Back/Index/Next
Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家のお花見 その4

by 森田信之



 

 

春の野点かぁ…風流でいいもんだ。

ここ鶴木屋の庭では、隆山桜祭りを締めくくる野点が開かれている。俺もどーいうわけかそれに参加してるんだが…

「…楓ちゃん、足しびれない?」

「いえ、あんまり」

「そ、そう…?」

どうも正座はまだ苦手だ。

こんな状況のときに茶道のお茶を立てる人がのんびり動くもんだから(多分そういう作法なんだろうけど)、よけい足のしびれを意識してしまう。

…という状況のときに限って誰かが足を触ったり…

「んぐぅっ!」

……ほ、ホントにしてきやがった…誰だよ一体!

って、横を見ると楓ちゃんがくすくす笑ってる。そして視線で「ごめんなさい」といってる。まさか…このイタズラは楓ちゃん?

まったく、楓ちゃんってたまにこういうおちゃめな真似をするん…

「はぅあっ!」

また!

また楓ちゃんだ!

「(か、楓ちゃん!)」

「(ごめんなさい…)……」

とは言ってるものの、目が思いっきり笑ってるぞ。

……でも、ほんとに明るくなったな。というよりも、昔に戻ったって言った方が正しいかもしれない。こうしてくだらないいたずらをしてクスクス笑ったりするのも、子供のとき以来かもしれない。

 

「ふぅ…ひどいよ楓ちゃん」

「ごめんなさい」

お茶をのみ終わって、庭の中を散歩する。まだずいぶんと桜は残ってるけど、やっぱり少しずつ散り始めてる。

「あの……」

「ん?」

「…怒ってますか?」

「いや、別に怒ってないよ。それよりちょっと座ろうか」

まだ足の痺れが完全に取れてない。歩くのも結構きつかったりして。

桜のすぐ下にあるベンチに腰掛けた。遠くの方では千鶴さんがお茶を立ててる。そのお茶を梓と初音ちゃんが飲んでいた。

「へぇ、千鶴さんって茶道できたんだ」

「みんな一通りはできますよ。嗜みだっていって叔母様が教えてくれましたから」

「ふーん、母さんがねぇ…」

「それより耕一さん、今度はいつくらいまでいられるんですか?」

「…うーん、そうだなぁ……授業は来週から始まるから…うん、明々後日までかな」

「……そうですか…」

「ほら、そんな顔しない。夏休みにはまた来るからさ」

明日は千鶴さんも休みをとっているらしい。んで、明後日が土曜日だから三連休なんだそうだ。社会人になって久しぶりに連休なんじゃないかな。

「千鶴姉さん、明日みんなでお花見しようって言ってましたよ」

「あした?うん、俺はいいんだけど…準備とか大変じゃないかなぁ」

「お弁当の準備とかは今朝三人でしてますよ」

ここでいう三人とは、もちろん楓ちゃん、梓、初音ちゃんの事だ。千鶴さんは含まれてない。

「それじゃ大丈夫かな。で、どこでやるの?」

「多分中央公園だと思いますけど…」

「なるほどね、あそこの桜、きれいだったからなぁ」

あの公園ほど盛大に桜が咲いているというのも珍しいかもしれない。おまけに、今年は桜が咲いている期間中ほとんど雨が降ってないから、今の時期でもあんまり散ってないんだそうな。

「うん、じゃあ明日は五人で花見だね」

「はい」

ふと上を見上げる。

今日も青空が広がっている。それほど暖かいというわけじゃないけど、少し前と比べるとずいぶんと暖かくなったんじゃないかな。こういう日向で桜を見あげてると、春になったんだなぁという気がする。

「そう言えばさ、楓ちゃんって昔から桜が好きだったよね」

「…はい」

「どーして?」

「え?…どうしてって…」

少し困ったような顔で考え込む。そういやそうだよな、何かが好きでも、どうしてなんて理由を聞かれると困ってしまう。

「多分…ずっと前から好きなんですよ。生まれるずっと前から」

「…生まれる……ずっと前…?」

そうか…あの事を言ってるんだ。

傷ついた一人の侍を助けた鬼の娘も、きっと桜の花が好きだったんだな。だから楓ちゃんも桜が好きなんだ。

「そうだね、多分そうかもしれない」

そして、鬼の娘に助けられた侍も、きっと桜が好きだったんだ。

「うん、そうだよ、多分」

「?」

「だから…楓ちゃんは桜が好きなんだね」

「……えぇ、多分」

はたから見ると、全然通じてない会話かもしれない。

でも、俺と楓ちゃんにはそれでも十分に通じる会話だった。少なくとも、お互いに何を考えているかは分かり合えてるはずだ。

「明日が…楽しみだね」

「……そうですね」




Back/Top/Next