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Wizardry The Curse of Ancient Emperor



極悪忍



Nobuyuki Morita Presents


 

――昔話――

 

 

「ふん、結構あっけなかったな」

ここはリルガミンの宿。食卓には総勢十六人前の食事が並べられている。当然そのうち十五人前は俺様の分だ。

「でも…何だかすっきりしませんね」

「んー、まあそんな気もしないでもないな」

すっきりしない、というのはあの国王の態度のせいじゃない。

あの国王、おれたちを見るなり…

「ふん、ご苦労であったな。まぁそなたたちの苦労にも報いてやらねばなるまい。ほれ、褒美をくれてやる。ありがたく受け取るがよい」

なーんていう傲慢この上ない態度を取りやがった。一応の身分は受け取ったが、褒美というのは受け取る気にもなれないくらいのはした金だった。俺様を誰だと思ってやがる。

「あのお姫様…かわいそうです。まだ呪いが……」

そう、王女にかけられた呪いはまだ解けていなかった。つまり、あの雑魚レベル(もちろん俺様から見て、という話だが)のハルギスが黒幕ではなかったという事だ。

王宮を去ろうとしたとき、俺とマルチの脳に直接語りかける声があった。若い女の、助けを求める声だ。

(お願いします!助けて下さい!私にかけられた呪いはまだ…)

と言っていた。表面上は元気だったが、それも呪いの成せる業だろう。王女の心の声はそこまでで消えた。呪いが彼女の声を封じ込めたのだろう。そーいえば謁見のときの王女の顔は何となく凶凶しい雰囲気がした。

「ロア様、もちろんあの王女様を助けてあげ…」

「……知るか。もう俺には関係ない」

「えっ?ちょ、ちょっとロア様…」

「しばらく留守にする。ここで留守番してろ」

「あ……ロ、ロア様…」

 

二日が経った。が、まだロアは帰ってきていない。

リルガミンの宿の一階、食堂兼酒場では今日もマルチが一人、ロアの帰りを待っていた。

「ふぅ…ロア様……」

実のところ、この機会にロアのもとから逃げてもよかったのだが、真っ正直なマルチにはそんな事はまったく思い浮かばなかった。ロアが言った「留守番してろ」という言葉を律義に守っているのだ。

「お嬢さん」

突然、マルチのとなりに美女が座ってきた。二十代後半くらいだろうか、長い耳が特徴的な、妖艶な美女だ。

「いま…ロアって言わなかった?」

「え?」

「ひょっとして…ロア・ガートラント…?」

ロア様を知ってるんですか!?

マルチがあからさまに慌てると、その美女はうっすらと笑みを浮かべて肯いた。

「知ってるわ。でももうずいぶん昔の事よ」

「昔って…?」

「そうねぇ、もう330年くらい前になるかしら」

「………さん…さんびゃく……?」

「330年前。……あなたロアから何も聞いてないの?一緒にいるのに?」

黙ってマルチが肯く。

そういえばマルチはロアの過去をほとんど知らない。以前魔法使いをしていて、僧侶の経験もある忍者。自らが主を選び、ふさわしくないと判断した時には魂を食らい尽くすことから、妖刀とも魔剣とも言われるマサムネ・ブレードを自在に操るハイマスター忍者。ただそれだけだ。

「あの…」

「あぁ、自己紹介がまだだったわね。私はヤシャっていうの。ずっと昔、ロアとパーティーを組んでた事もあるわ。ま、その時のメンバーで生き残ってるのは私とロアだけだけどね」

「ヤシャさん…ですか……」

「そ。噂でここにロアがいるって聞いたんだけど…そう、いないんじゃしょうがないわね。それじゃ」

「あ、あの…ヤシャさん!

立ち上がりかけた美女がふと動きを止める。

「…なぁに、お嬢ちゃん」

「ロ……ロア様の事…教えて下さい」

「知ってどうするの?」

「…………そ、それは…」

「勘違いしないでね。私は別にあなたの恋敵になるつもりなんてさらさらないの。…悪い事は言わないわ。普通の幸せが欲しいんならロアから離れなさい

「で、でも……」

「…どうしても知りたい?」

「は、はいっ」

「……そう、それじゃ仕方ないわね。…聞かなければよかったって後悔するかもしれないわよ、それでもいい?」

またしても黙ってマルチが肯いた。

ヤシャが静かに椅子に座り直し、カクテルを一杯注文する。そして一口飲み込んでから語りだした。

 

「昔からロアは才能の固まりだったわ。法術も誰よりも…そうね、エルフである私よりもはるかに早く、強力に覚えていったわ。最初はロアは僧侶だったのよ」

「そ、僧侶?ロア様がですか?」

「そう。そして僧侶の法術を極めるとすぐに魔法使いに転職したのよ。…普通ならこの時、法術でも魔法でも使える回数が半分以下に減るものなのに、ロアは違ったわ。回数が全然減らないのよ」

