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Wizardry The Curse of Ancient Emperor



極悪忍



Nobuyuki Morita Presents


 

13

デーモンの王

 

「ずいぶんと厄介な所に来たみたいね」

「そーみたいだな」

目の前には一人の男が立っている。見た目には若いが、その身体から発する殺気と魔力は尋常じゃない。

さっきのトライアスから一分も経たないうちに、もう次の敵が現れている。しかもその敵はトライアスと同レベルかそれ以上の力を持っている。

悪魔系のモンスターにもいろいろいるが、大抵のやつらはグレーターデーモンどまりだろう。そのせいで、グレーターデーモンが悪魔系最強の奴だと思ってるものも多い。しかし、実際に悪魔系のモンスターの中でもっとも強い力を持つものが、今目の前に立っている男、アークデーモンだ。

こいつははっきり言ってタチが悪い。引っかかれただけで、ひどい場合は

  1. 麻痺
  2. エナジードレインで3レベル吸い取られる
  3. 恐怖
  4. 石化
  5. 首刎ね

と、ステータス異常のオンパレードだ。よーするに普通なら相手にしちゃいけない危ない奴なのだ。

「今回ばっかりはそうもいかないみたいね」

「…どっちがいく?」

もちろん、そんな奴が相手でも引き下がるわけにはいかない。もちろん、引き下がる必要も感じてない。

……ここがお前達の墓穴となる…どちらからでもかかってくるがいい

「それじゃああたしが行こうかしら。変わりばんこね」

「あー、そうしようか。んじゃあ俺はここで見物してるわ」

マルチは当然のように殺気に気押されて何も喋れない。今にも泣きそうな顔をしている。

「ふぅ、アークデーモンも一分持つかどうか…」

「あの…ヤシャさんって本当にそんなに強いんですか?」

「んー?見れば解るさ。ほれ」

あごを動かしてヤシャとアークデーモンが向かい合っている所を示す。そこは早くも修羅場と化していた。

 

「ふぅん、なかなか出来るみたいね。久しぶりに楽しめそうだわ」

…女、悪いことは言わん。去るがいい

「あぁら、ずいぶん優しいじゃない。ロアの1000倍くらいかしらね」

腕に覚えがあるのかもしれんが…私には通じん。無用な殺生は好まん、ここから去るがいい

「悪いけど…」

ヤシャの左手にあるガラスが妖しい光を放ちはじめる。最初は暗いブルー、そして紫を経て真紅の光を放ちだした。

「そうもいかないのよ。ちょっと用があってね。解ったらそこを退きなさい、ボーヤ」

そういうとまるで無防備に間合いを詰める。まるでアークデーモンが発する殺気も魔力も意に介していない。

…仕方あるまい……そういう事ならば…

「もう一度だけ言うわよ。そこを退きなさい

アークデーモンの動きが止まった。どうやら悪魔系最強の魔物も、齢800年の魔女には勝てないようだ。

ピシッ、という音が聞こえた。部屋の中の温度が急激に低下している。アークデーモンの足元が凍りはじめている音だった。

な…何だこれは……?なぜ私が動けなく……

「どかないなら仕方ないわね。死んでもらうわよ

ガラスの真紅の光が一気に弾けた。と同時に一気に室温が上がる。

ガラスが火を吹いた。いや、そう見えただけかもしれないが、ガラスの刀身が白い炎に包まれている。

『火よ』

ヤシャがそう呟いた。アークデーモンの全身が火に包まれるのはそれとほぼ同時だった。

 

「おわったわよ。さ、行きましょ」

時間にして僅か一分半ほどの出来事だった。その間にアークデーモンは骨も残らずに灰になってしまったようだ。

白い炎というのはきわめて高温だ。そんな炎に焼かれたんだから、さぞかし熱かったろう。いや、熱いなんて感じる暇もなかったかもしれないな。

「……すごい…」

「ん?どーしたのマルチちゃん?」

「ヤシャさん…すごいです…」

「そぉ?でもあの程度の相手でそんなに誉められてもなぁ。なんか照れちゃうわね」

といいながら飄々と歩く。

おれも初めてヤシャの力を見たときはかなり驚いた。

ヤシャは俺の魔力がすごいというが、俺にとってはヤシャの法力の方が恐ろしい。ちなみにさっきのも法術だ。しかも初歩のわざにすぎない。が、極めればアークデーモンも一撃で殺せるくらいの威力になる。

法術には魔法のように一気に大量のエネルギーを、長時間放出するような技は少ないが、使うもののレベルによっては魔法をはるかに凌ぐ威力を持ちうる。ヤシャがいい例だ。ほかの奴がロウソクに火をようやく点けられる法術でも、ヤシャが使えば山一つ丸焼きにすることも出来る。

「法術は錆びてないみたいだな」

「まあね。時々は使ってたから。久しぶりに使うと気持ちいいわね」

「次ぎ出てきたら俺が相手するからな」

「はいはい、そーしてちょうだい。今度は私が見物させてもらうわ」

「そんな事言ってるとまた出てき……」

ちゃいますよぉ、というマルチの言葉は最後まで発音されなかった。

「……やれやれ、一休みする暇もないか…」

ドアがゆっくりと開いた。その向こうから熱風が吹いてくる。風の魔神の先触れだった。

 


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