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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の夏休み その1

by 森田信之



 

 

「ったく、なぁにが悲しくってこんな真夏山に来なきゃ行けないのよぉ?

「まあまぁ梓お姉ちゃん、それより早く火をつけないとご飯作れないよ」

さっきからぶつくさ言ってるのは梓。それを困ったような顔でなだめているのは初音ちゃんだ。

ここは隆山から車で約3時間ほど走ったところにあるコテージ。まぁ判りやすく言えば柏木家の別荘みたいなもんだ。別荘というからには当然キッチンなどは備えているのだが、今日はコテージの庭でバーベキューをしようという事になった。

千鶴さん久しぶりに長期の夏休みが取れたんで嬉しいんだろうな。出発前から初音ちゃんの次(つまり二番目)にはしゃいでいた。お陰で俺がここまで運転するはめになったんだけど。

「千鶴姉もいざとなったら頑固なんだから。私があれほど海にしようって言ったのに…」

「でも山もいいじゃない。それに、この辺だったら川で泳げるよ」

「まぁ水着は持ってきてるけど……」

「あ、あとねぇ、ここから車で三十分くらいのところに海水浴場があるんだって。だから海にも行けるよ」

「ほんと?よく調べたねぇ、さすがは私の妹、抜かりないわ」

思いっきり間接的に自分を誉めて、ようやく煙が出始めた木炭をうちわで扇ぐ。

「…あっつーい!何でこんなに暑いのよぉ!?」

「炭火って芯から暖まるからね」

真夏に芯から暖まってもねぇ……それで、楓と千鶴姉は?」

「台所で野菜とお肉切ってるよ。楓お姉ちゃんがついてるから大丈夫だと思うんだけど…」

「うん、まぁ楓がいるなら大丈夫かな」

すでにコンロの中の木炭は真っ赤になっている。初音ちゃんも梓も、首からかけたタオルで汗を吹きながら木炭を継ぎ足している。

「どれ、梓、代わろうか?」

「あ、そーだね、お願い。私ちょっと千鶴姉見てくるよ」

梓からうちわを受け取ってコンロの真正面に立つ。

「…………ぬぅ…」

「ね?」

「…うん…」

端から見れば何の会話か全然分からないが、俺と初音ちゃんの間では十分すぎるくらい意志の疎通が取れていた。

暑い。

ひたすら暑い。

何だこの暑さは?

そりゃあここは高台にあって結構涼しいよ。夜ともなればエアコン無しでも涼しく過ごせるくらい涼しい。それがこれは…やっぱり炭火の成せる業か?

「初音ちゃん、ちょっと休んでていいよ。しばらく俺がやるからさ」

「うん、ごめんね。それじゃあちょっとTシャツ着替えてくる」

そう言ってくるりとコテージの中へ戻っていく。

……おーい、汗でシャツが半分以上透けてるよぉー……とは言わないでおこう。へたに言ったら、この暑いなか真っ赤になるに決まってるからね。

しかしまぁずいぶんと熱くなってるもんだ。これで肉焼いたらさぞかし美味いだろうなぁ。

 

この夏、俺の就職先も無事鶴木屋グループに内定した。業務内容はまだ分からないが、この不景気で就職先を無事に決める、というのは結構な快挙といっていいんじゃないかな。

そのことを言ったら、四人ともすごく喜んでくれた。…といっても、最終的に俺の採用を決定するのは千鶴さんなわけだから、千鶴さんだけは前もって俺の就職先決定を知ってたわけだ。社長さんも俺が鶴木屋を継ぐつもりがある、という事を知って喜んでたしな。来年の春からは頑張らないと。

「耕一さん、お肉持ってきました」

声の下方向を振り返ると、肉が山盛りになったトレイを楓ちゃんが持っている。かなり重そうだ。

「あ、俺が持つよ。ほら、貸して」

「はい」

「ふぅ…しかしどーしてこれだけ買ったんだ?五人で食い切れるのかな?」

トレイに乗った肉は少なく見積もっても3Kgはある。男ばっかりのバーベキュー(というのも嫌だけど)ならまだしも、五人のうち四人は女なんだから、もうちょっと少なくしてもいいと思うんだけどなぁ。

「梓姉さんがバーベキューが好きだから…だと思います」

「なるほど、梓のやつか」

「んー?私がどうかしたの?」

「いや、何でもない。それより千鶴さんと初音ちゃんは?」

「野菜持ってきてるよ。それより早く焼こうよ」

「ん?あぁ、そうだな」

肉を一切れ、鉄板の上に乗せる。たちまちジューッといういい音がして、食欲をそそる匂いが辺り一面に広がった。

「うわぁ、いい匂いぃ〜♪」

「耕一さん、このお野菜もお願いしますね」

「はいよ。任しといて」

手際よく鉄板の上に肉と野菜を並べていく。

しだいに梓が俺の後ろをうろうろしはじめた。どーしたんだ?

