Back/Index/Next
Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の紅葉 その4

by 森田信之



 

 

「よかったね、耕一お兄ちゃん」

「ん?」

もうすぐ時計の針は夜の十時を指そうという頃、初音ちゃんが俺の部屋にやってきた。

ここはもう「いつも俺が使ってた部屋」じゃない。正式に「俺の部屋」になった。さっきまで俺と初音ちゃんと楓ちゃんとの三人で掃除をしてて、とりあえず普通に使うことが出来るようになったところだ。

「千鶴お姉ちゃん、すごく喜んでたよ」

「何が?」

「耕一お兄ちゃんが来年からうちに来てくれるっていうの。さっき台所でニコニコしてたもん」

「ふーん……そうか、良かった」

うん、確かに初音ちゃんの言うとおり、俺がこの家の住人になるということに関してはみんな歓迎してくれてるようだ。それはそれですごくありがたい。

「でもなぁ…」

「ん?どうしたの?」

「いや、本当に俺がこの部屋使っていいの?」

「うん。だってこの部屋千鶴お姉ちゃんが「耕一さんの部屋にするから、掃除しておいて」って言ってたんだよ」

「そうなの?」

「うん」

新しく俺の部屋になったのは、叔父さんが生前使っていた部屋らしい。つまり、千鶴さんたち四人の実の父親がいた部屋なのだ。

千鶴さんたちにとっては思い出もたくさんある場所だろう。そこに俺が居座っていいのだろうか…

「私も嬉しいな、耕一お兄ちゃんがこの部屋にいると」

「…なんで?」

「だってこの部屋、私が小さい頃よく遊んだ部屋だもの。そこに耕一お兄ちゃんがいてくれると…うん、なんだか安心する」

「……そういうもんかな…」

「うん。楓お姉ちゃんも梓お姉ちゃんも多分同じだよ。みんななんだか嬉しそうだったもん」

夕食のときに、改めて千鶴さんに「この家に住んでもいいか」ということを話した。答えは満場一致でイエスだった。うぬぼれるわけじゃないけど、そのことは何となく予想は出来てた。

でも、まさかみんながあんなに喜んでくれるとは思わなかったな。あの楓ちゃんがすごく嬉しそうな顔をしてたのにはかなり驚いた。

まぁ何はともあれ、これで俺もこの家に「ただいま」と言って入るようになったわけだ。

「あのさ、初音ちゃん」

「うん?」

「明日……またいっしょに出かける?」

「うんっ、それじゃ鶴木屋に行こうよ。また野点があるんだって」

ふーん、それじゃ当然甘い茶菓子とかも出るんだろうな。それが目当てか。

「その野点は何時から?」

「えーとねぇ、確か三時からだったかな」

「それじゃ昼くらいから出かけようか」

「…昼から?」

「ん?もっと早い方がいい?」

「うん、昼前からお祭りに行こうよ。それから鶴木屋に行けばちょうどいいから」

今日の出店巡りでも結構いろいろ食べて回ったのに、まだ足りないのかな…?

「だって、まだ半分も食べてないんだよぉ。ほかにもたくさん出店あったんだから」

「はいはい、それじゃあ明日も中央公園行きだね」

どうやら祖父さんの祭り好きは初音ちゃんに受け継がれたらしい。それ以上に、出店の甘い菓子類を食べに行くのが好きなんだろう。しかしこれだけの甘党でどうして太らないのか不思議だな。

「おいしいクレープ屋さん見つけたの。そこのまだ一種類しか食べてないから、お祭りの期間中に全部食べなきゃ」

「……全部?」

「うん」

「何種類くらい?」

「えーと……全部で15種類くらいかな」

「………全部食うの?」

「うんっ(^^)

「大丈夫なの?そんなに食ったら…」

「大丈夫。こう見えても結構たくさん食べられるんだよ」

甘いものはね。

まぁ初音ちゃんがこう言ってるんだから、多分止めても無駄だろう。こういう時のこの子はかなり頑固だ。

「それにしても良かったぁ、耕一お兄ちゃんが遊びに来てくれて」

「ん?どーして?」

「だって…友達はみんなインフルエンザだし、楓お姉ちゃんも梓お姉ちゃんも学校があるし、千鶴お姉ちゃんは仕事だし…私一人で留守番してたんだもん」

それで退屈して俺の家に来たって訳か。なるほど、そりゃ暇だろうな。

「でも初音ちゃんも気をつけるんだよ。インフルエンザっていっても馬鹿に出来ないからね」

「うん、そうするね。明日もちゃんとコート着ていくから」

 

 

「あ、あのさ初音ちゃん…」

「うん?なに?」

「……ちょっと座ろう。とりあえず休もうよ」

「…あ、疲れちゃった?」

それもある。いや、確かに疲れた。でも…それ以上に俺を休ませたがる何かが目の前にある。

初音ちゃんの両手に抱えられたものがそうだ。

「おいしかったでしょ?」

「う、うん…」

確かに美味かった。クレープなんてほとんど食わない俺が進んで食うくらいだから、かなりの味だと言っていい。値段も安かったし。

でも、いくらなんでもクレープ5つ一気はないだろう。さっきからなんか胸がムカムカしてしょうがない。初音ちゃんは平気なのか…って、さっそくもう一つ口に入れてるし…

「どうしたの?少し顔色悪いけど……」

「い、いや…大丈夫。何でもないよ。それよりさ…」

「?」

「…甘いもの…ほんとに好きなんだね」

「うんっ。この世に砂糖と牛乳がなかったら、私生きていけないよ」

この台詞があまり大袈裟に聞こえないところが怖い。

「あ、あと生クリームも」

「……だと思った…」

ちらりと時計を見るとすでに昼の二時。ちなみに昼飯は、春の「隆山桜祭り」のときに出店していた汁粉屋がまたあったので、そこで餅入りぜんざいを三杯ほど食ってきた。

つまり、今日は砂糖にどっぷり漬かった1日なのだ。

今日、今まで取った食品と言えば…

小豆

砂糖

(あんこ入り)

クレープの皮

生クリーム

チョコレート

バナナ(クレープに入ってた)

これくらいか。…って全部甘いじゃないか。初音ちゃんって昔からこうだったっけ…?

「あ、そうだ耕一お兄ちゃん」

「ん?どしたの?」

「そろそろ鶴木屋に行こうよ。野点始まっちゃうよ」

「あ、あぁ、そうか。三時からだったっけ」

そうだ、千鶴さんからも一言くらい何か言ってもらおう。「甘いものばっかり食べてちゃいけません」とか…千鶴さんの言うことだったら、初音ちゃんのことだから素直に聞いてくれるだろう。




Back/Top/Next