「…………」

「そして魔法使いの呪文もすぐに極めたわ。特にロアのティルトウェイトは凄まじいの一言ね。一度彼のあの呪文で、国一つが一瞬で消滅した事もあったわ」

「く、国が…?」

「そう。跡形もなく、ね。ほら、北の方にある大クレーター、知ってるでしょ?あれはロアのティルトウェイトの跡なのよ。そんな大魔導師でもあるロアは心強い味方であると同時に、本当に恐ろしい男だったわ。分かるでしょ?」

「は、はい…」

それもそのはずだ。国一つを一瞬で消滅させる大魔導師が敵に回れば、まず生きのびる可能性はない。

「あ、あの…ロア様は昔からああいう性格なんですか?昔は優しくて穏やかな人だったとか…」

「ああいう性格よ。欲張りで女好きでスケベで自己顕示欲120%で目立ちたがりで残忍で…とにかく敵には容赦しなかったわね。見た目には」

「…見た目には?」

「そう。内面は結構ナイーブなところがあるのよね。ナイーブって言うか…けっこういいところもあるのよ。童顔の女の子には無条件に優しかったりとかね。心当たり無い?」

「あ、あります……」

「ロアは母親を知らないから、ああいう性格になったのかもしれないわ。彼、孤児だったのよ」

これはマルチにとっては新事実だった。

マルチも事実上、孤児のようなものだった。まだ小さい頃に両親を失い、乞食のような真似をしてどうにか命をつないできたのだ。

そんな彼女には孤児の辛さは痛いほど分かる。

「それで…どこまで話したかしら?」

「あ、あの…えーと…ロア様が魔法使いの呪文を…」

「そうそう、そこまで言ってたわね。…そのあと、しばらくしてロアは忍者に転職したのよ。もう凄まじかったわ。彼が通った後はそれこそ屍の山だったのよ」

「………(そ、想像しちゃった…)…」

「で、そのあとしばらくして私とロアは離れ離れになって今にいたるけど…どう?あなたの知ってるロアと比べて」

「…全然変わんないです」

「でしょ?」

「でも…どうしてロア様が330年も生きられるんですか?ロア様は人間のはずですよね?」

「魔力よ。異常に強い魔力を持ってればいつまでも生きられるわ。……ねぇ、お嬢ちゃん」

「…マルチです」

「マルチちゃん、彼の女関係、知りたくない?」

「えっ?お、おんなかんけい…ですか?」

「……彼に惚れてるんでしょ?齢800年の魔女には隠せないわよ」

「は、はっぴゃくねん………」

「もちろん、彼の女遍歴の中に私も入ってるわ。ほとんどごーいんに…っていうか寝込みを襲われたんだけどね。逆にヤり倒してやったわよ。次の日まともに立てないくらいにね」

「は、はぁ……」(あまり想像できてない)

実のところ、マルチは「ロアは昔は優しくて穏やかな性格だった」という事を望んでいたのだが、どうやら無駄な事だったようだ。昔から変わらない性格で、しかも女遍歴も桁外れだ。今まで彼が泣かした女は軽く3ケタに手が届くという。

と・こ・ろ・でぇ〜……マルチちゃん…可愛いわねぇ

「……え?」

「私の好みよぉ、あなたみたいな子」

「え?え?…え?」

「部屋は?」

「え?へ、部屋…は……303号室です…」

「行きましょうか」

「は、はぁ…?」(まだ解ってない)

 

 

……そして三十分後……

や、やめてくだ……ぁあっ

「んふふふ、どう?ずいぶん敏感なのねぇ♪」

そ、そんなぁ……んっ………

「いつもロアにされてるんでしょ?こんなに乱れちゃって…」

ふぁあ…いっ…いやぁ……も、もう許し………女同士で…こ…こんなこと……

「ほぉら、気持ちいいんでしょ?」

気持ちよさそうだな

「でしょ?ほらほら、ここなんかどうかしら?」

ああぁっ!い、いや…いやぁ…

そこよりマルチはここの方がいいぞ

「あら、そうなの?……って…えええぇーーーー!ロ、ロアっ!?」

と、慌ててヤシャが飛びのく。ベッドの上にはぐったりしたマルチが胸元をはだけて寝ている。何をしていたかはもー一目瞭然だ。

「人がちょっと探しモンしてる間に…」

「ちょちょちょっとロア!ち、違うの!これにはふかーいワケが…」

「まぁた俺の女に手ぇ出しやがったなこのアマぁ!!」

「だってぇ、こんな可愛い娘見たら手も出したくなるわよ。それに私の好みだし」

開き直るな!大体なんだってお前がここにいるんだよ!」

「い、いやぁ、ちょっと寄り道してみたら…ほら、ロアの噂が聞こえるじゃない、それで懐かしくなっちゃって……」

「で、俺の女に手を出した、と?」

「は、はぁ…まぁそんな所…かしら?」

「『かしら?』じゃねェ!!とっとと出てけ!!

