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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家のカレンダー


柏木家の紅葉 その5

by 森田信之



 

 

俺がいかに甘い考えの持ち主だったか、ここに来て思い知らされた。

千鶴さんにも「甘いものばっかりじゃだめなんだよ」と言ってもらおうと思ったのに、それなのに千鶴さんときたら……

「うん、おいしいぃ〜(^^)

「でしょ?あとねぇ、あのお汁粉屋さんがまたあったから食べてきたんだ。あ、これお土産のもなか」

「やっぱり初音はいい子ね〜。よしよし♪」

「あ、あの……」

姉妹で盛り上がるのはいい。全然かまわない。俺としても嬉しいくらいだ。

でも、その場に俺がいるからと言って、どうして俺が……

「あ、耕一さん、もっと食べます?」

「……いや、いい…」

こんな大量のおはぎを食わされるわけ?しかも一つ一つの大きさが半端じゃないよ(T T)。わんこそばなら食いに行ったことあるけど、わんこおはぎなんて聞いたこともない。

どうやらこのおはぎ、もともと野点に出すつもりだったらしいが、あまりにもたくさん作りすぎてしまって余ってるんだそうだ。で、鶴木屋を訪れた人に無料で配ってるらしい。

「初音ちゃん、おはぎ…食べる?」

「あ、うん♪食べる食べる」

ほんとにどこに入ってるんだかこの二人は…

俺はもう食えない。誰がなんと言おうと、たとえ梓が「だっちゅーの」をしながら胸の谷間におはぎを挟んで口元まで持ってこようと、千鶴さんがバニー姿(網タイツなし・生足)で「あーん」をしてくれようと絶対に食えない。

おはぎ5個を食わされて苦しそうな俺を尻目に、千鶴さんはおはぎ6個目、初音ちゃんも4つ目に突入した。よく「女は甘いものは別の場所に入る」とはいわれているものの、この二人は例外中の例外だろうな。

「千鶴さん、初音ちゃん、俺ちょっとお茶飲んでくるよ」

さっきまで開かれていた野点で飲んだ抹茶が恋しい。あの苦〜いお茶が無性に飲みたい。こんなに「茶が…茶が飲みてぇ」と思ったのは初めてだ。

とりあえずムカムカする胸をさすりながら鶴木屋の一階ホールを歩く。

何だかまだ少し気持ち悪い。どーしてあの二人はあれだけ甘いものばっかり食って平気なんだろう…?

「ふぅ……」

とりあえず自動販売機で緑茶をかって一息。何かようやく人心地付いたような気がするな。

しかし甘いものの食べ過ぎってのは良くないね。胸焼けだけじゃなくて頭痛もするし、なんか体がだるい。

「……ん?」

頭痛?体がだるい?

おいおい、甘いもの食ってそれはないだろう。…風邪か?

しょーがないな、俺も。せっかく遊びにきたのに風邪引くなんて。明日は薬飲んで大人しくしとこうかな。

「耕一さん、そろそろ庭の方に戻りませんか?」

「え?あ、あぁ、そうだね」

と、立ち上がろうとした瞬間。

「……っと…」

ぐらっときた。しかもかなりの強さで。

あれ?変だな。千鶴さんの顔が歪んで見える。…初音ちゃんもなんでそんな顔してるんだろう……?

「こ、耕一さん!?」

「耕一お兄ちゃん!」

どうしたんだ?

何だよ、どうして顔がカーペットについてるんだ?どうして目の前がどんどん真っ白になっていくんだよ!?

「誰か!誰か来て!早く!」

「しっかりして!耕一お兄ちゃん!!」

千鶴さん、どこに行くんだ!?初音ちゃんまで……どこに行ったんだ?

何も見えないよ……何も聞こえないよ………

二人とも、どこに行ったんだ……?

 

 

「ったく、わざわざこっちまで来て寝込むかねぇ」

「……面目ない……」

「梓、そんな言い方ないでしょ?それより耕一さん、しばらくは家で安静にしててくださいね」

「うん…」

医者の診断はインフルエンザ。

どうやらこっちに来て二日で感染したらしい。話を聞くと、予防接種をしてないのはこの中で俺だけだそうだ。そりゃあ感染しても仕方ないかな。

「初音、あなたもいつまでも泣いてないで、顔洗ってらっしゃい」

「……うん…」

俺が鶴木屋で倒れてから、初音ちゃんはずっと泣いてる。

「初音は責任感が強いから…」

「…うん。でもなぁ……こればっかりは不可抗力だよ」

「何度もそう言って聞かせたんですけど…あの子落ち込むと長引くんです」

そうだろうね。昔からそうだったし。

どうやら初音ちゃんは、「私が耕一お兄ちゃんを外に引っ張り出したから、そのせいでインフルエンザになっちゃったんだ」と思い込んでるようだ。

しかし、鬼でもインフルエンザにかかるんだな。ちょっと意外だ。

「今日の夕飯はおじやだね。こーいうときはお粥かおじやが一番いいんだ」

「あっ、それじゃまた私が鶏おじやでも…」

やめてくれ(T T) 千鶴さん、俺を殺す気か?

