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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の紅葉 その1

by 森田信之



 

 

「は、初音ちゃん?」

「えへへへ、来ちゃった」

10月ももうすぐ半ばになろうという頃、いきなり初音ちゃんが俺の家に遊びに来た。しかも何の前触れもなく。

「な、なんだ、遊びに来るならそうと言ってくれれば…」

「うわぁ…すごい……」

掃除してたのに…

今俺の部屋はものすごい事になってる。台所にはカップラーメンの空の容器が重なり、洗濯物は室内に干しっぱなし。もちろん掃除機なんて全然かけてない。

「耕一お兄ちゃん、洗濯機は?」

「え?あ、あぁ、あそこ」

「掃除機は?」

「えーと…あ、押し入れの中だ」

「……梓お姉ちゃんが心配してたのがよく分かるな…」

なんだ、俺って梓にまで心配されてたのか……

「…よしっ、ちょっとごめんね」

というが早いか、初音ちゃんはいきなり俺の部屋中に散乱した洗濯物を拾いはじめた。そしてそれらを洗濯機に押し込み、押し入れの中の掃除機を引っ張り出す。

「もぉー、ちゃんと掃除も洗濯もしなきゃだめだよ」

「う、うん…」

説教をしながらも手は休めない。実に手際よく部屋の中を片づけていく。

「ひょっとして耕一お兄ちゃん、部屋このままにしてうちに来るつもりだったの?」

「う、うん。そのつもりだったけど…」

「一週間もこのまんまだったら、そこら辺にキノコが生えちゃうよ。カビとか生えてない?」

「いや、それは無い…と思うけど…」

自信はない。押し入れの奥とか、ひょっとしたら生えてるかもしれない。

持ってきたリュックの中からエプロンを取り出す。こういう事態をちゃんと予測してきたのかな…

「うん、そうだよ。多分耕一お兄ちゃんの部屋散らかってるだろうから、掃除しに来たの」

「掃除しに?」

「うん」

「……掃除をしに来たの?」

「だからそうだってば。そしたら明日、部屋きれいになったままでうちまで来れるでしょ?

「う、うん…そりゃあまぁね。それより初音ちゃん、学校は?」

「しばらく休みになっちゃった」

「はぁ?」

今は10月半ば。とてもじゃないけど、大型連休の時期じゃない。夏休みはとうの昔に終わったし、冬休みまではあと二ヶ月近くある。なのにどうして?

「学校でね、インフルエンザが大流行しちゃったの。それで学校閉鎖になったんだ」

「へ、閉鎖…」

知らなかった。でも初音ちゃんは大丈夫なのかな?

「うん、私は平気なの。不思議にうちの学校だけなんだよ。楓お姉ちゃんの学校は全然流行ってないのに…」

「ふーん、そういうもんなのかな、今年のインフルエンザって」

「どうなのかなぁ?」

と、会話をしている間に、どんどん俺の部屋は見違えるようにきれいになっていく。ちょうどいい事に明日は燃えるごみの日だ。このごみ袋いっぱいに詰まったゴミを捨てて、隆山へと旅立つ事にしよう。まぁまた一週間くらいで戻ってくるけど。

そしてわずか二時間後、俺の部屋は「ここ…誰の部屋?」と聞きたくなるくらいきれいになっていた。外に干している洗濯物をたたんでしまえば、それこそ整理整頓の見本のような部屋だ。

「…すごいもんだね」

「え?なにが?」

「……うん、やっぱ初音ちゃんすごいわ」

「?」

エプロンを脱ぎながら、まだ訳が分からなそうな顔をしている。

どうやったらあの状況から二時間でここまで回復させられるんだろう…掃除の天才なのかな?

