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Wizardry The Curse of Ancient Emperor



極悪忍



Nobuyuki Morita Presents


 

17

決戦

 

 

足元には灰が固まりになっていた。その中にほんのわずかに光りを放つものがある。

ついさっきまで一人の女が身につけていた指輪だった。

女の名はヤシャ・ディスペラント。

800年を生き、剣術、法術に長けた魔女。

その剣術はあまりに鋭く、斬られたものも気付かないといわれ、その法術はあまりに強力で、海を煮えたぎる血の海に変えることも出来たといわれていた。

その女がたった今、灰になった。

ダンジョン内に吹いたほんのわずかな風で、音も立てずに灰がさらさらと崩れていく。

(次はお前か…)

声の主は女と同じ顔を持っていた。名はラセツ・ディスペラントという。ヤシャの姉だ。

「…ロア様……」

後ろではマルチが涙に濡れたままの顔でその指輪を握り締めていた。

あえてマルチの声には答えない。振り返りもせず、一歩前へ出る。

「そこにいろ。これが終わるまでそこにいろ」

「…はいっ」

(お前の名は?)

「俺様の名…だと?」

俺様の名は……

俺様の名は…ロア・ガートラント…

今までに血祭りにあげた魔神、鬼神は数え切れない。腰に差した二本の妖刀、マサムネとムラサメはどれだけの血を吸ったことだろう。

今までの300年間でこれほど血が滾ったことはない。以前魔法一つで国一つを消滅させたときも、これほどに体中の血が暴れた事はなかった。

(あの王女は…地上での私の目となり、手となり、足となり、そして口となる。私はここにいながらにして地上を支配する…)

これほどに体中に気が満ちるのを感じたことはない。

これほどに心の中の「鬼」が暴れ狂うのを感じたこともない。

(さぁ…お前も我が妹とともにこのダンジョンで眠りに着くがいい)

「……言うことはそれだけか?」

左手にはマサムネ、右手にムラサメを構える。短いはずの刀身が、刃の発する雷で倍以上の長さに伸びているようにもみえる。

「あいにく今の俺様は機嫌が悪い。…自分で命を絶て。その方が楽だぞ」

(…私もすでに後ろには退けない。どうしてもここから生きて出て行きたければ私を殺すがいい)

「そうだな、そうさせてもらうか……」

一歩前へ踏み出す。

不意にものすごい衝撃が全身を襲った。黄泉の女帝が軽く手を振ったのだ。

上半身を包んでいた服が一瞬で消し飛ぶ。だが、300年間鍛え続けたこの身体には傷一つつかない。

(な……なに?…ヤシャですらこの技で…)

「俺様はヤシャよりも強いんでね……仇を討たせてもらう」

(くっ…食らえ!死ぬまで食らい続けるがいい!!)

ラセツの両腕が激しく暴れまわる。その度に空気が鉄の砲弾となって襲い掛かってきた。

だがその一つ一つも俺様にとってはそよ風でしかない。すべてをまともに食らいながら、一歩一歩ラセツへと近づいていく。

(お……おのれェ!ならばこれを食らうがいい!)

ラセツの両の手のひらが不意に光った。圧縮された空気が一気に俺様へと放出される。多分普通ならかけらも残らず消滅したはずだ。しかし…

(なっ…ど、どこだ!?どこに消え…っ!)

マルチが「あっ」という短い声を上げた。ラセツが口から血を吐いたのはそれとほぼ同時だ。

「崩れかけたヤシャでなければあの程度の技で死ぬわけがない……」

ゆっくりとマサムネをラセツの背中から引き抜く。

真っ赤な血が勢いよく飛び散った。

(おのれ…おのれ!人間の分際で!!下等な人間の分際で!!

ラセツの口からものすごい温度の炎が吐き出される。周囲の石壁が溶けはじめていた。だが、やはりそこには俺様の姿はない。

(…っ!!)

「…お前の名はラセツ・ディスペラント……」

今度は左脇腹に刺さったムラサメを引き抜いた。すでに石床には血で水溜まりが出来ている。

俺様の名を言ってみろ

マサムネがまたしても背中に突き刺さる。悲鳴も上げずにラセツがのけぞった。

俺様の名を言ってみろ……

今度はラセツの正面に俺様の姿がある。が、同時に左側にも、右側にも、そして背後にも俺様が立っている。

(どれが…どれが本物……?)

四方向から同時に、八本の刃が襲いかかる。

「…全部だ」

すでにラセツはズタズタになっていた。自らの血で出来た水溜まりにつかり、息も絶え絶えに俺様を見ている。

俺様の名を言ってみろ

(お…お前…の……名は……)

「俺様の名は…」

両手に構えた剣をゆっくりと振り上げる。

(お前…は……ロ…)

「…ロア・ガートラント様だ」

急激にダンジョン内が青白い光で照らされた。それに伴う激しい轟音。

妖刀が持てる力を放出している。落雷をはるかに凌ぐほどの雷撃がラセツのからだを塵に変えていく。

 

どこかからか風が吹いた。

白い灰が舞い上がる。

目の前には扉があった。そして今、俺様の背後には崩れかけた玉座がある。ついさっきまで黄泉の女帝と称する女が座っていた場所だ。恐らくここに誰かが座ることはもうないだろう。

そして俺様とマルチがここに来ることも。


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