「いいからいいから。千鶴姉と楓は耕一を看てやって。私が作ってくるよ。すぐ出来るから」

「そうね、それじゃお願い。あ、それと初音もこっちに来るように言って来て」

「うん、わかった」

よかった、恩に着るぞ梓。おまえは俺の命の恩人だ。

 

しばらくたって、目を真っ赤にはらした初音ちゃんが戻ってきた。何だか申し訳なさそうに、小さな体をさらに小さくしている。

「…初音、私梓姉さんを手伝ってくるから」

と言って、楓ちゃんは台所へと向かった。ここにいるのは千鶴さんと俺と初音ちゃんの三人。考えてみれば一番いい組み合わせだ。ひょっとして楓ちゃん、気を使ってくれたのかな?

「ほら初音、いつまでもそんな顔しないで」

「…うん………」

「そうだよ初音ちゃん。俺がインフルエンザになったのは運が悪かっただけなんだから」

「……うん……」

「初音、気持ちは分かるけど、あなたがいつまでもそんな顔してたら耕一さんだって心配するでしょ?」

「そうだよ。初音ちゃんがそんな顔してたら、安心して休めないよ」

「うっ………ひっく…」

あーぁ、また泣き出しちゃった。泣き虫なところは小さい頃のままだな。

「初音ちゃん」

「……?」

「例えば初音ちゃんは、道歩いてて石に躓いて転んだときに、一緒に歩いてた人が悪いと思う?」

ふるふる

「雑煮を誰かと一緒に食べてて、餅が喉に詰まったら一緒に食べた人のせいだと思う?」

「…ううん」

「じゃあ、初音ちゃんが風邪を引いて、その時たまたま俺が一緒にいたら、風邪を引いたのは俺のせいだと思う?」

「ううん…」

「それじゃ初音ちゃんが泣く事なんて無いよ。俺がインフルエンザにかかった時に、たまたま初音ちゃんが一緒にいただけなんだから。初音ちゃんは何も悪くない」

「でも……私がもっと気をつけてれば」

「……」

やれやれ、まさか初音ちゃんがここまで内罰的だとは知らなかった。

落ち込むと何でも自分のせいにしちゃうんだな。

「大丈夫。寝てればすぐ治るからさ。初音ちゃんが看病してくれればすぐだよ」

「…ほんと?」

「うん。ね?千鶴さん」

「そうね。初音がしっかり看病してくれるなら私も安心して仕事に行けるし、耕一さんだって喜ぶわよ」

確かに(^^;)。初音ちゃんが付きっ切りで看病してくれるなら、病気になるのも悪くないかもしれない。いや、それどころかどこも悪くなくても「初音ちゃ〜ん、頭痛いよぉ〜」とか言って甘えてしまうかもしれないな。

「耕一さん、大学の方は…?」

「ん?…今は特に何もないよ。テストもないし、授業もあんまり取ってないから。ゼミは最近人が集まらないから」

「それじゃあ治るまでこっちにいた方が良いですね。向こうに行ったら一人でしょ?」

それもそうだな。予定では今度の土曜日に向こうの家に戻る予定だったけど、しばらくこっちに居よう。俺も最近、ろくなもの食ってなかったから、それで免疫力が落ちてたのかもしれない。うん、多分そうだ。

「初音、耕一さんをお願いね。私お茶の間片づけてくるから」

「うん。解った」

こうして俺の部屋は俺と初音ちゃんの二人だけになる。さっきよりはずいぶん表情が明るくなったな。

「耕一お兄ちゃん…」

「…ん?」

「……ごめんね…」

「だからいいんだって。考えてみれば、俺が普段ろくなもの食ってないから悪いんだ。初音ちゃんのせいじゃないよ」

「うん……」

「それにほら、こういうことでもないとまともなもの食わないから(^^;)。ね?だからそんな顔しないで」

「…ほんとに……怒ってない?」

「怒らないって。俺が悪いんだから」

「うん……でも私が看病してあげるね」

「ん、頼むよ」

ようやく笑ってくれた。半泣きのままで笑ったから、少しぎこちないけど、それでも泣いてる初音ちゃんよりはずっといいな




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