Back/Index/Next
Original Novel
MH/DAS Presents



ぬいぐるみの奇跡


第6回



「東京デザインフェスティバル」
長い時間と道のりを経て辿りついた地には、こう書かれた看板が立てられていた。
何のひねりもない名前ではあるが、その伝統と規模からしてぴったりの名である。
つまり、全国的に見てもこれが一番とも言えるデザインのイベントなのだ。
これだけのイベントであるから、当然ものすごい人だかりである。
その人の波に割ってはいる事さえ、なかなか辛い状態であった。

ようやく、ホール状になったイベント会場に入ると、人の山に遮られて大分見にくくはあったが、大小様々な作品を眺める事が出来る。
見るからに美しい形をしたもの、奇抜な形をしたもの、色使いに凝ったものetc...
本当にいろんな作品が並べられていた。
見ているだけでも楽しめるものばかりであるが、私は勉強と調査のためにやってきたのだ。
さっそく作品たちにさらに近づくように頑張って歩を進める。

ようやく、目の前に作品が姿をあらわした。
それは、遠くで見た時以上に素晴らしいものである事がわかる。
細かいところまで丁寧に作られているところからして、製作者の気持ちが伝わってくる。
この作品にかける意気込みは相当なものだったのだろう。
同じデザインをする者として見習わなくてはいけない、と強く感じた。
作品の横には、作者のコメントが書かれた立て札があった。
その制作コンセプトに、とても興味を感じる。
「“出逢い、そして永久の気持ち”をテーマとして作りました」
そう書かれていたのである。
永久の気持ちとは…?
愛なのだろうか? それとも別のものなのだろうか?…
どう取ったとしても、その作品はとても美しかった。
確かに二人の人が作られていた。
しかし全く触れる事はなく、ただ見つめ合っているだけ…。
その姿に、何か物悲しい哀愁が漂ってくるようであった。
なぜこのような作品になったのだろうか?

すると、作品の近くに一人の少年が近づいてきた。
見た感じ私とあまり年の離れていない、そうぱっとしない感じの男である。
しかし私たち観客と違って、皆が通り道を作っている。
つまりこの作品の関係者であるのだろう。
少年は作品の正面から一歩横に立ち、ハンドマイクを握り締めた。そして…
「ここにお集まりの皆さん、今日は。私はこの『気持ちのかたち』の製作者である田端大介(たばただいすけ)という者です。どうぞよろしくお願いします。」
見た目と違って、なかなか歯切れの良い声で自己紹介を始める。
(年のわりには、やけに堅苦しく元気はないが)
私はこれを聞いて少し驚いてしまった。
この作品の作者はこの少年。少年は私と同じぐらいの年。
つまり、私と同じぐらいでこれだけの技術を持つ人がいるのだ。
その事実に、自分の劣等感を感じてしまった。
私はまだ何も作る技術がなく、言ってしまえば何も出来ない。
それに比べてこの少年はこれほどまでに素晴らしいものを作り上げているのだ。
到底私には出来そうもない事を、すでにこの年で成し遂げている少年。
その違いの大きさに、思わず気持ちが消沈する。

自己紹介が終わると、少年は熱心な観客から質問攻めに会う。
どうやら他の人たちも、その若き天才に興味津々のようである。
私は興味なんて場合ではなく、ただ自分との違いに参っていた。
だがその瞬間、少年は私のほうを見た。
「ねえ君、こっちへおいでよ…」
それは空耳だったのだろうか? 少年がそう私にいったような気がしたが…

すると少年が、なんと私の手をつかんで周りに誰もいないスペースに連れ込んだのだ。
「ねえ、君って中学生だよね?」
少年は優しく微笑みながら聞いてくる。
「うん、そうだけど…」
急にこんなところに連れ込まれたため、私の心臓はばくばくと波打っている。
とてもきちんと返答できるなんて状態じゃなかった。
しかし、さらに少年は聞いてくる。
「僕のこの作品を見て、どう思ったか聞かせて欲しいんだ」
「何で私に…」
多少足をがくつかせながらも、そこまでの返事をする。
「だってさ、同じぐらいの年の人の感想が、僕にとっても一番気になるからだよ」
さらににこにこした顔で、私の問いへの答えを返す。
その姿は、とってもキザである。

「う〜ん……とってもいいと思うよ」
なんと答えたら良いのかもわからず、ただ、いいとしか言えなかった。
これでは少年に馬鹿にされても仕方がない。しかし…
「そう、ありがとう!」
屈託のない笑顔で、感謝の言葉を言う少年。
その思いがけない反応に、私はどうしていいものかさらに困ってしまった。

Back/Top/Next