Back/Index/Next
Original Novel
MH/DAS Presents



ぬいぐるみの奇跡


第8回



「何で僕が、君をわざわざここに連れ込んでまで、こんな話をしたのかわかるかい?」
 熱弁を終え、まだ顔が火照っている彼が、私に問い掛ける。
 ただ、首を振ってそれに答えた。
「それは、君の目がそうさせたんだよ」
 普通ならものすごいキザな言葉を、さらりと自然に言う。
 当然だろうが、その言葉に私は赤面した。
「…わたしのっ、私のどこにそんなっ…」
 しどろもどろになって、少年の言った真意を問い掛ける。
「君の目には、希望と共に、自分への自信の無さからくる失望感が漂っていた。まるで、土をかぶって光を反射しきれない宝石のように…」
 少年の言葉は、とても年に相応しないものであったが、私の心はそれにすっかり魅了されていた。
 そしてただ呆然と、彼の輝くような瞳に見入っていた。
 
 どうやら彼は、私に何らかの力を感じているようである。
 私には、自分でも自身の力が未知である。それでいてこの少年は、私の目でなにかを見抜いた……
 それは勝手な私の勘違いかもしれない。しかし、少年の目はそれを肯定しているかのようだ。まるで、私の何かを見てしまったかのように。
 私は、少年に途方も無い力を感じる。少年は私に、どんなことを感じているのだろうか?
 
 いつしか、少年の心に自分がどう映っているのか気になるようになっていた。
 
 
 少年に見送られ、会場を後にする。
 その手には、少年にもらった紙切れ一枚が握られている。
 ……別れ際、私は自分の名前を少年に告げる。それは、少年に聞かれたのではなく、自分の意志だった。
 名前を聞いた少年は、さっそくメモを取り出し、こう提案した。
「それじゃあ、互いの連絡先を書いて、交換しようよ。君にはぜひ、また会いたいんだ。そして今度は、今日のような忙しくて時間の無い時じゃなく、ゆっくり話ができるように……もっと話をしたいからね」
「うん、わかった。交換しましょう」
 そして、ほんの先ほどまで見ず知らずの少年相手に、自分の電話番号と住所を教える。
 その行為、自分で信じられなかった。……今まで消極的だった自分だから…
「じゃあ、また会おう、彰子さん」
 最後の取って置きとも言える笑顔で、少年は去っていった。このあと、片付けなどがあると言って。
 私も、その笑顔に笑顔で応えていた。
 
 手に握った紙を見てみる。
 その事実に驚くのはたやすかった。
「同じ街…!?」
 何と、少年の住所は、自分と同じなのである。たぶん、少年のほうも今ごろ驚いているかもしれない。
 だが、今まで顔を見た覚えはない。同じ街なら見た事無いほうが不思議である。
 それに、あれだけの人である。噂されたっておかしくない。でもなぜ……
 その謎が解けるのは、思いのほか早かった。
 
 
 この街は、他の街に比べるとこじんまりしていて、さらに活気も今一つに感じる。よって、特に目立ったところが無いのだ。一つの建造物を除いて……
 …建造物は、場違いなほど大きくそびえたつ豪邸。その豪邸の主の名……その名を「田端」という。
 もうわかるだろうが、あの少年は、この豪邸の主の息子だったのだ。
 そんなお坊ちゃまが、私たち一般人にめったに会うはずが無い。ほとんどを豪邸の中で過ごし、学校に通う必要すらない。(無論、専属の家庭教師がいるためだ)
 それで大体の謎は解けた。だが、新たな謎も出る…
 彼はお坊ちゃまにしては、随分と努力家だ。
 これははっきりいって、私の勝手な「お坊ちゃま」の想像の姿なのだが、努力には無縁の生活をして、ぐうたらな性格になるのではないのか?
 それに比べ、彼は自分のしたい事にまっすぐで、今では努力を重ね、あのような大きな大会で、展示されるほどの力を持っている。
 彼の一端しか分かっていないので、それが正しいとは言えないが、少なくとも努力を積み重ねてきた事は明らかである。
 ……この謎は、いつ解けるのだろうか?
 
 私の心は、「もう一度彼に会いたい!」と叫んでいた。
 それはこの謎もそうだが、じっくりいろいろと聞きたくなったからだ。
 豪邸と連絡を取るのは気が引ける…が、彼が承知している事。たぶん問題ないだろう。
 ……そう私が意を決するより前に、すでに電話は繋がっていた。
(リリリリリ……)

Back/Top/Next