったとか病院だったという落ちではない。僕達はそれ全体が躍動しているかのような密林のど真ん中にいた。
ソオ「ここ・・・どこだっけ」
ミラー「デジャヴか!」
ロー「記憶喪失じゃないか?」
ソオ「あ、いや。思い出した。ヨアトルだよな、ここ」
ミラー「そのとおーり!」
ロー「三人とも忘れたら生きて帰れないところだったな」
ソオ「なんで、こんなところに・・・」
ミラー「ああ忘れてる!名前とか言えるか!?」
ソオ「・・・イエロー」
ロー「誰の名前だと思ってるんだ」
ミラー「困ったな。今日は皇子とかブロッサムとかいないぞ」
ソオ「いやいや大丈夫、ちょっと頭が里帰りしたみたいだ」
ロー「・・・こいつってそもそも記憶とか知識とか危ないよな」
ミラー「うんうん」
 ようやく体を起こすと、否応なく現実と向かい合わなければならなかった。どうやら僕達は密林の中ですっかり孤立してしまったようだ。
ミラー「どうしようか?」
ロー「ってか、出口はどこだ?」
ソオ「えーっと・・・たしか西側の滝を目指してるんだよね」
ミラー「うん、そう」
ソオ「じゃ、行こう」
ロー「待て待てい!お前達は現実的な認識が足らないから俺が一緒に来ました!って、なんで説明口調なのか・・・」
ミラー「勝手に葛藤するなよ」
ソオ「自分と戦う傾向があるのかな」
ロー「黙れい!お前達が何も考えずに飛び出すから、チョコボは逃げるわ道に迷うわ!」
ミラー「人生とは・・・迷子だ」
ロー「なにがじゃあ!ともかく、地図を確認しながら先に進むぜ!」
ソオ「地図、地図・・・」
ミラー「ソオ、その地図ってどこで買ったの?」
ソオ「薬局」
ロー「ありえねえ!」
ミラー「でもそれなりにもっともらしいけどね。とりあえず、これに従って進もう」
ソオ「進もう」
ロー「と、父さん母さん・・・」
 何はともあれ、僕達は進み始めた。太陽がどこにあるのか確認できないほど、うっそうと茂った密林の中。それでもなぜか前途は明るかった。
それでも破天荒な道のりではあった。進んでは落ち、落ちては進み。時には流されたり、あるいは浮かび上がったこともあったかも知れない。蟻の群れやトカゲの大群に追いかけ回され、その度にローは泣いてミラーは笑っていた。
ソオ「生きて帰れるかな・・・」
 川辺に掘った横穴の中で小さな焚き火を囲みながら、なんとなくつぶやいてみた。
ロー「生きてなきゃ困る」
ミラー「さすがに、もっと穏やかな場所で死にたいな」
 その時、ふっと記憶の底が何かにさらわれた。
ソオ「あれ?なんで・・・西側の滝を目指しているんだっけ」
ロー「またかー!」
ミラー「ソオ・・・大事な事を体に書いておいたら?」
ソオ「子供じゃあるまいし・・・あ、そうそう。花を探しに来たんだよな」
ロー「当たり!」
ソオ「賞金目当てだっけ?」
ミラー「いや、言われてみたら目的の理由がわかんない」
ロー「・・・そういえば、俺も深く追求しないで来た」
ソオ「なんでだっけかなぁ・・・」
ミラー「行けばわかるよ。行けば」
ソオ「そーだね」
ロー「ああ、なんで俺は来てしまったんだろう・・・」
 水の確保が不十分だったので、三人ともずっと体を洗っていなかった。男同士でよかったと思う反面、暑苦しい雰囲気が加速されるような気もした。しかし不思議と、どのような状況でも寝苦しいと感じることはなかった。その夜も暑い気温と臭う体に不自由を感じることなく、ゆりかごで眠るように目を閉じた。
 しかし、どうして花なんて探しに来たのだろうか?
 なにか重要なことを、あの魔物に奪われてしまったような気がする。
 目に見えている世界と繋がっているための・・・
 けれどもうその時は、あまり難しいことを考えるのはよした。
 
