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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家のお花見 その1

by 森田信之



 

 

「へぇ、結構たくさん咲いてるんだな」

公園の中を通りながら思わず正直な感想が口から出てしまう。それくらい見事だった。

「今が満開みたいですよ」

「ふーん…いや、しかしすごいもんだよ」

楓ちゃんと二人で近くにあったベンチに腰掛けた。

「ほんと、きれいですね」

「いや、桜じゃなくて楓ちゃんが」

「…?」

隣りに座った楓ちゃんは、今和服を着ている。それがまた恐いくらい似合ってる。まるで映画のワンシーンみたいに、この桜の杜によくなじんでる。

この近くで生まれ育ったって言う理由だけじゃないだろう。楓ちゃん独特の神秘的な雰囲気が、ただでさえ幻想的な桜の風景をさらに幻想的にしてる、そんな感じだ。

「着付けはどうしたの?やっぱり鶴木屋の人にやってもらったの?」

「はい。でも途中までは自分でできるようになりましたよ」

「ふーん、すごいもんだな」

ふわりとおかっぱの髪が揺れる。

つやのある黒い髪に桜の花びらが舞い落ちた。

「……みんな一緒に来ればよかったのに…」

「そうだね…」

そう、ここにいるのは俺と楓ちゃんの二人だけ。

というのも、この「隆山桜祭り」は鶴木屋が主体となって行う行事だから、千鶴さんは当然忙しい。梓はなんでも陸上部の面々とその桜祭りに出かけ、初音ちゃんは学校の友達と一緒に行ってしまった。

で、一人予定のなかった楓ちゃんが俺と一緒にいる、というわけだ。

「あーっ、楓お姉ちゃん」

坂道の下の方から元気な声が聞こえてきた。俺にとってもなじみのある声だ

「よっ、初音ちゃん」

「あ、耕一お兄ちゃんも一緒だったんだ。何してるの?」

「お花見」

「うん、見た感じそうだね。…そうそう、向こうの方に梓お姉ちゃんと千鶴お姉ちゃんもいたよ」

「千鶴姉さんも?」

「うん。千鶴お姉ちゃんも和服着てた。私も着てみたかったなぁ」

「お祭りは一週間あるんだから、その中で着れるんじゃないかな。…うん、俺も見てみたいなぁ、初音ちゃんの和服着たとこ」

「ほんと?それじゃ明後日は用事がないから着てみようかなー」

こういう時の初音ちゃんは本当に嬉しそうだ。

そんな妹を見る楓ちゃんの表情はすごく優しい。うっすらと微笑んでるようにも見える。

「あ、ごめんね、呼んでるみたいだから」

「気を付けてね。遅くならないうちに帰ってくるのよ」

「うん、それじゃね」

元気な初音ちゃんといつものように物静かな楓ちゃん。やっぱり対照的だ。

「さてと、楓ちゃん、疲れてない?」

「え?…いえ、全然」

楓ちゃんはさっきまで鶴木屋の野点のコーナーにいた。ちょっとした事で手伝いをしてたらしい。しかし…楓ちゃんの野点かぁ…なんか恐いくらいに似合ってそうだな。

「…?」

「ん?どうかした?」

「…いえ、耕一さんこそどうしたんですか?」

「おれ?どーして?」

「さっきから…私の顔ばっかり見て……」

そう言えば楓ちゃん、少し顔が赤くなってるな。うーん、結構色っぽかったりして。

「そうだ、千鶴さんとこ行ってみない?」

「そうですね。千鶴姉さんも和服着てるみたいですし、見に行きましょうか」

ベンチから立ち上がって、桜のトンネルができた坂道を登る。

不意に上着の裾を引っ張られた。…というより、何かにつままれたような感触だ。

「…あ、なんだ楓ちゃんだったんだ」

「あの…もうちょっとゆっくり歩きませんか?」

それもそうだ。こんないい景色のところを足早に歩くのももったいない。それに和服だと少し歩きにくいだろうしね。

「そうだね。それじゃのんびり行こうか」

にっこりと笑って小さく肯く。

そして、俺は楓ちゃんに上着の裾をつままれたまま、のんびりと歩き出した。




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