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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の夏休み その2

by 森田信之



 

 

「うわぁ、誰もいないね」

「そうね、どーしてかな?」

初音ちゃんが調べておいた海水浴場は、本当に車で三十分ほどのところにあった。小さな湾になっていて、小さな砂浜が広がっている。なんだかプライベートビーチみたいだ。

「まぁいいや、それより着替えて泳ごうよ」

「あ、私下に水着着てきちゃった」

…なるほど、初音ちゃんらしい。俺はもちろん、コテージを出るときから海パンの上にTシャツといういでたちだ。まぁ大学生の海水浴といえばこんな感じだろう。

「それじゃ耕一、私達車の中で着替えるからあっちいってて」

「おう、それじゃ初音ちゃん、行こうか」

「うんっ!」

手早くシャツとスカートを脱いで楓ちゃんに手渡す。ついで、車の中から大きな浮き輪を取り出した。

なるほど、いかにも「初音ちゃん」って感じの水着だな。まだかわいらしさの方が先に立つ。

どうやらここには海の家も何もないらしい。まぁその辺のことは事前調査で判ってたからいいんだけど、ここまで誰もいないと爽快だな。ほとんど俺達の貸し切りじゃないか。

まずは手始めに波打ち際で海水の感触に浸る。

うーん、やっぱりいいもんだ。夏はこうじゃなきゃ…

「…ぷわっ!

「あははは、ほらほら耕一お兄ちゃん!」

…ってさっそく水飛沫をかけるという、お約束な真似をしてくれたのはもちろん初音ちゃんだ。こういうとき、やっぱり仕返しをするのがお約束というものだろう。

「このぉ…ぬぅりゃっ!!

ざばぁっ

いかん、手加減してなかった。

全力で水をかきあげてしまった。大波がしぶきを上げて初音ちゃんの方向へ襲い掛かる。

きゃっ!

「おっ?当たったか?」

…しかし、初音ちゃんはその波の着弾地点からは結構離れたところにいた。

「…ん?」

こ・う・い・ちぃ〜……」

何とそこにいたのは、着替えを終えて海に入った直後の梓だ。髪まで完璧に濡れてしまっている。ずいぶんと着替えが早いな。

あたしに何か恨みでもあんのかぁーっ!

「違う!ま、まて!落ち着け!これにはワケが…」

「問答無用!食らえぇ!

そういうと、俺がやったのと全く同じ技を繰り出してきた。

どわぁ!

とてつもない波しぶきが俺の顔面を直撃した。鼻の穴に海水が入り込んでくる。

「ぅゲホっ!ゲホッ!………ひ、ひでぇ…」

「ふんっ、不意打ちした罰よ」

目の前で梓が両手を腰に当てて仁王立ちしている。顔を見たら、別に怒ってはいないみたいだ。むしろ楽しそうな表情をしている。

「……な、何よぉ、そんなにじろじろ見て」

驚いた。こいつの胸がでかいのは知ってたが、水着を着るとこれほど際立つとは思ってなかった。

デザインは普通のワンピースなんだろうが、こいつが着るとどういう訳か大胆なデザインに見えてしまう。

「……ってあんた、どこ見てんのよっ!

