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Original Novel
MH/DAS Presents



ぬいぐるみの奇跡


第4回



今日も授業は退屈だ。
もうほとんどの者は進路が決まっているため、
皆普通以上にいいかげんに授業に取り組んでいるのが見え見えである。
消しゴムのカスを丸めているもの、ノートに落書きをするもの、
教科書の陰で早弁をするもの、鼻をほじってアホヅラしている者…。
それは明らかに普通以上に大量発生していた。
こんな状況では、まともに授業を受ける気を起こす方が無理だ。
私も鼻をほじ…こそしないが、顎に手をつけて今にも眠りそうになる。
そんな光景を教師達は、しょうがないなとばかりに見ていた。

またしても意味の無い時間が終わり、小百合と帰宅。
小百合はなんとなくこのぬいぐるみの事がまだ気になっているようで、
どこで売られていたかを聞いてくる。
「うん、うちの近くのあの玩具屋だよ。」
“あの”とは、二人とも良く知っているからである。
小さい頃から良く二人で行ったこともあるような店であったが、
さすがにこの年齢になると、玩具屋へ出入りする事は少なくなっていた。
たが、この前なんとなしに入ってみたところ、妙に目に付いたぬいぐるみがあったので、
それを買った。というのがこのぬいぐるみであった。
だから、特に買おうと思っていたわけではなかったのだ。
しかし今では、すっかり私のお気に入りとなった。

小百合は今日にでも一度覗いてみると言いながら、私と別れた。
それを見送って、家に入る。
中にいたのは、私を見るなり怒った顔をした母だった。
「あなた、いい加減受験勉強したらどうなの!!」
帰宅早々玄関で怒鳴られる。
「いいじゃない!デザインのことを目指しているんだから!!」
「まだ早いって言ってるじゃない!まず高校をおりるぐらいまではしないと。」
「そんなことない!今からそっちに専念した方が絶対いい!」
「もう、分からず屋なんだから…。」
母はあきれたような顔をして、とりあえずこの場は身をひいた。
“分からず屋”は、あんたから引き継がれたものだよ。
と正直言いたくもなった。p 母も十分過ぎるほどの分からず屋なのだから。

私にも考えはある。
高校に行くよりも、今のうちからデザインのことに専念した方が絶対に言いと思う。
高校に行ったって、将来役に立つことをどれだけ身につけられるか疑問だ。
それならば、デザインのことだけ身につけた方が将来ずっと役に立つ。
そう考えれば善はいそげ、デザインの道を取る方が良い。
だが、親は執拗に高校に行かせたがる。
高校に何があるというのか。
高校は義務教育ではないんだから、行く必要なんてまったくないではないか。
それなのになぜ…。

“親心子知らず”そして“子心親知らず”。
食い違いが顕著になるほど、距離が離れて行く。
もう私には、親はただの人生の障害にしか見えなかった。
昔は自分のしたいことになんでも耳を傾けてくれ、欲しいものは買ってくれた。
そして、何より優しくしてくれた母親。
いつからこうなってしまったのか?
変わったのは母?私?

部屋に戻って、机の上にかばんをどかっと置く。
中から真っ先に取り出すのは、ぬいぐるみである。
とりあえず、今は彼女に気持ちを打ち明けるしかなかった。

「私の考えは間違っていないよね?」
「……」
「絶対に、大丈夫だよね?」
「……」
ぬいぐるみが喋るはずはない。
しかし私は、しきりに質問を繰り返した。
そして、少しは気持ちがすっきりしてくる。
これでいいんだ、と心の中で一人合点をする。

彼女はの顔は、すべてを受け入れてくれたように見えてきた。
それを見て、私はにわかに微笑みを返す。
だが、目元から流れ出るものを止めることは出来なかった…。


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