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Original Novel
MH/DAS Presents



ぬいぐるみの奇跡


第3回



やがて、私の家に到着した。
さらに向こうに家のある小百合に別れを告げ、家に入る。
食事を取り、風呂に入り…という毎日の一連にする事を済ませ、
さっそく今日の宿題に取り掛かった。
宿題といってもこの時期なので、
半分レポートのようなもので、自分なりの勉強をする事になっている。
さすがにこの時は眠けを誘う彼女(勝手に性別を付けた)には、
仕事をしてもらうわけにはいかず、ベットの上に置いてある。
「ちょっと待ってて、すぐいくから。」と思わず言いたくなる。
ぬいぐるみもまるで、私を待っているかのように見えた。
まさに、私が眠ることを誘うかのように…。

とりあえず終了した宿題を片付け、さっそくベッドへ飛び込んだ。
そこには待ってましたとばかりの表情をした(わけはないが)彼女がいる。
そのいじらしい顔を見て、思わず両手でつねった。
微妙に変形した顔はふにゃっとした感じになって、私の笑いを誘う。
そんな愛嬌のある彼女に、私はぬいぐるみを通り越した感情を抱き始めていた。
もしかしたら、私の心からの友達になってくれるかも…。
こんなにつらい時だから、心から話せる人が欲しかった。
そして、それをこのぬいぐるみに求めだしているのだ。
それは人から見ればばかばかしい事だが、今の私には本気である。
今の私に欠かせない存在。私の気持ちをうちあけられる人が欲しかった。
心の底から支えてくれる人が…。

ぬいぐるみのスイッチを入れ、例の音が部屋中に鳴り響く。
それはやはり、甲高くも優しい子守り歌のような音。
昔母が歌ってくれたあの子守り歌。
記憶の底からよみがえってくる小さかった頃の思い出…。
雑念に染まった心がどんどん白く、しろく…。

そして私は今日も一段と深い眠りへと向かった。


朝、寝起きはまたしてもこの上ない爽快さであった。
何を見ても、自然に笑みがこぼれてくる。
朝の訪れがこんなに楽しいなんて事は、今まであまりなかった事だ。
ぬいぐるみのスイッチを切ると、私はさっそく着替えて学校へ行く準備をする。
もちろん、そのぬいぐるみをかばんの中に忍ばせるのは忘れずに…。

今日も外は寒かった。
コートの隙間がなるべく空かないように、手で押さえながら歩く。
しかし、それでも容赦なく寒風は隙間から侵入してきて、 私の体の隅々を探るかのように動いては抜けて行く。
肌には、見なくとも鳥肌が立っている事が分かった。

今日も少し早く学校に到着する。
そして、あの小百合もすでに席に座っていた。
いつものように小百合との朝の話に花が咲く。
そして、その話題は自然にぬいぐるみの事一色となる。
「でね、ホントに良く眠れるのよ。」
「そうね、それは私もきのう実感したから分かるような気がする。」
「小百合も買ってみない?」
「ううん、いいの。わたしにはもう『ラン』がいるから。」
そう、小百合にはすでに共に眠るお友達がいたのだ。
そのぬいぐるみの名は『ラン』といって、
名を付けるほどであるから、もちろん相当気に入っているらしい。
実は彼女。かなりぬいぐるみ人形を集めている。
とは言っても、中学生の女の子であるから、20個そこそこではある。
しかしかなり思い入れがこもっているようで、彼女は良く話もした。
家に行った時も、幾度となく聞いた事がある。
もしうかつに破ろうものなら、どうなるか分かったものではないほどだ。

「そうね、一度貸してくれないかしら?」
と小百合は言い出す。
さすがにそれは出来ないと思い、どうにか断ろうとする。
もうこのぬいぐるみと離れたくなかったからだ。
「それはちょっと出来ないよ…。」
「じゃあしょうがないわ…。」
私の気持ちを知ってか、あっさりとあきらめる小百合。
そして、この話は終わりを告げ、朝のホームルームが始まろうとした…。

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