「なんだよ、まだあんまり焼けてないぞ」

「い、いや、そうじゃなくて……」

「…?」

「ちょ、ちょっと代わってくれない?私こーいうのするの、好きなんだ

なんだ、それならそうと早く言えばいいのに。最初は結構文句言ってたのに、今はかなり楽しそうだ。ひょっとしたら初音ちゃん以上にはしゃいでいるかもしれない。

「ほら耕一ぃー、これもう食べれるんじゃない?」

「んー、どれどれ?」

俺がもう焼けているかどうかを調べる前に、俺の器の中に肉を放り込む。…まぁ梓がいいっていうんだから多分大丈夫だろう。何しろこいつは料理だけは超一級品だからな。

「…って梓!まだ半分生じゃないか!

「あれぇ?おかしいなぁ……あ、ごめんごめん、隣りのやつと間違えた」

といって「隣りのやつ」を自分の口に入れる。つまみ食いの達人だな、こいつ。

「お前なぁ……あー、なんか口の中、変な味がするよ。初音ちゃん、お茶ちょうだい」

「はい、耕一お兄ちゃん」

ふぅ、ようやくすっきりした。

すっきりしたところで、梓の背後から迫っている危機に気が付いた。多分気が付いたのは俺と楓ちゃんと初音ちゃん。つまり、梓を除く全員だ。…そう、梓を除いて……

「千鶴姉さん…それ……」

「え?」

梓の背後に近づいていたのは千鶴さんだった。なぜかその手にはマヨネーズが……

「千鶴お姉ちゃん、バーベキューにマヨネーズはいらないと思う…」

「あ、そ、そう?」

「千鶴姉……あんたまた余計な事しようとしてたんじゃぁ…」

「ちちち違うわよ!…そ、そんな事する訳ないじゃない…」

嘘付け。

それじゃあどうしてマヨネーズのキャップが開いてるんだよ。

「千鶴さん、ここは梓に任せとこうよ」

「そ、そうですね」

ふぅ、よかった…肉と野菜が台無しになる危険は何とか回避できたか…

 

「ふぁあー、食った食ったぁ」

「ほんとに……お肉全部食べちゃったのね

「梓姉さん、大丈夫?」

「え?う、うん…何とか」

バーベキューは無事終了。3Kgあった肉もきれいさっぱりなくなった。もちろん、そのうちの2/3は俺と梓で食った。最後の方なんかは大食い選手権みたいになってたけど、それでもかなり美味かった。

「うー…やっぱりあれだけ肉食べると…胃に来るね」

「そうか?俺は何ともないぞ」

「あんたも明日の朝とか見てなさいよぉ。胃にもたれて食べられないとか言っても残させないからね」

その心配はない。さっき楓ちゃんから胃腸薬もらって飲んでるしね。

「さてと、それじゃ俺は初音ちゃんの手伝いでもしようかな」

ついさっきから初音ちゃんは一人でバーベキューの後片付けをしている。重い鉄板とかも片づけなきゃいけないから、そーいうのは俺が持っていく事にしよう。

「あ、耕一お兄ちゃん」

「よっ、手伝うよ」

「うん、ありがとう」

俺が来た頃にはもう半分くらい(といっても皿とかだけど)は片づけ終わってる。残りはコンロと鉄板くらいか。

「美味かったね」

「うん、梓お姉ちゃんと耕一お兄ちゃんで半分以上食べてたもんね。すごかったよ」

「そう?…まぁバーベキューなんて滅多にしないからね。食欲出るよ」

「私ももうお腹いっぱい。今日はもう何にも食べられないかな」

「……レアチーズケーキとかは?」

「あ、それは大丈夫。別のところに入るから

といってころころと笑う。ほんとに楽しそうだ。どうやら楓ちゃんや千鶴さんが「初音は一番の甘党だ」っていうのはあながち嘘じゃないみたいだ。

「あ、そうそう、耕一お兄ちゃん」

「ん?なに?」

「さっき梓お姉ちゃんと話してたんだけど、明日みんなで海水浴行かない?」

「海水浴?この辺に海があんの?」

「うん、車で三十分くらいのところだって。ね?いいでしょ?」

「そうだなぁ…うん、行こうか」

「うんっ!」

ふーむ、明日は海水浴か。…いいなぁ、夏はこれに限るね。バーベキューに海水浴。うん、まさしく若者の夏だな。

「今年ね、楓お姉ちゃんと一緒に水着買いにいったんだよ」

「へぇ、どんなやつ?」

「えへへへ、まだ教えてあげない。明日ね」

「ふーん、楽しみだな」

みんなで、ということは当然梓も楓ちゃんも千鶴さんも一緒に行くんだろう。

…そういえば千鶴さんの水着姿って見たことないな。どんなの持ってきたんだろう…?それ以前に千鶴さんって泳げるのかな?どうもカナヅチっぽいけど……

うーん、何にしても明日が楽しみだ。




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