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Original Novel
Nobuyuki Morita Presents



月光






「みなさーん、クッキーができましたよー」
 台所から綾音さんの声が聞こえてきた。いい匂いがただよってくる。美味しそうなにおいだ。でも晶良さんはなんだか元気がないな。どうしたんだろう?
「どうしたんですか?」
「…いや……見れば解るよ」
 と、話をしているうちに泉水さんがクッキーの入った大皿を…
「…っ!?」
 なっ…何だこりゃ…?何枚あるんだ?しかものこのクッキーの一枚一枚のでかさは…?
「たくさん食べてくださいね。沙耶さんと祐介さんの分もと思って、いつもより『ほんの少し多め』に作ったつもりなんですけど…あ、足りなかったら言って下さいね。まだありますから」
「………………」
「…ね?」
「…なるほど…」
 晶良さんが「綾音さんは一桁ズレてる」と言ってたのはこの事だったのか…何もこんな所で一桁ズレなくてもなぁ……

 綾音さんが作った大量の大型クッキーを食べてるうちに、いつのまにか晶良さんと綾音さんは自分達の部屋に行ってしまったらしい。そして泉水さんと深雪ちゃんも自分の部屋にそれぞれ戻っていった。
 残されたのは僕と沙耶だけだ。
 窓を開けてるので涼しい風が入ってくる。今夜は晴れてるのできれいな月が見える。満月じゃないけど、東京都は比べ物にならないくらいきれいな夜空だ。
「…きれいだね」
「ああ、東京じゃ見てなかったな、こんなきれいな星空なんて」
「…三島でも…一緒にこうして月を見上げることなんてなかったよね」
 確かにそうだ。あの頃はそんな余裕なんてなかったしね。
 でも今は違う。こうしてのんびりと、何の心配も恐れも警戒心もなく空を見上げることができる。
 今度は守ってやれたんだ。結果的に晶良さんに頼ってしまったけど、それでも今度は沙耶もお腹の子も元気だ。これで…良かったんだ。
「祐ちゃん」
「ん?」
 沙耶が座る位置をずらしてくっついてきた。
「……私…がんばるね。がんばって元気な赤ちゃん産むね」
「…………ああ」
 月明かりのおかげで沙耶の顔もはっきりとみえる。ひさしぶりに、少し力を入れて沙耶を抱き寄せる。
「これからも…絶対に守ってやるからな…絶対に大事にするからな」
「…うん」


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