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Tactics ONE short story



輝く季節へ


清水なつき編

第2章

by 荒竹


演奏

まったく、さんざんな朝だった。浩平は、いつもより早く家を出たことを後悔していた。
あの後、少女は何事もなかったかのように浩平達と別れた。

「ありがとう、お兄ちゃん」
少女は何故か浩平のことを、「お兄ちゃん」と呼んだ。
「?この娘浩平の妹・・・あ!?」
瑞佳は言いかけて、一瞬、しまったといった表情をした。
瑞佳の表情を気にすることも、浩平のその言葉に対する反応を気にする様子もなく、その少女は、
「こうへい?・・・そう、浩平お兄ちゃんなんだね。私はなつき、清水なつきって言うの」
「あ、私、もう学校に行かないと行けないの。またね!」
この二言を残して去っていった。

(なんだったんだ・・・)
当然の事ながら、浩平達は遅刻した。
「またあんた瑞佳に迷惑かけてんでしょ」
「いや、兄妹のちぎりを結んできた」
「なによ?それ」
前席の七瀬留美の嫌みを、事実を伝えて煙に巻いた浩平は、そのまま机にうつぶせた。
(疲れた)
深い眠りにつくのに時間はかからなかった。

「おお、いつの間にか、全ての授業が終わっているじゃあないか!」
「浩平が寝てばっかりだったからだよっ」
瑞佳の小言にも耳を貸さず、浩平は帰り支度をする。
「よし、七瀬。商店街で買い物するか?」
「わーい!あたし欲しい服があったんだ・・・って行くわけないでしょ!」
「そうか、残念だ。お前ぴったりのどくろプリントのレザージャケットをみつけたんだが」
「着るかぁ!」
一通り留美をからかって、浩平は一階へ向かった。

校門の前に彼女は立っていた。清水なつきは、本を読みながら、誰かを待っているようだった。
「お前、確か今朝の・・・」
「浩平お兄ちゃん、いっしょにかえろ」
浩平が話し終わるより早く、なつきは浩平の腕を引っ張った。
「まて、ちょっとまて。何でオレがお前の兄貴なんだ」
浩平でなくても気づくであろう疑問。その当然の疑問に、
「だって、浩平お兄ちゃんだから」
の一言で片づけるなつき。あきれて、反論のしようもないまま、浩平は引きずられるように下校する羽目になった。

「私の学校はね、今週から試験だから、早く帰れるの」
「ふぅん」
「今日学校にね、すっごくかわいい猫が迷い込んできたのそれでね・・・」
「そうか」
思ったよりよく話す娘だ、浩平は見た目で人を判断する事は間違いであることを、再び実感した(一人目は先日出会った川名みさき先輩だった)。眼鏡を掛けていて、おとなしそうな印象だった彼女のとりとめのない話を曖昧に聞きながら、浩平は別のことを考えていた。
(おにいちゃん、か・・・)
気がつけば、2人は今朝なつきと出会った交差点にいた。
「なあ、朝なんであんなにぼーっとしてたんだ」
「ん?忘れちゃった。気がついたらあそこにいたんだ。でもよかった。お兄ちゃんにまた会えて」
浩平がそのせりふを聞くのは二度目だった。
「また・・・?」
「?わたし また、なんて言った?」
なつき自身も驚いているようだった。
「あ、わたしここが家だから」
なつきの家は、例の交差点から、そう遠く離れていない住宅街にあった。ここから彼女は2駅先の高校まで通っているのだという。
「それなら今朝は遅刻だったろ?」
「うん、いつもの貧血でしたって言ったら、先生何も言わなかったよ」
「いつもって・・・」
「ばいばい、浩平お兄ちゃん」
またしても最後まで浩平は言葉を続けられなかった。
なつきは、さっさと門をくぐって行ってしまった。

演奏
彼女と別れた時、空はすっかり赤く染まっていた。
浩平は、何かにとりつかれたかのように、その夕日を見ていた。自分の家の前を一度通り過ぎてしまうほど、真剣に。


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