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Original Novel
MH/DAS Presents



ぬいぐるみの奇跡


第2回



二月の空気は、肌がひりひりするほど冷たかった。
他の通学者たちも、かなりの着込みようで、中には顔すらも隠れそうな人がいる。
私はそれほど着込んでいないため、身が震えそうになった。
なので多少小走りし、途中の友人に挨拶して追い越しながら学校へ向かう。
そして、まだチャイムより30分も早くついた。

教室はまだまだ人数が少なくがらんとしていた。
しかし、私の親友の木村小百合が既に自分の席に座っている。
私は挨拶も無しに、いきなり話しかける。

「今日、今年で一番寒くない?」
「うん。今年一番の冷え込みらしいよ。」
その事は私も今朝の天気予報で聞いた。
しかしこうして友人に言われると、現実味が沸いて更に寒く感じる。
「寒いのは分かるけど、教室の中でコート着っぱなしはやめようよ。」
さっそく小百合に突っ込まれ、慌ててコートを脱いだ。
やはり教室は風も無い密閉した状態なので、制服のみでも我慢できない寒さではなかった。
ところで、挨拶もなしにというのは、どうもしづらいからである。
いつも起きたらそこにいる家族にしにくいように、彼女とも長い付き合いで、
小さい頃からの親友のために、挨拶は別れる時だけしている。
そちらの方が自然だし、彼女もまったく気にしていないのでそれで通しているのだ。
その小百合は、いたって普通の女子中学生である。
親友である私が普通というのもなんだが、とくに飛びぬけたところは感じられない。
しかし、その“普通”を裏付けるもっと大きな理由がある。 それは、本人がその“普通”を求めているからである。
もしかしたら、そう考えている事が普通でないのかもしれないが…。
彼女は、何故かその“普通”というのにこだわっているのであった。
その理由は、私にも分からないままである。
だから、誰がなんと言おうと彼女は“普通”の女の子である。

そうこうしているうちに、教室にも次第に賑わいを帯びてくる。
二人のおしゃべりももう、一通りの事は話し終えた。
私は軽く手を振って小百合と離れると、朝の支度をはじめる。

鞄を開けると、さっそく例のぬいぐるみが顔を覗かせた。
まるで、今日も一日頑張ろうと言っているかのように見えた。
“ウン、頑張るよ!”と無言で返すと、他の道具の整理をはじめる。
ぬいぐるみに話し掛けた事で、何か本当にやる気が出てきた。
そしていつの間にやら、チャイムが鳴り響いた…。

今日も長いような短いような一日が始まった。
実の所は、自分のしたい事で頭がいっぱいで勉強する気はないが、
教師達は、今が気を抜けない時だと更に勉強を迫ってくる。
正直この時期になったらそんな必要ないと思うのだが、
さすがに言える立場なわけはなく、ただこうして時間だけが過ぎて行く。

そして、今日が終了した事を告げるチャイムが鳴り響く。
結局今日も、あまり有意義な時を過ごしたとは感じられなかった。
ただ、あのぬいぐるみのおかげで、いつもよりは少し頑張れたかな…。
と思いつつも、さっそく帰り支度をはじめた。
そして、小百合と共に帰宅をする。

途中、私はぬいぐるみの事を話に持ち出した。 「きのうの夜は、このぬいぐるみのおかげで良く眠れたの。」
「えっ、章子ってまだぬいぐるみと寝てるの?」
と、冗談だか本気だか分からないような返事が飛んできた。
それはもちろん誤解である。でも、そうとも言い切れないが…。
「実は、このぬいぐるみは快眠機能がついているのよ。」
と、例の不思議な音の話を持ち出す。
「ふ〜ん。抱っこすると心地よい音が出るのね。」
疑いは晴れていない様子である。
「それが甲高い音で『キーン』って言ってるんだけど…。」
「でもそれって、普通嫌な音じゃないの?」
確かに常識的に考えればそうである。
甲高い音はどうしても耳につき、頭が痛くなるというのが通説だ。
でも、この音は違う…。
それを納得させるには、やはり聞かせてみるのが早かった。
“キィィーーーン…”
スイッチを入れると、例の音がやさしく耳に届きだす。
「本当…。不思議な音ね。」
どうやら納得したらしい。

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