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Tactics ONE short story



輝く季節へ


清水なつき編

第4章

by 荒竹


演奏

12月24日は雨だった。皆がクリスマスの予定を話しながら、帰宅の途に就こうとしていた。
浩平もまた、友人の住井護達の誘いを受け、夕方から集まる約束をして帰ろうと一階の廊下を歩いていた。
ふいに、袖が引っ張られる。いつもより強く。
「どうした、澪」
そこにはいつになく真剣な表情な澪が居た。
『おはなしがあるの』
『なつきのことなの』
『おにいちゃんになってあげてほしいの』
前もって書いていたスケッチブックを見せる。
「澪・・・、オレは、あいつのお兄ちゃんじゃあない」
澪は、ちょっと困った顔をして、それから浩平を何とか説得しようと「書き」始めた。

全ての話が終わる前に、浩平は雨の中を駆け出していった。

オレと同じ・・・
(なつきのおにいちゃんはね、車にはねられて死んだの)
彼女も、なつきも・・
(なつきをかばって)
オレは・・・
(だから・・)

演奏
終業式後、なつきはしばらく自分の教室に佇んでいた。
しばらく考え込んでいたが、そのうち、意を決した表情で、帰宅準備を始めた。
「・・・私、嫌われたのかなあ?」
一言呟いて、誰もいない教室を後にする・・。下駄箱で靴を履き、傘を差して、今日は以前の帰り道で帰ろうかと校門まで来たなつきは、そこに見知った顔を見つけた。
「浩平おにいちゃん・・・」
傘も差さずに立っているその少年は、笑って答えた。
「さ、帰ろう、なつき」

昔から、身体が弱かったなつきは、健康の管理は人一倍敏感だ。
ずぶぬれになった浩平を取りあえず校舎に入れることにした。
こっそり保健室の鍵を開け(鍵の場所はよく知っている)、なつきはストーブをつけながら浩平に訪ねた。
「浩平お兄ちゃん、どうして傘も持たずに・・・」
「ん?急になつきに会いたくなったからさ」
タオルで髪を拭きながら、浩平はさらっと答える。
「ホント?よかったぁ。最近迎えに行ってもいつも先に帰ってるから、私お兄ちゃんに嫌われちゃったかと思っていたの」
「馬鹿、お兄ちゃんがお前のこと嫌いになるわけないだろ」
言いながら浩平はなつきの頭をくしゃくしゃとなでる。
「あんっ!あ、服もびしょびしょだね。乾かさなきゃ。お兄ちゃん、こっちにパジャマがあるから着替えて」
「いいって、こんなんほっときゃあ自然に乾くって」
「駄目!さ、脱いで」
言うなりなつきは強引に浩平のシャツを脱がそうとする。
「あ・・・」
浩平裸の上半身を見て、なつきはかーっと赤くなって手を離す。
「分かった、分かった。自分で脱ぐから」
「うん・・・」
やれやれ、と言った表情で、浩平は一人で着替える。
後ろを向いたまま、なつきはまだどきどきしていた。
(どうして?「お兄ちゃん」の時は恥ずかしくなかったのに)

左右逆のボタンの付け方と、花柄のデザインに戸惑いながらも、やむなく浩平はなつきの用意したパジャマを身につけた。
「おい、なつき、こんなパジャマしかないのか?」
「当たり前じゃない、お兄ちゃん。ここは女子校よ」
話しながら、浩平は考えていた。
(この娘のお兄ちゃんになるのも悪くないかもな)

服が乾いた頃、いつの間にか雨はあがっていた。
雲の間から星が覗く暗い道を、二人は歩いていた。
「じゃあ、またね、浩平お兄ちゃん」
「ああ、また来年な、なつき」
こうして浩平となつきのクリスマスは終わった。


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