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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家のお花見 その3

by 森田信之



 

 

「おっ、初音ちゃん似合うねぇ」

「そう?」

というが早いか、上機嫌でくるりと一周回って見せてくれた。

ここは鶴木屋本館。今日は初音ちゃんも千鶴さんも、そして楓ちゃんとあろうことか梓まで、全員着物姿だ。

「ちょっと耕一、その「あろう事か」ってのは何よ?」

「んー?あぁ、何でもない。気にするな」

「……何か引っかかるなぁ、その顔」

と言っている梓だが、こいつはこいつでなかなか和服が似合う。まぁ楓ちゃんに比べると見劣りするが、それでもそこらのモデルよりははるかにいい線だろう。

しかし、こうして美人四姉妹がそろって和服を着てると実にいい眺めだ。

「でも耕一お兄ちゃんも結構似合ってるよ、それ」

初音ちゃんがつんつんと和服の裾を引っ張ってみる。

そう、今はなぜか俺まで和服を着ている。というのも、千鶴さんが……

「あ、よかった耕一さん、似合ってますよ」

実に嬉しそうな顔をしてる。何でもじいさんの和服があったから試しに着てみないか、と言って譲らないのだ。全然試しでもなんでもない。しきりに「絶対似合いますから」とか、「サイズだったら大丈夫ですよ」といい続け、ついに俺が根負けしてしまった、というわけだ。

「ついでだからみんなで記念撮影でもしない?こうしてみんなで和服着るのってめったにないしさ。耕一まで着てるんだから、今を逃したら二度とないよ、こんな機会」

「あ、それ賛成!ねぇ、いいでしょ楓お姉ちゃん」

「うん。千鶴姉さんは?」

「そうねぇ、もうちょっと時間もあるし…それじゃあ写真とってもらおうかしら」

おーい、俺の意見はぁ?……って誰も聞いちゃいねェ…

女四人で誰がどこに立つだの、このアングルだと太ってみえるだのときゃあきゃあ言って騒いでる。こーいうときは千鶴さんも母親役じゃないんだよな。

「耕一さん、ほら、耕一さんはここですよ」

千鶴さんが一つだけ空いた椅子を指差している。……ってど真ん中じゃないか。

「耕一お兄ちゃん、早く早くっ」

みんなそろって着物を着ているのがよほど嬉しいのか、初音ちゃんはさっきからはしゃぎっぱなしだ。

「はーい、それじゃあ撮りますよぉー」

そこら辺にいた観光客にシャッターをお願いした。なんか耳に変な飾りが付いてるな…

「…あのぅ……」

「ん?どーしたんだマルチ?」

「浩之さん、これ…どーすればいいんですか?」

「お前なぁ……もーいいや。あかり、教えてやってくれ」

「えっとねぇ、これは…」

おいおい、なんかカメラの使い方教えてるみたいだぞ。

「なんや、メイドロボなのにデジカメの使い方も解れへんの?」

「あれ?いーんちょ、いつのまに?」

「…そんなん人を涌いて出たように言わんといて」

と、外野が何やらぶつぶつ言ってるが、カメラを任された小柄な女の子は必死で説明を聞いてる。…なんか初音ちゃんと仲良くなれそうな感じだな。

結局、記念写真がきちんと撮れるのに約10分を要した。

「ふぅ、それで千鶴さん、今日の予定は?」

「今日はですね……あれ?予定表は…?」

「はい、千鶴姉さん」

「あ、ありがと楓。えーと……このあと桜祭りの閉会式ですね」

そうなのだ。今日で隆山桜祭りも終わってしまう。考えて見りゃずいぶんと早いな。もう俺がここに来て一週間になるんだ。

そのうちほとんどは楓ちゃんと出店巡りをして過ごしてた。初音ちゃんと楓ちゃんとの三人で、例の甘味屋に行って汁粉を三杯ずつ食ったりもしたっけ。なかなか楽しい春祭りだな。

「さ、そろそろ閉会式場にいかなきゃ。みんなはここで待ってて、すぐに戻ってくるから」

「うん、頑張ってね千鶴さん」

この桜祭りは閉会式のあとに、鶴木屋の庭を利用して盛大な野点をして締めくくるんだそうだ。で、梓、楓ちゃん、初音ちゃんの三人と俺もその野点に参加するためにこうして和服を着てる、というわけらしい。(もちろんその説明を受けたのは鶴木屋についてから)

「ったく、それならそうと千鶴さんも最初っから言ってくれりゃいいのに」

「千鶴姉も忙しかったからね、多分ちょっと忘れてただけだよ」

「それもそうだな。………あーぁ、俺の春休みももうすぐ終わりかぁ」

えっ?という顔で楓ちゃんがふりかえる。どうしたのかな?

「どーしたの?何かあった?」

「…え?い、いえ、何でもないです」

「耕一お兄ちゃんが帰っちゃうからさみしいんだよね、楓お姉ちゃん」

そういう初音ちゃんも少しさみしそうだ。

今年のバレンタイン、この二人がくれたチョコはやたら大きかったからなぁ。「二人で張り合ったんじゃないの?」というくらいでかかった。僅かの差で楓ちゃんの勝利に終わったけど、食うのに一苦労だったな。

梓のはさすがとしか言いようがないくらいの美味さだったな。こいつ、料理だけじゃなくてお菓子作りの才能もあるんじゃないか?

ちなみに、千鶴さんの手作りチョコは恐くてしばらく食べられなかった。まぁ食ってみて普通のチョコだったから良かったけど…

「大丈夫だよ、また来るからさ。次は夏休みくらいかな」

「え?ゴールデンウィークは?」

「その時期ちょうど忙しいんだ。だからちょっと無理だね。…うん、やっぱり夏休みだ」

ちょっと残念そうな楓ちゃん。

でも仕方ない、ゴールデンウィークはちょうど就職活動の真っ只中だ。もちろん、今回の帰郷で鶴木屋の社長さんにも一声かけておいた事は言うまでもないだろう。

「今度来るときは俺も就職先が決まってるだろうからね。楽しみにしといてよ」

「…そうですね」

「そうそう、梓」

「ん?なに?」

「お前今度受験だろ?大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。推薦の枠もらったから」

「そ、そうか…」

なんてやつだ。

推薦なんて、俺には縁もなかったのに。でもこいつもこう見えて成績はいいらしいからなぁ。陸上でもいい記録を残してるみたいだし、確かにそれを考えれば推薦の枠を獲得しても不思議じゃない。

「あ、終わったみたいだよ」

大ホールのドアが開き、大勢の人達が出てくる。そしてそのまま庭へと出ていった。

「耕一さん、私達も…」

「ん?ああ、そうだね。それじゃ行こうか」




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