「初音ちゃん、将来立派な掃除家になれるよ」

「そ、そーじか?」

「いやー、ホントすごい。俺の部屋じゃないみたい」

「普通はそういう風になる前に掃除するんだよ」

ちょっと苦笑しながら、それでも結構嬉しそうに俺の顔を見る。こういう妹がいたら天国だろうなぁ…

「あ、ちょっと待ってて、お茶でも入れるから」

そう言えば初音ちゃん、俺の家に来てすぐに掃除はじめたから、まだ何も出してないんだった。

「あ、いいよそんな…」

「いいからいいから、まぁ座ってて。すぐ出すからさ」

台所もずいぶんときれいになった。この家の台所は「かろうじて料理ができる」という程度の大きさでしかないが、さっきまではやかんでお湯を沸かす事しかできないくらいの散らかりようだった。それが、今だったらそこそこの料理は作れそうだ。

さっそくやかんでお湯を沸かし、棚から紅茶のティーパックを取り出す。

「紅茶でいい?」

「うん。あ、できればミルクティーがいいな」

「ミルクティーね。確か牛乳はなかったけど…うん、ポーションがあるからそれでいいか」

柏木家の中では、初音ちゃんの甘党と乳製品好きは結構有名だ。千鶴さんの料理下手ほどじゃないけど。

「そう言えば今日、外寒くなかった?」

「うん、ちょっと寒かったかな」

「今年暖冬だっていってたのにね」

「そうだね。でも…やっぱり冬は寒い方がいいよ。冬らしくて」

そういうもんかな。それにまだ冬というには早い。晩秋と言った方がいいだろう。テレビ中継とかで紅葉が移される事もずいぶん多くなった。隆山もちょうど今くらいの時期が紅葉のピークじゃないかな。

「うん。中央公園の方で銀杏がすごくきれいだったよ。水門のところまで行けばもっときれい」

「ふーん、それじゃ今度久しぶりに水門まで行ってみようかな」

「あ、それじゃ私も一緒に行くよ」

すっかり気分は明日に飛んでいる。

…まてよ、明日?

「初音ちゃん、今日は何時ごろ帰るの?」

「え?…ここに泊まるつもりで来たんだけど…」

「…ここに?」

「うん。だめ?」

「い、いや、だめってわけじゃないけど…」

「あ、ひょっとして彼女が今日来るとか?」

「そんなのいないって(^^;)

「なぁんだ、来たら「私が彼女ですよっ」って言ってみたかったのに」

…初音ちゃんって結構恐いところあるな……

「それより、ちゃんとそのことは千鶴さんたちに言ったの?」

「うん。ちゃんと言ってきたよ。あ、後で電話しなきゃいけないんだった」

千鶴さんもよく外泊の許可なんか出したよ。まぁ泊まるのが従兄である俺んちだからまだいいんだろうけど……

「耕一お兄ちゃん、今日何食べたい?」

「へ?今日?」

「うん。今日私が晩御飯作ってあげるから」

ここで「初音ちゃん」とかいったらどうなるかな…?

やっぱ止めた。真っ赤になってしばらく口きいてくれなくなるだけだ。ここはノーマルなものを頼むとしよう。

「そうだなぁ…初音ちゃんの得意な奴がいい」

「えー?そんな事言われても……何がいいかなぁ」

しまった、こういう答えは答えになってない。梓に次ぐ料理の腕前を持ってるんだから、得意なやつっていってもたくさんあるだろう。

「それじゃ肉じゃがとかどうかな?最近全然食ってないんだ」

「うんっ、肉じゃがだね。それじゃ買い物行こ。確か冷蔵庫の中、何も入ってなかったよね?」

「…うん」

そこまで見てたのか…

そりゃあ俺の冷蔵庫の中には今麦茶とマヨネーズくらいしか入ってないけど…

「初音ちゃん、将来いいお嫁さんになれるよ」

「そうかな?それだったら梓お姉ちゃんにはかなわないと思うけど」

まぁそれも言えない事も無い。でも、総合点的な考え方で選ぶなら初音ちゃんかもしれない。毎晩「あーん」とかしてくれそうだしなぁ…

「……どうしたの?」

「え?な、何?」

「考え事?」

「い、いや、そうじゃないよ。…あ、そうだ、買い物行こうよ。今の時間だったら近くのスーパーがタイムサービスやってるから」

「そうなの?それじゃ早く行こうよ」

こう言うしっかりしたところも、その総合点のなかに入る。もちろん、初音ちゃんのタイムサービス好きは梓譲りのものだ。

「よし、それじゃ財布も持って…うん、行こうか」

「うんっ」




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