 生きているといろいろな不条理に遭遇するものだ。たとえば料理をしている時に突如として水が爆発したりするし、会計を済ませようとしたら財布がなかったりする。そして密林の切れた台地に見えたのは・・・
ソオ「ク・・・クレバス?」
ロー「なんで密林にクレバスがあるんじゃあ!」
ミラー「いや!実は僕達がそう思ってるだけで実はここ北極!?」
ロー「アホ!」
 翌日の行軍において、なぜだかクレバスに遭遇する羽目になった。おそらく火山とか地震とかの都合でこういうことが起こるんだろう。ノルバレンとかにあるものと違ってだいぶミニサイズではあるけど、なんだか巨人の足跡か何かのようで恐怖感は満々だった。
ロー「ともかく!この地獄谷を越えんことには俺達に明日はない!」
ミラー「現実的な困難にぶつかってローが生き生きしてる」
ロー「シャラップ!幸いなことに深さは30メートルぐらいしかないようだ・・・一人がロープを持ち、一人が降り、一人が周囲を警戒するのだ!」
ミラー「ロープ持つ」
ソオ「周囲警戒する」
ロー「そうなると思ったぜ!まあいい、任せておけ」
ミラー「・・・よし、ロープは固定できた。あれ、ソオ?」
ロー「どうしたー!?」
ソオ「・・・・・・」
ミラー「飛んでる!ソオが飛んじゃってる!」
ロー「またかい」
ミラー「最近は少ないと思ってたのに・・・」
ロー「うーん、危険は少なそうだし。俺は行くぞ」
ミラー「よし、気をつけて」
ロー「よっと・・・なんだ、変な匂いがする」
ミラー「ガスとかじゃないかな?」
ロー「おかしいな。苔とかが生えてるから大丈夫だと・・・」
ミラー「戻る?」
ロー「いいや。行く」
ソオ「あ」
ミラー「おお、ソオカムバック!」
ロー「ゆ、揺らすな落ちる!」
ソオ「あれ、ローがいない」
ミラー「もう地獄谷の一丁目にいるよ」
ソオ「あ、下か・・・大丈夫かな」
ミラー「ローなら大丈夫だろ」
ソオ「うん・・・」
ミラー「なあソオ。ソオってなんでいつも頭が飛んじゃうの?」
ソオ「意識してやってるわけじゃないんだけど」
ミラー「じゃあ、その最中って何が見えてるの?」
ソオ「んー・・・過去の残骸とか、放棄された未来とか・・・」
ミラー「わけわかんない・・・あ、ローが下に着いたみたいだ」
ロー「これから向こう側に上がるぞー!危険があったら知らせてくれー!」
ミラー「あいよー!」
ソオ「さすがロー!落ちるのが得意な男だ!」
ロー「覚えてやがれ!」
 ローの大活躍で僕達もどうにかクレバスを渡ることができた。ローの手はこの事業のせいで傷だらけになっていたけど、それすらも誇らしげだった。僕達は結局、ろくな地図もないまま順調に目的地へ到達しようとしていた。この時は、あらゆる困難が本当になんでもなかった。
 それでも僕は、疑問を投げかけてくれたミラーに「頭が飛ぶ」ということをもう少し詳しく説明するべきだったのかも知れない。あのうっすらとした、世界から遊離しようとする感覚。飛んでいる瞬間に何が見えているのか、何を感じているのか、我に帰るともう覚えていない。それは詩を書くときの不思議な独自性として顔を出す以外は、何の役にも立たなかった。
 しかし誰かが名づけた「飛ぶ」という表現が、おそらくそれを最も明確化しているような気がした。
リョー「どうかしたか、ナシング・・・」
 いや!そうじゃないんだ!僕はそもそも単独の世界を選択できなかった不完全な存在なのか、それとも何かに挑戦しようとしているのか・・・?
リョー「な、なに言ってんだ?」
 ともかくこの世界からは出ないと!振動しようとしている・・・いや、最初から僕だけが振動しているのか・・・
ロー「どうした、ソオ」
ソオ「あ、いや。なんでもない。そろそろ目的地だっけ?」
ミラー「もうそろそろだよ。あー、水が綺麗だから体が洗えるかもー」
 ふと傍を見ると、それまでの密林とは打って変わって眺めのいい場所に来ていた。近くを流れていた川にもすでに土が混ざっておらず、まるで別世界のように澄んでいた。
ロー「でも、ま・・・目的の物を取ってからにするか」
ソオ「うん」
ミラー「遠くまで来たなぁ。この辺りは飛行艇からもきっと見えないだろうし・・・」
ロー「ああ。無事に帰れりゃいいんだが」
ソオ「んー・・・」
ミラー「大丈夫だよ。大体の見当は付くし」
ロー「ソオ?」
ソオ「え、ああ?」
ロー「調子が悪そうだな。なんだか目に見えるみたいだ」
ソオ「うう、生まれつきだよ。これは」
ミラー「不便だよねぇ。鉄分とか摂ってる?」
ソオ「できる限りは」
ロー「あれが滝じゃないか!虹が掛かってるぞ!」
ミラー「きっとそうだよ!あれ、でも周りは岩だらけで花が・・・」
ソオ「きっと滝壷の中にあると思う」
ロー「って・・・水中かよ!」
ミラー「また大仕事だねぇ。でも、水浴びのついでと思って・・・」
 三人で滝壷の傍まで進んだが、僕は二人が飛び込もうとする前に止めた。
ソオ「あ・・・待って。まずおいらから行くよ!」
ロー「ん?それほど危険はなさそうだけどな」
ソオ「いや、水の流れとか早そうだし」
ミラー「そうかな・・・でも、一人ずつ行くのもいいかも知れない」
ロー「水中の場所までわからないし、そうだな」
ソオ「うん。それじゃ・・・行って来る」
ミラー「がんばれー」
ロー「気をつけてな」
 僕はもう一度、すべてにおいて共通な青空を見た。そしてなんとなく、流れる雲をその指で撫でた。次の瞬間、体を倒すように水中へと投げ込んだ。見ている二人に、変な飛び込み方だと思われたろう・・・と思ったのが最後だった。
 何も死のうと思ったわけじゃなかった。ただおそらく漠然と、このダイブがこの世界に別れを告げることになるだろうと知っていた。なぜ僕がこの世界に来たのか、ソオという存在が何を感じて何を知っていたのか、今となってはそれもわからなかった。ただ、おそらくソオはあの世界で何かを感じ、何かを感じさせ、そしてなぜか別の世界線にいる僕に思いを託した。二人がまったく異なる存在ではないからこそ、それも実現したのだろう。だが、何と何が異なっているのかを説明するには、言葉というのはあまりに不完全だった。
 悲しいという気持ちは起こらなかった。ソオはこの世界だけで生き、この世界だけで死ぬ。しかしおそらく、ソオという存在の根本は過去か未来において僕の存在と重なっている。永遠に続く時間のうねりは、僕が理解するのには広大すぎた。
 時間の流れがその不安定さをいっそう増した時、僕は「花」をその両手に掴んだ。