「うわっ!」

またしても顔面を海水が襲った。

梓が海水を蹴り上げたらしい、というレベルでしか解らないほど激しい水飛沫だった。まったく、こんな時に鬼の力を発揮するなよなぁ…

「悪かった!悪かったからもう止め…っ!」

などという俺の弁解を聞く耳を梓が持つはずもない。次から次に海水を俺にぶっ掛けてくる。しかも、初音ちゃんまで面白がってそれに参加してるじゃないか。

ちくしょう、2対1じゃ分が悪すぎる。ほとんど挟み撃ちにされてる上に、ひっきりなしに水をかけられるから息もろくにできない。

「あははは、それっ!」

「あーっ、梓お姉ちゃん、私の方まで来たよぉ」

「小さい事は気にしないっ!ほらほら!」

あまりの水飛沫で、初音ちゃんも梓も俺の姿を確認できてないみたいだ。それならそれでまだ手はある。

「……あれ?耕一?」

「あれぇ?…いなくなっちゃったね」

「まさか…息ができなくて溺れたわけじゃないよね?」

二人で顔を見合わせる梓と初音ちゃん。俺がとっくに沖の方へ避難したという事には気付いてないみたいだ。 

「ふぅ、全く…梓は限度を知らんからなぁ……」

しばらく立ち泳ぎで波間を漂う。いやー、こうしてのんびり泳ぐのもいいもんだ。

あっ!あんな所にいた!」

俺を見つけたのは初音ちゃん、それを合図にしてクロールで俺のところに泳いできたのはもちろん梓だ。

「なぁんだ、こんなとこにいたの?てっきり溺れたのかと思っちゃった」

「あれぐらいで俺が溺れるかよ。それよりここって結構深いな」

「そーみたいだね。もう足つかないもん。千鶴姉と楓はあんまり沖に来ない方がいいかな」

「楓ちゃんと千鶴さんって…泳げなかったっけ?」

「楓は泳げるけど、それほど長くは泳げないよ。千鶴姉はカナヅチに近いかな」

ちなみに初音ちゃんも楓ちゃんと同じレベルだという。

「お前は心配いらないな。見るからに泳げそうだし」

「まぁね。スポーツ万能だから」

そりゃそうだろうよ。どうせだったら短距離よりも砲丸投げの方が良かったんじゃないか?その気になれば、この先数百年は破られない世界記録を出せるぞ。

「…まてよ、千鶴さんカナヅチって事は、水着も持ってきてないの?」

「ん?いや、確か持ってきてると思うよ。…あ、ほら、あそこで楓とボートに乗ってる」

指差す先には確かにゴムボートが浮かんでる。それに乗ってるのは、水着の上にTシャツを着た千鶴さんと楓ちゃんだ。どうやら泳ぐ気はあまりないらしい。

「そりゃそうよ。泳げないんだから」

「まぁ千鶴さんらしいといえばらしいな」

「それよりさ、いつまでもこんな所でプカプカ浮かんでないで、初音のところに行こうよ」

「ん?ああ、そうだな」

と、二人同時にクロールで砂浜の方へ泳ぎ出す。が、

うわっ!」

「え?な、なに?どうしたの耕一!?」

「ちょっ…ちょっと待って!足がつった!

まずい。

非常にまずい。両足同時につってしまった。浮かんでられない

「耕一!掴まって!」

差し出された梓の手に掴まろうとするが、足の方に気が回ってなかなか掴めない。

足を何とかもとに戻そうともがく俺の身体に、後ろから誰かが抱き付いてきた。抱き着いてきたというよりは、抱えあげたという方が正しいかな。

「ほら、大丈夫?」

「あ、あぁ、悪い」

「まったく、準備運動もしてなかったんでしょ?つって当たり前よ。普段ろくに運動もしてないんだから」

「………」

言い返せない。普段からあんまり運動してないってのは事実だしなぁ…

「どう?足」

「うん…何とか」

「そう、まぁしばらくはクロールとかしない方がいいよ。のんびり泳がないと、またつるからね」

「そーだな。んじゃあ梓、お前先行っててくれ。俺はのんびり行くわ」

「とかいって、またつったらどーすんのよ。いいよ、一緒に行くから」

さっきから梓は俺の腕を抱えて立ち泳ぎをしたままだ。よくこれで浮かんでられるよな。

「……ん?どしたの?」

「いや、何でも」

俺の腕を抱えているという事は、当然胸が俺の肘の辺りに当たってきてる。うん、なかなかいい感触だ。

「あずさー、どうしたのぉー?」

砂浜の方から、何となくほんわかとした緊張感のない声が聞こえてきた。千鶴さんの声だ。

「あ、千鶴姉。何でもないよ。ちょっと耕一の足がつっちゃっただけだから。掴まってていい?」

「うん。…耕一さん、大丈夫?」

「うん、何とかね。それより初音ちゃんのところに連れてってくれない?少なくとも足が付くところまで」

「えぇ、それじゃ楓、漕ぐわよ」

こくり。

…へぇ、楓ちゃんの水着も結構かわいいな。Tシャツを着てはいるけど…

 

 

昼になったんで、ちょっと休憩をかねて昼飯を食う事にした。弁当はもちろん梓が作ったものだ。

「おにぎりって海で食べるとどうしてこんなに美味しいのかな」

「ほんと、不思議だよな。普通のおにぎりでも海で食うと美味いんだから」

というほのぼのした昼食風景。いやー、いいもんだ。

水着の美女を四人侍らせて、優雅にパラソルの下で昼食。ん〜、冥利に尽きるねぇ(感涙)。

「あ、他の人も来たみたい」

楓ちゃんが何かに気付いたように視線を上げる。さっきまで黙ってたけど、もう食い終わったのかな。

「ほんと、やっぱり一日貸し切りってわけにはいかないか」

新しく来た一団は、どうやら高校生の集団らしい。すぐそこのバス停で降りてぞろぞろと砂浜へやってくる。…どうもどこかで見たことあるような顔があるけど、気のせいかな。

「さてと、もうひと泳ぎしたら帰ろうか?」

「そうね、晩御飯の用意もあるし、三時くらいになったら帰りましょうか」

「そうだね。楓お姉ちゃん、さっき山作っておいたからトンネル掘らない?」

「うん」

ちなみに千鶴さんはすでに普段着に着替えてしまっている。どうやらカナヅチというのは本当らしい。

「あ、千鶴姉、日焼け止め貸して。塗り直さなきゃ」

「はい、これでいいの?」

「うん、SPF40か。これで十分だね」

といって、なぜかその「何とか40」というのを俺に手渡す。

「ん?」

「…ん?じゃないでしょ、背中塗ってよ。自分じゃ塗れないから」

「あ、あぁ、わかった」

やれやれ、これが千鶴さんとかだったらもっといい雰囲気になるんだろうけど、ほんとにこいつの場合は「塗るだけ」だからなぁ…色気も何もあったもんじゃ…

「なに?どーしたの?」

「い、いや。何でもない」

前言撤回…。やっぱりあるわ……。




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