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Original Novel
Nobuyuki Morita Presents



月光






 晶良は東京にいた。ある出版社のオフィスにいる。
「あ、あの…おっしゃってる意味がよく…」
「同じことを三度は言いません。三島家と古門家には今後一切、関わりも興味も関心持たないことです」
「で、でもですね、世間の興味がこれだけ「鬼」という存在にむいている以上…」
「同じ事を三度言わせるつもりですか?」
 三浦滋の足は震えていた。以前三島祐介と相対したときとは比べ物にならない、威圧感などとはまったく違う「恐怖」が体の芯から沸き上がってくる。
「鬼に関して四の伍のいう奴には言わせておけばいい。ですが、俺たちにこれ以上関わりを持つと…」
 古門晶良の目が危険な光りを孕んできた。トラやライオンなど比較にならないほどの生き物が今にも牙を剥こうとしているのだ。人間なら絶対に耐えることのできない恐怖だろう。すでに滋の足の震えは、テーブルの上のコーヒーカップを揺らすほどになっていた。
「言うことはこれだけです。返答を聞かせていただきたい」
「…………」
 彼の口からは言葉は出てこない。意識して黙っているのではない。恐怖で声すらでないのだ。
 猛烈な後悔が襲ってきた。なぜこんな恐ろしい生物に興味を持ったのだろう?この恐ろしい生物の秘密を暴くことに、いったい何の異議があるというのだ。すでに彼の頭の中からは報道の自由という言葉すら、きれいさっぱり消えてなくなっていた。
 殺意を感じることはそう滅多にあることではない。が、三浦滋は本気で思っていた。「殺される」と。これ以上彼らに関わるのであれば、古門晶良に…いや、鬼に殺されることを覚悟しなければいけないだろう。
「返答は?」
 静かな言葉だった。だが、彼にとっては編集長の怒鳴り声の方が数千倍も心地よかった。三島祐介の圧迫感はまだ「ためらい」の様なものが感じられて、滋にも耐えることができた。だが、彼の圧迫感はまったく異質のものだ。
 一族に無駄に関わろうとするものは容赦しない、という断固たる決意がはっきりと見て取れる。おそらくその覚悟に伴う行動にもためらいも何もないだろう。
「これが最後だ。返答は?」
「………わかりました…今後あなたがたには…一切関わりを持ちません」
「それでいいんです。…俺達は静かに暮らしたいだけだ。石を投げれば波紋はいつか自分に帰ってくる。そのことを忘れないことだな」
 それだけ言うと、古門晶良は編集室を後にした。あとにはワイシャツが透けるほど全身から脂汗を書き、いまだに震えの止まらない三浦滋が残った。


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