「解ったわよぉ、そんなに怒んないでよ。同じベッドで朝を迎えた仲じゃない♪

精も根も吸い取られてヤり殺される寸前だったろうが!ほら、さっさと出てけ!」

しぶしぶながらヤシャが出ていった。ふぅ、間に合ったか。

あの女ときたら、童顔で可愛い感じの女を見つけたら手当たり次第手ェだしやがる。俺より質悪いよ。そのおかげでかこの俺の女が何人あいつに取られてきたか…

「おいマルチ、マルチ」

ふぁ…

「余韻に浸ってる場合か。ほら起きろ」

…あ…ロア様ぁ…

「起きろっ!起きんと犯すぞ!

いやぁ…ん…犯さないで……

だめだ、完全に余韻に浸ってやがる。とりあえずは俺様がいただくとしようか。

 

「ごめんなさい…」

「いーんだよ、もう。ヤシャは昔からああだったからな」

「……昔から…ですか…」

もうずいぶん前の事だが、ヤシャとパーティーを組んでいた頃、俺には女がいた。マルチと同じく、やっぱり童顔で背が低かったような気がするな。その娘をヤシャの前に連れていったのがそもそもの間違いだった。一晩姿を消したと思ったら、翌日からはヤシャの隣にいて、あまつさえあの女の事を「お姉様」なんて呼んでやがった。

「そ、そういう方だったんですね…」

「そーいうやつだ。気を付けろよ」

「はい…」

「あいつも魔法使いとしてはかなりのレベルなんだがなぁ。ああいう所がなきゃまだいいんだが…」

「あの、それでロア様はどこ行ってたんですか?」

「んー?こいつを取りに行ってた」

と、一振りの刀を取り出す。マサムネよりも少し長い程度の刀身をもった、妖しく青く輝く刀。

「ムラサメ・ブレードだ。マサムネと対になってる。前まで稼いでたダンジョンに置いてたんでね」

「それじゃあのお姫様の呪い、解いてあげるんですね?」

「ああ。でもただじゃない。今度はふんだくれるだけふんだくってやる。そうさな、この国を乗っ取るってのもいいかも知れん」

「……やっぱり…」

出発は明後日だ。明日一杯のんびり休んで、それからまたあのカビ臭いダンジョンに潜るとしようか。

「で、ヤシャから何を教えられたんだ?どーせ俺の過去とか聞いたんだろ?」

「は、はい。…あの……ロア様が孤児だったって…ほんとですか?」

「あぁ、めずらしいな、ヤシャが本当の事言うなんて。それは事実だ。俺様には親はいないからな」

「それじゃあ最初は僧侶だったって言うのは…」

「…あいつ……何か変なものでも食ったのかな…それもほんとだ。その次が魔法使いで、それから忍者になった。15のころだ。もう300年近く前になるかな」

ヤシャの大ホラ吹きはかなり有名(俺の中では)だったんだが、どういう風の吹き回しだろう。マルチに本当の事教えてやがる。

ま、どーでもいいか。どうせこの先何百年かはあいつに会う事もないだろう。ましてや一緒にパーティーを組むなんてまずありえない。あいつから「組んでくれ」といわれても、迷うことなく断る。

「どーしてですか?あんなにきれいでレベルも高いのに…」

「……あの女はな…底無しなんだよ」

「え?」

「一回だけ、ヤシャと寝た事があるんだが……それもあいつの方から俺のベッドに入ってきやがったんだ。その当時は俺も女を知らなかったんだが、それが『据膳』っていうやつだって事は解った」

つまり、ヤシャは俺の初めての女だったという事だ。

「でもそれが最悪だった。ヤシャは一回火が点いたら、最低でも一昼夜はエンドレスだからな。逃げようとしたらマダルトとか撃ってくるし、そんな状況が丸二日続いたんだぞ?いいか?丸二日だからな?

「ふ、ふつかかん…ずっとですか?」

「そう、ずっとだ。休みなし、睡眠も食事もなし。あれからしばらくは女が恐かったよ」

「…そこだけはヤシャさんから聞いてたのと違います…」

ふん、どうせ俺の方から襲ってきたとか言ったんだろう。もー解りきってるよ。

あれから約一年間、女が恐くてしょうがなかった。近づきたくないと思ったくらいだ。そしてようやく女性恐怖症を克服してできた彼女はヤシャに横取りされるし…

「あの女は俺にとっては疫病神なんだよ。…さてと、話は終わりだ。今日はもうねるぞ。明日ゆっくり休んで、それからまたダンジョン入るからな」

「は、はいっ」 


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