Back/Index/Next
Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の夏休み その4

by 森田信之



 

 

「ふぅ、何ともなくてよかったわ」

「よかったね、梓お姉ちゃん」

「うん…面目ない」

「だから俺があれだけ車で行こうって言ったろ?」

車の中、五人が勢揃いしている。たった今、梓の診察が終わったところだ。

「あーぁ、せっかくの夏休みなのになぁ…」

「怪我をしたのは梓自身のせいでしょ?反省しなさい」

「はぁい」

「ま、何にしてもよかったよ。大した事なくてさ」

夕べ、突然コテージのまえに大柄な動物が立った。一人の女の子を大事そうに抱えて、器用にドアチャイムを鳴らした。

誰にも見られてなかったとは思ったんだけど、今朝のニュースで、「別荘街に謎の動物!ネアンデルタール人の生き残りか!?」というスーパーがでかでかと現れていた。まさかそれが俺だとは思わないだろうけど…

「あとで大騒ぎにならなかったらいいんですけど…」

「か、楓ちゃん、それは言いっこなし!あれは仕方なかったんだから」

「そうね…でも耕一さん、次からはもうちょっと注意して下さいね」

「…はぁい。でもネアンデルタール人はないよなぁ」

「あ、でもね、この辺は幽霊とか妖怪とかUFOとかの目撃談が多いから、「またか」みたいな形で処理されると思うよ」

「そうなの?」

「うん、この辺にクルスガワって言う人の別荘があって、その辺でよく幽霊とかが出るんだって」

「初音…あんたよくそーいうこと調べてくるね」

「うん、そこに泊まってる人に聞いたんだ」

なるほど、初音ちゃんは大抵の人とすぐ仲良くなるからな。

「ま、今日一日安静にしてれば大丈夫みたいだし、今日はコテージでのんびりしてようよ」

「そうですね」

今はまだ小雨が降ってるせいか、この状況で泳ぎに行こうという意見は出なかった。

結局、この日は五人でのんびりとおしゃべりをしたりトランプをしたり、みんなで料理を作ったり(千鶴さんは切っただけ)して、割といつも通りに過ごした。

 

そして夜。

「どーした?どっか痛いのか?」

「ううん、そう言うわけじゃないけど…」

梓が俺の部屋にやってきた。一日おとなしくしてたお陰で、ずいぶん足首の痛みはひいたみたいだ。でも左足に巻かれた包帯が痛々しい。

「夕べの事でちゃんとお礼言ってなかったから…」

「あぁ、気にすんな。別にお礼が欲しくてやったわけじゃないし、当然だろ?」

「う、うん…」

なんだ?梓がこんなにしおらしくしてると、かえって調子が狂うんだけど…

「まぁ座れよ。立ってたら足痛いだろ?」

「うん」

珍しく素直にそう言うと、ベッドに腰掛けた。

「……ごめん、耕一」

「ん?なにが?」

「私のせいで…耕一まで危ない目に合わせちゃって……」

「だから気にすんなって。それにあーいう状況で放っておけるか?」

「……うん…」

「例えばだ、俺が両足怪我して動けない。そこに梓が通りかかる。さぁどーする?」

「そりゃあ…おぶってでも連れてくかな…」

「だろ?それとおんなじ。だから気にすんな」

「……うん…ありがと」

「おう、感謝しろよ」

「うん、そだね」

…なんだ?どうして梓がこんなに素直なんだ?いつもなら口答えの三つや四つくらいは返ってくるのに…

「あっ、あのさ耕一」

「ん?」

今度は顔まで赤くなってやがる。また千鶴さんに酒でも飲まされたか?

「耕一は……」

「うん?」

「髪……長い方がいいの?」

「はぇ?」

思わず気の抜けた返事をしてしまった。

なんだ?髪が短いか長いか?

「そんなもんどっちでもいいよ。短いのが似合ってればそれでいいし、長いのが似合ってればそっちでもいいし。別に俺の意見聞いても…」

「髪…伸ばそうかと思うんだけど……」

「伸ばすの?お前が?」

「う、うん…変かな?」

「いや、変じゃないけど……」

「ないけど…?」

想像できない。梓が千鶴さんみたいに髪をなびかせて街を歩いてるなんて、とてもじゃないけど想像できない。

「俺は…今の髪型の方がいいと思うな。似合ってるし」

「……そう?」

「あ、でも『ちょっと長めのショート』くらいだったらいいかも。今度試してみろよ。どうせ部活も引退したんだろ?」

「うん。…そうだね、ちょっとだけ伸ばしてみようかな」

「うんうん、今度来るときまでに伸ばしといてみなよ」

「うん…伸ばしてみるよ。耕一がそう言ってくれるんなら」

「へ?」

「耕一が…似合うって言ってくれるなら……」

お、おい、なんで顔近づけてくるんだよ。胸の谷間が見えてるって…

「あ、梓…?」

しかも何で目を閉じるんだよぉ?こ、これじゃまるで……

「耕一……」

「…梓……」

ついに俺も目を閉じて梓の方へと顔を近づける。そして………

「こういちさーん、あずさぁー、プリン食べるわよぉー

いきなり一階から、のほほんとした声が聞こえてくる。またしても千鶴さんだ。

慌てて二人とも不自然に距離を取る。そして、俺がベッドから立ちあがると同時にドアが開いた。

「あら、梓もここにいたのね。初音がプリン作ったから食べようって」

「う、うん、わわわ解った。すっ、すぐ行くよ」

「…?」

あからさまに慌てる俺と梓を「どーしたの?二人とも」という視線で見る千鶴さん。いつも絶妙のタイミングで割り込んでくるんだ。ひょっとしてこういう間をとる事に関しては天才かもしれない。

「ふぅ、行こうか、梓」

「…うん」

「あ、そうそう、俺今度は10月くらいに来るからな。それまでに伸ばしとけよ」

「10月?…ってあと二ヶ月半しかないじゃない。あんまり伸びないよ」

「いいからいいから。10月も多分終わり頃だと思うからさ。それまでに」

「…うん、解った」

何がなんだか解らないような千鶴さんを間に挟んで、俺と梓は二人だけにしか解らない約束を交わす。

そして三人並んで階段を降りた。

やれやれ、また柏木家の厄介になるかな。特に梓には世話になる。

でも今度来るときは梓も文句は言わないはずだ。俺が今度隆山に戻ってくる理由の半分は、梓との約束を確かめるためなんだから。

そう、「戻ってくる」……

ここはもうすでに俺にとって「戻ってくる」場所になったんだ。

「ただいま…か…」

「ん?どしたの耕一?」

「いや、何でもないよ。それより、階段気を付けろよ」

「…うん、ありがと」




Back/Top/Next