☆ ☆ ☆

 じゃあ、どうして今ここに花が!?
 気が付いた時、僕はこちらの世界でも水に沈んでいた。しかしそれはあの滝壷ではなく、僕自身が嫌悪したあの海だった。
 両手を確かめた時、握られているのは帽子だけだった。その反動で再び海中に沈み、泳げない自分が沖合いにまで流されていることを知る。
 すべてが謎に包まれていた。混濁する頭は溺れることだけをひたすら確実にする。僕は記憶の彼方に隠された、「あの人達」に助けを求めようとした。
 いや・・・そうじゃない。僕は助けられている・・・
 そしておそらく、あの花と帽子を届けることができるのは彼女だけだ。
 ああ、そうだった。時の流れの遥かな底から・・・答えをひろいあげた・・・
 目の前が水ではなく、涙であふれた。
 その時の僕はあらゆる世界において確かな真実の中にあり、あらゆる恐怖を払いのけた。
 海への恐ろしさも消え、安心感にあふれたまま、元の砂浜へと戻ってきた。
 手の中にあるのは帽子だけだった。あの世界で感じることのできた真実はこの星の中に、僕から離れることなく共にある。それでも僕はその帽子を抱きしめて、もう一度だけ空を指で撫でた。そして、照れくさいながらも偉大な、あの合言葉を叫んだ。
 ナイスジェントル!

<おわり>



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